解説

企業クライアントの更新における最適なIT投資法とは?
―― TCOを半減させたインテルのIT予算削減術に学ぶ ――

2. インテルが実践したクライアントPCの導入法

元麻布春男
2003/06/06

解説タイトル


 

インテル プラットフォーム&ソリューションズ マーケティング本部の町田栄作本部長

 一方、PCが老朽化することの影響だが、これもさまざまな問題が考えられる。まず考えなければならないのは、ユーザーの生産性の低下だろう。更新前のPCで、導入時と同じアプリケーションを使っているのだから、生産性が低下するはずはない、と考えるかもしれない。しかし、3〜4年前といまでは環境が大きく変わっている。例えば、電子メール1つとっても、以前と比べ物にならないほど送受信の量が増えている。それと同時に増大しているのが、コンピュータ・セキュリティなど、情報システムの安全性を維持するために必要な処理の増加である。このうち最も典型的なものは、コンピュータ・ウイルスの類だ。電子メールの受信のたびに、常駐しているアンチウイルス・ソフトウェアなどが動作するわけだが、電子メールの増大に伴い、その動作回数も必然的に増えることになる。以前なら気にならなかったアンチウイルス・ソフトウェアの動作も、回数が増えると気になってくる可能性が高まる。このように、いまと昔ではバックグラウンドで動作するアプリケーションの数や、その稼働時間が異なっている。たとえワードプロセッサや表計算といったアプリケーション(フォアグラウンド・アプリケーション)が変わらなくても、使い方や環境が変わった結果、クライアントPCの性能は相対的に低下しているに違いない。

 もちろん3年という時間があれば、アンチウイルス・ソフトウェアもバージョンアップが行われる。これはアプリケーション・ソフトウェアなどと異なり、先延ばしするわけにはいかない。それはセキュリティ・リスクを招くからだ。より広範な、よりさまざまなコンピュータ・ウイルスに対応可能な新しいアンチウイルス・ソフトウェアが、古いものより重たくなっていても、決して不思議ではない。バックグラウンド・アプリケーションが重たくなれば、それはフォアグラウンド・アプリケーションの性能に少なからず影響を及ぼす。

フォアグランド・アプリケーションとバックグランド・アプリケーションの推移
図のようにフォアグランド・アプリケーションの数が増える一方で、バックグランド・アプリケーションの数も増えている。つまり、仕事のスタイルが変化することで、クライアントPCに求められる処理能力も必然的に高めなければならないことになる。(出典:インテル)

 だが、実際にはアンチウイルス・ソフトウェアでなくとも、アップデートしたいアプリケーションやツールはほかにもあるだろう。新しいアプリケーションやツール類の展開が、クライアントPCの古さゆえできないのだとしたら、いくら昔と同じ性能だとしても、結果的にユーザーの生産性に足かせをはめていることになる。

インテル プラットフォーム&ソリューションズ マーケティング本部 プログラム推進部 矢嶋哲郎部長

 逆に、新しいクライアントPCには、ユーザーの生産性を高める技術が採用されている。デスクトップPC向けPentium 4で採用されているHyper-Threadingテクノロジは、物理的には1つのプロセッサでありながら、論理的には2つのプロセッサに見せかけるものだ。これにより、バックグラウンドで重たいアプリケーションが実行されていても、フォアグラウンド・アプリケーションのレスポンスを快適に保つことができると、インテルでは述べている。モバイルPCの分野で導入されたCentrinoモバイル・テクノロジは、高性能とバッテリ寿命の両立、ならびに無線LANでの接続性を保証する技術である。4年前のノートPCでは、無線LANに標準対応したものはほとんどないはずだ。向上したプロセッサと長い駆動時間、無線LANによる快適なネットワークがあれば、外出先でも会社に近い仕事環境、すなわち生産性の高い環境が構築できる。クライアントPCの更新を先送りするということは、こうした環境の導入が遅れることであり、導入した場合に比べ生産性が低いまま据え置かれるということでもあるのだ。

