元麻布春男の視点
HPとCompaqの決断に明日はあるのか?


元麻布春男
2001/09/07

 2001年9月4日、Hewlett-Packard(以下、HP)とCompaq Computer(以下、Compaq)の両社は合併すると発表した(日本HPの「HPとCompaqの合併に関するニュースリリース」)。存続会社はHPで、事実上HPによるCompaq買収の形となる。合併は両社の株式を交換する形をとり、Compaq株1株につきHP株0.6325株に交換する。米ドル換算で250億ドル、日本円換算で3兆円にも上る巨額の買収劇だ。株式交換後、新会社の株主に占める現Compaq株所有者の割合は36%になるとみられている。現時点での総売上げと資産ではHPが上回るものの、世界市場におけるPCの売上げではCompaqが2位、HPが4位(2001年第2四半期での順位)。合併により誕生する新会社は、単純計算でDell Computerを上回る世界1位のPCベンダになる。

HPとCompaqのロゴ
合併を機に「Compaq」のブランドは消えることになる。1982年の創業以来、PCとともに歩んできたブランドが消えるのはさびしい。

 しかし、このニュースを「明るい」ものとして受け止める向きは少ないようだ。そのことを端的に物語っているのが株価で、Compaqを買収するHPの株価は4ドル以上も下落して18.87ドルに、買収されるCompaqの株価も1ドル以上も下落して11.08ドルになってしまった。先日、電撃的に海外事業を縮小するリストラを発表、米国以外の市場から撤退したGatewayの例でも明らかなように、IT業界の不況感は深い。今回の合併も生き残りをかけたもの、という受け止め方が一般的である。

ドラスティックな合併は米国ならでは

 普通、企業が合併した場合、スケール・メリットの追求により、1+1を2以上にすることが当然のように求められる。しかし、今回の合併は、最初から1+1を2以上にすることなど不可能なことを誰もが知っているハズだ。IT業界を覆う未曾有の不況は、1が0.9に、さらにはそれ以下に落ち込んでいく状況にある。2社が合併し、1+1が例え1.5や1.6にしかならなくても、2社の経費の合計が1.2になれば成功、という形ではないかと思われる。スケール・メリットを追求することで、落ち込みを極力抑え、その傍らで大幅なリストラを行い、何とか縮小均衡に持ち込みたい、というのが現実的な路線だろう。

 今回の合併にしても、Gatewayの撤退にしても、思うのは米国のメーカーのドラスティックな動きだ。先日東芝は、大幅な赤字を垂れ流している半導体メモリ事業を、他社との事業統合などにより分離したい意向であることを表明した。米国企業に比べて、何と穏やかな動きだろう。

 誤解してほしくないのは、筆者は、日本企業の穏やかな、ある意味米国企業と比べると手ぬるく見える動きが悪い、と思っているのではない。実際にはむしろ逆で、日本企業が米国企業の真似をしても、しょせん無駄だと思っている。それは、単に企業の問題だけではなく、国民性、社会、文化といったすべてに違いがあるからであり、米国のやり方をそのまま日本に持ち込んでもうまくいかないと確信するからだ。というより、米国のやり方がうまくいくのは米国だけであり、同じやり方は米国以外のすべての国でうまくいかないのである。Linuxの作者であるLinus Torvalds(リーナス・トーバルズ)氏が就職先に米国のベンチャ企業であるTransmetaを選んだのも、結局彼が働ける場所がヨーロッパにはなかったのだと思っている。

 平成不況の日本では、米国型のベンチャ・ビジネスを育てることを求める声が強い。が、この国で米国型のベンチャ・ビジネスは成立しないだろう。それは、単に法制度が整っていないというだけではなく、社会や文化がそのようにできていないからだ。たとえば、米国のベンチャ企業の多くが、アジアやヨーロッパなど、多くの国から米国に集ってきた人材により支えられている。悪い言い方をすれば、誰でも優秀なヤツは世界中からやってきて、米国と米国民を支えてくれ、と言っているようなものだ。確かにこれは競争力を保つよいアイデアかもしれないが、国土が広く、移民で成り立っている米国だからこそ可能なビジネス・モデルではないのかと思う。同じことが日本で可能だとは、到底思えないのだ。

 GatewayやCompaq/HPのようなドラスティックな動きも、日本があこがれている(?)米国のビジネス・モデルの一環である。しかし、この米国型ビジネス・モデルを本当に日本人は受け入れることができるのだろうか。こうしたドラスティックな動きの片側には、突然の異動やレイ・オフ(一時的解雇)が存在する。米国型ビジネス・モデルを受け入れるには、そうした異動やレイ・オフを受け入れる土壌や社会が必要になる。だが、明日急にレイ・オフされるような社会では、20年ローンで住宅を販売することなどできない。つまり、多くの日本人は自分の家を持つことが難しくなることも意味する。現在の日本型のビジネス・モデルは、終身雇用や低失業率と右肩上がりの経済を前提としており、これを米国型に変えるのは難しい。やはり日本は、雇用を守りながら、着実で(アップ・ダウンの小さな)小幅な成長を目指すべきではないだろうか。もちろん、これが容易でないことは、誰の目にも明らかなのだが……

合併の先に明るい未来はあるのか?

 さて、話が横道にそれてしまったが、合併するHPとCompaqに果たして明るい未来はあるのだろうか。幸い、両社ともサーバ・プラットフォームについて、それぞれが抱えるRISCアーキテクチャから、IntelのItaniumへ全面的に切り替えることを表明している。今回の合併でこの切り替えのロードマップが前倒しになることはあっても、後退することはないだろう。PCについては、基本的に「流通業」であるため、大量仕入れの大量販売を目指すよりほかにない。現在、両社が展開しているPCは、コンシューマ向け、ビジネス向けともに膨大な数に上るが、この統廃合を急ぐ必要がある。ラインアップを絞ることには、コスト低減に寄与するプラスのほか、店頭での展示面積の減少による売上げの低下などのマイナスも考えられるが、これなしで今回の合併の成功はない。合併がことさら暗いものではないものの、厳しい未来が待っていることは間違いないだろう。記事の終わり

  関連リンク 
HPとCompaqの合併に関するニュースリリース
  
「元麻布春男の視点」


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