最適ネットワーク機器選択術

コラム 
そのほかのネットワーク機器

ハラパン・メディアテック
宇野俊夫
2000/07/14

意外に重要なケーブル

 ハブやスイッチのことばかりではなく、ケーブルについて見ておくことにしよう。もしかすると、機器選びもさることながら、ケーブルこそがトラブルを防ぐためには重要なポイントかもしれない。実際、これまでにケーブルが原因でトラブルを招いていたことは一度ならずある。最初のうち原因が分からず、ケーブル不良に気がつくまでに時間がかかるものだ。

 基本的には、品質のよいケーブルを買ってくるか自作する。百本単位で大量に必要な場合はインテグレータやネットワーク機器ベンダに依頼して作ってもらう手もある。一般的にはどの種類のUTPケーブルも、1、2、3、5、10、25、50、75、100、304mの長さのものがモジュラージャック付きで販売されている。ちなみに304mは、ケーブルの製造単位で、いわゆる1ロール相当だ。

カテゴリ5Eケーブル
カテゴリ5E(エンハンスド カテゴリ5)ケーブルは、カテゴリ5ケーブルに比べて信号減衰量が小さいという特徴を持っている。1000BASE-Tでは、カテゴリ5ケーブルよりもカテゴリ5Eケーブルのほうが適しているといわれている。カテゴリ5Eケーブルは若干価格が高めだが、将来のことを考えると導入を考えてもいいだろう。

 イーサネットで一般的に使われるケーブルは、カテゴリ3、4、5の3種類のUTP(シールドなしツイストペア)ケーブルだ。しかし、最近では100BASE-TXへのアップグレードなども考慮してカテゴリ5のケーブルが最もよく使われる。店頭でもほとんどの場合、カテゴリ5ケーブルが売られている。だが、購入時には念のため、カテゴリ5ケーブルであることを確認するようにしよう。なお、カテゴリ5のケーブルは、ケーブルの1本1本が銅の単線(AWG24:直径0.5mm)でできているため、ゴワゴワして曲げにくい。一方、カテゴリ5として販売されているケーブルの中には、柔らかく曲げやすいものもあるが、これらは同じ電気特性を持つ細い複数線で作られている。シビアな環境では、単線のものでなければ微妙な特性の違いが出てくるので、柔らかいケーブルのものは、あまりおすすめできない。

 なお、最近では一般オフィスや工場など外乱電磁ノイズの影響を受けるような場合に、カテゴリ5UTPケーブルと同一仕様のケーブルを使い、外皮にアルミホイルなどでシールドを施したカテゴリ5STP(シールド付きツイストペア)ケーブルも商品化されている。そのほか、カテゴリ5UTP-DTと呼ばれるケーブルもある。DTはデータツイストの略で、データ伝送専用に作られたもので、350Mbits/sの伝送帯域を持つ高級品だ。確かに、伝送品質は抜群だが、通常のカテゴリ5UTPケーブルの2倍近い値段なのが難点である。

 実は、ケーブルの種類について、筆者はときどき質問を受けることがある。ISDN用のケーブルはイーサネットで使えないのか、というものだ。実は、驚くことに使えるのだ。しかし、厳密にはカテゴリ5のストレートで8芯すべてが結線された良質なものに限る。逆も真なりで、カテゴリ5のケーブルはISDNで使っても技術的には問題ない。ではどうしてPCショップの店頭では、わざわざ別々に売られているのか。理由は簡単で、ISDNをはじめ電話系の一部に使うケーブルは、電話会社などの技術基準に適合しなければならないからだ。つまり、試験に合格して登録済みという意味である。一方、イーサネットなどLANはプライベートにうまくつながっていればだれも文句を言わないから、認定試験も登録も不要だ。つまり、パブリックな設備である電話回線網(ISDNを含む)へは、勝手に変なケーブルを使ってはならない。これが基本だ。だから、わざわざ別のものが用意されている。というわけで、ISDNにはISDN用のケーブルを使おう。しかし、そもそも、カテゴリ3、4、5などのケーブルの名称は電話の配線用ケーブルのグレードを意味した。今でも、ビルでネットワークと電話の敷設工事を行うときには、同じケーブルが使われている。

