解説

IDF Spring 2003レポート(2)
見え始めた変貌する2004年のクライアントPCの姿

1. Centrinoで大きく変わるモバイルPC

元麻布春男
2003/03/07

解説タイトル


 「解説:市場完全制覇への階段を登るIntelのサーバ・プロセッサ戦略」では、サーバ関連を中心にIDF 2003 Springの模様を解説した。サーバ分野は、IDF 2003 Springが開催される1週前に開かれたISSC(半導体関連の国際会議)で、次世代のItanium 2(開発コード名:Madison)などに関する情報が公開されたため、IDFでは目新しい内容はあまりなかった。それに対し、クライアントPC分野は今回のIDF Spring 2003で初めて公開される情報が目白押しとなった。そこで、ここでは主にクライアントPC関連の話題を取り上げる。

省電力で高性能を実現したPentium M

 モバイルPC分野では、「Centrinoモバイル・テクノロジ」の発表を直後に控えていただけに、一層力が入っていたように思われる。そのCentrinoだが、以前は開発コード名で「Banias(バニアス)」と呼ばれていたモバイルPC向けのプロセッサ「Pentium M」を中核としたプラットフォーム全体を指す。Pentium Mに加えて、チップセットとして「Intel 855」、無線LANインターフェイスの「Intel Pro/Wireless 2100」の3つが組み合わされたものである(図1)。Pentium Mについては、すでにトランジスタ数(7700万個)、マイクロアーキテクチャの概要(uOPsフュージョン、ハードウェアによるスタック操作、分岐予測の改善など)が明らかにされていた。今回明らかにされたのは、動作クロックと性能についてだ。0.13μmプロセスで製造されるBaniasコアのPentium Mとして最初にリリースされるのは、動作クロックが1.3GHz、1.4GHz、1.5GHz、1.6GHzの4種類と、低電圧版(1.1GHz)、超低電圧版(900MHz)の全部で6種類にも及ぶ。一挙に6種類のプロセッサを投入することにより、ミニノートPCからA4サイズの薄型・軽量(Thin & Light)までのモバイルPCをフルレンジでサポートすることになる。

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図1 Centrinoモバイル・テクノロジの構成要素
Centrinoは、Pentium M、Intel 855、Intel Pro/Wireless 2100の3つで構成される。Intel Pro/Wireless 2100は、IEEE 802.11b対応の無線LANインターフェイスで、6月にはIEEE 802.11a/bの両規格に対応する予定だ。なお、Intel Pro/Wireless 2100は、Mini PCIカードで提供される。

 図2に示したのが、Intel発表によるPentium M-1.60GHz、モバイルPentium 4-M-2.40GHz、モバイルPentium III-M-1.20GHzの3種類のノートPC向けプロセッサの性能ならびにバッテリ駆動時間の比較である。1Mbytesの2次キャッシュを備えるPentium M-1.60GHzは、Pentium 4-M-2.40GHzを超える性能を発揮しながら、バッテリ駆動時間はPentium III-M-1.20GHzを上回るというわけだ。

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図2 ノートPC向けプロセッサの性能とバッテリ駆動時間
IDF 2003 Springで公開されたPentium Mと、既存のノートPC向けプロセッサとの性能およびバッテリ駆動時間の比較。モバイルPentium 4-M-2.40GHzより高い性能を持ちながら、Pentium III-M-1.20GHzより長いバッテリ駆動時間を誇る。

 Intel 855は、開発コード名「Montara-GM(モンタラ-ジーエム)」で呼ばれた統合グラフィックス機能を持つ「Intel 855GM」と、同「Odem(オーデム)」で呼ばれた内蔵しない「Intel 855PM」の2種類のMCH(メモリ・コントローラ・ハブ:ノースブリッジ相当)に、共通のICH4-M(サウスブリッジ相当)を組み合わせる。チップセットのスペックとしては、サポートするメモリがPC2100DDR-266)、外部グラフィックス・チップを接続する際のインターフェイスはAGP 4xと、あまり新味はない。ICHも、モバイルPentium 4向けチップセットのIntel 852GMで採用されたICH4-Mのままだが、統合グラフィックスの世代が新しくなっていること、省電力化のための最適化をさらに推し進めたとされていることが目に付く。もちろん、新しいPentium Mのシステム・バスへの対応という点では、既存のチップセットと異なるわけだが、Intel E7501とPentium Mを組み合わせが可能なこと、またIntelは初期段階ではPentium 4を用いてOdemチップセットのデモを行っていたことなどからPentium 4のシステム・バスとそれほど大きな違いはないのだろう。新しいプロセッサの門出だけに、冒険せず既存の技術を中心に手堅くまとめたチップセット、ということなのだろう。

