元麻布春男の視点
リムーバブル・ディスクにNASのメリットを見る


元麻布春男
2001/06/15


 

アイオメガのリムーバブル・ストレージ「Peerless」
2.5インチ型ハードディスク(写真の上側部分)を着脱可能にしたもの。10Gbytesと20Gbytesの2モデルが用意されている。

 2001年6月7日、アイオメガは「Peerless(ピアレス)」と呼ばれるリムーバブル・ストレージを発表した(アイオメガの「Peerlessに関するニュースリリース」)。Peerlessは、IBMの2.5インチ型ハードディスク・ドライブ「Travelstar 20GN」(9.5mm厚、スピンドル回転速度:4200RPM)を、耐衝撃性を配慮したハウジングに装備し、着脱可能にしたストレージ・デバイスだ。10Gbytesと20Gbytesの2種類のメディアをセットするベース・ステーションはインターフェイス・ユニットが分離可能で、USBやFireWire(IEEE 1394)、SCSIなど多様なインターフェイスに対応できる。

 まずリリースされるのはUSB 1.1モデルで、9月(8月中旬目標)が予定されているが、それから約1カ月遅れでFireWireモデル、さらに年内にはSCSIモデルが予定されている。USB 2.0についても年内には製造に着手したいという。価格はオープンプライスだが、米国での予定価格はメディア(ディスク)をセットしたキットの価格が359.95ドル(10Gbytesディスク付き)および399.95ドル(20Gbytesディスク付き)。ディスク単体の予定価格は159.95ドル(10Gbytes)および199.95ドル(20Gbytes)となっている。

外付けストレージ苦戦の理由

 このPeerlessドライブの位置付けだが、ハードディスクをリムーバブル化したものだけに、容量は大きいし、データ転送レートも高い。発表されている最大データ転送速度は15Mbytes/sである。端的にいえば、同社のJazドライブ*1の後継というのが、最も相応しいところだろう。だが、10Gbytesあるいは20Gbytesという容量を何に使うかというと、意外に用途が難しい。アイオメガでは、「PCの環境を持ち歩ける」としているが、USBやIEEE 1394で接続されたストレージからシステムを起動可能なMacintoshならいざしらず、PCでは不可能とはいわないまでも現実的ではない。仮にシステム起動が可能なSCSI版が出たとしても、筆者は取り外し可能なデバイスからシステムを起動するべきではないと思っている。

*1 Jazドライブはアイオメガ独自のリムーバブル・ディスク・システム。メディア容量は1Gbytesと2Gbytesの2種類があり、最大転送レートが8.7Mbytes/sとリムーバブル・ストレージとしては比較的高速なのが特徴だ。

 Peerlessドライブに限らず、CD-R/RWドライブを除く、ほとんどの外付けストレージが苦戦しているのも、用途が難しくなってきているからだと思う。内蔵するハードディスクの容量は増大しており、増設する必然性は薄れている。ちょっとしたデータの交換もネットワーク、特にインターネットを経由して行うことが増えており、以前のようにメディアを介する機会は減ってしまった。

 筆者は、基本的にPCのストレージは、「ローカル・ストレージ」と「ユニバーサル・ストレージ」の2種類しかないと思っている。ローカル・ストレージは、OSあるいはファイル・システムに依存したストレージで、OSの起動、各種構成データ(レジストリ・データベースなど)の保持、ページング・ファイル(スワップ・ファイル)の配置など、途中で取り外されては困るデータを収めるものだ。これは内蔵のATA/ATAPI接続デバイスであるべきだと考える。逆にユニバーサル・ストレージは、特定のOSやファイル・システムに依存しないストレージで、データの移動やバックアップ用途に向く(バックアップがファイル・システムに依存していると、異なるOSへのデータの移行には使えない)。当然、メディアが取り出せるか、デバイスそのものが外付けの方が使いやすい。

