モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


第1回 ユビキタス時代の「場」づくり入門


株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年3月5日
ユビキタス空間において求められるユーザーインターフェイスの形とは何か。若手技術者と若手クリエイターが、ユーザー中心の視点に立った空間デザイン論を考える(編集部)

 今日のグローバル経済の中において、企業や組織が持続的に成長するためには、毎日の変化に対応するだけではなく、変化を求め、機会とすべき変化を識別し、自らが変化自体をつくり出していく必要があります。

 しかし、これまでに経験したことのない情報技術の変化の中で、私たちの考え方やものの見方、既存のモデルはリアリティを欠き、現実との結び付きを失ってしまってはいないでしょうか。いま求められるのは、既存の思考、組織、制度の外に広がる新しい現実とその現実に対応して新しい社会の軌道をつくり出せるモデルなのかもしれません。

 イノベーションのための「場」の設定

 「新しいモデルを創り出す」。そのためには、既成概念にとらわれない若手の発想力やデザイナーが得意とする“可視化力”を活用することが効果的だと考えます。弊社は今年で創業98年になる企業ですが、ユビキタス時代に即した新しい価値を社会に提供していくために、そうした考え方からさまざまなトライアルを繰り返してきました。

次世代ソリューション開発センター

 筆者が所属する「次世代ソリューション開発センター」もその1つです。この組織は、7年前に、新人を中心とする若手ばかり約50名のIT技術者を、既存事業部からあえて完全隔離する形で編成されました(後に“合法的脱藩浪士部隊”と称される)。

 続いて、プロダクトデザインや空間デザインを担うデザイナー約30名で「テクニカルデザインセンター」を編成。この2つの異なる組織を1フロア内に同居させ、経営に近いところに配置することによって、いままでにはなかった概念やプロダクトが次々と生まれるようになってきました。

 IT技術者と空間デザイナーは、行動特性も仕事の進め方もかなり違います。そこで、お互い、「可視化(モックアップづくり)」と「社外のパートナー(仲間/コミュニティ)を巻き込みながら仕事を進めること」を最重要視しています。

 それは、「協創工房」という、社内に設けた約80坪ほどの実験空間を使い、“考え”をとにかくまずカタチに(可視化)してみる、モノができたらお披露目し、評価し、そしてまた作り直す。こうした一連の繰り返しの中で、お互いの持つ異なるコミュニティが相互に作用し、より立体的で具体的な概念が浮かび上がってくることを経験的に体感してきたからです。そういう意味では、弊社にとってこの協創工房は創発のための心臓部だといえます。

 新しいものを生み出すためには、さまざまな異分子や社外のメンバーですら参画しやすく、意見の出やすい協創の「場」をまず仕掛けること。こうした「場」の設定と工夫がイノベーションの源泉になると考えています。

 ユビキタス時代の新たな「場づくり」

 前段で「場」という言葉を多用しましたが、そもそも「場」とは一体何でしょうか。

 「場」のマネジメントの研究でも知られる一橋大学大学院教授で日本企業研究センター長の伊丹敬之氏によると、「場」とは「人々がそこに参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働き掛け合い、相互に心理的に刺激する、その状況の枠組みのこと」(東洋経済新報社刊 『場の論理とマネジメント』より)とされています。

 また、特定非営利活動法人「場の研究所」の所長を務める清水博東京大学名誉教授は、「家庭や、職場や、市場(いちば)のように、“人々が生活する舞台”のことを『場』と呼ぶ」(場の研究所Webサイトより引用)と定義しています。

 さらに、知識経営論の生みの親として著名な一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏は著書の中で、「『場』とは『共有された文脈、関係性』である」(筑摩書房刊『知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代』より)と説明しています。

 弊社は何十年にもわたって、この「場」という概念の探求に真摯(しんし)に取り組んできました。働く場、学ぶ場、商いの場、協創の場。「人間の創造性発揮のための環境づくりを通して豊かな社会の実現に貢献する」を経営理念に掲げ、“場づくり”を中心に置いた事業展開を進めてきました。

 これら「場」の持つべき本質は変わらずとも、いまやITによって人々のコミュニケーションのスタイルは変わり、さまざまなモノやヒトの状況情報がセンシング(感知)され、コンテクスト化(意味付け)されて得ることもできるようになってきています。

 ユビキタスな環境下では、ともすれば情報技術がもたらす効用面だけに目を奪われがちです。しかし、本来、「場」における主役は人であり、そこから例えば新たな発想を生み出すのも人です。今後、あくまでも人を中心にした、カンファタブル(心地の良い)な「場」をいかにうまくデザインできるかが、今後はますます求められるようになってくるでしょう。

 
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Index
ユビキタス時代の「場」づくり入門
Page1
イノベーションのための「場」の設定
ユビキタス時代の新たな「場づくり」
  Page2
単一製品のデザインから、「場」全体のデザインへ
情報活用空間における課題と、解決への糸口
  Page3
集合知と実空間を結び付けて可視化する仕掛け
利用者の活動(行動)を中心に置くという思想

モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


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