解説

アナリスト・ミーティングに見るAMDとIntelの2004年戦略(前編)

―― リストラから反攻へと向かうAMD ――

元麻布春男
2003/11/21

解説タイトル


 2003年も残すところあと1カ月強となり、米国を中心としたIT関連企業各社から第3四半期の業績が次々と発表されている。第3四半期の業績を見れば、第4四半期、さらには2003年の年間業績もほぼ見通せることになる。そのためか米国の企業の多くは、この時期に2004年の計画と合わせて、主に証券会社のアナリストを集めたアナリスト・ミーティングを開催する。プロセッサ・ベンダ大手のIntelとAMDも例外ではなく、アナリスト・ミーティングを開催し、毎年この時期に2003年の業績見通しとともに、2004年のプロセッサ・ロードマップの更新を行う。

 IntelとAMDのロードマップ変更は、クライアントPC/サーバの動向に直結する。そこで、前編では先に開催されたAMDのアナリスト・ミーティングを、後編では11月20日(米国時間)に開催されるIntelのアナリスト・ミーティングの内容を解説する。

リストラの効果が上がり始めたAMD

 2003年11月7日(日本時間)、AMDは米国カリフォルニア州サニーヴェールの本社で主に証券会社のアナリストを集めた説明会「アナリスト・デイ」を開催した。アナリスト・デイは、AMDの現況と将来展望について説明する恒例のイベントである。今回のアナリスト・デイでは、このところリストラ色の強かった同社が、反攻に出る姿勢が強く打ち出され、プロセッサ・ロードマップも更新された。

 2002年4月の就任以来、最高経営責任者(CEO)のヘクター・ルイス(Hector Ruiz)氏は、AMDの事業全体を大幅に見直してきた。その最終的な目標はこのところ赤字続きのAMDを、継続的に黒字を計上できる体質に転換することにある。そのためにまず着手したのが、いわゆるリストラだ。流通在庫の圧縮、資本構成の見直し、経費、特に固定費削減による損益分岐点の引き下げなど、矢継ぎ早に対策を打ち出してきた。人員の削減はもちろん、事業の効率化を図るために、フラッシュメモリ事業における富士通との事業統合、マイクロプロセッサの製造技術に関するIBMとの全面的な提携もその一例だ。

 こうした施策により、AMDの財務状況は大幅に改善されてきている。前年同期比で赤字幅は大きく圧縮されていることから、リストラの効果は上がっているようだ(ただし直近の2003年第3四半期決算においても黒字を達成することはできていない)。画面1は今回のアナリスト・デイで使われたプレゼンテーション資料だが、売り上げ、従業員1人当たりの売り上げともに大きく向上していることが分かる。流通在庫も14.9週から3.3週へと大幅な改善を見せている。

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画面1 リストラの成果
売り上げの向上のほか、流通在庫の改善など、確実にリストラの効果が上がっていることを示している。

 通常第4四半期は米国の個人消費が大きく伸びること、2004年第1四半期は先送りされてきた企業向けPCの更新も期待できることなどから、ほぼ第4四半期の黒字化は確実だと見られている。こうした要因以外に、AMDの自助努力も見逃せない。事業統合や全面提携といった手段による研究開発費の圧縮と効率化はすでに述べたとおりだ。

 フラッシュメモリ分野では、1セル当たり2bitの記録を効率的に行うMirrorBit(画面2)により、性能、bit単価ともに大きく改善される見込みだ。AMDのロードマップによると、MirrorBitの導入とプロセスの微細化により、2005年第1四半期には、同社製NOR型512Mbitフラッシュメモリのbit単価は、NAND型に並ぶ水準に達するという(画面3)。NOR型は、ランダムアクセス能力に優れ、1byte単位での書き込みが可能なので、携帯電話やPDAなどでプログラム・コードを格納するために使われている。一方のNAND型は、1byte単位での書き込みはできず、必ずブロック単位でしか書き込めないが、NOR型よりも書き込み速度が速く、大容量化に適しているので、ディスクのような用途に向いている。一般に大容量化が容易なNAND型の方が、NOR型に比べてbit単価が安い傾向にある。NOR型をベースとするMirrorBitが、bit単価面でNAND型に近付けば、用途が広がり、大幅な拡販につながる可能性もあるだろう。

