元麻布春男の視点
DRAMベンダの淘汰、その結果

元麻布春男
2001/12/04

 新聞などの報道によると、日立製作所はシンガポールのDRAM生産合弁である日立日鉄半導体の人員を削減すると同時に、稼働率を引き下げると発表した。日立製作所は、日本電気と合弁でエルピーダメモリを設立、両社のDRAM事業をエルピーダメモリに集約・統合することにしており、2004年には製造部門も含めて、エルピーダメモリに統合されることになっている。しかし、日本電気も半導体部門で一時帰休を発表するなど、両社の事業再編の速度を上回るスピードで、DRAM事業の赤字が拡大しているようだ。すでにDRAM事業の分離を明らかにしている東芝を含め、1980年代に世界を席捲した日本のDRAMベンダが生き残れるのかどうか、微妙な情勢になっている。

SamsungとMicronが生き残った理由

 これに対し、現在DRAM事業で間違いなく生き残りそうなのがSamsung ElectronicsとMicron Technologyの2社だ。いずれも、未曾有のDRAM不況(?)の中にあって、2002年以降もDRAM事業に継続的に投資していく体制を整えており、まったくひるむ様子を見せない。個人的にはこの両社に加えて、あと1社生き残れるかどうかが、ここ1〜2年で決まるのではないかと思う。

ランキング ベンダ名 シェア
1位 Samsung Electronics 21.1%
2位 Micron Technology 18.9%
3位 Hynix Semiconductor 17.2%
4位 Infineon Technologies 8.5%
5位 日本電気 6.7%
6位 東芝 6.2%
7位 日立製作所 3.9%
8位 三菱電機 3.1%
9位 Mosel Vitelic 2.8%
10位 Winbond Electronics 1.9%
そのほか 9.7%
2000年の世界DRAM市場シェア(出典:ガートナー データクエスト2001速報値)
ガートナー ジャパン発表の「2002年世界DRAM市場」より(2001年10月18日)

 Samsung ElectronicsとMicron Technologyの両社とも、過去の不況時にも投資を休まず、シェアの拡大に努めてきた。特に筆者の記憶にあるのは、数年前、IntelがDirect RDRAMを次世代メモリに採用すると発表した後、半導体ベンダに出資を申し出たときのことだ。日本の半導体ベンダは、メンツやプライド、あるいはIntelの出資を受けてはIntelの奴隷になるとでも考えたのか、一様に出資を断った。これに対し、Samsung ElectronicsやMircron TechnologyはIntelの出資を受け入れた。どんな機会であっても、すべての機会を利用して事業の拡大を図る、両社の姿勢からはそうした貪欲さがうかがえる。

Hynix Semiconductorの行方
 
2001年のDRAMシェアからみれば、順当に勝ち残りそうなのが、3位のHynix Semiconductorということになる。しかし、同社はかねてより報道されているように、財政危機の中にあり、債権団の追加融資によって辛くも倒産を免れているという状況だ。中国系企業との合弁会社「Hyundai LCD」を設立し、TN/STN液晶パネル事業を事実上、売却したばかり。DRAM事業の一部(工場などを含む)も中国系企業へ売却されるのでは、というウワサが市場に流れている。そのようなウワサを払拭するかのように、12月2日にMicron TechnologyとHynix Semiconductorの両社から、「戦略的提携へ向けた話し合いを開始した」との発表があった(Micron Technologyの「Hynixとの戦略的提携への話し合いを開始」)。この戦略的提携が進み、合併まで行くのか、それとも単に製品の相互補完で終ってしまうのか、今後の行方が気になるところだ。DRAM市場で大きなシェアを持つ2社の動きだけに、目が離せない。

