e-文書法とは

e-文書法施行が企業活動に与えるインパクト

出本 浩、井山 泰裕
株式会社NTTデータ
ビジネスソリューション事業本部
セキュリティサービスユニット
2005/7/20

 スキャナ保存における入力に関する技術要件

 今回は、紙が原本である文書を電子保存するに当たり、e-文書法の中でも企業に関係が最も深い国税関係書類に焦点を当てた電子帳簿保存法におけるスキャナ保存に関する技術要件を見ていくことにしよう。

●入力システムの要件

 スキャニングに用いるスキャナは原稿台と一体になったものに限られている。従って、ハンドスキャナやデジタルカメラなどは利用できない。解像度は日本工業規格Z6016の4・1・1に規定する一般文書の変換時の解像度である1ミリメートル当たり8ドット(200dpi)以上、階調は赤・青・緑が各256階調カラー以上で読み取り可能なものでなければならない。

●入力時期の要件

 スキャニングを行う時期は、資金や物の流れに直結した書類(領収書、請求書、納品書、定型的約款のない契約書など)と、資金や物の流れに直結しない書類(検収書、見積書、注文書、定型的約款のある契約書など)とで要件が異なっている。

1.資金や物の流れに直結した書類

(1)業務サイクル対応入力方式

 事務処理規定などで定められた期間(日次、週次、月次)が経過した後に、速やか(1週間以内)にスキャニングし保存する

(2)早期入力方式

 書類を作成または取得した後、速やか(1週間以内)にスキャニングし保存する

2.資金や物の流れに直結しない書類

(3)一括入力方式

 ある時期に一括してスキャニングし保存する

 また、資金や物の流れに直結しない書類については、そのスキャニングにおける事務処理手続きを定めている場合に限り、入力期限を定めず、適時にスキャニングすることもできる。この場合は、タイムスタンプも不要である。

 スキャナ保存における真実性に関する技術要件

 スキャニングにより生成された電子データを保存することに対しては、「真実性」と「可視性」の2つを確保することが求められている。近年、さまざまな場面で情報セキュリティの必要性が認識されているが、e-文書法においても十分に意識されている。

 情報セキュリティには「機密性」「完全性」「可用性」の3つの要素があり、国税関係書類のスキャナ保存要件においても機密性と完全性は真実性の要件に、可用性は可視性の用件に盛り込まれている。

●真実性の要件

 真実性とは、紙文書を適切かつ確実にスキャニングし、電子化した文書とオリジナルを比較して、異なっていないことを証明できることである。つまり、電子データの内容が改変されたり、記録自体の消去や差し替えが行われたりした場合に、そのことを証明できる仕組みを導入することが求められる。

 真実性を確保するための技術要件としては、主に「電子署名」と「タイムスタンプ」がある。電子署名は電子データの作成者と非改ざんを証明する機能を有し、タイムスタンプは作成時刻と非改ざんを証明する機能を有する。

 電子署名は、入力単位ごとに入カ業務を行う人、またはその人を直接監督する人の電子署名を付与しなければならない。つまり、一連の書類がある場合は各書類単位で電子署名を付与することになる。

 また、署名に用いる電子証明書は「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」に規定されているいわゆる「特定認証業務」の認定を取得している認証局が発行するものを用いる必要がある。このような認証局は2005年5月時点では17局がサービスを行っている。

 一方タイムスタンプは、日本データ通信協会による「タイムビジネス信頼・安心認定制度」の認定を取得したタイムスタンプ局の発行するものを利用しなければならない。

 タイムスタンプは入力単位ごとに付与する方法以外に、複数ファイル単位(最大で1日分)ごとに付与する方法もある。その日に入力された電子データすべてからハッシュ値を求め、さらにそれらのハッシュ値から1つのハッシュ値を計算してそれに対してタイムスタンプを付与する方法や、ハッシュ値をリスト化してそのリストに対して付与する方法などもある。

 タイムスタンプサービスは1件ごとに料金がかかるが、これらの方法を用いれば1日に1回だけのタイムスタンプ付与で済ますことも可能なためコストを抑えた運用もできる。このような機能を実装したe-文書法対応ソリューションも各社から提供されつつあるので検討してみるのもよいであろう。

 ただしこれらの方法では、1日分のデータのうち1件でも改ざんや消失があると、その1日分すべてのデータでタイムスタンプが検証できなくなってしまうというリスクもあることを認識しておかなければならない。

 これら電子署名およびタイムスタンプの検証に関しては、日付や管理番号で対象書類の範囲を指定し、それらを一括で検証できるような仕組みを用意しておくことも求められている。

 電子署名やタイムスタンプの使い方で気を付けたいのは、これらはあくまで真実性を証明するための手段であり、データの改ざんを防ぐ機能は有していないということである。データが改ざんされてしまえば、電子署名やタイムスタンプを検証したときに「このドキュメントは改ざんされています」という結果が返されるにすぎず、取り返しのつかないことになってしまう。改ざん自体を防ぐには、アクセス管理を正しく行うこと、システム的に上書きができないバージョン管理の仕組みを取り入れるなどで対処することが必要である。

 また、データの消失対策にも気を配る必要がある。定期的なバックアップを取ることは当然であるが、保管期限にも留意しなくてはならない。国税関係書類の多くは、法定保存期間が7年の長期にわたり、条件によっては8年半程度の保管が必要になるものもある。しかしながらこのころになるとハードウェアは更改を迎える時期であり、データの移行が想定される。システム導入時にこの点を考慮した設計をすることが望ましい。

 そのほかにも真実性を確保するために、スキャナで読み取った際の解像度、階調および国税関係書類の大きさに関する情報も保存しておかなくてはならない。

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Index
e-文書法施行が企業活動に与えるインパクト
  Page1
そもそもe-文書法とはどんな法律なのか
e-文書法が企業活動に与えるインパクト
Page2
スキャナ保存における入力に関する技術要件
スキャナ保存における真実性に関する技術要件
  Page3
スキャナ保存における可視性に関する技術要件
機密性の確保による利点とリスク
電子化が想定される業務とシステム事例

関連リンク
  e-文書法(情報マネジメント用語辞典)
  「e-文書法」で夢のペーパーレスオフィスが実現?

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