解説

ギガビット・イーサネットへの移行を準備しよう

デジタルアドバンテージ
2002/09/14
2012/02/17更新

解説タイトル


 いまや100BASE-TXは、ノートPCや家庭向けのデスクトップPCでも標準機能となりつつある。インターフェイス・カードも、ノーブランドのPCIカードならば1000円を大きく切ったものまである。10BASE-Tから100BASE-TXへの移行が始まった6年ほど前には考えられなかったことだ。

 そして、いまギガビット・イーサネット(1000BASE-T)への移行について検討する時期に入ってきている。2002年に入り、多くのサーバが1000BASE-T対応のネットワーク・インターフェイスをオン・ボードで搭載し、アップルのPowerMac G4などのように一部のクライアントPCでも対応が始まっている。また、ほとんどのネットワーク・ベンダが、ギガビット・イーサネットに対応したネットワーク・カードの販売を開始しており、価格もクライアントPC向けならば1万円を切っている。すべてのポートが1000BASE-Tに対応したスイッチング・ハブは、4ポートでも10万円前後と未だに高価だが、100BASE-TX対応スイッチング・ハブで1000BASE-T対応ポートを1ポート持つような製品は3万円程度から購入できるようになった。環境的には、10BASE-Tから100BASE-TXへの移行時と同じような状況となっている。

 そこで、今回はギガビット・イーサネットへの移行を行うための方向性について解説する。

ギガビット・イーサネットの規格

 まず、ギガビット・イーサネットについて簡単に規格を説明しておこう。ギガビット・イーサネットは、その名前のとおり、1Gbits/sの伝送速度を持つイーサネット規格で、半二重および全二重通信をサポートする。ギガビット・イーサネットには、利用する媒体(ケーブルなど)の違いにより、1000BASE-SX、1000BASE-LX、1000BASE-CX、1000BASE-Tがある。1000BASE-SX/LX/CX(まとめて1000BASE-Xと呼ばれる)はIEEE 802.3zとして1998年に、1000BASE-TはIEEE 802.3abとして1999年にそれぞれ規格化されている。

■1000BASE-SX
 1000BASE-SXは、媒体にマルチモード光ファイバ(Multi-mode Fiber)*1を利用し、信号伝送に短波長レーザー(波長850nm)を使う規格である。伝送距離は220〜550m(ファイバのコア径によって異なる)であり、データセンター内のバックボーンやサーバ間接続などに利用することが多い。また、1000BASE-SX対応の製品は100BASE-FX互換となっている。

*1 光ファイバの構造は、光の伝わるコアとその周囲のクラッドと呼ばれる部分の2層から構成されている。コアの直径によりマルチモード光ファイバとシングルモード光ファイバの2つの種類が存在する。マルチモード光ファイバはコア直径が50μmのものと62.5μmのもの、シングルモード光ファイバは9μmのものが一般的である。現在はシングルモード光ファイバが主流ではあるが、かつてシングルモード光ファイバの製造が技術的に困難だったころは、マルチモード光ファイバが多く利用されていた。マルチモード光ファイバは、コアの屈折率が中心に向かって大きくなるように変化しているため、屈折率の違いで複数のモード(光の伝搬路)が生じる。そのため、長距離の伝送には不向きである。

■1000BASE-LX
 媒体にマルチモード光ファイバまたはシングルモード光ファイバ(Single-mode Fiber)*2を利用し、信号伝送に長波長レーザー(波長1310nm)を使う規格である。伝送距離は、マルチモード光ファイバで550m、シングルモード光ファイバで5kmと、1000BASE-SXよりも長いのが特徴である。キャンパス・ネットワークや企業のバックボーンで利用される。また、異種ベンダ間での接続互換性がないベンダ独自の規格として、伝送距離を30〜40km程度まで延長した製品も登場している。

*2 光の伝送路となるコアの直径が10μm程度の光ファイバ。コアとクラッドの屈折率を制御して、長波長レーザーで光の伝搬路が1つになるようにしたもの。

■1000BASE-CX
 媒体に2芯同軸ケーブルもしくはSTP(Shielded Twisted Pair)ケーブルを利用する規格だ。伝送距離が25mと短く、用途が限られるためか、対応製品はほとんどない。ケーブルが安価であることから、サーバ間などの短距離接続用として規格化された。しかし、一般的なカテゴリ5のツイストペア(UTP:Unshielded Twisted Pair)ケーブルが利用可能な1000BASE-Tの普及が始まったことから、1000BASE-CXの必要性はほとんどない。