 果たして、それから数年後、日本のベンダは奴隷にはならなかったかもしれないが、DRAM市場から退場する瀬戸際に追い詰められている。一方、Samsung ElectronicsやMicron TechnologyがIntelの言いなりになったかというと、まったくその様子はない。むしろMicron Technologyは、いかなるプレッシャーにも負けず、断固Intelが望んだDirect RDRAMの量産を拒否し続けるしたたかさを見せつけた。これくらいの厚かましさ(必ずしも悪い意味ばかりではなく)がなければ、世界市場で戦っていくのは難しいということなのかもしれない。

 DRAM以外の半導体についても、日本企業の生き残りは決して容易ではない。液晶パネルはすでに韓国や台湾勢に押されている。また、台湾の中小規模のDRAMベンダは、このところフラッシュメモリへのシフトが目立つ。根本的な競争力の回復がない限り、両分野ともDRAMの後を追うことになるだろう。

DRAMベンダが3社になれば汎用DRAMがなくなる

 上で述べたように、DRAMベンダがSamsung ElectronicsとMicron Technologyにもう1社加えた3社体制になると、どうなるだろうか。筆者は「汎用DRAM」の終焉ではないか、と考える。例えば、2社しか製造しないデバイスに、「汎用」を名乗るほどの標準は必要だろうか。汎用というのは、たくさんのベンダが作っていて、どのベンダの製品だろうと基本的には同じように使えるから汎用なのであって、供給元が2〜3社しかないのであれば、需要家が供給元の仕様に合わせる方が合理的だ。もはやJEDEC標準*1のようなものは不要である。

*1 JEDECとは、米国電子工業会の下部組織で、半導体デバイズに関する標準化団体のこと。DRAMなどの標準化も行っており、SDRAMやDDR SDRAMもJEDECで標準仕様を決定した。この標準仕様に準拠することで、異なるベンダ間の互換性が維持でき、相互利用が可能になる。

 また、価格の決定権も、市場から半導体ベンダの手へと回帰する可能性が強まる。過去の例であれば、DRAMの価格が上昇すれば、DRAM事業に参入するベンダが現れ、競争が激しくなって、価格はまた下がる、という市場の原理が働く。しかし、再参入しようにも、投資額が大き過ぎるため、だんだんと半導体市場には市場原理が働きにくくなっている(「頭脳放談:第18回 今度の半導体不況はいつもと違う?」参照)。

 以前、DRAM市場で上位を占めていたのは日本のベンダだった。IntelをDRAM市場から撤退させたのは、まさに日本のベンダの台頭だったのだ。日本のベンダが半導体不況期に投資を絞ったのに対し、Samsung ElectronicsやMicron Technologyは投資の手を休めることをしなかった。その結果、立場はあっという間に逆転し、それどころかもはや追いつくことさえ難しい状況になっている。つまり、一度手を緩めたら、もう取り返しがつかない、これが半導体の世界だ。新規参入などまず考えられない。結局、新規参入が難しいという点では、プロセッサもDRAMも変わらない、ということになるのかもしれない。ベンダの数が、プロセッサとDRAMで変わらなくなりつつあるのも、それを示しているように思えてくる。記事の終わり

前回「Windows XPのアップグレード・インストールを試してみたら」の補足
 
前回、筆者はテレビ録画PCのOSをWindows 2000からWindows XPへと切り替えた。あの時点で1度もS3ステータスからの復帰に失敗していなかったのだが、1週間を経過してもなお、復帰に失敗していない。ハードウェア構成はまったく変えていないので、Windows XPの恩恵だと考えている。唯一気になっているのは「Microsoft Plus! for Windows XP」に含まれるスクリーン・セーバー(水族館)を有効にすると、サスペンドしない(というよりディスプレイがオフにならない)という点だが、とりあえずテレビ録画カード「MTV1000」の録画ソフトウェアに、「予約の実行が終了したらサスペンド・ステータスに戻る」というオプションがあるので、これでしのいでいる。
 
  関連記事(PC Insider内) 
第18回 今度の半導体不況はいつもと違う?

  関連リンク 
2002年世界DRAM市場
Hynix Semiconductorとの戦略的提携への話し合いを開始ENGLISH
 
「元麻布春男の視点」


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