インテルが実践したTCOを削減するクライアントPC導入法

 クライアントPCの更新が必要なことは分かった。では、どのような方針で、どのようにクライアントPCを導入していけばよいのか。この問題について、ユーザー企業としてのインテルにたずねてみた。インテルのIT部門は、毎年、年率10%ずつTCO(総所有コスト)を削減していくことを目標にしているという。その方法として、以下の取り組みを全社(ワールドワイド)で実施したという。これにより、5年間でTCOはおおよそ半分に削減された。

  1. 標準化の推進
  2. 長く使用可能なシステムの購入
  3. 現システムの有効活用
  4. エンジニアリングとサポートの低減または排除

 5年前、インテルの社内には、さまざまなベンダ製のPCが混在していた。中には自分で組み立ててしまうユーザーもいたらしい。OSも、Windows 3.xからWindows 95、さらにはWindows NTまで、複数のバージョンが入り混じっていた。それが現在ではPCベンダは原則的に1社に、OSは原則として2世代(現時点ではWindows 2000とWindows XP)の2つ集約されている。このような標準化がもたらされたことで、保守用の予備パーツの数を減らすことが可能になった。また、PCやOSの種類が少なくなれば、4.のエンジニアリングとサポートは当然のことながら減少する。

インテルの導入システムの推移
1995年当時は、標準化をあまり考慮していなかったため、導入したPCのベンダ数が多く、OSもばらばらであった。そのため、管理や保守の面でコストがかさんでいた。その後、OSやPCベンダを集約することで、大幅なサポート・コストの削減が行えたという。(出典:インテル)

 長く使用可能なシステムの購入というのは、性能的なヘッドルームのあるPCを購入することにほかならない。目先のコストのとらわれて安価なバリュー・セグメントのPCを導入し、1〜2年で更新せざるをえなくなるより、上位のPCを導入して確実に3年使った方が、人件費などを含めれば結局は安上がりになる、ということである。以前、インテルでもバリュー・セングメント(Celeron搭載)のPCを導入したことがあったという。しかし、Windows 2000への移行を行う際に、Celeron搭載PCではアプリケーションの性能が十分でなく、結局のところすべて更新することになってしまった失敗もあったようだ。OSやアプリケーションの大きなアップデートがある場合、バリュー・セグメントのPCでは対応できなくなる可能性が高い。結局、システムのライフサイクルが短くなり、導入コストが安くても、中期的に見ると高い買い物になってしまう危険性がある。もちろん、OSやアプリケーションのアップデートをしなければ、という意見もあるだろう。しかし、一方ではサポート・コストを低減するため、社内の環境を統一することが望ましい。IT投資全体という視点から見ると、バリュー・セグメントのPCを導入するよりも、より上位のPCを導入した方がよい、というのがインテルの経験を踏まえた見解である。

 また、バリュー・セグメントのPCとメインストリーム以上のセグメントのPCを混在させてしまうと、更新サイクルの異なるPCが混在してしまうため、余計に負担が重くなる。逆に、それでは一番高価なハイエンドPCで統一すればいいのかというと、さすがにそれでは初期コストが高くなりすぎて、3年のライフサイクルではペイできないこともあるようだ。

 ただ、ユーザーの業務によっては、特定のユーザーにはどうしてもハイエンドのPCを使わせなければならない、という事態も起こりうる(ソフトウェア開発やグラフィックス・デザインなど、負荷の重い処理を定常的に実施するユーザーなど)。この場合、特定のユーザーだけPCのライフサイクルを短縮しなければならなくなるが、こうしたユーザーが短期間利用したハイエンドPCを、ほかのユーザーにうまく再利用させたり、保守用のバックアップとして利用したりすることが、3.の現システムの有効活用である。この際、注意が必要なのは、管理を煩雑にしない範囲でうまくやることだ。さもないと、環境の統一によるメリットが失われてしまう。