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MirrorBitの構造
1セル当たり2bitの記録が行えるマルチレベル・セルに比べて、MirrorBitは40%効率がよく、30%のコスト・ダウンになるという。
 
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MirrorBitとNAND型のフラッシュメモリのbit単価比較
2003年第1四半期の段階ではMirrorBitのbit単価は、NAND型と比較して50%高かった。しかし、プロセスの微細化により、2004年第4四半期には、NAND型とほぼ同価格になるとしている。

プロセッサ・ロードマップを更新

 一方、マイクロプロセッサ事業について注目されるのは、新しく公開されたロードマップ(画面4)だろう。64bitプロセッサ関連でまず目立つのは、2004年前半に現行と同じプロセス技術(0.13μmプロセス)を用いたAMD Athlon 64のリフレッシュが行われることだ。なぜかデスクトップ版のみ開発コード名が「Newcastle(ニューキャッスル)」と明らかにされている。このプロセッサは、2003年5月に公開されたロードマップ(画面5)にはなかったものである。アナリスト・デイのQ&Aセッションで、このプロセッサについて「メインストリーム向けに最適化することでダイ・サイズを縮小し、デュアルチャンネルのDDRメモリをサポートしたもの」との説明がなされている。

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アナリスト・デイで公開された新しいプロセッサ・ロードマップ
現行のAMD Athlon 64と同じ0.13μmプロセス製造による新AMD Athlon 64が計画されていることが明らかになった。
 
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2003年5月時点のプロセッサ・ロードマップ
これとアナリスト・デイのロードマップを比べると、製品ラインアップの変更具合がよく分かる。

 現在、デスクトップ向けでデュアルチャンネルをサポートしたプロセッサはハイエンド向けのAMD Athlon 64 FXのみだが、サーバ向けのAMD Opteronと同じコアを用いたため、高価なレジスタ付のメモリを使わなければならないという制約がある。Newcastleは、デスクトップPCで一般的かつ安価なアンバッファ・タイプのメモリをデュアルチャンネルでサポートしたプロセッサだと考えられる。このアンバッファ・タイプをデュアルチャネルでサポートしたプロセッサは、940ピン・ソケットに対応したAMD Athlon 64 FXとピン互換ではなく、新しい939ピン・ソケットが用いられるといわれている。また、ダイ・サイズの縮小がうたわれていることから考えて、2次キャッシュ容量が縮小されることはほぼ間違いない。つまり、次のAMD Athlon 64(Newcastle)は、メイン・メモリをデュアルチャネル化することで、アクセス性能を向上させる代わりに、2次キャッシュの容量を削減するわけだ。これにより、性能を維持したまま、製造コストを引き下げ、AMD Athlon 64の低価格化を実現するものと思われる。

 以上のことから考えて、Newcastleが登場する時点で、デスクトップPC向けの最上位が940ピンのAMD Athlon 64 FXであることは変わらないものの、その下にNewcastleコアを用いた939ピンでデュアルチャネルDDRメモリをサポートするが2次キャッシュ容量が少ない(512Kbytes程度と思われる)プロセッサ、そして同じNewcastleコアを用いながら754ピン・ソケットに対応したシングルチャンネルDDRで2次キャッシュ容量が少ないプロセッサ、という並びになることが予想される。開発コード名がないモバイル向けのプロセッサも、恐らく2次キャッシュ容量を減らしたバージョンだろう。初期においてAMDは、クライアントPC向けのAMD Athlon 64プロセッサに関して、2次キャッシュ容量を256K〜1Mbytesと幅を持たせていた。それから考えて、2次キャッシュ容量にバリエーションを持たせることは、それほど意外なことではない。

