システムベンダブリーフィング

システムインフラベンダ ブリーフィング(14)

日本IBM、クラウドで広がる新たな世界とは


三木 泉
@IT編集部
2010/2/22

 情報システム部門の役割はどうなるか

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 今年発表するというコンピュートクラウドとは、どのようなものなのか。

 パブリック(不特定多数)のお客様にIaaSのようなものを弾力的な価格で提供する。詳細はまだ言えない。

 コンピュートクラウドのようなサービスは、従来型のシェアドホスティングやITアウトソーシングの切り売りと、どのように違うのか。

 クラウドが、シェアドホスティングやアウトソーシングの切り売りと違わなくても別にいいと思っている。特にいまは、クラウドというトリガで、皆さんが次のステージに行ってくれればいい。正確に言うとクラウドではマルチテナンシーが出てくるが、考え方はシェアドホスティングでもそれほど変わらない。よりプラットフォームが共通化し、グローバル化し、範囲が広がっていく。

 プライベートとパブリックの違いにもこだわっていないのはそういうことだ。クラウドは、圧倒的に選択肢が広い。シェアドホスティングは狭い範囲でやっていたが、クラウドは極論するとスケールアウトが無限だ。ただ、始めるところはデータセンターにおける何千台のサーバをどうするかという問題だ。つまり、データセンターにおけるクラウドは、いままでの延長線上にある。コンシューマー向けのパブリッククラウドの世界と企業向けのパブリッククラウドは、ある程度切り分けてもらいたい。しかしやがて一緒になると思っている。

 Amazon Web ServicesやForce.comなど、他社との連携はあり得るのか。

 われわれは(サン・マイクロシステムズやヴイエムウェア、ノベル、レッドハットなどとともに)「Open Cloud Manifesto」を提唱し、クラウドの標準化を進めている。そこに乗ってくればあり得ると思う。

 基幹システムの社外クラウドへの移行については、どう考えるか。

 基幹系には重要な処理がたくさんある。これが、プライベートにしろ社外クラウドサービスにいくかというと、そこは難しい。(顧客側で)仕分けは始まっているが、標準化や社内サービスのカタログ化ができて、シングルサインオンができても、全体のセキュリティフレームワークに合ったシステムが作れるかというと、まだ分からない。例えば以前にも、メインフレームからいきなりクライアント/サーバに行ったわけではなく、ミニコンが大量に使われた時代があった。クラウドの技術は仮想化と自動化を活用するが、利便性から見て、すべてをすぐにシェアドに持っていけるかどうかは別問題だと考える。クラウドでは、まずコストが削減できるし、セキュリティを堅牢にできる。こうしたことを実現するのが優先課題だ。

 クラウドの普及につれ、事業部門が社外クラウドサービスを勝手に使うようになり、情報システム部門の立場がなくなるケースが増えてくるのではないか。

 例えば、デスクトップ仮想化では、個々のPCで処理していたものを、サーバ側に統合して運用する。もともとネットワークを経由してスケーラブルなサービスを提供するのがクラウドなので、クラウドとはある意味では集中化だといっていい。しかし、集中化といっても、昔のようにリクエストが上がってからシステムインフラを用意するのに1カ月以上掛かるというのではない。事業部門の利便性は、社内クラウドによっても高めることができる。

 世間ではよく「所有から利用へ」と言うが、そんな簡単なものではない。情報システム部門の人が、全社的な立場で能動的に使い勝手をリードするようにならないといけない。クラウドの世界は難しく、そこには幅広い知識も要る。私はクラウド化の進行で情報システム部門のパワーがなくなるとはまったく考えていない。

 一部では事業部門が勝手にクラウドを利用するという状況があるかもしれないが、これは過渡期の状況だと思う。いずれはそれを基幹系などのシステムにつなげなければならなくなるからだ。いまは部分的にここだけやってみようということになっているが、間違いなく全社システムとの連携が必要になる。そうなれば、情報システム部門の人の出番だと思う。ただしそのとき、(情報システム部門の仕事も)「構築する」「つくる」というよりも、「使っていく」という要素が増え、立ち位置が違ってくる。コンピューティング・リソースは(透過的に)与えられるようになってくる。メンテナンスは外出しにしていく傾向は強まるはずだ。

 こうした動きの前提として、全体のサービスのカタログをきちっと把握していなければならない。これをやるには全体の見識が求められる。

 しかし、情報システム部門が十分な力を持てていない企業はたくさんいる。

 それはクラウド化してもしなくても同じだ。以前、クライアント/サーバとともに、事業部側にサーバが乱立した。そこがたまたまクラウドに置き換わるだけで、全体のパワーは変わらない。ただ、(クラウドの)いいところは、これまで事業部門がサーバをセットアップするのに2週間とか1カ月とか掛かっていたものが、圧倒的に生産性を上げられるのでいいことだと思う。本業に専念できるので、クラウドでやってもらうのはいいことだ。

 このように誰もが生産性を高めてくるので、情報システム部門の人も変わる。クラウドではあっという間に導入設置して使い始められるので、いままでと同じようなお守りの仕事は減ってくる。しかし、事業部門に任せて何かの問題が発生すれば、例えば万が一情報漏えいがあったときに、会社全体の責任になる。そこにはガバナンスが要る。

 たしかにクラウドだから情報システム部門が要らなくなるということではないだろうが、クラウド自体が分からないというよりも、クラウドで自分の立場ではどう立ち回ればいいのかが分からないという人も多いと思う。

 いまのところ、混乱している部分はある。しかしよく考えると、企業では仮想化から自動化へと、こなれた技術をこれまでずっと使ってきているので、立ち位置もはっきりしている。(クラウドは)突然降って湧いたような技術でもコンセプトでもない。そういう意味で、企業の人たちには、クラウドの正しい理解をしていただきたい。人が要らなくなってしまうとか、そういう不安を感じている人もいる。しかしクラウドを避けずに、自分たちはどういうところで適応できるのか、やってみたり考えたりしてみることだと思う。そのための技術は成熟してきている。

 お守りをしていた人の仕事は減ってくることは確かだろう。

 もし単純な仕事であるならばそうだろう。でも、クラウドで劇的に(システムの対象とする)範囲が広がり、新しい形が広がってくると思う。仕事が要らなくなってくるのではなく、変わってくる。今回に限らず、テクノロジの変遷のときには、人の労働のありようが変わるということは十分起こりうる。より戦略的なことを考えるとか、利便性を追求するとか。ITが全社の経営企画とか法務と、より近いところにくるかもしれない。事業形態に合わせて、いろいろなミッションがあり得る。いままでのようにリクエストに従って作っていくのももちろんミッションではあるが、より能動的に動ける場面も増えてくると思う。

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Index
日本IBM、クラウドで広がる新たな世界とは
  Page1
クラウドが新たに生み出すものとは何か
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情報システム部門の役割はどうなるか

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