■結線について

 ネットワーク カードとハブを接続するノーマルのUTPケーブルのことをストレートと呼ぶことが多い。一方、2台のネットワークカード同士を直接つなぎ、ハブのポート同士を使ってカスケード接続するときに使うUTPケーブルをクロス ケーブルという。実際、この名称でPCショップなどでもUTPケーブルが売られている。シリアル ケーブルとの対比によって説明すると直感的に分かりやすいため、このように表記している。

そのほかのネットワーク機器

 これまで、とりあえずネットワークを構築するために必要な機材としてハブやスイッチを中心に説明してきた。もちろん、ネットワーク機器にはこのほかにもさまざまな用途、役割のものがある。その代表的なものをいくつか紹介しておこう。

■ルータ

 ルータは、ネットワークの経路制御を行う装置だ。ハブが電気信号レベル、スイッチがMACアドレスレベルを扱うのに対し、ルータはTCP/IPのIPアドレスなど第3層(ネットワーク層)の情報をもとに動作する装置だ。これによって、たとえばイントラネットとインターネットの境界にルータを置けば、イントラネットのIPアドレス同士がやりとりする通信がインターネットへ流れないよう、ルータはIPアドレスを見てパケットをフィルタする。もし、宛先のIPアドレスがインターネットの先にあるのであれば、ルータは、イントラネットから発信されたそのパケットを通過させ、インターネットに送信する。逆に、インターネットから来たパケットも、あらかじめ「通過を許可すべきIPアドレス」でなければ、通過させないようルータにあらかじめ設定しておくことができる。

 ISDNの回線制御機能を組み込んだダイアルアップ ルータは、小規模ネットワークには非常に便利な機能を提供してくれる。4ポート程度のハブ(10BASE-T)にもなっているので、手軽にLANを構築するためのコア デバイスとしても使える。なお、ダイアルアップ ルータは、OCNやODN、DIONなどの常時接続や128Kbits/sまでの専用線IP接続にも使うことができる。

■無線LAN

コンパックの無線LANアクセス ポイント「Compaq WL400
コンパックの無線LANは、クライアントPC用の無線LANカードを導入したPCに、アクセス ポイント用のソフトウェア(WL300)をインストールすることで、そのPCがアクセス ポイントになるのが特徴。もちろん、写真のアクセス ポイント「WL400」を使うことで、他社製品と同様の無線LANを構築することもできる。

 無線LANは、最近ようやく安価な製品が登場してきたため、身近なものになりつつある。4Mbits/sの速度によるIEEE802.11がオフィスなどでの用途を想定したもので、約100mの到達距離が確保されている。また、最近では10Mbits/sのIEEE802.11bに対応した製品も販売されはじめている。これらは、イーサネットとのゲートウェイ機能も持っているので、相互運用可能だ。家庭内ネットワーク向けにHomeRF(最大到達距離50m)も提唱されているが、製品化は2001年になりそうだ。いずれも、2.45GHz帯の電波を使うため、免許も不要でしかも大半の国で同じく無線LAN用の帯域として予約されているので、持ち歩けばほぼ世界中で使えるというメリットもある。

 これらの無線系のLANでは、ケーブルをわざわざ配線する必要がないので、マンションでも賃貸住宅でも、工事なしで簡単にネットワークを組むことができるのがメリットだ。新築時にLANの配線ができる幸せ者はそう多いわけではないし、モジュラ コンセントの設置場所や数が足りなかった、という悩みもない。無線なら、電波が届く範囲ならどこでも設置場所を選ばない。欠点は、まだ少し高めの価格と伝送速度が最大で11Mbits/sと今となっては遅いことぐらいだ。特に速度については、利用する台数が増えるとボトルネックになるので、大規模なオフィス環境では辛くなるかもしれない。

