第1回 RFIDエンジニアが抱える課題から生まれてきたもの


吉田 光伸
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
アドバンストソリューション本部
RFIDビジネス推進部
部長
2006年8月1日


 RFIDミドルウェアに対するニーズ

 いままでのRFIDシステム構築においては、ハードウェアレイヤからRFIDの情報(ID情報、もしくはメモリに記載されている詳細情報)をシステム側に取り込むためには、システムエンジニアがリーダ/ライタの仕様書を熟読し、コマンドのシーケンスを理解し、コマンドを渡すためのプログラム(ドライバプログラム)をVB、C、Javaなどで独自にプログラミングしていく必要がありました。

 RFIDリーダ/ライタは、メーカーにもよりますが、あまりインテリジェントではないものが多く、システム側からコマンドをリーダ/ライタに対して渡して動作させる必要があります。また、コマンドに関してもメーカーごとにバラバラで互換性がなく、RFIDデバイスの機種が変更になると、その都度ドライバプログラムも新しく作り直す必要があります。つまり、システム側から見てハードウェアレイヤは抽象化されていなかったというのが過去のRFIDシステムです。

 もちろん、ハードウェアレイヤを抽象化するためのDLLを提供しているメーカーもありますが、サーバ側がWindowsプラットフォームに限定されるなどの問題も生じてしまいます。

 従って、一般的なソフトウェアエンジニアにとって、RFIDシステムとはハードウェアレイヤに関しての知識の習得が必須の難しいもの、とっつきにくいもの、工数がかかるものという認識がありました。@ITを読まれているようなIT業界のエンジニアにとっては、ハードウェアの知識を獲得するのはかなりの負担になります。

 ソフトウェアエンジニアが求めているものは、「Hardware Agnostic」の概念です。それは、ハードウェアレイヤが抽象化されていて、どういったハードウェアであっても、あるいはハードウェアの知識を熟知していなくてもRFIDシステムの開発がスムーズにいくことです。一般的なWindowsプラットフォームにおける開発では、ハードウェアレイヤが抽象化されているので、スムーズになっていると同じことですね。

 RFIDミドルウェアは、ハードウェアレイヤとソフトウェアレイヤのインテグレーションにおいて、さまざまな課題を解決するためにエンジニアのニーズを具現化したものといっていいでしょう。近年、RFIDミドルウェアの機能は強化されており、ハードウェアレイヤの抽象化だけでなく、RFIDシステムに必要な信頼性、可用性といった下記のニーズもカバーできます。

  • ハードウェアレイヤの抽象化(さまざまなベンダのハードウェアに対応したドライバを提供)
  • RFIDデータのフィルタリング
  • RFIDデータの保証
  • RFIDシステムのスケーラビリティ
  • バックエンドシステムとのシームレスな連携
  • ビジネスロジックの付与

 EPCglobalが、RFIDシステムの在り方(理想像)を記載している「EPCglobal Architecture Framework Version 1.0」というドキュメントにおいて、「Filer & Collection」の項でRFIDミドルウェアに触れています。将来的なRFIDシステムの全体像の概念を理解するにはこういった情報に目を通しておくのもよいかもしれません。

【EPCglobal】
EPCglobal Architecture Framework Version 1.0(PDF)

 RFIDミドルウェアのおかげでシステムエンジニアはハードウェアの束縛から解放され、RFIDシステムのハードウェアの部分はハードウェアエンジニア(RFID市場においては、RFIDハードウェアベンダ)、システムの部分はシステムエンジニアという完全な分担作業が可能になりました。これはRFIDミドルウェアがもたらす1つの効果にすぎません。

 次回は、具体的にRFIDミドルウェアの機能、構造、利点、応用に触れたいと思います。

3/3
 

Index
RFIDエンジニアが抱える課題から生まれてきたもの
  Page1
実用段階に入りつつあるRFIDのいま
  Page2
RFIDエンジニアに求められるものは何か
RFIDシステム構築の課題
Page3
RFIDミドルウェアに対するニーズ


Profile
吉田 光伸(よしだ みつのぶ)

日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
アドバンストソリューション本部
RFIDビジネス推進部
部長

2003年よりRFIDビジネスに従事。同社におけるRFIDビジネス日本支部の代表。日本において製造業、小売業、物流業を中心にさまざまな事例の立ち上げを行うとともに、RFID関連企業とのアライアンス活動も実施。また同社におけるRFID関連製品開発においても、US本社の開発プロセスに参画。

EPCglobal Business Action Group、ユビキタスIDセンタ、日本GCI推進協議会の電子タグWGに参画中。

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