元麻布春男の視点
IntelとRambusのクロスライセンス契約に秘められた理由


元麻布春男
2001/09/28

 2001年9月17日、IntelとRambusは両社が広範な特許クロスライセンス契約を締結したと発表した(Intelの「Rambusとのクロスライセンスに関するニュースリリース」)。Intelは、Rambusと共同でDirect RDRAMを開発しており、すでにRDRAMに関するライセンスを保有するが、今回のライセンス契約はこのRDRAMに関するライセンスを置き換えるもの。Intelのニュースリリースに寄せられているRambusのCEO ジェフ・テート(Geoff Tate)氏のコメントによれば、RDRAMのみならず「そのほかのメモリ、通信分野、バックプレーン(コンポーネント同士が相互に通信するための経路)技術」に関する特許を含むとされている。ここでいう「そのほかのメモリ」にDDR SDRAMが含まれていることは、まず間違いない。

デルコンピュータのRDRAM採用デスクトップPC「Dimension 8200」
デルコンピュータはほぼ同じ仕様で、SDRAMベースのIntel 845(Dimension 4300)とRDRAMベースのIntel 850(Dimension 8200)のそれぞれのチップセットを採用したデスクトップPCを発表した。Pentium 4-1.6GHz搭載の場合、両モデルの価格差は2万5000円。性能は、Dimension 8200の方が平均して10%ほど高い。どちらのコストパフォーマンスが高いのか、微妙なところ。
 Intelは、PC133 SDRAMをサポートしたPentium 4向けチップセットとしてIntel 845をリリースしたばかりだが、2002年明け早々にも同チップセットによるDDR SDRAMのサポートを開始する(Intel 845については「ニュース解説:Pentium 4用チップセット『Intel 845』はメインストリームになれるのか?」を参照)。Rambusの特許がDDR SDRAMのメモリ・インターフェイスに及ぶものかどうかについては、現在裁判で争われており、現時点で必ずしも確定したものではないが、少なくともRambusはそう主張している*1。Intel 845によるDDR SDRAMサポートを始める前にライセンス契約を締結することで、OEMを安心させようとIntelが考えたとしても、何ら不思議はない。このDDR SDRAMのメモリ・インターフェイス問題が、今回クロスライセンス契約を結んだ直接の理由ではないかと考えられる。ライセンス契約の内容については公開されていないが、裁判の動向などによってはそれを見直す条項も含まれていることと予想される。

*1 Rambusの特許に関する裁判については、「ニュース解説:メモリ業界を二分するRambus裁判の行方」と「ニュース解説:Rambus社に「敗訴」の司法判断 どうなるPentium 4のDDR SDRAMサポート」を参照していただきたい。

Intelは継続的なRDRAMサポートを明確に

 一方、同じニュースリリースには、IntelのCEOであるクレイグ・バレット(Craig Barrett)氏のコメントとして、IntelはRambusとともに「RDRAM互換のチップセット(原文はchipsetsと複数形になっている)と通信関連半導体のさらなる開発」を行うとされている。これをストレートに解釈すれば、複数のRDRAM互換チップセットは、2002年半ばに登場する開発コード名「Tulloch(タラク)」で呼ばれるデスクトップPC向けのチップセットと、そのワークステーション/サーバ版ということになるだろう。いずれのチップセットも、4i(4バンク構成)のRDRAMのサポート、ならびに現行の800MHzから1066MHzにクロック・アップされるPC1066 RDRAMのサポート(言い替えれば533MHz FSBのサポート)が加わるものと思われる。少なくとも、デスクトップPC向けのTullochについては、現行のIntel 850と同じデュアル・チャネルのRambus構成に加えて、シングル・チャネル構成のサポートが加わる見込みだ。

 これまでIntelは、一貫してIntel 850の後もRDRAMをサポートしたチップセット(つまりはTulloch)が登場すると述べてきた。しかし、一部のメディアには根強く、「IntelがRDRAMのサポートを打ち切る」、あるいは「事実上の自然消滅を考えているのではないか」という観測があった。今回のクロスライセンス締結は、こうした観測を打ち消すものと考えられる。上述のとおり、契約内容については明らかにされていないものの、米国などの報道では、IntelはRambusに1年あたり40億円を向こう5年間にわたって支払うといわれており、Intelが大きくRambusに対してコミットしていることは間違いない。

将来は全インターフェイスのシリアル化を目指すIntel

 その反面、メモリ・ベンダの中には、かたくなにRambusを拒絶し続けている、あるいはDirect RDRAMではなくDDR SDRAMに強くコミットしているグループが存在する。にもかかわらずIntelは、とりあえずDDR SDRAMをサポートするものの、今回のRambusとのクロスライセンスでも明らかなように、将来のメモリ・ロードマップをDDR/DDR IIを中心としたものに描き直す気はないように思える(DDR IIについては「ニュース解説:次々世代メモリ『DDR II』の標準化動向」を参照)。おそらくその理由は、DDR/DDR IIが既存のSDRAMと同じ、パラレル・インターフェイスをベースにしているからだろう。