■1000BASE-T
 1000BASE-Tは、100BASE-TXと同様、カテゴリ5以上のUTPケーブルを使う規格である(実際には、シールドなどを強化し、低減衰を実現したエンハンスド・カテゴリ5のケーブルが推奨されている)。ただ、100BASE-TXはケーブル中の2対のワイヤ(配線)だけを使用するのに対し、1000BASE-Tでは4対のワイヤすべてを利用する。これにより伝送距離は、100BASE-TXと同じ100mを実現している。規格上は10BASE-Tや100BASE-TXと共通している部分が多く、製品レベルでこれらとの互換性も維持しやすいことから、今後急速な普及が期待されている規格である。

規格名
1000BASE-SX
1000BASE-LX
1000BASE-CX
1000BASE-T
規格
IEEE 802.3z
IEEE 802.3ab
レーザー波長
850nm
1300nm
使用媒体
マルチモード光ファイバ
マルチモード光ファイバ
シングルモード光ファイバ
2芯同軸ケーブル/STPケーブル
UTPケーブル
(カテゴリ5以上)
伝送距離
550m
550m
5000m
25m
100m
表区切り
ギガビット・イーサネットの規格

1000BASE-Tへの移行手順

 すでに企業のバックボーンなどでは、ギガビット・イーサネットの導入が進んでいる。そして、部門内のネットワークにもギガビット・イーサネット化の波が訪れようとしている。そこで、ここでは100BASE-TXから1000BASE-Tへの移行について考えてみよう。

 1000BASE-Tでは、カテゴリ5以上のUTPケーブルが必須となる。日本では、LANの普及が比較的遅かったことから、多くのオフィスに敷設されているケーブルはカテゴリ5以上になっているはずだ(100BASE-TXでもカテゴリ5以上のケーブルが必須)。つまり、100BASE-TXでネットワークが運用されている環境ならば、ケーブルの引き直しが不要で、1000BASE-Tへの移行が行えるわけだ。

1000BASE-T対応イーサネット・カード
メルコの「LCI-G1000T64」。64bit PCI対応の10/100/1000BASE-T対応イーサネット・カードで、価格は1万4800円である。32bit PCI対応の「LCI-G1000T32」ならば9800円で販売されている。そのほかのベンダも64bit PCI対応で1万5000円、32bit PCI対応で1万円程度である。

 前述のように1000BASE-Tは、100BASE-TXや10BASE-Tとの上位互換となっており、ほとんどの1000BASE-T対応イーサネット・カードは、100BASE-TXや10BASE-Tでも通信可能だ。そのため、100BASE-TXから1000BASE-Tへの移行は、10BASE-Tから100BASE-TXへの移行時と同様、徐々に対応機器を増やしていくことで行える。当面、1000BASE-T対応機器を導入していても、ネットワーク全体を100BASE-TXとして運用するのであれば、新規に導入するサーバやクライアントPC、ネットワーク機器などの可能なところから1000BASE-T対応にしていけばよい。もちろん、ネットワークの帯域がボトルネックになっているようなところがあれば、そこから先に1000BASE-T化の検討をすべきだ。ネットワークの負荷が集中するサーバ側を先に1000BASE-T化することも重要だが、それは1000BASE-T対応スイッチング・ハブの導入時点で考えればよい。

 なお、現在1万円程度で販売されている1000BASE-T対応イーサネット・カードは32bit/33MHz PCI対応のものである。しかし32bit/33MHz PCIのバス帯域は最大133Mbytes/sであり、1000BASE-Tが必要とする最大125Mbytes/s(実効データ転送レートでも100Mbytes/s程度)に対して十分ではない。これが全二重通信となると200Mbytes/s以上の帯域が必要となり、完全にPCIバスがボトルネックとなる。そのため、1000BASE-Tの性能を活かすには、PCやサーバが64bit/66MHz PCIかPCI-XPCI Expressといった高速バス規格に対応していることが必須となる。サーバでは、すでに64bit/66MHz PCIやPCI-Xに対応しているが、クライアントPCとなると32bit/33MHz PCIだけの機種がほとんどだ。クライントPCでは、1000BASE-Tの性能をフルに活かせるようになるには、PCI Expressの普及を待つ必要があるだろう。それでも100BASE-TXに比べれば、32bit/33MHz PCI上でも1000BASE-Tに移行した方が高速になるのは間違いない。