無線LANを積極的にサポートするIntel

 Intel Pro/Wireless 2100無線LANは、図1に示されているように、Mini PCIカードで実装されるモジュールとなる。当初は、Wi-Fi互換のIEEE 802.11bシングルバンド対応製品と、IEEE 802.11a/bデュアルバンド対応製品の両方が提供される予定だったが、デュアルバンド対応製品の提供スケジュールが遅れ、Centrinoの立ち上げには間に合わないことになってしまった。つまり、立ち上げ時においてCentrinoのロゴがつけられたモバイルPCは、無線LANに関してIEEE 802.11bのみのサポートとなるわけだ。無線LAN規格として、IEEE 802.11aの導入を検討している企業は、当初のCentrinoの導入については慎重に検討した方がよいだろう。

 Intelは、Centrinoを性能、接続性、バッテリ駆動時間、フォームファクタのすべてにおいて、最良のユーザー体験を提供できるプラットフォーム技術として、これをユーザーに訴求するマーケティングを行うという。逆にいえば、ノートPCにCentrinoロゴを付けるには、上の3要素をすべて満たしていなければならない。だが、Intel純正のデュアルバンド製品の提供が遅れることにより、サードパーティ製の無線LAN技術を用いたデュアルバンド対応ノートPCは、Centrinoロゴが付けられず、Intelのいうところの「最良のユーザー体験」が提供されないもの、となってしまう。

 このところIntelは、IDFを含め機会あるごとに無線技術の重要性を説き、無線技術に対し大きな投資を行っていることを強調している。例えば、パット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)上級副社長のいう、「Radio Free Intel(将来のIntelの製品は、標準的に無線技術をサポートしたものになる)」というスローガンもその1つだ。しかし、プロセッサやフラッシュメモリに代表されるデジタル技術に比べれば、無線で使われるアナログ技術に関する技術的な蓄積はまだ少ないハズだ。Centrinoキャンペーンがある種の囲い込みに映るのは筆者だけだろうか。

 このCentrinoがデビューするのは3月12日のことだが、2003年の後半には製造プロセスを90nmに縮小した開発コード名「Dothan(ドーサン)」で呼ばれるプロセッサが登場する。Pentium Mとピン互換だとされるDothanだが、単純に製造プロセスを微細化したことによる低消費電力化や動作クロックの引き上げだけでなく、さらに性能を向上させる拡張が施されることになっている。ただ、その詳細はまだ明らかにされていない。

将来のモバイルPCの姿を具体化したコンセプトPC「Newport」

 プロセッサの性能向上というと、今後スレッド・レベルの並列性向上が大きなテーマになると思われるが、Pentium MにはHyper-Threadingテクノロジもしくは、それに相当する技術は実装されなかった。その理由をIntelの担当技術者にたずねたところ、「現行のHyper-Threadingテクノロジの導入による消費電力が、5W近いペナルティとなるため」という答えが返ってきた。ただ、大きな流れとしてプロセッサがこの方向に進むことは間違いないことで、将来それほど電力を消費しないマルチスレッド技術が開発されたところで、モバイルPC向けのプロセッサにも採用されるのではないか、ということであった。

 さて、将来のモバイルPCのビジョンという点で触れておかなければならないのは、「Newport(ニューポート)」と呼ばれるコンセプト・プラットフォームだ(写真1)。コンセプト・プラットフォームというのは、模擬的なハードウェアとソフトウェアを用いて、将来の使用体験を具現化したものである。つまり、そのまま商品化されることを前提にしたものでも、実際のハードウェア・インプリメンテーションが行われたものでもない。将来どのようなスタイルのPCが登場し、どのような使い勝手が得られるかをデモンストレーションするものである(これに対しリファレンス・プラットフォームは、実際のインプリメンテーションを具現化したもので、製品化が可能な技術レベルにあるもの)。

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写真1 コンセプト・プラットフォーム「Newport」
2004年のモバイルPCを先取りしたコンセプト・プラットフォーム「Newport」。キーボード部分と液晶ディスプレイ部分を分離させて、Tablet PCとしても利用できる。

 2004年のモバイルPCのコンセプト・プラットフォームであるNewportは、液晶ディスプレイ部とキーボードが分離可能なモバイルPCである。アイデアとしては、Hewlett-PackardのTablet PC「Compaq Tablet PC TC1000」に近いコンセプトだが、収納時に液晶面が内側になる点が異なる。キーボードを分離したときの重量は2.4lbs(約1.1kg)、キーボード一体時の重量は4.5lbs(約2kg)と、米国生まれのコンセプト・モデルにしては軽量である。このサイズで、6時間を超えるバッテリ駆動時間を目指すという。Newportでは、デュアルバンドの無線LAN(IEEE 802.11a/b)はもちろんのこと、BluetoothやGPRS(General Packet Radio System:携帯電話のGSM規格をベースとしたパケット通信技術)など複数の無線接続技術が共存し、シームレスにそれぞれを切り替えることを可能にする。また、周囲の環境に応じてバックライトの輝度を変える「Ambient Light Sensor」やファンレス化、レガシーの排除といった特徴を備えている。

