セキュリティ対策の“次の一手”

脆弱性スキャナで実現する
恒常的なセキュリティ管理


武田 圭史
カーネギーメロン大学日本校 大学院
情報セキュリティ研究科 教授
2008/2/21



 脆弱性スキャナ使用時の注意

 次に、脆弱性スキャナを利用する上での注意点を3つ挙げる。

1.スキャンに伴う過負荷や障害のリスク

 脆弱性スキャンではオープンポートや脆弱性を持つサービスの有無を確認するために、大量のネットワークトラフィックが送出される。このため検査対象となるサーバ、ホスト、ネットワーク機器などにある程度の処理負荷が発生する。スキャンの際には実際の攻撃を行うわけでもサービス妨害のトラフィックが発生するわけでもないので、通常のスキャンで障害に結び付く可能性は低い。しかし対象ホスト側のセキュリティ対策機能が動作するなど利用形態やサービスによっては障害のきっかけとなる可能性がないわけではない。重要なイベントの前後を避け、システム保守の時間を設定しシステムやサービスが停止しても問題ないようにするなど配慮が必要だ。

2.既存のセキュリティ対策との干渉、ログへの影響を考慮する

 ファイアウォールやIDS(侵入検知システム)、パーソナルファイアウォールなどが展開されている社内ネットワークに対して突然スキャンをかければ、あちらこちらでアラートが発生し利用者やほかの管理者からの問い合わせが殺到することは間違いない。脆弱性スキャンを行う際は、既存のセキュリティ対策への影響、スキャンパケットへの予想される反応を確認し、事前に回避策を検討しておく。

 例えばパーソナルファイアウォールが導入されているホストをスキャンしてもほぼすべてのトラフィックが遮断されるために、ホストの詳細な状況を確認することができない。パーソナルファイアウォールによる防御をいったん停止したうえでスキャンを行うか、クレデンシャルをスキャナ側に登録しリモートレジストリなどを通じてホスト側の情報を確認する必要がある。

 もちろんパーソナルファイアウォールのインストールによりリモートからの脆弱性の攻略がブロックされていることをもってよしとする考え方もある。

3.OSによるTCP同時接続数の制約

 Windows XP SP2やWindows Server 2003 SP1はワーム感染による被害拡大を抑制するセキュリティ機能として、TCP接続の試みが同時に最大10本までしか行われないよう制限されている。短時間に多量のネットワーク接続を試みる脆弱性スキャナではこの制限によってスキャンの速度が遅くなってしまうことがある。LAN環境など比較的小規模でレスポンスが良い環境では影響は小さいがネットワーク外部からの検査などでは特に注意が必要だ。

 このWindowsの制約についてはこれを回避するツールがRetinaの開発元であるイーアイより公開されている。

【関連リンク】
BIOT(eEye)
https://sec.scs.co.jp/eeye/freedl.html

(イーアイの国内代理店である住商情報システムのサイト)

 脆弱性スキャナの選定と導入

 以下に代表的な脆弱性スキャナ製品とその概要を示す。脆弱性スキャナはただ導入しただけでは十分にその能力を発揮することができない。管理者が組織のポリシーに基づいてスキャンを実行し、その結果を解析し、そのフィードバックを運用環境に反映するなど能動的に活用してこそ意味がある。

 脆弱性スキャナ自体には製品ごとの癖や、個々の製品の設計上の特性があり、利用者との相性の良しあしもある。対象となるネットワーク構成、組織のニーズや運用者のスキルや知識レベル、必要な報告形態などの要件に基づき最適な製品を選定するとよい。

 この際に考慮すべき要素としては、設定項目や出力内容の理解のしやすさ、カバーする脆弱性の範囲、スキャン速度、誤検出の頻度、ライセンスによる制限事項などが重要と考えられる。多くの脆弱性スキャナが期間や対象を限定したうえで試用ができるようになっているので、利用を想定している対象ネットワークにおいて実際に利用してみるとよいだろう。

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Index
脆弱性スキャナで実現する恒常的なセキュリティ管理
  Page1
脆弱性スキャンのすすめ
脆弱性スキャンの仕組み
脆弱性スキャナの活用による動的なネットワーク管理
Page2
脆弱性スキャナ使用時の注意
脆弱性スキャナの選定と導入
  Page3
脆弱性スキャナ製品の例
Internet Scanner(IBMインターネットセキュリティシステムズ)
Nessus(テナブルネットワークセキュリティ)
Retina(イーアイデジタルセキュリティ)
SecureScout(ネクサンティス)
脆弱性スキャナは次の一手として有効

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