 すでにインターフェイス・カードは、十分安価になっているので、今後導入するサーバやクライアントPCから1000BASE-T化していくのは可能だろう。そこで、ネットワーク自体の100BASE-TXから1000BASE-Tへの移行のカギを握るのは、スイッチンブ・ハブとなる。1000BASE-T対応スイッチンブ・ハブの価格は、4ポートで10万円程度、8ポートで15万円程度、16ポートとなると機種も少なく40万円以上となってしまう。現在1000BASE-T対応製品で多いのは、サーバとスイッチング・ハブ間あるいはスイッチング・ハブ同士のみを1000BASE-Tで接続することを想定した、100BASE-TX対応スイッチング・ハブに1000BASE-T対応ポートを1〜2ポート持つものである。

 ただ、2002年4月にNational Semiconductorがギガビット・イーサネット・スイッチ市場に参入し、コストパフォーマンスが高いスイッチ用チップを発表している(ナショナル セミコンダクター ジャパンの「ギガビット・イーサネット・スイッチ用チップに関するニュースリリース」)。このチップを搭載したスイッチング・ハブがいつごろ、いくらくらいで販売されるかは未定だ。しかし、過去の100BASE-TX対応スイッチング・ハブの例を挙げるまでもなく、近い将来16ポートや24ポートの1000BASE-T対応スイッチング・ハブも大幅に値下がることは間違いない。取りあえず、1〜2ポートの1000BASE-Tアップリンクを持つスイッチング・ハブを導入し、ボトルネックとなりやすいサーバ側を1000BASE-T化するか、それとも全ポートが1000BASE-Tのスイッチング・ハブの価格が安くなるのを待つか、しばらくは思案のしどころとなるだろう。

 比較的安価になった1000BASE-T対応ポートを1ポート持つようなスイッチング・ハブを導入するのならば、サーバとスイッチング・ハブ間を1000BASE-Tで接続し、クライアントPCとスイッチング・ハブは100BASE-TXにするというのが一般的だろう。もちろん、サーバが複数に分かれており、連係してアプリケーションが動作しているような場合は、4〜8ポートの全ポート1000BASE-T対応のスイッチング・ハブを導入し、サーバ間接続を1000BASE-Tにするのが望ましい。どこを1000BASE-T化するかは、ネットワークの構成や用途などによっても異なってくるので、ネットワークのトラフィックが集中するところを調べて決めたい。

100BASE-TXから1000BASE-Tへの移行
図のように最初はトラフィックが集中するサーバとスイッチング・ハブ間を1000BASE-Tへ移行し、全ポート1000BASE-T対応のスイッチング・ハブが手頃になった時点でLAN全体を1000BASE-T化するのが一般的だろう。

 「1000BASE-Tは必要ないのでは?」という声もあるだろうが、こうした議論は、すでに10BASE-Tから100BASE-TXに移行する段階でも行われている。当時も「100BASE-TXの必要性はない」という論調があった。しかし、100BASE-TXに移行してみれば、サーバへのアクセスが高速になったことで、ローカル・ディスクと同様にサーバ上のファイルが扱えるようになった。音声やビデオをネットワークで配信できるようになったのも、100BASE-TX化したからである。10BASE-Tから100BASE-TXに移行したことで、ネットワーク環境は格段に向上している。

 もう1つ重要なことは、サーバもクライアントPCもシステム性能が大幅に向上してきていることだ*3。ネットワークの高速化が行われなければ、当然そこがボトルネックになるのは明らかだ。いまや、サーバとクライアントPCなどがネットワークに接続された環境が1つのシステムとなっている(Intelでは、こうした環境を「マクロプロセッシング」と呼んでいる)。サーバやクライアントPCの性能に対して、ネットワークの性能はそろそろ限界に近付きつつあるのだ。これから導入するクライアントPCは3年程度、サーバは4〜5年使われ続けることを考えると、そろそろ1000BASE-Tへの移行を考慮した機種選択を行った方がいいのではないだろうか。記事の終わり

*3 例えば、現在市販されているクライアントPCなら、30〜40Mbytes/sという速度でディスクからデータを読み出せる。RAIDを構成しているサーバなら、100Mbytes/sを超えることもあるほどだ。最大でも10Mbytes/s程度の100BASE-TXが、ボトルネックになりつつあることが分かるだろう。
 
更新履歴
【2012/02/17】 「1000BASE-Tへの移行手順」において、「1000BASE-TX」と記述していた個所が複数ありましたが、正しくは「1000BASE-T」でした。お詫びして訂正させていただきます。

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  関連リンク 
ギガビット・イーサネット・スイッチ用チップに関するニュースリリース
 
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