第2回 いま、あなたの会社にID管理システムが必要な理由


小澤 浩一
京セラコミュニケーションシステム株式会社
コミュニケーションサービス事業部 副事業部長

徳毛 博幸
京セラコミュニケーションシステム株式会社
BPO事業部 副事業部長

2009/4/6

 ID管理システムのリスクを測る

 ID管理業務のリスクには、手作業による漏れ、遅れ、誤り、不適切な権限設定による情報漏えい、データ改ざんなどが挙げられる。

 ID/アクセス管理業務を手作業で遂行する場合、厳重なチェック体制を設けたとしても、どうしても人間のやることには漏れや誤りが発生する。このようなミスがなくとも、キャパシティを超えるデータ量に対する作業の遅れも避けたい事項である。

 加えて、ここでもまた、ID管理業務の繁閑の差がリスクの温床となっている。

 ID管理のように繁閑の差が大きな業務においては、要員計画が大変難しい。仮に、先のグラフ1で表した企業が、8000件/月の処理件数をさばくことのできる要員、体制を保持したとしよう(グラフの破線)。この企業では、1月、2月には無駄が発生する一方で、3月から6月にはキャパシティオーバーによるミスのリスクがある。さらに、異動や変更の発令が1日や15日などに決まっているような場合、ID改廃業務はそれぞれ前月最終稼働日や14日に集中し、さらにその危険性は高まる。このように特定の時期に集中する業務については、その平準化やピーク時の作業の省力化がなければ、現実的には堅実な作業は不可能だろう。

 また、ID改廃業務は特定メンバーで実施しているケースが多く、属人化する傾向にある。繁閑の差が激しいことも起因しているかもしれないが、複数メンバーにてシェアされているケースはまれである。そのため、担当メンバーの負荷は集中しかつブラックボックス化し、担当者しか改廃作業が行えない状態となっているのである。

 こういったことに対しては、システムによる省力化および見える化を図ることが適切であることは、いうまでもない。

 「自社の経営課題とID管理システム化プロジェクトの目的もリンクした。自社におけるID管理業務のコストが見えてきた。自分たちの要員キャパシティも分かっている。キャパシティを超える作業に関するリスクもある」ということになると、いよいよシステム化の計画に着手することになる。ここではシステム化のパートナーであるベンダ選定までを解説しよう。

 必要なのは「企業文化や業務内容に詳しいパートナー」

 ID管理のシステム化プロジェクトは、そのほかのシステム化プロジェクトと異なり、多分に人間系の判断を要求されるプロジェクトである。詳細については次回以降触れたいと思うが、(単価×数量)+(単価×数量)+…=合計金額というような、四則演算に単純化できないケースや、正しいデータであってもそのまま転用できないケースがある。

 また、ID管理・アクセス管理にまつわる企業ポリシーというものは、各社の企業文化、風土の影響を大きく受ける。例えば異動に伴う権限変更について、発令と同時に必ず権限を変更しなければならない企業(金融業などに多い)もあれば、一定期間は業務引き継ぎ期間として重複した権限を持つべきとする企業もある。つまり、ID管理・アクセス管理は、受発注や在庫管理などのように、各社で同じような業務を行っているというものではない。

 この点からも、ID管理のシステム化を行う場合のパートナーであるベンダ、システムインテグレータの選定には十分な注意が必要である。自社の業務要件を確認しながら、それをそのままシステムに落としていくのではなく、「ある会社さんではこのように運用されていましたよ。貴社の場合もこうしたらよいのではないですか」という提案ができる、豊富なID管理システム化の経験を有するベンダを選ぶ必要がある。

 ID管理のシステム化を行うタイミングで、従来の運用を見直し新たなルールを定めるケースが多い。現運用をシステム化するだけではなく、業務を改善改良できる機会でもあるので、そのような提案もベンダには期待したい。

 またRFPなどを作成し、ベンダ各社に提案依頼をかける場合、当然各ベンダは自社製品を前提とした提案を行ってくるだろう。この場合、その製品には各社のID管理に関する考え方やコンセプトが反映されている。カタログスペックや機能比較などの○×表ではなく、あなたの会社の考え方や取り組みの目的に即した製品を提案してきているのかどうかを判断する必要がある。

 次回は、ID管理システム化のプロジェクト遂行について触れてみたいと思う。

3/3
 

Index
いま、あなたの会社にID管理システムが必要な理由
  Page1
ID管理プロジェクトの目的は何か
企業を取りまく環境の変化
時代とともに移り変わる「ID管理システムが必要な理由」
  Page2
ID管理業務のコストとリスクを把握する
コストを計る――大きな繁閑の差をどう考えるか
情報漏えい対策としてのID管理システム
Page3
ID管理システムのリスクを測る
必要なのは「企業文化や業務内容に詳しいパートナー」


Profile
小澤 浩一(おざわ こういち)

京セラコミュニケーションシステム株式会社
コミュニケーションサービス事業部 副事業部長

1996年京セラコミュニケーションシステム入社以来、ID管理、ファイル管理、プロセス管理などのパッケージソフトウェア 「GreenOffice」シリーズの開発企画に携わり、2007年10月グリーンオフィス事業部長に就任。

GreenOffice製品群の企画・開発業務に従事し、マーケットニーズを分析し適合した製品・サービスの提供に携わる。


Profile
徳毛 博幸(とくも ひろゆき)

京セラコミュニケーションシステム株式会社
BPO事業部 副事業部長

1998年京セラコミュニケーションシステム入社以来、ID管理、ファイル管理、プロセス管理などのパッケージソフトウェア「GreenOffice」シリーズの構築に携わり、2005年10月ソリューション部長に就任。

数十社のJ-SOX対応を目的としたID管理ソリューション、ファイル管理ソリューションの構築、コンサルティングに携わる。

実践・アフターJ-SOX時代のID管理 連載インデックス


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