モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


最終回 人と地域を結ぶリレーションデザイン


株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年9月2日

 馬来田駅のことをもっと知りたい

 方向性が決まれば、次は、この方向性を具体化してコンセプトを構築する作業です。「馬来田駅のことをもっと知りたい」。そう思ったプロジェクトメンバーは、ボランティアの方にコンタクトを取り、インタビュー調査を実施することにしました。

 馬来田駅で抱えている運営上の問題を重点的にヒアリングした結果、「久留里駅の外のトイレは行政が設置している奇麗なトイレがある。馬来田駅のトイレも清潔に保っておきたい」といった、外からは分からない、そこで活動する人の思いなども知ることができました。

写真2 インタビュー調査の様子

 また、以前のフィールド観察調査では、駅の周りの狭い範囲しか観察できませんでしたが、それでも魅力的な風景や温泉、木材などの地域の素材があることが分かりました。そこで、インタビュー調査の後に2回目のフィールド観察調査として、さらに地域の魅力を発見するために馬来田駅を中心に散策しました。

写真3 2回目のフィールド観察調査の様子

 このフィールド観察調査では、ボランティアの方が同行して名所や地元の方々を紹介してくれました。地元の方々からは、駅に対する要望を聞くとともに、今回われわれが取り組んでいる活動を紹介できました。

 私たちがモノづくりをする際に、常に重視しているのは「関係する人々を巻き込む」ことです。私たちが作り出すプロダクトは、それを使う人や運用する人たちがいて初めて機能します。そして、プロダクトのあるところにうまく人が絡んで、初めてその「場」が生かされるのです。

 今回のように、無人駅というその空間をすでに営んでいる方々がいる場合には、その方々の理解なくしては、このプロジェクトは成功し得ません。この後の作業においても、ボランティアの方々と密にコンタクトを取りながら、プロダクトを形にしていきました。

 コンセプトの構築

 フィールド観察調査とインタビュー調査の結果を整理し、議論を重ね、初めに導いた方向性を具体化し、今回のコンセプトを次のように決定しました。

 無人駅に合うベンチなどの適切な施設を構築し、そこに運行システムやその地域の魅力を発信するためのITの要素を入れる。そして、駅を中心として、その地域の人々が支える仕組みを企業や自治体が支援する仕組みに構築する。こうすることで、地域の活性化を図り、駅を中心としたその地域の価値を再編集する仕組みづくりを行う。

 新しい価値づくりを行う沿線、鉄道、風景の美しさ、そして地域の産物やイベント、食などを結び付け、無人駅の価値を再編集し、このような仕組みを持った無人駅におけるNext Standardとなるためのモデルのイメージがこの段階で具体化してきました。

図2 無人駅におけるNext Standardイメージ

 それぞれを「結ぶ」

 ここからは、コンセプトに基づいて、具体的にプロダクトをつくっていく作業に入ります。フィールド観察調査やインタビュー調査から、「無人駅では、電車の遅れなどの運行情報を知る手段がない」「駅で聞きたいことがあっても、人がいないので聞けない」などの情報の伝達手段の問題が浮き彫りになりました。

 また、魅力的な点としては、手付かずの自然など、地元の人以外には知られていないたくさんの魅力があることや、馬来田駅のように地域の人が支えている人の温かみを感じる駅があることが挙げられました。

 このような、問題の解決法と魅力的な点を抱合して、今回のITを用いたプロダクトのテーマを「結ぶ」というキーワードで以下の3つに決定しました。

1. 中央駅と無人駅を結ぶ

 中央駅から無人駅に運行情報を伝えるネットワークを構築し、中央駅から無人駅に情報配信する仕組みを構築するとともに、地方から地域の魅力を伝える情報を中央駅に向けて発信する仕組み(=地域を活性化させる仕組み)を同時に構築する。

2. 隣の駅同士を結ぶ

 無人駅には、その名のとおり「人」がいないが、馬来田駅のようにボランティアの方が在駐している駅もある。ちょっとしたことを聞きたい場合に備えて、隣の駅同士を結ぶ仕組みを提供する。また、こうすることで地域同士の結び付きを強化させる。

3. 駅と地域を結ぶ

 システムや家具などのマテリアルを無人駅に設置するだけでは、すぐにさびれてしまう。そこに地域の人々が介在できるシステムを作り、地域の方々が愛着のわく駅づくりを行えるサポートをする。

 このようにして、「結ぶ」をテーマにして考えられたプロダクトが、かかしをモチーフにした情報配信端末「ITかかし【注】」です。

図3 ITかかしコンセプト図

【注】
「ITかかし」は、JR東日本フロンティアサービス研究所、ヨシモトポール株式会社、内田洋行の共同研究開発成果です。

 「なぜ、かかしなのか」という声が聞こえてきそうですね。かかしには、田んぼを荒らすカラスを追い払い、田んぼを見守る役目があります。のどかな風景の中で、駅を見守るシンボリックな端末となり、無機質な端末デザインにはない、どこか愛着のわくかかし型のデザインを採用することで、駅に温かみを生むことを指向したのです。

図4 ITかかしデザイン図

 かかし型のこのプロダクトには、中央駅や隣駅からの情報を伝えるスピーカーやLED、駅利用者を安全に見守るカメラを備えることにしました。カメラで周辺の風景も撮影して、それを都市へ発信することもできます。また、ネットワーク機能を利用して、地域の人が地元のお祭りの情報などをほかの情報端末(例えば中央駅に設置しているディスプレイ)に流すこともできます。

 また、運行情報を配信するシステムには、GPS機能付き携帯電話を利用することにしました。無人駅では、コストの問題から、運行情報を管理する高額なシステムや人的コストを担保することが難しいのが現状です。都心と同じような運行システムを、無人駅を多く抱えるローカル線に導入することは、コスト的にとても困難です。

 そこで、ITかかしでは、列車にGPS機能付き携帯電話を搭載して、その位置情報を取得することで運行情報の配信を行い、通常運行情報を管理するために掛かる膨大なコストを抑えることにしたのです。

2/3

Index
人と地域を結ぶリレーションデザイン
  Page1
ターゲットは無人駅
鉄道を中心とした「人の温かみ」の存在
フィールド観察調査の結果から方向性を導き出す
Page2
馬来田駅のことをもっと知りたい
コンセプトの構築
それぞれを「結ぶ」
  Page3
ITかかしの置かれた「場」
これからの「場づくり」におけるRFID×UCD

モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


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