PCとアプライアンスの微妙な境界

渡邉利和
2001/03/08

 筆者はPCユーザーであり、TCP/IPネットワークに思い入れもある。というわけで、自宅には約10台のPCがあり、少々複雑な構成のネットワークが構築してある。この様子は別記事(連載:究極ホーム・ネットワークへの道)で追々紹介していく予定だ。

アプライアンスを導入した理由

 今回は詳細については触れないが、2001年1月に米国に出かけた折り、最近流行っているらしい「ブロードバンド・ルータ」と「HomePNA−イーサネット・ブリッジ」を購入してきた。もちろん、これらの機器が提供してくれる機能が自宅のネットワークに必要だったから買ってきたのだが、実はそれまでその機能が実現できていなかったというわけではない。

購入してきたHomePNA−イーサネット・ブリッジ
米国で購入してきたNETGEAR製のHomePNA−イーサネット・ブリッジ「model PE102」。HomePNA製品は日本国内では製品の数が少なく、価格も高めだ。この製品もNETGEARの日本法人では扱っていない。ちょうど、米国に仕事で出かけた折に、PCショップで購入した。

 筆者にとっては、「ブロードバンド・ルータ=NAT専用デバイス」である。正確にはIPマスカレード・ボックスとでも呼ぶべきかもしれない。WAN側のDHCPサーバから1つしか割り当てられないIPアドレスを、自宅の10台のPCで共用するために必要な機能を提供してくれる箱というわけだ(ブロードバンド・ルータの詳細については、「連載:ネットワーク・デバイス教科書」の「第1回:広帯域インターネット接続を便利に使う『ブロードバンド・ルータ』」を参照していただきたい)。また、HomePNA−イーサネット・ブリッジは、HomePNAとイーサネット間の中継器というか、メディア・コンバータとかアダプタに近い位置付けである。

 これら専用の箱を用意する以前は、Windows 2000 Professionalをインストールした1台のPCがこの2つの役割をまとめて担っていた。Windows 2000 Professionalの「インターネット接続の共有」機能を使ってNAT(IPマスカレード)を実行しつつ、内蔵のイーサネット・インターフェイスとPCIバスに接続したHomePNAインターフェイス・カードとの間でパケットをやり取りしていたわけだ。つまり、1台のPCで実現できていた機能をわざわざ2台の専用ボックスに置き換えたことになる。

 この理由はいろいろあるのだが、もっとも強い動機になったのは、「Windows 2000の信頼性が低い」ことであった。厳密な検証をしたわけではないのだが、ときどきLANからWANへのアクセスができなくなる、つまり通信不能になることがあったのだ。どうも、感覚的にはインターネット接続の共有機能がときどき止まってしまうような印象であった。

 実は、筆者の使い方は本来のWindows 2000 Professionalがサポートしている環境から逸脱している。Windows 2000としては、汎用的なNAT/IPマスカレード機能は、Windows 2000 Serverの担当で、Windows 2000 Professionalではあくまで簡易機能を提供する、という位置付けになっている。違いは何かというと、「複数のネットワークをサポートできるか」という点と、「ルーティングの制御が自由にできるか」の2点にある。そして、筆者が変更したのはこの2点なのだ。

 Windows 2000 Professionalのインターネット接続の共有機能では、LAN側は192.168.0.x/24というIPアドレスを簡易DHCP機能で割り当てるようになっている。LAN側はフラットな構成であり、そこにはサブネットなどは存在しないという前提だ。しかし、筆者宅では192.168.0.x/26というネットワーク構成で、4つのサブネットに分割されており、ルータも存在する。この環境で運用するためには、Windows 2000 Professionalがデフォルトで設定した内容を後から手動で書き換えてやる必要があった。こういうことをしていては、トラブルがあったといっても、必ずしもWindows 2000だけを責めることはできないというものだ。もっとも、Windows 2000 Serverの価格を考えると、「仕様が悪い」といいたいのが正直なところであるが……。というわけで、何となく調子が悪く感じられるWindows 2000を専用の箱に置き換えれば、さすがにちゃんと動くだろうという期待でブロードバンド・ルータを導入し、さらについでにという感じでHomePNA−イーサネット・ブリッジも導入したのだ。

アプライアンスは使いやすい

 実際、これら2つの専用デバイスはなかなか良好に動作しているようで、利用感は快適の一言である。そこで思ったのが、「確かにアプライアンスは使いやすい」ということである。

 ブロードバンド・ルータもHomePNA−イーサネット・ブリッジも、製品としてはどちらも「アプライアンス」とは名乗っていない。しかし、筆者としては汎用PCで実行していた機能を使いやすい専用機に移行した、という今回の変更は、まさに「アプライアンスの導入による環境改善」と理解しているのである。

