第1回 RFIDを利用した業務システム開発の心得


西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年4月18日
日本でも1、2年のうちにRFIDを利用した業務システムが実現する勢いだ。本連載はRFIDシステムの導入を成功させるために、経験豊富なコンサルタントがノウハウを伝授するバイブルである(編集部)

 縁遠いRFIDシステムを身近なものにするために

 RFIDの実証実験や導入事例を新聞や雑誌などでよく見掛けるようになりました。この背景として、2005年4月からUHF帯(952〜954MHz)が利用可能となったこと、2006年1月から共用化技術適合対応や無線局開設申請の簡略化が行われたことがあります。このような日本におけるUHF帯の利用環境の整備によって、2006年度以降、UHF帯を含めたさまざまな周波数帯のRFIDシステムの導入に拍車が掛かっていくことでしょう。

 しかしながら、実際にRFIDを利用した業務システムを構築するということになると、情報システム部門の方やシステムエンジニアにとってもまだまだ縁遠い話ではないでしょうか。RFIDシステムを分かりにくいものにしている一番の理由は、まだまだ一般的なシステムになっていないことが挙げられます。

 また、RFIDに特有の特殊性もその要因になっています。RFIDの特殊性とは、

  • 無線経由でデータの読み書きをすること
  • ICタグ、リーダ/ライタ、アンテナなど特有のハードウェアを使うこと
  • 周波数帯や規格のバリエーションが豊富なこと
  • 独特のアクセス方法やシーケンスでデータ処理をすること

などです。さらに、RFIDに関連する技術情報を一般のエンジニアが容易に入手できないという課題もあります。これはRFID業界が至急に改善すべき点です。

 本連載ではこれまでなかなか伝えられなかったRFIDシステムの分かりにくい部分を含め、業務システム開発とRFIDシステムに特有なシステム作業を整理しながら解説していきます。連載を通じてRFIDシステムをより身近に感じてもらうことで、その普及と発展に貢献したいと考えています。

 RFIDシステムを成功させるキーファクター

 RFIDシステムの導入を成功させるためには4つのキーファクターが存在します。すなわち、「業務分析」「フィージビリティスタディ」「適切なハードウェア/ソフトウェアの選定」「RFIDシステムの最適化」です。

RFIDシステムの最適化とは、実環境において何らかの理由によってRFIDシステムの性能が減衰する場合に、さまざまな手法で性能の減衰を最小限に抑える、あるいは性能の向上を図ることを指します

 これらを確実に理解していただくために、 システム導入全体の進め方(今回)、 ソフトウェア処理の基礎知識、 ケーススタディ、RFIDシステムの最適化作業など全6回の連載を予定しています。本連載で理解を深めていただいたうえでRFIDを利用した業務システムの設計開発に入っていただくと、RFIDを特別な素材であると感じることはないでしょう。

 筆者はこれまで自動車製造業、流通業、電力会社などのプロジェクトを担当して参りました。RFIDシステム導入のコンサルタントとしての経験を基に、RFIDシステムの導入を成功させるという観点で本連載を執筆します。

 掘り下げの不足や読みにくい個所もあるかと思いますが、読者の皆さんには必要な部分を拾い読みしていただければと考えます。また、機会があれば企業の導入担当者向け、システムエンジニア向け、コンサルタント向けなどのそれぞれの立場に合わせた内容で整理をしたいとも考えております。

 この連載でつかんでいただきたいのは、RFIDシステムとは基本的な知識とノウハウに加えて現場での工夫(性能の減衰を防ぐ・性能の向上を図る)ができれば十分機能する仕組みであり、大変便利なシステム素材であるということです。そして、読者の皆さんがRFIDシステムの導入のリーダーとなっていただくことを希望します。

 RFIDの基本中の基本を確認する

 それでは、RFIDの基本的なポイントを押さえておきましょう。RFIDとは(Radio Frequency IDentification)の略で、電波を用い非接触でデータキャリアを認識する自動認識技術を意味します。メモリ機能があるICチップと小型アンテナが埋め込まれた電子の荷札(ICタグ)とリーダ/ライタが無線で通信し、個々のID(シリアル番号)識別やデータの読み書きを非接触で実行します。

 既存のデータキャリアとしてバーコードが存在します。RFIDとバーコードとの違いは、大きく3つが挙げられます。

  • バーコードは光をピンポイントで当てて読むが、ICタグはだいたいこの辺りでという位置で読める
  • バーコードはデータの書き換えができないが、ICタグは書き換えができる
  • バーコードは1枚ずつ読み取る必要があるが、ICタグは同時に複数枚の読み取りができる

 システムの中でICタグを利用する方法は、ICタグそのものを極小のストレージとしてさまざまなデータを格納する方法と、ICタグから読み込んだIDをキーにしてデータベースから情報を参照する方法の2つに大別できます。どちらを利用するかは、業務や周辺システムによって決定されます。

 RFIDシステムの最小構成は、データを保存するICタグ(チップ)、データの読み書きをするリーダ/ライタ、端末からの制御を可能にするドライバ、APIとその上位から指示をする業務アプリケーションソフトウェアから構成されます。しかし、実際の企業における業務システムでは、資産管理業務などを除くとすでにシステム化されているので、RFIDシステムを既存のネットワークや基幹システムと連携して運用する、あるいはそれらの更新を含めて新システムとして導入するというケースが大半です。

 先にRFIDシステムには特有のハードウェアが必要になると述べましたが、ハードウェアの構成として図1のような4つのパターンがあります。現実的には、業務と利用環境、ネットワーク環境に合わせて、この4パターンの組み合わせでハードウェアの構成設計を行います。

図1 ハードウェア構成の4つのパターン

 また、RFIDシステムは無線(電波)を経由してデータの読み書きをするため、利用する環境とICタグを貼付する対象物によって選択すべきハードウェアが変わってきます。そのため、業務、対象物、利用環境から最適な周波数帯とハードウェアを選定することになります。これについては第2回で詳しく解説します。

 
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Index
RFIDを利用した業務システム開発の心得
Page1
縁遠いRFIDシステムを身近なものにするために
RFIDシステムを成功させるキーファクター
RFIDの基本中の基本を確認する
  Page2
RFIDシステム本導入までの流れを把握する
システム開発の全体工程のおけるRFIDシステム導入作業


RFIDシステム導入バイブル 連載インデックス


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