第1回 戦略的なSCM実現に向けたRFID活用への一考


株式会社イー・ロジット
コンサルティング部
2007年10月29日
RFIDシステムの導入が期待される分野の1つに物流が挙げられる。果たしてITベンダが思い描くRFIDシステムは、物流現場が求めているものなのだろうか(編集部)

 イー・ロジットでは、これまで“戦略物流”をキーワードに多くの企業さまに物流改善をご提案させていただきました。企業でのRFIDの活用が始まって数年が経過しましたが、物流現場はどう変わったのか。最前線の活用実態とこれからのRFID活用の展望について、これから数回にわたって解説します。

 無線通信技術を用い、離れた場所からの情報の読み書きができる特徴を持つ自動認識技術であるRFID(Radio Frequency Identification=ICタグとも呼ばれる)は数年前より注目を集めています。周波数特性から、最も長い距離での読み書きが可能で、複数読み取りに適しているUHF帯を中心に、物流現場での利用が検討されてきました。

 RFIDは、1枚20円以上掛かるタグコストや確実に読み取りを行うためのシステム構築費用の問題などから、当初見込まれていた普及速度とはほど遠い形となっているのが現状です。しかし、従来型のバーコードではできない付加価値を取り入れることで、すでに本稼働しているケースも多くあります。

 本稼働の事例では、UHF帯に限らず、さまざまな周波数帯のRFIDタグが使用されています。さらに、それぞれの周波数帯の中でも、メタルやリネンといった用途に応じた特殊なRFIDタグが用いられるケースもあります。

 ここではこれから数回にわたって、現在、稼働している事例をいくつか挙げ、今後の生産から小売りまでの流通段階で使用されるRFIDの可能性について、述べていきたいと思います。

 三越・阪急・高島屋・丸井など百貨店での取り組み

 現在、RFIDが導入され、本稼働しているケースは、大きく分けて(1)婦人靴・アパレル分野など店頭でのキオスク端末に重点を置いた利用法、(2)引っ越し管理や温度センサ付きのRFIDタグ(アクティブタブ)を使った食品分野のトレーサビリティ管理といった配送での利用、(3)自社工場内の製造工程管理・部品の在庫管理での利用、(4)通い箱に取り付けての管理−の4つに分類されます。

 このうち婦人靴・アパレル分野の利用は、主に三越・阪急・東急・高島屋*1・丸井などの百貨店で実稼働しているもので、元は経済産業省主導による実証実験として行われた事業の1つです。

*1 高島屋の「高」は、「(はしご高)」が本来の表記ですが、ご覧の環境によって正しく表示されない可能性があるため「高」を代用します(編集部)

 ほかの実証実験事業の多くが、いまだ検討段階にとどまっているのに対し、百貨店の導入が、早期に実現できたのは店舗内物流の効率化とともに、店舗キオスク端末を活用したCRM(Customer Relationship Management)の効果が大きかったことが挙げられます。

 百貨店の中で最も導入に積極的な三越では、経済産業省の実証実験を受け、婦人靴売り場では2005年の日本橋本店を皮切りに銀座店、名古屋栄店、福岡店、札幌店、名古屋星ヶ丘店などで、ジーンズ売り場では2006年から日本橋本店、仙台店を皮切りに、銀座店、札幌店、名古屋栄店、高松店、松山店、福岡店、新潟店などで、次々と13.56MHz帯のタグラベルをアイテムに取り付けての管理(タグラベルの貼付は物流センターで実施)を行っています。

 アパレル・婦人靴は、サイズ・色物などがあることから、ほぼ単品管理に近い形での管理方法が必要となってきます。従来は店頭売り場とバックヤード在庫数がリアルタイムで確認できるシステムが構築されていなかったため、顧客が希望するサイズ・色の商品が在庫しているかを売り場とバックヤードを行き来しながら業務を行っていました。

