岡崎勝己のカッティング・エッヂ

“新電波法”でRFIDビジネスは新たなステージへ


岡崎 勝己
2008年7月16日


 ミラーサブキャリア方式は問題解決の“選択肢”の1つ

 RFIDシステムに必要なデバイスからアプリケーションの開発、さらに業務コンサルティングまで一貫して手掛けるNECも今回の電波法改正に好意的だ。

平野弘一氏
日本電気 ユビキタスソリューション推進本部 統括マネージャー 兼 RFIDビジネスソリューションセンター長

 同社ではグループ企業を含めて約300人体制でRFIDビジネスを展開。製造業を中心に多くの顧客を開拓してきた。そして、「ここにきて多くの案件でRFIDタグの価格の安価さからUHFタグの利用が顧客から指定されるようになっている」(NECユビキタスソリューション推進本部統括マネージャー兼RFIDビジネスソリューションセンター長、平野弘一氏)という中で、ミラーサブキャリア方式が認められたことによって、システム設計における柔軟性が高まると考えられるからだ。

 しかし、ミラーサブキャリア方式がUHF帯タグの読み取り精度の問題を抜本的に解決できるわけではない。RFIDシステムは、RFIDタグやリーダ/ライタ、アプリケーションやシーケンサーなどさまざまな要素で構成されるため、読み取り精度を高めるためには、それぞれに対する細かなチューニングを欠かすことはできないのだ。

 ユビキタスソリューション推進本部でRFIDビジネスソリューションセンターマネジャーを務める野口淳氏は、「ユーザーごとにシステムを導入する環境やシステムに求められる精度はそれぞれ異なる。ミラーサブキャリア方式で問題がすべて解決するほど話は単純ではない」と強調する。

 三菱電機もこの点に関してはNECと同様の考えだ。そこで、三菱電機でもリーダ/ライタにシステムの微調整に活用できる機能の搭載を積極的に進めてきた。電波の送信出力を7段階で調整できたり、RFIDタグからの反射波のうち最も強度の高いRFIDタグを選択して読み取り、不必要なRFIDタグの読み取りを防止したりといった機能などが代表的なものだ。

 會田氏は今後のRFIDシステムの高度化に向け、システムをチューニングする能力の向上が不可欠といい切る。今後、さらなる利用が見込まれる高速物流レーンなどでは、読み取り率の向上のみならず、読み取った情報を基に仕分け作業などが行えるような仕組みを実現する必要がある。

「従来のようにPCでリーダ/ライタを制御する方法では、物の流れに処理が追いつかないケースもある。そこで当社では、リーダ/ライタに外部機器の制御用出力端子を搭載し、リーダ/ライタから直接次の処理に指示を出せるようにしている。こうした細かな工夫を行えるスキルが、RFIDシステムの精度向上を図るうえで欠かすことができない」(會田氏)

 ますます強く求められるシステムチューニング能力

 一方、NEC。これまでの事業を通じRFIDシステムの構築に不可欠な「無線通信技術」「半導体技術」「ITソリューション技術」の3つにまつわる豊富なノウハウの蓄積がシステムの高度化に向けた同社の強みとなっているという。

「リーダ/ライタを適切に設置するためには、各現場の電波状況を解析するノウハウが必要。無線機器の製造などを手掛けてきたこともあり、当社はそのための経験豊富なアナログ無線通信技術者を豊富に抱えている」(平野氏)

野口淳氏
日本電気 ユビキタスソリューション推進本部 RFIDビジネスソリューションセンター マネージャー

 加えて、NECがシステムの高度化を推進させるために期待を寄せているのが、同社が約2年前から運営する「RFIDイノベーションセンター」だ。同施設はRFIDシステムの導入を支援するため、実証実験の場を顧客に提供するもの。1200uのスペースにコンベアなどのマテリアルハンドリング(マテハン)機器が設置され、NECエンジニアリングの社員が常駐でRFIDシステム構築の課題解決に当たっている。

 同施設を利用した企業はすでに800社を突破。NECではイノベーションセンターで得られたノウハウをシステム導入の方法論として体系化することで、アセスメントの実施からロードマップの作成、検証まで一貫して行える体制を整えてきた。今後のシステムのさらなる高度化にも活用を見込んでいる。

 NECエンジニアリングは、RFIDシステムの導入における技術課題を解決するために、センサやリーダ/ライタなどを一括制御することで電波干渉を低減させたり、不要な情報をフィルタリングしたりする機能を持つ「RFIDフロントコントローラ」を開発した。この製品も、同施設での経験を基に開発されたものだ。

「今後もRFIDイノベーションセンターでノウハウを継続的に蓄積するとともに、RFIDコントローラといった関連製品を充実させることでチューニング作業の自動化を推し進め、導入期間の短さを訴えることでも売上の拡大を図りたい」(平野氏)

 NECは2010年までに関連機器も含めて2000億円の売り上げを目標に掲げているほか、先述の三菱電機も今年度、昨年比5倍の売り上げを見込んでいる。いずれも強気の見通しだが、今回の電波法の改正によってその実現に向けた追い風も吹いている。もっとも、システムの高度化に向けた技術と法制面の基盤がここまで整ったことで、今後、他社と差別化を図るために現場でのチューニング能力がより強く求められようになることは間違いなさそうだ。

【関連記事】
世界標準に“和魂洋才”で取り組むNEC

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Index
“新電波法”でRFIDビジネスは新たなステージへ
  Page1
本格活用段階に入った950MHz帯省電力通信システム
RFIDの普及・高度化を促すためミラーサブキャリアを解禁
工場のパレット管理にミラーサブキャリア方式を
Page2
ミラーサブキャリア方式は問題解決の“選択肢”の1つ
ますます強く求められるシステムチューニング能力

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