Pentium IIIプロセッサのクロック表記における「A」「B」「E」の意味

デジタルアドバンテージ 島田広道
2002/03/05

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 PCのカタログにあるPentium IIIプロセッサのスペックに注目すると、クロック周波数を表す数値に「A」「B」「E」あるいは「EB」という文字(列)が付いていることがある。例えば1GHz版のPentium IIIの場合、PCによっては「Pentium III-1GHz」と「Pentium III-1A GHz」「Pentium III-1B GHz」という3種類の表記がある。これは、同じ1GHzというクロック周波数のPentium IIIでも、3種類の製品が存在することを意味する。すなわち、「Pentium III-1GHz/1A GHz/1B GHz」はそれぞれ別のものであり、同じ製品ではないのだ。

「A」「E」はプロセッサ・コアの違いを表す

 例えばPentium III-1GHzに対してPentium III-1A GHzは、クロック周波数こそ同じだが、プロセッサ・コアには次世代のものが使われている。具体的には、Pentium III-1GHzは開発コード名「Coppermine(カッパーマイン)」が、Pentium III-1A GHzには開発コード名「Tualatin(テュアラティン)」というプロセッサ・コアに変更されている。両者の機能や性能の差は小さいが、細かい電気的特性は異なっている。

 また550MHz版のPentium IIIには、「Pentium III-550 MHz」と「Pentium III-550E MHz」の2種類が存在する。この「E」の有無もプロセッサ・コアの違いを表しており、「E」のある方はCoppermineコアを、また「E」のない方は1世代前の開発コード名「Katmai(カトマイ)」というプロセッサ・コアをそれぞれ採用している。ちなみに、Katmaiに対してCoppermineは同じクロック周波数で比べると大幅に性能が向上しているほか、パッケージの小型化にも貢献している。

Pentium IIIのプロセッサ・コアによるパッケージの違い
左は第1世代のKatmaiコアを使っているPentium IIIのパッケージ(S.E.C.C.2)。右は第2世代のCoppermineコアを使っているPentium IIIのパッケージ(FC-PGA)。Katmaiは2次キャッシュ・メモリが外付けのため、コアと2次キャッシュなど複数のチップを搭載できるよう、S.E.C.C.2のように比較的大きめのパッケージを必要とした。一方Coppermineでは、2次キャッシュがコアに統合されて1チップ化され、より小型なFC-PGAパッケージが実現した(S.E.C.C.2も併存)。ちなみにTualatinコアのPentium IIIのパッケージは、FC-PGAとピン互換のFC-PGA2である。

 プロセッサ・コアが切り替わる時期には、このように前世代と次世代の両方が同じクロック周波数で提供されることがある。両者には性能も含めて互換性のない部分があり、それぞれ区別する必要があるため、Intelは新世代コアを採用した方のクロック表記に「A」あるいは「E」を付けている。

「B」はFSBのクロック周波数の違いを表す

 ところで1GHz版のPentium IIIには、前述のように「Pentium III-1B GHz」という製品も存在する。これはプロセッサ・コアの世代こそPentium III-1 GHzと同じだが、FSBのクロック周波数が異なっている。具体的には、

Pentium III-1B GHz: 133MHz×7.5倍=1GHz
Pentium III-1 GHz: 100MHz×10倍=1GHz

という具合に、同じ1GHzでもFSBのクロック周波数と、プロセッサ・コアに対するクロック倍率の組み合わせが異なるのだ。つまり「B」は、FSBが133MHzであることを表している。

 Pentium IIIの登場当初は、その前のPentium IIと同じ100MHzのFSBを採用していた。その後、コア・クロック周波数の向上に伴い、Pentium IIIのFSBのクロック周波数は100MHzから133MHzへ引き上げられたが、互換性維持の必要性から従来の100MHz品も存続した。つまり、100MHz品と133MHz品が市場で併存することになったため、同じクロック周波数で両方が存在する場合は、後者に「B」を付けて区別するようになったのだ。

