解説

Hyper-ThreadingテクノロジはPCに革命を起こすか?

3. HTテクノロジは本当に有効なのか?

元麻布春男
2002/11/19

解説タイトル


HTテクノロジの効果を検証する

 さて、IntelはHTテクノロジによる性能向上を約35%としているが、本当にそれだけの性能向上があるのか、やはり確かめてみたい。そのつもりでベンチマーク・テストを行ったところ、ある重大な問題に直面した。それは、SYSmark2002が停止してしまう、という問題だ。もっと正確にいえば、Windows XP Professional Edition日本語版でSYSmark2002を実行することができない。最初にリリースされたオリジナル・バージョン、それにService Pack 1を適用したもの、最近発売になったService Pack 1が最初から適用されているパッケージ版のすべてで、SYSmark2002がいつも同じところで異常終了してしまう。マザーボードを変えても、グラフィックス・カードを変えても、まったく同じところで、同じ現象が再現する。日本語版のWindows XPでSYSmark2002を動かすには、BIOSセットアップでHTテクノロジを無効にするか、HTテクノロジを無効にした状態でWindows XPをインストールする必要があるが、HTテクノロジを有効にした状態でWindows XPをインストールし、そのままSYSmark2002を実行すると停止してしまうのである。これではHTテクノロジの効果を正しく計測することはできない。

SYSmark2002のエラー・ダイアログ
日本語Windows XP ProfessionalでSYSmark2002を実行すると、Photoshop 6.01のテストで必ずこのエラーで止まってしまう。HTテクノロジが無効ならば、日本語版Windows XP Professionalでもこのようなエラーが生じないことから、HTテクノロジと日本語版Windows XPとの互換性問題が何か発生しているものと思われる。

 ところが、英語版のWindows XPであれば、HTテクノロジを有効にしてインストールし、そのままSYSmark2002を実行可能なことが分かった。そこで、今回は暫定的に英語版のWindows XP Professional Editionで計測したベンチマーク・テスト結果を掲載することにする。英語版Windows XPによるテストは、Intel 845GEとIntel 850Eの両方で行った。用いたマザーボードは前者がD845GEBV2、後者がD850EMVRで、いずれもIntel純正のマザーボードだ。

 その結果だが、PCMark2002、3DMark2001 SEとも、HTテクノロジの有効/無効でほとんど変化がない(ベンチマーク・テストの結果は「ベンチマーク・テストの結果」を参照のこと)。ところが、SYSmark2002では明らかにHTテクノロジの効果が見てとれる。特にInternet Content Creationで効果が高いようだ。HTテクノロジの効果が現れやすいといわれる動画のエンコーディング(Windows Media Encoder 7.1によるテスト)が含まれていることがその理由だろうが、もともとSYSmark2002は、インターネット・コンテンツの制作(Internet Content Creation)、Webパブリッシングを含めたオフィス・ワーク(Office Productivity)という2つの使用モデルに従って、同時に複数のアプリケーションを立ち上げ、それぞれのアプリケーションの反応時間を計る、というベンチマーク・テストだ。この使用モデル(同時に複数のアプリケーションを起動して利用する)を考えても、HTテクノロジとの相性は良いハズである。

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SYSmark2002の結果

 細かく見ていくと、Intel 845GEの内蔵グラフィックスではOffice Productivityの結果が逆転しており、HTテクノロジを無効にした方が成績が良い。しかし、メモリ帯域がボトルネックになってHTテクノロジを生かすことができず、むしろHTテクノロジによるスレッド処理のオーバーヘッドが強く出てしまったのかもしれない。また、Intel 850Eの方で、Internet Content Creationでの性能差が小さいが、これはデュアルチャネルのDirect Rambusの帯域のおかげで、メモリの読み出し/書き込み待ち時間が減り、HTテクノロジが無効の状態ですでに実行ユニットの使用率がある程度高かったからかもしれない。これはIntel 845GEとIntel 850EでInternet Content Creationの成績を比べると、HTテクノロジを有効にした場合の差(405対409)よりも、無効にした場合の差(368対386)の方が大きいからことからも推測できる。

Intel 850Eのマザーボード改良はIntelの親心?
 
サウスブリッジに当たるICHチップの選択でも明らかなように、Intelが将来の主力と考えているのはDDR SDRAMをサポートしたIntel 845系のチップセットである。Intel 845系には、USB 2.0をサポートしたICH4が組み合わされているのに対して、Direct RDRAMをサポートしたIntel 850EはICH2のままにされているのもその現れだ。にもかかわらず、IntelはまだIntel 850Eを搭載したマザーボードの改良に余念がない。今回、Pentium 4-3.06GHzのテストに用いたマザーボードの1つであるD850EMVRは、Intel 850Eを用いたD850EMV2のマイナーチェンジ版とでもいうべきものである。実際、製品の化粧箱は同じで、箱に貼られたシールで識別するしかない。しかし、Pentium 4-3.06GHzをサポートしているのは、D850EMVRだけで、それまでのD850EMV2はPentium 4-2.8GHzまでの対応に制限されている。いわばD850EMVRは、わざわざPentium 4-3.06GHzのために用意したマザーボードとでもいうべきものなのである。

