IT Market Trend

第14回 問われる情報システム産業の構造(後編)
――日本はメインフレーム大国のままでいいのか?――

2. メインフレームに頼る危険性

ガートナー・ジャパン株式会社
データクエスト アナリスト部門サーバシステム担当シニアアナリスト

亦賀忠明
2002/07/17


 前編では、日本国内のメインフレームの状況について見てきた。ここからは、メインフレームに頼り続ける危険性について論じていきたいと思う。

IBMのメインフレームはいまでもメインフレームと呼ぶべきか?

 いまでも、メインフレームが重要と考えている人は比較的多いし、その将来を比較的楽観視している人も多いようである。この安心感は、時折見られる「メインフレームの革新性」といったメッセージによるところも大きい。このようなメッセージを聞いて短絡的に、今後とも「メインフレームは生き残る」と考える向きもあるだろう。しかし、よく見れば分かることだが、このようなメッセージのほとんどはIBMが発信しているものである。現在のメインフレームに関する議論は、主にIBMがメッセージ・リーダーとなっている。ここで、IBMに関していえば、2001年の米国メインフレーム市場におけるシェアは90.5%、ヨーロッパでは60.6%、日本では28.0%である。このシェアからも分かるように、特に米国から発せられるメインフレーム・メッセージはIBMの話がほとんどであると考えていいだろう。このことに注意が必要である。日本でもIBMが「やはりメインフレームは必要である」というようなメッセージを流すことがある。この場合、国産ベンダも同様のメッセージを出すことも往々にしてある。

 重要な問題は、ここでIBM製と国産それぞれのメインフレームが同列に扱われていることだ。メディアもそのような違いよりも先に「メインフレームは生き残るか」というようなテーマで議論を展開する。おおむね「信頼性についてはメインフレームの方が断然オープン・システムより優れている」といった話に終始する。実際、メディアもユーザーも、そのようなメッセージに振り回されてしまっている。

 IBMによると、米国市場のIBM製メインフレームで稼働しているソフトウェアの約60%がオープンなものであり、日本ではその比率が30%と半分になる。一方、国産メインフレームでは、ベンダのほとんどが適材適所方式*2を採用しているため、メインフレームでオープン・ソフトウェアを積極的に稼働させるというような事例はほとんどない。オープン・ソフトウェアは基本的にメインフレームの外にある別のオープン・システム上で稼働させ、必要に応じて両者を連携させる、というのが日本のメインフレーム・システムとオープンの融合の姿である。

*2 EAI(Enterprise Application Integration)といったシステム構築が、こうした適材適所方式といえるだろう。ただし、すでに各ベンダは、こうしたEAIやBtoBの市場を「インテグレーション」市場として再定義し始めている。EAIなどのさまざまなコンセプトや開発手法は、ITバブルの崩壊およびWebサービスを中心とする技術革新の中で、新たな方向性を打ち出すために整理されようとしているのが現状だ。

 同じメインフレーム・ユーザーとはいえ、この差は大きい。米国の90%以上がIBM製メインフレームであることから、米国のほとんどのメインフレーム・ユーザーは、オープン・ソフトウェアを使っている。そのため、メインフレームが自社の要望に合わなくなれば、すぐにオープン・システムへ移行できるが、日本ではそれができなくなっている。つまり、米国のメインフレーム・ユーザーは、時代に則してオープン・システムに移行できるのに対し、日本のユーザーはメインフレームと心中するしかない状態にあるわけだ。

新たなチャレンジャーとその評価

 このような壁を打ち破ろうと、Sun MicrosystemsやHewlett-PackardがUNIXサーバによるメインフレーム市場攻略を考えている。しかし彼らもユーザーやメディアからの「実績は?」「信頼性は?」という問いに全面的に「Yes」と答えられる状況にない。体制を整えつつあるものの、やはりここは痛い問いである。やったことのないことに対して、「できる」と答えることは「勇気」ではなく「無謀(無責任)」だからだ。結果として、これらチャレンジャーが急速にメインフレーム市場を奪うということには至っていない。

 かくしてハイエンド・サーバ市場は閉塞状態にある。次世代へ行こうにも行けないというジレンマに陥っている。

メインフレームも最初は信頼性が低かった?

 確かに現在のメインフレームの信頼性は高い。数十年の歳月をかけて作ったシステムの完成度が高いのは当然である。このようなシステムと、一から新規に作るシステムを比べて信頼性を云々すること自体無理がある。筆者の知る限り、特にモデルのメジャー・チェンジのときには、メインフレームも相当数のバグを抱えていた。確かにハードウェア部品は、PCサーバなどと比べてけた違いに高額なものを採用しているだけあり、それなりの品質を保っていた。しかし、OSなどのソフトウェアについては、結局人間が作るものであり、やはりバグがあった。