 確かに、現時点でDDR SDRAMとRDRAMを比べると、DDR SDRAMには低コストという大きなメリットがある。しかし、今後動作クロックが向上し、1チップあたりのメモリ容量が増大していっても、これを守り続けられるか疑問が残る。一定のクロック周波数を超えたところで、パラレル・インターフェイスでは、かえってコストがかかるようになるハズだ。だからこそ、すでに公表されているように、次世代のI/O技術はすべてシリアル・インターフェイス、あるいはきわめて狭いバス幅のインターフェイスなのである。メモリ・インターフェイスも、狭バス(Rambus)幅を経て、シリアル・インターフェイスへと向かう、というのがIntelのシナリオだと思われる。

 メモリと同じように、Intelとデバイス・ベンダ間で、次世代インターフェイスの一致を見ない分野に、ハードディスクがある。Intelは早い段階からシリアル・インターフェイスへの移行を訴え続けてきた。最初はパラレル・インターフェイスのATA(IDE)からIEEE 1394への移行を提唱し、それが幅広い支持を得られないと見るや、シリアルATAの規格化を行った。現在、IntelはUltra ATA/100からシリアルATAへの移行を図っているが、Maxtorは少なくともシリアルATAへ移行する前に、現行のパラレル・インターフェイスをさらに高速化したもの(Ultra ATA/133)を間に挟むことを望んでいるようだ(「動向解説:IDEディスクの壁を打ち破る最新ディスク・インターフェイス」参照)。

 ただ、メモリと異なるのは、ハードディスク・ベンダは、インターフェイスのシリアル化に基本的には同意している、ということだろう。シリアルATAとUltra ATA(パラレルATA)は対立しているのではなく、いつシリアルATAへ移行するか、どこまでパラレルATAを延命させるか、というタイミングの問題に過ぎない。これに対しメモリ・インターフェイスについては、Direct RDRAMの次が何になるか(あるいはDDR/DDR IIの次が何になるか)、具体的な姿は明らかにされていない。

RDRAMの次に向けた動き

 これまでにDirect RDRAMあるいはDDR/DDR IIの次のメモリ技術が話題になったのは1999年12月のことだ。このときIntelは、Hyundai MicroElectronics(現Hynix Semiconductor)、Infineon Technologies、Micron Technology、エルピーダ・メモリ、Samsung ElectronicsのDRAM大手5社の担当役員を招き、次世代のDRAM技術について共同開発することを呼びかけたといわれる(このときRambusを外すという「配慮」を示した)。しかし、それから2年近く経ったにもかかわらず、その成果はまったく聞こえてこない。この事実の最も素直な受け止め方は、めぼしい成果が上がっていない、ということだ。要するに、Intelと5社の間に合意が形成されていないのだと思われる。

 結局、DDR/DDR IIにこだわるベンダは、RDRAMがイヤというだけではなく、Intelのシナリオに従うのがイヤなのだろう。現在DRAM市場は、空前の不況にある。DRAMを作ってもいないIntelのシナリオに従って、これまでとまったく異なるインターフェイス(シリアル・インターフェイス)のメモリを開発する余力などない、というのがDRAMベンダの率直な意見かもしれない。しかも、まったく新しいインターフェイスのメモリは、PC以外の市場に対して売れるかどうか、分からないのである。

 もちろん、実際にDRAMを作り、販売するのがDRAMベンダである以上、Intelの言いなりにならねばならないということはない。自らの運命は自らの手で決める権利を持っている。だが、Intelが大きな影響力を持つPCが、DRAM市場の7割を占めることもまた事実だ。最大の需要家であるIntelの意向を無視していいのか、という議論もあるだろう。最近、ハードディスク・ベンダもメモリ・ベンダも、将来は非PC分野の需要が増えると言っているのは、PCの出荷台数が頭打ちになっていることに加え、Intelの影響力の及ばない非PC分野の需要が高まってほしい、という願望も含まれているに違いない。

 さて、一度はRambusを外して、Direct RDRAMの次世代メモリ技術の共同開発を目指したIntelだが、ほとんど成果は上がっていない。そこにきて今回のRambusとの広範なクロスライセンスだ。ひょっとすると、RDRAMの次の世代のメモリ、シリアル・インターフェイスのメモリについても、Rambusと共同開発することになるのかもしれない。IntelとRambus両社の親密な関係を考えると、Samsungがこれに加わることも十分にあり得る。次世代メモリの明日はどっちだ?記事の終わり

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  関連リンク 
Rambusとのクロスライセンスに関するニュースリリースENGLISH
Intelとのクロスライセンスに関するニュースリリースENGLISH

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