岡崎勝己のカッティング・エッヂ

“かざす”を商機につなげるFeliCa、
ソニーの次の手は


岡崎 勝己
2008年1月9日


 新会社でMIFAREとFeliCaを相乗りさせる

 ただし、その出荷エリアに目を転じると、FeliCaの利用はまだまだ限定されていることが理解できよう。最大の出荷先はもちろん2億1200万個を数える日本。次いで、いち早くFeliCaの先進性を見抜き、オクトパスカードの媒体として採用した香港の2100万個と続き、シンガポールの1400万個、中国の5万個、タイ、インド……という具合に、いわば日本からユーラシア大陸方面へ波紋を描くようにエリアを拡大させてはいるのだ。だが、それ故に欧州や北米地域への出荷はまったく認められない。

 もちろん現時点でも、欧州などに非接触ICカードは存在する。NXPセミコンダクターズ(旧フィリップス・セミコンダクター)が「MIFARE(マイフェア)」ブランドで提供するものが代表的なものだ。ただし、その用途は交通系や金融系の一部に限られていたというのが実情だ。

 非接触ICカード技術の用途拡大を通じて、新たなサービスを開発できないか。日本における「おサイフケータイ」を目にすれば、そう考えるのが自然な流れであろう。携帯電話業界を中心とした、そうしたニーズに応えるためにソニーとNXPセミコンダクターズが2007年11月にオーストリアで設立したのが、非接触IC事業に関する合弁会社である「Moversa(モベルサ)」だ。

 Moversaの設立によって、FeliCaとMIFAREの双方の規格に準じたOSやアプリケーションに対応したICチップの開発が可能になった。両規格の普及度を考慮すれば、同チップを利用することで世界のほぼあらゆる地域で利用できるサービスを開発できるようになったわけだ。

 以前より、ソニーはフィリップスと近距離無線通信技術「Near Field Communication(NFC)」を共同開発するなど、両規格の互換性の確保に注力してきた。この取り組みをさらに一歩、前進させたのである。

「現在、携帯電話の高機能化が急速な勢いで進んでいることを背景に、携帯電話業界を中心に、よりアプリケーションを開発しやすい環境を求める声が高まっていた。Moversaの設立によって、そのためのプラットフォームを実現することが可能になった。そして、“安全性”をはじめとするFeliCaの技術的な優位性を認めてもらえれば、各国での採用につながるはず」(竹澤氏)

 果たして世界でFeliCaは普及するか?

 FeliCaが各国で普及するうえで課題は少なくない。冒頭に述べたように、携帯電話やICカードを“かざす”という行為は、いわば日本発のもの。そのため、「利用者にかざしてもらうには、それなりのリテラシーが求められる。一朝一夕に利用が進むとは考えにくい」との指摘もある。

 もっとも、そのことはソニー自身も深く認識している。

「一気に普及するとは到底考えられない。一歩一歩、段階的に普及させるというのが基本的な考え。そのために3年かかるのか、それとも6年かかるのか……それは、現時点では分からない」(竹澤氏)

 だが、「国内における出荷数を考えると、モバイルFeliCaはまだ伸びしろが残されているものの、FeliCaカードは累計発行枚数から考えて今後の大幅な伸びはそれほど期待できない」(竹澤氏)ことを考慮すれば、海外市場が非常に重要なことは明らか。そこで、将来の大きな実りを得るべく、各種の事業を積み上げようというのがソニーの考えだ。

 実際に、2007年11月には米国におけるeラーニングシステムのシステムインテグレータ最大手、ブラックボードとの提携を発表。FeliCaおよびNFCを用いた高等教育機関向けの事業に進出した。同事業ではFeliCaを施設の入退出管理や電子マネーの利用に応用させる計画だ。

 サービスニーズの“深掘り”と提供エリアの拡大を通じて、FeliCa事業のさらなる拡大を目指すソニー。近い将来、世界中の街角で携帯電話やカードをかざす様子を見ることができるようになるのか。

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Index
“かざす”を商機につなげるFeliCa、ソニーの次の手は
  Page1
“かざす”利便性を武器に利用を拡大
FeliCa拡大に向けた次の“一手”
分析活動を通じ事業者の採用を後押し
 
Page2
新会社でMIFAREとFeliCaを相乗りさせる
果たして世界でFeliCaは普及するか?
Profile
岡崎 勝己(おかざき かつみ)

通信業界向け情報誌の編集記者、IT情報誌などの編集者を経てフリーに。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に、主にIT分野や経済分野でジャーナリストとして活動中。フォーカスするテーマはITと業務改革/イノベーション、人材論など。
他方、情報システムうんぬんは抜きに、コンテンツビジネスなど面白ければ何でもやる一面も。

著書に「図解ICタグビジネスのすべて(日本能率協会マネジメントセンター)」などがある。

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