システムベンダブリーフィング

システムインフラベンダ ブリーフィング(14)

日本IBM、クラウドで広がる新たな世界とは


三木 泉
@IT編集部
2010/2/22

日本IBMは2010年1月、全社を挙げてクラウド・コンピューティングを推進すると宣言、事業部横断の組織を立ち上げた。クラウドは、技術的に見れば同社がこれまで提唱してきたオンデマンド・コンピューティングやオートノミック・コンピューティングの延長線上ともとらえられる。では日本IBMが今回、「クラウド」というキーワードをきっかけにやろうとしていることは何か。社長直轄のクラウド・コンピューティング事業の責任者である吉崎敏文氏に聞いた
- PR -

 日本IBMは2010年1月に、社長直属のクラウド統括組織として「クラウド・コンピューティング事業」を設立、社内横断的なチーム「チームクラウド」を結成して、米国本社や社内の既存事業部、研究所と連携し、全社的にクラウド事業を推進していくと発表した。

 では、日本IBMのいうクラウド・コンピューティング・ビジネスとは何なのか。クラウド・コンピューティングを推進していくというとき、それはどのような活動になるのか。クラウド・コンピューティング事業を率いる日本IBM執行役員 吉崎敏文氏に聞いた。

 太字は編集部による質問および補足である。

 「クラウド」という言葉はあいまいだが、「利用者が、利用したいものを、利用したいだけ、利用するということに専念できるようなIT消費スタイル」と定義したい。このような定義と、IBMの目指しているクラウドは同じなのか、違うのか。

 目指すところはそのとおりだと思う。当社はクラウドという言葉が出る前から、ネットワーク上でコンピュータのパワーをサービスするという概念をずっと持ってきた。そしてそれを、「ネットワーク・コンピューティング」「オン・デマンド」「グリッド」「オートノミック」などと呼んできた。クラウドの技術はその延長線上にある。ネットワークの速度が向上するなど、環境が追いついてきたために広がりつつある。

 たしかに、すべてが利用者側から見て必要なときに必要なだけ提供できれば理想であり、方向性としては正しいと思う。ただしすべてがクラウド化されるわけではない。利用形態によって違うし、クラウド化できないところもある。そういう意味では、いまは過渡期であるともいえる。

 結局、クラウド事業を立ち上げるというときに、日本IBMのすべての事業が対象となってしまうのではないか? クラウドでないものとは何か。

 私も(クラウド・コンピューティング事業の責任者を)やってみて、改めて思ったが、クラウドは幅広い。一部門や一製品では、この問題は解けない。よくいわれているように、これはITのひとつの革命だということを実感している。また、現在は次のステージに行くまでの踊り場なのだろうとも思う。

 ただし、「クラウドを売る」というのは間違いだ。お客様が利便性から考えて、結果的に出てくるものがクラウドだと思っている。「クラウド」という言葉は5年、10年すると変わる可能性があると思うが、これは目指すところに向かうためのドライバーだと思う。ITの歴史は集中と分散の繰り返しだ。クラウドによって、集中に向かっていく。圧倒的にネットワークパワーがあるので、それが可能になった。技術の成熟度とお客様の成熟度が重なって、いまは次の(クラウドによる集中化への)移行までの踊り場にいるのではないか。

 去年よく、日本IBMはプライベートクラウドとパブリッククラウドのどちらをやりたいのか、と聞かれた。私たちは、それはどちらでも構わないと思っている。お客様のニーズに応じてプライベートもパブリックも提案する。

 ほかのベンダのクラウドの定義も各社ばらばらだが、技術の変遷が起こっているいまの段階は、広く捉えて構わない。つまり、利便性からいって、いつでもどこでも必要なときにコンピューティング・リソースが使えるということであり、当社も以前からそういうコンセプトを持っていた。