インテルのTCO削減の流れ
インテルでは、PCの導入を計画的に行うことで、グラフのように大幅なTCOの削減を実現した。プログラムが開始された1995年当時のTCOは9324ドルであったのに対し、2002年では1/3近くまで削減できている。(出典:インテル)

SIPPがPCの更新を後押しする

 このクライアントPCの更新を後押しするように、インテルでは「Intel Stable Image Platform Program(SIPP)」を立ち上げた。2003年2月に開催されたIDF Spring 2003で「Granite Peak(グラナイト・ピーク)」のプロジェクト名で公表されたSIPPは、企業向けのメインストリームPCに対応した特定のチップセットについて、18カ月の間に渡って、同じドライバ・イメージ(チップセット・ドライバ、ネットワーク・ドライバ、含まれる場合はグラフィックス・ドライバ)を無修正で使い続けられるように、供給していくというものだ。これによりプラットフォームの安定化をはかり、TCOを引き下げることを狙いとしている。

 18カ月という期間は、新しいプラットフォームの検討、検証、そして導入に必要な期間として設定されたものだ。上述した3年サイクルの場合、6カ月の検証/導入期間を重複しながら18カ月のサイクルを3回繰り返すことになる。単に同じ型番のPCを購入するだけでは、チップセットのリビジョン、あるいはBIOSのバージョンにより、同じドライバ・イメージが使えなかったり、同じ周辺機器が利用できなかったりする可能性がある。つまり、SIPPに対応したPCを購入しておけば、その期間(18カ月)に渡って、何度かに分けて同じ型番の製品を購入しても、同じOSイメージが流用可能であるということだ。逆にSIPPに対応していない製品の場合は、たとえ同じ型番の製品でも複数回に分けて購入すると、ドライバ・イメージが利用できなくなる可能性もある。SIPPは、こうした不都合をなくす仕組みだ。

いまこそIT投資の再検討を

 以上、インテルが実践したクライアントPCの更新方法を紹介した。しかし、インテルのように毎年、クライアントPCの更新などできない、という意見もあるだろう。しかし、考えていただきたい。少なからず、OSやアプリケーションの更新があり、そのサポート期間が決められている以上、一定の年数でクライアントPCを更新する必要がある。それを一度に行うことの危険性については、すでに述べたとおりだ。もちろん、一度に大規模なIT投資が必要になり、企業経営の面でも望ましくない。毎年、一定の割合でPCを更新するのが望ましいのは明らかだ。もちろん、その期間として、3年とするのか、4年とするのかは議論があるところだろう。ただ、クライアントPCの進歩の早さから考えると、3年程度で更新が必要というのは説得力のある意見ではある。

 もう1つ、インテルでは「Buy High」を標語に、なるべく上位機種の導入を勧めている。これは、ユーザーの生産性の最大化すること、長期間に渡ってプラットフォームが利用であることを理由として挙げている。インテルでは、最上位機種の登場時に導入の検討・検証を開始し、そのプラットフォームが少し値下がりしたころに導入を行っているとのことだ。こうした購入方法は確かに分かりやすく、リスクも小さい。しかし、上位機種の導入は、初期投資が膨らんでしまうのも事実である(前述のように長期的な視野においてIT投資が低減される可能性はある)。企業のクライアントPCの使い方や依存度などによって、どのクラスを購入すべきなのかは変わってくるだろう。必ずしも、Buy Highである必要はないはずだ。ただ、目先の出費を気にして、エントリPCを導入すると、OSやアプリケーションの移行時に余計な出費を招く危険性もあるので注意したい。IT管理者は自社の利用形態などを精査し、最適なクラスを選択する必要があるだろう。

 経済状況が厳しい中、企業のIT投資は抑えられる傾向にある。しかし、厳しいいまこそ、クライアントPCの導入について再検討し、長期的な視野に立ったIT投資の削減を実施すべきときなのかもしれない。記事の終わり

 

 INDEX
  企業クライアントの更新における最適なIT投資法とは?
    1. クライアントPCの更新が必要な理由
  2. インテルが実践したクライアントPCの導入法
 
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