 これまでユニバーサル・ストレージの条件は、どんな環境でも読めるユニバーサル・フォーマットを採用していることだった。CD-ROMで採用されているISO 9660はユニバーサル・フォーマットの一例であるし、FAT16は事実上ユニバーサル・フォーマットとなっている(利用に際して制限も多いが、たいていの環境でマウントできる)。UDFのように、最初からユニバーサル・フォーマットを目指して開発されたフォーマットもある(現時点では、その目的が十分に達成されているとは言い難いが)。CD-R/RWが売れる理由の1つは、CD-R/RWで作成したデータをどのような環境でも読み出せるからだ。ほかのリムーバブル・ディスクが苦戦するのは、メディアを書き込んだ環境以外では、必ずしもそのメディアから読み出せるとは限らないことも理由ではないだろうか。USB 2.0の最大の目玉はストレージのサポートにあるが、筆者が考えるUSB 2.0対応ストレージ・デバイスは、デジタル・カメラやMP3プレイヤー、あるいはPDAであって、ハードディスクなどの伝統的なストレージは、あくまでも移行期のものだと考えている。

XboxがパーソナルなNASの実現を予感させる

 こうした視点でPeerlessドライブを見ると、高速、大容量という利点と裏腹に、ハードディスクにユニバーサル・フォーマットが存在しないことが弱点に思えてくる。これまでハードディスクは、基本的にローカル・ストレージとして使われてきており、ハードディスクのファイル・システムはOSに依存することが半ば当然だったからだ。

デルコンピュータのNAS「PowerVault 701N」
デルコンピュータの最も低価格なNAS製品。Snap appliances(Quantumの子会社)のSnap Server 2000のOEM製品である。低価格とはいえ19万8000円もする。

 しかし、最近はハードディスクであっても、ファイル・システムをOSに依存しない形にすることが可能になってきた。いわゆるNAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)だ。ネットワークにぶら下げるNASでは、そのファイル・システムはNASを管理する組込みOSだけが知っていれば済む。ネットワーク経由でアクセスするクライアントPCがファイル・システムを意識する必要はない。

 現時点ではNASというと、サーバのある「立派な」ネットワーク環境で使われるものだという印象が残念ながら強い。実際、ローエンドと呼ばれる部類の製品でも、ようやく20万円を切るものが出てきたところだ。個人、あるいは数人規模のSOHOが気軽に利用できるものではない。この目的に使うなら、10万円を切るNASが出てこなければ難しいかもしれない。

 だが、これは不可能なことだろうか。筆者は十分可能だと考えている。なぜなら、もうすぐPentium III-733MHz、64Mbytesのメモリ、ハードディスク、DVD-ROMドライブ、DirectX 8互換グラフィックス、10/100BASE-TXインターフェイスを備えた「コンピュータ」が299ドルで登場するからだ。確かに、Xboxという名前のこのコンピュータは、通常のPCやPC用周辺機器とはケタ違いの生産量を予定しているし、本体だけでは赤字だとさえいわれている。しかし、4万9800円でOSとディスプレイがついたコンシューマー向けPCが売られていることを思えば、10万円を切るNASの実現が不可能だとは到底思えない。NASにはCD/DVD-ROMドライブも、高度なグラフィックス機能やサウンド機能も、高速なプロセッサも不要なのである。OSだって、フル機能を備えたものなど要らない(ノートPCなどに1対1で接続されることを考えると、簡易DHCPサーバ機能くらいは必要かもしれないが)。個人/SOHO向けなら、RAID機能も必要ない。ある程度大量に販売することを前提にできれば、十分実現可能ではないだろうか。

NASのメリットはユニバーサル・フォーマットにあり

 外付け型ドライブがNASになって都合がよいのは、ファイル・システムを意識せず、さまざまなクライアントからデータにアクセス可能になることだ。Peerlessのようなリムーバブル・ハードディスクも、NASにすればファイル・システムが抽象化されるため、メディアをユニバーサルにすることができる。つまり、ベース・ユニットさえあれば、メディアをどこに持っていっても読めるようになる。最近のNASは、ブラウザで管理できるようになっており、サーバOSが稼動するファイル・サーバより管理は容易だ。データベースなどサーバ・アプリケーションを利用しない限り、これで十分だというユーザーも多いのではないだろうか。もし、PeerlessをNASに変えるインターフェイス・モジュールがあれば、筆者はほしいと思う。

 どこのメーカーさんでもいいから、誰か個人/SOHO向けのNAS、やりませんか?記事の終わり

  関連リンク 
Peerlessに関するニュースリリース
2.5インチ型ハードディスク「Travelstar」シリーズの製品情報ページ
PowerVault 701Nの製品情報ページ
 
「元麻布春男の視点」


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