 個人的には、「ネットワーク・デバイスは、多くがアプライアンスとしての性格を持つ」と思っている。アプライアンスをどう定義するか、という問題もあるが、筆者の独断による定義では、「PCの機能の一部を取り出し、信頼性が高く使いやすい専用デバイスとしたもの」がアプライアンスだと考えている。というのも、最初から家電製品として設計された機器をあえてアプライアンスと呼ぶ例を知らないからだ。そもそも、アプライアンスという言葉自体が汎用のコンピュータに対するアンチテーゼとして使われていることが多い現状からは、PCとの対比でアプライアンスを理解することはそう的外れでもないのでは、と思っている。

ネットワーク・デバイスにアプライアンスが多い理由

 で、ここからはやや脱線気味になるわけだが、アプライアンスに向くのはどういう機能かと考えてみたところ、ネットワーク関連の機能が多いように思えた。ルータがアプライアンスと呼ばれることはまずないが、かつてSun Microsystemsのワークステーションにイーサネット・インターフェイスを追加してサブネットのデフォルト・ルータとして運用していた経験からいうと、TCP/IPのルーティング機能は、汎用コンピュータで実現していたものが後に専用機に移行した、という意味でまさにアプライアンスだということになる。もちろん、ここでは一般概念としてのルータ専用機をイメージしている。デファクトスタンダードと見なされるシスコシステムズのルータが家電製品並みに使いやすいとは到底言えないと思うが(使いこなすのに資格認定があるようなデバイスを家電と並べるのは無茶だろう)、先に挙げたブロードバンド・ルータやISDNダイヤルアップ・ルータはアプライアンスと呼んで差し支えないだろう。

 一般にアプライアンスと呼ばれる製品には、ファイル・サーバ(NAS:Network Attached Storageなど)やキャッシュ・サーバなど、ネットワーク関連のものが確かに多い。では、なぜネットワーク関連の機能にはアプライアンス化されるものが多いのだろうか。ここで筆者が思いついたのは、ディスプレイが必要かどうかが重要な要素ではないか、ということだ。

デルコンピュータのキャッシュ・サーバ「PowerApp.cache100」
機能や仕様は、同社の1Uサーバ「PowerEdge 1550」とそっくり。このサーバにノベルのキャッシュ・ソフトウェア「ICS v1.3」を導入し、アプライアンス化したものが、PowerApp.cache100である。

 別にモバイル機器ではないため、アプライアンスにとってケースのサイズが小さいことは必須条件ではない。しかし、巨大なディスプレイを備えたアプライアンスというものもちょっと想像しにくいのは確かである。特にネットワーク関連のサーバ機能は、そもそもネットワーク経由で使うことが前提であり、高解像度・大画面のディスプレイを必要とするものはほとんどない。

 小型の機器としては、PDAが人気だ。特にPalmの躍進は目覚ましいものがある。これも、PIM(Personal Information Manager)と呼ばれるソフトウェアをPCから切り出してアプライアンス化した存在と考えられる。ネットワーク・サーバとPIMの共通点は何か、と考えた結果が、大画面の重要性というわけだ。

 一般にアプライアンスの一種と考えられているもので、大画面が利用できると価値が高まると考えられているのが、家庭用ゲーム機である。PlayStation 2やXboxが現在の代表例だろうか。しかし、私はあまりゲームをやらなくなって久しいので偉そうなことがいえる立場でもないのだが、最近は一時期に比べてどうも存在感が薄れているように感じられてならない。今ゲーム機として成功しているのは、任天堂のゲームボーイだという話をよく耳にするのだ。これは、PCからPalmへという動きと妙に合致するように思える。

PCのメリットは大画面にある

 筆者の考えでは、大画面を駆使するのはPCがたぶん最良の環境なのである。現在筆者が主としてPCで行なう作業といえば、原稿執筆やExcelを利用した計算や表作成、画像ソフトウェアを利用した画像データの加工などである。これらの作業は、PDAなどの小さな画面でちまちま実行する気には到底なれない。かつてワープロ、表計算、データベースがPC用アプリケーションの「三種の神器」とまでいわれたことがあった。データベースはともかく、ワードプロセッサと表計算ソフトは、今でもPCの重要なアプリケーションであり続けている。やはりこれは、PCの用途として実にふさわしいものであるということだろう。そして、筆者の視点としては、これらのアプリケーションがPC向きなのは、大画面を利用することで快適で効率よく作業できるようになるからだ、ということになる。

マイクロソフトのゲーム専用機「Xbox」
Xboxの仕様は、ほとんどPCと同じ。搭載するプロセッサはインテルのPentium III-733MHz、またOSにはXbox専用に変更されたWindows 2000が採用されるという。