ノートPCは常時通電を目指す

 もう1つの特徴は、「Always-On」と呼ぶコンセプトの導入だ。文字通りモバイルPCを常時通電状態、常時ネットワーク接続状態に維持しようというものだ。もちろん、いくら省電力機能が進歩するとしても、2004年の実現を目指したモバイルPCで常時通電を実現することは容易ではない。現在のノートPCが消費する電力のうち、3分の1を占めるのがバックライトを含めたディスプレイの消費電力であり、これを1年間で改善させることはできないからだ。実際、上記したとおり、Newportのバッテリ寿命の目標は6時間を超えることであり、常時通電には遠くおよばない。

 この相反する命題を解決するためにNewportに取り入れられたものが、小型のサブ液晶ディスプレイだ。メインの液晶の裏側、ノートPCのフタの部分に、閉じた状態でも視認可能な小さなモノクロの液晶ディスプレイを装備し、ノートPCを閉じた状態でもスケジュールや、着信したメールなどの確認を可能としている(図3)。合わせてプロセッサにもこのモード(サブ液晶を利用するモード)に対応した新たなパワーステート(電力状態)が実装され、ノートPCはフタを閉めた移動中も単なる「重し」ではなく、通信機器として機能することが可能となるわけだ。ただ、現時点ではネットワーク接続性の問題などもあり、2004年での実現を目指しているのは、社内での移動(Always-On Office Warrior)、完全な屋外での移動時における常時通電、常時接続(Always-On Road Warrior)は2005年の目標となっている。

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図3 Always-Onとは
Newportでは、フタに取り付けられたサブ液晶ディスプレイを併用することで、Always-Onの実現を目指す。アイデアとしては、最近の携帯電話で採用されているサブ液晶ディスプレイに似ている。

新しいノートPC向け拡張機能「NEWCARD」

 このNewportに用いられる可能性の高いもう1つの新しい技術は、PCI Expressだ。ノートPCにおいてPCI Expressは、PCIよりパワー・マネジメント機能の優れた内部インターフェイスとして、ノースブリッジとサウスブリッジ間の接続、ならびにMini PCIの置き換えを行うことに加え、PCカード・スロットの代替も目指すことになる。そのための新しい規格が、IDF期間中にPCMCIAより発表された「NEWCARD」だ(図4)。

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図4 NEWCARDの大きさ
主力と考えられる「Single Wide」の大きさは、メモリースティックを一回り大きくした程度である。現行のPCカードより格段に小さいため、ミニノートPCなどでも、複数のスロットを装備することも可能になる。

 NEWCARDのインターフェイスには、PCI Expressだけでなく、USB 2.0も併用される。だが、どちらも高速なシリアル・インターフェイスであるため、ピン数はSMBusや電源用のものを合わせても28ピンと、現行のPCカード・スロット(68ピン)の半分以下で済む。また、現行のPCカードと異なり、専用のコントローラを必要としないため、将来的には実装コストも削減される(図5)。USBのパワー・マネジメントについては、Windows XPに備えられているUSB Selective Suspendの機能を用いることで、サスペンドの実現を目指すとしている。

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図5 NEWCARDと現行PCカードとの比較
NEWCARDはピン数が減ると同時に、専用コントローラが不要になるため、システム構成がシンプルになる。

 以上のような機能の実現を目指すIntelだが、すでに述べたとおりNewportはあくまでもコンセプト・プラットフォームであり、そのまま将来のノートPCのプロトタイプになるわけではない。このNewportが示したコンセプトを具現化するものとして開発が進められているのが「Sonoma(ソノマ)」という開発コード名で呼ばれているリファレンス・プラットフォームだ。2004年に製品化されるノートPCのプロトタイプを目指すSonomaは、IDF Fall 2003で公開される予定となっている。また、将来の技術としてアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)副社長のキーノート・スピーチでは、燃料電池のデモも行われた。残念ながら、まだノートPCの本体に収まりきるサイズのものではなかったが、実用に向けて着実に進歩しているようだ。

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写真2 デモに使われた燃料電池
チャンドラシーカー副社長のキーノード・スピーチのデモでも使われた燃料電池。残念ながらノートPC本体に収まるサイズではなかったが、実用化に向けて開発中であるという。触ると少し暖かかった。

 さて、次ページではIDF Spring 2003で公開されたデスクトップPCの新チップセットならびに新機能などを中心に見ていこう。

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    2.新しいプラットフォームがめじろ押しのデスクトップPC
 
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