 そこで販売機会損失の低減化とサービス接客向上を狙い、アイテムを収めている箱や商品に単品管理に適したRFIDタグを貼付。ハンディターミナルを用い、タグ情報を読み取り、店頭での入荷検品、棚卸業務を行い、サーバ側に情報を送信することで、売り場・バックヤードのリアルタイム在庫を把握する方式へと変換を図りました。

 販売員はPDA端末を持ち、商品ラベルを読み込むことで、サイズ・色別など詳しい在庫状況を知ることができ、買い物客への応対も極めて短時間で終わらせることができるようになりました。またキオスク端末を設置し、買い物客自らが商品をキオスク端末に近づけ、タッチパネル操作を活用することで、在庫確認をすることができます。

 PDA端末やキオスク端末による操作によって、単に在庫情報だけでなく、顧客の照会が多かった商品情報なども蓄積されることにもなり、人気度や注目度ランキングといった、これまで入手できなかった情報も得られます。これらを商品開発への適用やキオスク端末に情報を提供することで、買い物客の興味を引き付けることができるようになりました。

 またジーンズ売り場においては、銀座店などで上下4段ある棚のうち、売れ筋商品を並べる2段目について、1棚ごとにRFIDタグを読み取るリーダ/ライタ(スマートシェルフ)を設け、厳密な在庫状況と商品を手に取る回数など、より詳細な情報が分かる仕組みも導入されています。

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 コスト削減効果だけでなく、売り上げ向上を含めROIを上げる

 実はジーンズのスマートシェルフによる管理といった詳細情報の把握は別として、RFIDを、例えば2次元コードに置き換えても同様の機能を得ることができます。

 しかし、物流の観点から見て両者には大きな違いがあります。(1)RFIDはその特徴とシステムの制御運用によって、離れていても読み取れる、2度読みしないことから検品作業時間を迅速にできること(約3割の削減効果がみられている)、(2)バックヤードに積み上げられた大量の箱から特定の商品を短時間で探し出すことができる−ことが挙げられます。こうした特徴により、販売店員側が手を煩わすことがなかったのが導入に結び付いた1つの要因といえます。

 もっとも、百貨店で導入が早期に進んだ最大の要因は別にあります。それは宣伝効果です。

 「販売時にタグラベルを回収し、再利用することでタグ1枚の価格は1円程度になる」といった説明をよく聞きますが、そうした算出法はリサイクルに掛かる洗浄や回収業務コストを無視しています。実際のところ、どれだけリサイクルをしたところで、RFIDタグに掛かるコストはバーコードに比べ格段に高いことに変わりはありません。

 RFIDで得られる作業効率化とRFIDタグの価格や機器・システム導入に掛かるコストの見合いを考えれば、現状ではバーコードや2次元コードに比べ、RFIDは優れているものとは一概にいえない状況となっています。

 そうした中、百貨店では単純な効率化とコストだけの比較ではなく、最新の自動認識技術であるRFIDを使ったキオスク端末を置くことで買い物客への関心を上げ、商品在庫を迅速に把握した高度サービスを提供していることを認知させることで、集客力を上げ、ROI(Return on Investment)を上げようとしているわけです。

 他業態の小売りでも店舗CRMを重視したRFIDの導入模索は行われていますが、こちらは思うようにはいっていません。商品の高級セレクト、接客業務を重視するという百貨店の店舗形態にRFIDが合致する部分もあり、ほかの店舗形態には流用しにくいところがあるからかもしれません。

 
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Index
戦略的なSCM実現に向けたRFID活用への一考
Page1
三越・阪急・高島屋・丸井など百貨店での取り組み
コスト削減効果だけでなく、売り上げ向上を含めROIを上げる
  Page2
SCM全体の実現まではいまだ問題山積
オフィス・官庁の引っ越しで活躍
大日本印刷の温度センサ付きタグは導入1000台以上に

物流現場から見るRFID 連載インデックス


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