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HTテクノロジに対応したIntel 850E搭載のマザーボード「D850EMVR」
Intel 850Eを搭載した以前のマザーボード「D850EMV2」をベースに若干の改良を加えたもの。インテルがBox製品(化粧箱に入った小売向け)のパッケージも同じなので購入時には注意が必要だ。

 D850EMV2とD850EMVRの違いで最も大きいのは、電源(レギュレータ)の改良だ。D850EMV2でも動かないわけではないらしいのだが、D850EMVRではPentium 4-3.06GHzに対応した「Flex Motherboard II」という規格に完全準拠した電源回路になっているという。ただし肉眼で見てもその差はわずかで、3端子レギュレータの構成が異なる程度で大きな違いではない。

 次に大きな違いは、D850EMVRのみがPC1066メモリをサポートすることだ。D850EMV2にPC1066メモリをインストールすると、古いBIOSではメモリは「OTHER」として認識されながら動いていた。新しいBIOSではPC1066と表示されるものの、起動時に警告が出るようになった。これに対しD850EMVRでは、もちろん警告なくPC1066を利用することができる。ただ、PC1066メモリを利用する場合、メモリの最大容量が1.5Gbytesに制限される仕様となっている。これは、Direct Rambusチャネルあたりに接続可能なDirect RDRAMチップの数が、32チップから24チップに減少したことを受けたものだ。RIMMでいうと、256Mbitチップを16チップ実装した512Mbytes RIMMと、8チップ実装した256Mbytes RIMMを各1枚ずつ接続した合計768Mbytesが各チャネルあたりの最大容量で、デュアルチャネルで合計1.5Gbytesとなる。

 そのほか、オンボードのサウンド機能を担うAC97 CODECチップが、アナログデバイス製のAD1885(D850EMV2)からAD1981Bに変更になり、それに伴いオーディオ・ドライバSoundMAXからSoundMAX CADENZAに変更されている(SoundMAXはHTテクノロジ非互換)。また、マザーボードが提供するシャシー用冷却ファンの電源が、BIOS設定により回転数を制御可能になった点も、D850EMV2と異なる点だ。

 冒頭でも述べたように、Intelのメモリ・ロードマップで主役となるのは、間違いなくDDR SDRAMである。にもかかわらず、わざわざIntel 850Eベースのマザーボードを改良して出してくるのは、やはり現時点でIntel 850Eに匹敵するDDR SDRAMのチップセット(デュアルチャネルをサポートしたもの)がないためと考えられる。新しく登場するプロセッサのベンチマーク・スコアが少しでも良くなるように、という親心なのだろう。

HTテクノロジはPCを変えるか?

 今回は、日本語版Windows XPでSYSmark2002が動作しないという不測の事態により、変則的なものになってしまったが、ひと言加えておきたいのは、万が一こうした問題が実際のアプリケーションで生じたとしても、いつでもHTテクノロジは無効にできる、ということだ。HTテクノロジなしでは、これまでの最高動作クロック品のPentium 4-2.80GHz(11月10日の価格改定で401ドル)に比べて大幅に引き上げられたPentium 4-3.06GHz(11月14日の発表時で637ドル)の価格を正当化できないかもしれないが、それでも現時点で最速のプロセッサであることに変わりはない。

 そして、重要なのはHTテクノロジPentium 4が一般化することで、PCの利用モデルが変化する可能性があるということだ。MMX命令SSE命令といったメルチメディア命令セットの追加により、PCのマルチメディア処理性能が大幅に向上した。プロセッサの動作クロックの向上もあるだろうが、ソフトウェアによりDVDの再生が可能になったのはSSE2が担っている役割も多い。同様のことがHTテクノロジによって起きる可能性がある。これまでクライアントPCでは、複数のアプリケーションを同時実行したとしても、フォアグラウンド以外のアプリケーションはほとんど停止しており、バックグランドで処理負荷の重いアプリケーションを実行するというのはあまり一般的ではなかった。これは、バックグランド処理によりフォアグランド処理が遅くなってしまう可能性が高かったためだ。しかし、HTテクノロジPentium 4の登場により、むしろバックグランド処理が有効に利用可能な環境が整ったことになる。例えば、Internet Explorerがリンク先をバックグランド処理で先読みするような機能が標準になる可能性もある(すでにこうしたユーティリティもサードパーティから販売されているが)。また、音声認識やワードプロセッサの校正機能といった面でもHTテクノロジは有効だろう。

 Intelでは、HTテクノロジを多くのマーケット・セグメントで有効にし、普及させていくとしていることから、数年後には特に意識することなくHTテクノロジが利用される日がやってくる。そのとき、OSやアプリケーションの環境がHTテクノロジを前提としたものに大きく変わっている可能性が高いのだ。


 INDEX
  Hyper-ThreadingテクノロジはPCに革命を起こすか?
    1.HTテクノロジの仕組みと効果
    2.HTテクノロジを有効にするための必要十分条件
  3. HTテクノロジは本当に有効なのか?
    4. ベンチマーク・テストの結果
 
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