 新たなクラウド事業はすべての事業部、すべての製品・サービスと関わらざるを得ないのではないか。

 チームクラウドを強調したのはそのためだ。全社の英知を結集しないとできない。昨年、金融や流通の顧客向けに多くのクラウド関連セミナーを実施したが、ある程度クラウドに興味を持ったお客様でさえ、感想や要望はばらばらだ。「クラウドは全く分からない」「ストレージから始めたい」「大規模な仮想化の次のステージを目指したい」など、かなり多様化している。私もいろいろなことを立ち上げてきたが、これはクラウドならではの現象だ。従って、われわれが定義を明確にして、さまざまなアプローチを個別に提案していく必要がある。そのアプローチには全社の支援が要る。これまでの1つ1つのハードウェア、ソフトウェア、サービスに加えて全社のナレッジが要る。だからチームクラウドをつくった。

 クラウドが新たに生み出すものとは何か

 しかし例えば、ハードウェア事業部にとっては、仮想化環境に自動化ツールを組み合わせる以上に発想が広がらないのではないか。

 ハードウェアが仮想化によってソフトウェア化されていく。発想を変えて、仮想化の範囲を広げていかないと、単純にはリプレースできない。いままでのやり方だといずれにしろ事業範囲が狭くなってくる。仮想化だけでなく、自動化で新規事業にすぐ対応できるような仕組みを提供するなど、お客様のニーズにより直接的に応えられるのがクラウドの強みだ。

 また、いまあるソリューションを置き換えるというのは、(事業規模として)たいしたことはない。インダストリの需要を創造するというのが一番大事だ。共通基盤を使ってできる新規事業、そこに真髄がある。

 それは産業ごとの共同利用センターのようなものをイメージしているのか。

 昔で言えば、例えば共同利用センターになる。

 共同利用センターが、クラウドによってどう新たに広がっていくのか。

 共同利用センターより圧倒的に低い価格が出せるし、スピードも速い。インフラ全体のパフォーマンスも上がっている。共同利用センターではパフォーマンスの限界もあって、共有できる企業の数はせいぜい10社程度かもしれないが、クラウドではスケールアウトによって、この数がまったく違ってくる。すると、ビジネスモデルが全く変わってくる。

 すると、こうした環境でのクラウド化への流れは、レガシー・マイグレーションにつながるということか。

 非常に難しい問題だが、技術がある程度落ち着いてきたので、積極的に考えるべきではないかと思う。いろいろ課題はある。だが、その課題を考えるチャンスでもある。それ(レガシー・マイグレーション)だけが目的ではないが、利便性から考えるとそうなる。

 日本IBMのクラウド・コンピューティング事業において、社内クラウドと社外クラウドサービスとの連携はどういった役割を持つのか。

 IBMでは、5つの(クラウドの)消費モデルを定義している。企業のなかでクラウド環境を構築するのが1番目。企業の所有する資産を使って運用サービスだけを例えばIBMがやるのが2番目。企業がホスティングも運用もまかせるのが3番目。4つ目はセミプライベートで、限定した(複数の)企業が、マネージドサービス/資源を共有するホスティング・サービス。5番目は不特定多数の企業が使えるパブリッククラウド・サービスだ。この5つをベースとして分類している。

 こうした多様な消費モデルに対応するため、日本IBMは2009年をかけて社内IT環境のクラウド化を支援する製品やサービスを重点的に発表した。パブリッククラウド・サービスとしても、「Lotus Live」、「IBM マネージド・クラウド・コンピューティング・サービス」(メインフレーム/UNIX/IAサーバの従量制リソース提供サービス)、「IBM Computing on Demand」(HPC領域の演算リソースサービス)などを提供している。2010年は「パブリックデスクトップクラウド」、「パブリックテストクラウド」、「コンピュートクラウド」(米国でも未発表)など、いわゆるパブリッククラウド・サービスの新商品を集中的に投入の予定だ。これらの製品やサービスを個々の顧客のニーズに合わせて組み合わせ、連携させて提供していくのが、IBMにおけるクラウド事業なのだという。

 
1/2

Index
日本IBM、クラウドで広がる新たな世界とは
Page1
クラウドが新たに生み出すものとは何か
  Page2
情報システム部門の役割はどうなるか

Server & Storage フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

Server & Storage 記事ランキング

本日 月間