 ここで、オープンとの決定的な差異は、メインフレームでは、基本的にOSを含めて何かあったときはすぐに対応できる体制を作っていた、ということである。例えばメインフレームのOSは、ユーザーごとに書き換えることが許され、ユーザーごとに違うバージョンが存在するというようなことさえもあった。逆にオープン系OSでは、OSベンダの戦略上、そのような行為はたとえ主要なインテグレータであっても許されない。メインフレーム・ベンダは、このような細かい対応も含めて、信頼性を保証する確固とした体制を構築していたわけだ。

 新たなチャレンジャーに問われることは、本当にメインフレームでやっていたことと同じような信頼性保証体制が構築できるか、ということである。彼らが自信を持って、「オープンでもメインフレーム並みの信頼性は保証できる」といえるようになれば、現在の閉塞感を打ち破るきっかけになるだろう。

 また、オープン・システムはメインフレームよりも儲からないのではないか、という問いもあるが、これは本当にそうだろうか。メインフレームでもオープン・システムでも、それなりの信頼性を確保しようとすれば、コストはかかるものである。オープン・システムだから安くなるといったステレオタイプ的な見方は少なくともミッション・クリティカル・システムでは是正されるべきであろう。

 このような事柄は一時、オープン・システムの課題ということで、議論されたこともあったが、最近はこのようなことはあまり議論にならなくなった。この要因の1つは、数という意味では、オープン系システムが世の中を席巻してしまったため、この話題を取り上げる意味がなくなってしまっているためであると考えられる。

最後の聖域は残るか?

 確かに、銀行勘定系システムなどの超高信頼性を要求されるシステムにオープン・システムが適用可能かといえば、無理なケースもあるだろう。しかし、長期的な情報システム産業の発展を考えるならば、やはり上述したような世界市場との不均衡は早期に是正されるべきである。

 この議論は、日本の構造改革の議論と似たところがある。日本再生へ向けて構造改革を掲げる小泉政権と、既得権や現在のシステムの延命を図ろうとする守旧派の存在。一方、IT業界の革新を掲げるベンダと、そうでないベンダとユーザー。明日の日本のIT業界を考えた場合、果たしてどちらが正しいのだろうか。

 筆者は、「ITは革新の産業である」と考えている。少なくともそうであったからこそ、これまで発展してきたのだ。この観点からいえば、少なくともこうした守旧派の存在は、ITの未来にとっては罪である。

 社会インフラをなすシステムであれば、確かにシステムが「止まる」というのは問題である。しかし、このことばかりを気にして、一向に物事が先に進まないのも、これまた問題である。このことについては、メディアを含め新しい前向きなチャレンジに対して、もう少し寛容であるべきではないだろうか。「止まらない」ことのみを問うなら、新たな取り組みや技術はすべて不安定でできるだけ排除すべき要因となってしまう。要するに「信頼性」と「進化」の双方を満足させるにはどうするかということが問題なのであって、単に「止めるな」だけではベンダもユーザーも新たな取り組みに対して及び腰になるだけだ。

情報システムの方向性

 つい最近も、みずほ銀行のシステム・トラブルが大きな社会的ニュースとなった。コーポレート・ガバナンスといったマネジメントの問題を中心に各種の問題点が指摘されているが、少なくとも「技術力が低下したため」というのは物事を正確に捉えた表現ではない。この観点でいえば、いまやメインフレームを支える技術者人口そのものが減っているため、大きなシステムの統廃合といったイベントへの対応力が低下しているというのが正解だろう。メインフレームを支える人々は、ベンダもユーザーも言葉は悪いが事実上高齢化している。若いエンジニアは、自分の今後のキャリア・パスとしてメインフレーム技術で食べていけるとは考えていない。このようにエンジニアが自分自身の生き残りのために市場規模が大きいオープンを志向するのは当然なことだ。

 最悪のシナリオは、拡張に拡張を重ねてきたメインフレームの巨大かつ難解なソフトウェア・コードを理解している担当者がいなくなり、ついに何もできなくなるということである。いまの移行スピードでいくと、早くて5年後、遅くても10年後にはそういう事態に陥ってしまう。また世界的に見ても、日本だけがいびつな構造のままになっているのではないかと危惧する。

 物事を先に進めようとするなら、すべての方位で100%ということはあり得ない。どちらかに進めばどちらかは後ろになる。当たり前のことだが、いつまでたっても方向性を見出せないのは、リーダーシップが不在である日本の現状をまさに映し出しているといえる。

 ベンダもユーザーも、将来的なITおよびITを利用したビジネスやライフスタイルの進化について、物事が前向きなものとなるよう再検討すべきである。特にITのリーディング・カンパニーを標ぼうするベンダやユーザーは、市場に対し将来のシナリオを継続的かつ積極的に提案し理解を求めるべきである(ここでは単なる夢物語ではなく、地に足のついた議論が必要であることはいうまでもない)。さもなければ、ITは単に株式市場における一産業としてのみ扱われ、その長期的発展は望めないだろう。記事の終わり

 
     
 
 INDEX
  第14回 問われる情報システム産業の構造
    1. メインフレーム大国の現状
  2. メインフレームに頼る危険性
 
「連載:IT Market Trend」


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