 また、小型携帯端末向けで注目されている無線系のネットワークに、Bluetoothがある。これは、携帯電話を始め、電子手帳やPDA、ノートPCなどのケーブル接続を省略するのが主な狙いだ。1Mbits/s程度の速度(実効速度は721Kbits/s)と遅いが安価で、家電機器などにも搭載される可能性がある。

■プリント サーバ

日本HPのプリント サーバ「HP JetDirect 300X
日本HPのプリント サーバ「HP JetDirect 300X」 100BASE-TX対応の1ポートのプリント サーバ。IPP(Internet Printing Protocol)やSNMPに対応している。また、Webブラウザで設定が行えるのが特徴である。

 プリント サーバは、ネットワーク対応でないプリンタをネットワークに直接接続するためのアダプタだ。プリンタ共有のためにサーバを用意する必要がないため、手軽というメリットがある。そして、比較的小型なのでプリンタの設置場所を選ばず、ネットワーク ケーブルと電源さえあればどこでも使えるという便利なものだ。タイプとしては、Windows NT/2000 ServerやUnix系OSをプリンタ サーバとして使う本格的なものと、Windows 95/98だけで専用プリンタ ユーティリティをインストールして使うものがある。いずれも、印刷のスループットが低下するのが悩みだ。前者のように、サーバを使う場合、サーバのスプーラに印刷データがスプールされるため、クライアントPC側の処理は早く終わる。後者の場合、専用のユーティリティ ソフトを使わなければならないので、新しいOSへの対応など、長く使う場合には案外ネックとなることがある。

■NAS(ネットワーク アタッチド ストレージ)

ニューテックのNAS「MaxAttach NAS3000
MaxAttachは、ネットワークに直接接続し、ファイルの共有が可能なNAS製品。NAS3000は、比較的低価格でSOHO向けともいえる製品だ。ラックマウント型の「NAS4000」もラインアップする。異なるOS間でもファイルの共有が可能で、設定が容易なのが特徴。

 NAS(ネットワーク アタッチド ストレージ)とは、最近登場してきたネットワーク インターフェイスを内蔵するストレージ サブシステムのことだ。RAID構成など、多数のハードディスク ドライブを搭載したストレージ サブシステムをネットワークに直接接続して使うことを想定している。複数のサーバで1つのストレージを共有できるため、障害発生時にも処理が引き継げることや、異なるOSを採用するサーバでファイルの共有などが行えるなどのメリットがある。

 
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関連リンク
カテゴリ5Eケーブルの製品情報
無線LAN製品の情報ページ
日本HP HP JetDirectの製品情報ページ
ニューテック MaxAttachの製品情報ページ

 
     
 INDEX
  [特集]最適ネットワーク機器選択術
  1. イントロダクション
  2. イーサネットの基礎の基礎
    2-1. イーサネットの基本はCSMA/CD方式にある
      コラム:IEEE802の各種規格
    2-2. イーサネットのフレーム形式とコリジョン ドメイン
    2-3. 現在の主流、100BASE-TXを知る
      コラム:10BASE/100BASE以外のLAN規格
  3.
    3-1. デスクトップPCには100BASE-TX PCIカードが最適
      コラム:できれば避けたいISAイーサネット カード
    3-2. 一般的な100BASE-TX PCIカードの選択ポイント
    3-3. 100BASE-TX PCIカードの付加機能をチェックする
      コラム: イーサネット カードにおけるサーバ用とクライアント用の違い
    3-4. ノートPC用にはPCカードから選ぶ
    3-5. 100BASE-TX CardBusか、10BASE-T 16bit PCカードか?
    3-6. PCカードならケーブルの接続方式がポイント
    3-7. イーサネット ケーブル直結方式は便利か?
      コラム:USBによるイーサネット接続
    3-8. デバイス ドライバは重要な選択ポイント
    3-9. もう1つのソフトウェア サポート − ユーティリティ
      コラム:Linuxのためのイーサネット カード選び
  4.
    4-1. ハブ/スイッチの種類と機能
    4-2. ハブ/スイッチ選択の基礎知識
    コラム:そのほかのネットワーク機器
    4-3. ハブ/スイッチ選択のポイント

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