 一方、ゲーム専用機として企画されているXboxは、中身としてはまさにPCそのもののようだ。ある程度大きな画面に精細な3D画像を表示して高速に動かし、ユーザーの操作に俊敏に応答する、という機能がゲーム機には求められる。これに必要なリソースは結構膨大になり、結果として現状のデスクトップPCに近いものになってくるのだろう。これらのゲーム機の販売価格はPCよりもかなり安いが、これは市場のサイズやビジネス・モデルの違いが原因だろう。ゲーム機のハードウェアは、単体としては赤字になる価格設定がなされているという話はよく聞く。ハードウェアのコストとしては、量産によるコストダウンがあるのは確かだが、それでもPCとそう極端な違いはない可能性もある。だとすれば、PCでやればよいのでは? という発想が成り立つはずだ。Xboxはソフトウェア面でもWindows PCとの互換性を重視しているそうなので、ますますPCとどう差別化していくのか気になるところだ。

Windows CEの失敗は大画面を意識させるから

 一方、Palmやゲームボーイは、大画面を最初から捨て去り、小画面に最適化したソフトウェアを実装することで魅力的な存在になっている。これがつまり、大画面が必要なものはアプライアンス化には向かない、と考えた理由でもあるのだ。

 異論がある人も少なくはないとは思うが、とりあえず筆者はWindows CEは失敗だったと考えている。そして、この失敗もまた画面サイズによって説明できると考えているのだ。というのも、Windows CEはWindowsのユーザー・インターフェイスを極力そのままのイメージで持ってきたシステムである。しかし、Windowsにおいて画面は、高精度大画面の方向へ進化し続けてきた。それをそのまま小さくしても新たな使いやすさは生まれない。むしろ、Windowsでは画面が小さいと使いにくいということの方が強く意識されるだろう。大画面を前提に成立しているWindowsとの互換性を考えた時点で、製品企画の段階でWindows CEは間違った道に入り込んだのではないだろうか。そして、一方で大画面を意識せず、限られた画面サイズで最適化する方向で練り上げたPalmが、Windows CEを圧倒して広く支持される結果になったのだろう。

Windows CEの画面
ハンドヘルドPC向けWindows CE 3.0「Windows Powered Handheld PC 2000日本語版」。比較的大画面を搭載するデバイス向けのWindows CEであるため、さらに見た目がWindowsそっくりになる。

 ついでにいうと、筆者はXboxもあまり成功しないだろうと予想している。というのも、XboxはPlayStation 2と同様に、ハードウェアとしてあまりにPCに似すぎていると思うからだ。強化されたグラフィック能力、つまりこれはこれまで述べてきた「大画面表示を実現する能力」にかなり近いものだと考えているのだが、ここを強化していくとハードウェアとしてはPCそのものにかなり近付いてしまい、筆者の立場としては「アプライアンスには向かない」構成となっていく。Xboxでは特に、プログラミング・モデルとしてもWindows PCと親和性を持たせているという話も聞く。これは「開発しやすい」という方向に向けばメリットになるが、逆に筆者はこの点も「PCとの差が小さい」というマイナス面があるように思う。PC自体がより「家電感覚で利用できる」ように洗練されていく方向性が望まれるのは間違いないと思うのだが、「PCとほとんど区別がつかない家電製品」がPCと別個に成立するとはどうしても思えない。PlayStation 2もソフトウェア開発の困難さが増した結果、タイトルがなかなか揃わず苦戦していると聞くが、これも筆者には「家電であってほしかったのに、PCに近付きすぎた結果」ではないかと思える。「家電のように使えるPC」の市場があるのは間違いないが、「PCみたいな家電」ではちょっと、と思うのである。

 ネットワーク・サーバは、大画面がなくても実行できる。PIMなども、専用に設計してやれば大画面なしでも使いやすいものが作れることは実証されたようだ。となると、現在PCがカバーしている利用範囲のうち、PDAなどのデジタル・デバイスとネットワーク・サーバという上下の層はアプライアンス化が今後も進行するだろう。そして、PCはオフィス・アプリケーションなどとゲームをがっちり握り続けることになりそうだ。

 などという原稿を17インチ・ディスプレイに向かってタイプしながら、次にPCからアプライアンスとして切り出される機能は何だろうかと想像しているのである。CD-Rライタなどは大画面でなくても作業できそうなので、CD-Rドライブがソフトウェアも持ってしまえばアプライアンス化できそうだけど、どうかな?記事の終わり

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第1回 かくしてホーム・ネットワーク構築が始まった
第1回 広帯域インターネット接続を便利に使う「ブロードバンド・ルータ」

  関連リンク
model PE102の製品紹介ページ
Xboxのホームページ

「Opinion:渡邉利和」


渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp

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