Pentium IIIのクロック表記に付く英字の法則

 Pentium IIIのクロック表記に付加される英字の法則を、以下にまとめてみた。

「A」: プロセッサ・コアがTualatin
「B」: プロセッサ・コアがKatmaiでFSBが133MHz
「E」: プロセッサ・コアがCoppermineでFSBが100MHz
「EB」: プロセッサ・コアがCoppermineでFSBが133MHz

 なお、Tualatinコアは必ずFSBが133MHzなので「AB」は存在しない。

 ここで注意すべきは、上記の法則が当てはまるのは、同じクロック周波数で複数のバージョンが存在するPentium IIIだけ、ということだ。例えばPentium III-933 MHzというプロセッサはCoppermineコアでFSBが133MHzだが、クロック表記に「EB」は付かない。933MHz版はこの1種類しかないからだ。

 歴代のPentium IIIのクロック表記と仕様の関係は、下表のとおりである。

クロック表記 プロセッサ・コアのクロック周波数 FSBのクロック周波数 2次キャッシュの容量/速度 プロセッサ・コアの開発コード名
1.33 GHz 1333MHz 133MHz 256Kbytes/フル Tualatin
1.20 GHz 1200MHz 133MHz 256Kbytes/フル Tualatin
1.13 GHz 1133MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
1.13A GHz 1133MHz 133MHz 256Kbytes/フル Tualatin
1.10 GHz 1100MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
1 GHz 1000MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
1A GHz 1000MHz 133MHz 256Kbytes/フル Tualatin
1B GHz 1000MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
933 MHz 933MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
900 MHz 900MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
866 MHz 866MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
850 MHz 850MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
800 MHz 800MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
800EB MHz 800MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
750 MHz 750MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
733 MHz 733MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
700 MHz 700MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
667 MHz 666MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
650 MHz 650MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
600 MHz 600MHz 100MHz 512Kbytes/ハーフ Katmai
600B MHz 600MHz 133MHz 512Kbytes/ハーフ Katmai
600E MHz 600MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
600EB MHz 600MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
550 MHz 550MHz 100MHz 512Kbytes/ハーフ Katmai
550E MHz 550MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
533B MHz 533MHz 133MHz 512Kbytes/ハーフ Katmai
533EB MHz 533MHz 133MHz 256Kbytes/フル Coppermine
500 MHz 500MHz 100MHz 512Kbytes/ハーフ Katmai
500E MHz 500MHz 100MHz 256Kbytes/フル Coppermine
450 MHz 450MHz 100MHz 512Kbytes/ハーフ Katmai
Pentium IIIの各種バージョンとクロック表記の関係
2002年2月末までに出荷されたPentium IIIの各バージョンについて、クロック表記とプロセッサ・コアの種類やFSBのクロック周波数などの仕様を記してみた。「2次キャッシュの容量/速度」欄の「フル」はプロセッサ・コアと同じ速度で、また「ハーフ」はプロセッサ・コアの1/2の速度で2次キャッシュが動作することを表している。これを見ると、例えば600MHz版には4種類もバリエーションがあることが分かる。

 プロセッサ・コアの世代が変わると、同じクロック周波数でも性能や機能が変わることがあるので、Pentium III搭載PCのスペックを比較する場合は、プロセッサ・コアの世代を意識する必要がある。FSBについても、当然ながら100MHzより133MHzの方が高速なので、横並びでPCを比較する際には注意したいポイントだ。

 また、PCのアップグレードでは、使用中のプロセッサと同じ種類でクロックの高いものに交換して性能を向上させるという手法があるが、元のPentium IIIより新しい世代のプロセッサ・コアを搭載したPentium IIIでは正常に動作しないことが多い。プロセッサ・コアの世代をまたいでPentium IIIを交換しない、あるいは新世代コアにPCが対応しているかどうかを確認するなど、注意が必要だ。 記事の終わり

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