 2004年後半になると、いよいよ90nmプロセス製造への移行が始まる。画面6は、今回明らかにされた90nmプロセス製造によるAMD Opteronプロセッサのプロトタイプのダイ写真で、すでにシステム中で稼働しているという。Intelは90nmプロセス製造で7層配線を採用するが、AMDは9層の配線を採用する点が注目される。今回のロードマップでは、サーバ/ワークステーション(AMD Opteron)、デスクトップ/モバイル(AMD Athlon 64)とも、90nm世代ではそれぞれで複数のコアが開発中であることが明らかにされた。これらは、2次キャッシュ容量やサポートするメモリの種類、チャネル数などのバリエーションで作り分けられるのだろう。

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画面6 90nmプロセス製造によるAMD Opteronのプロセッサ・ダイ
この写真を見る限り、0.13μm(130nm)プロセス製造のプロセッサ・ダイを光学的にシュリンク(縮小)しただけのようだ。90nmプロセス製造化に伴い、新機能などが追加されるかは明らかになっていない。

 2005年後半になると、90nmプロセス製造による64bitプロセッサが2世代目に入る。最適化などによるダイ・サイズの縮小、あるいは何らかの性能向上が期待されるところだが、これらについては今回のアナリスト・デイでは言及されなかった。興味深かったのは、「2005年末から2006年にさらに次の世代のAMD-K9を予定している」という発言だ。現在のAMD-K8(AMD Athlon 64/AMD Opteron)は、32bitと64bitのハイブリッド構成となっており、32bitコードの実行にかなり重きを置いている。もちろん、ソフトウェアの64bit対応がこれからなのだから、これは当たり前の判断だ。しかし、AMD-K9の出荷時期になると、AMD Athlon 64/AMD Opteronにより64bit対応のソフトウェアが増えると予想されることから、AMD-K9は32bitとの互換性を捨てないまでも、64bit側にシフトしたアーキテクチャとなるかもしれない。

 Newcastleが、AMD Athlon 64対応の64bit版Windows XPのリリース時期と重なることからも、AMDがNewcastleを起爆剤に64bit化を推進していくつもりであることが見て取れる。WindowsクライアントPC向けプロセッサで64bitをサポートするのは、現在のところAMD Athlon 64だけである。これは、Intelとの大きな差別化ポイントであることから、AMDが64bit化を推進したいのは間違いない。さらに64bit化を推し進めるため、AMD-K9が64bitでより高い性能を発揮するようなアーキテクチャになってもおかしくない。

AMDの新工場はどこに

 このロードマップと同じくらい注目されるのは、65nmプロセス以降の世代に向けて、AMDがファブ(半導体製造工場)を建築するプランを明らかにしたことだ。予定地はドイツのザクセン州ドレスデンと米国ニューヨーク州のイーストフィッシュキル(IBMのファブと研究施設がある場所。AMDの製造技術関連の技術者もここにいる)に絞られたといわれており、中でもドレスデンが有力だという(写真1、写真2)。AMDはドレスデンに現行のFab 30を建築するにあたり、隣接地に拡張用地を確保していること、Dupont(デュポン)、Infineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)と共同で半導体マスク会社をドレスデンに設立していることなどを考えると、最も素直な選択と思われる。2003年内にも着工するといわれており、早ければ2006年早々に稼働させることも不可能ではない。

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写真1 霧にかすむドレスデンのFab30
AMDの主力半導体工場であるFab 30は、ドイツのザクセン州ドレスデンの郊外にある。ドレスデンは、旧東ドイツに位置し、マイクロエレクトロニクス工業を財政支援していることから、AMDのほか、Infineon Technologiesなども工場をかまえている。
 
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写真2 Fab30の隣接地
Fab 30の隣接地には、この写真のように広大な空き地が確保されている。ここに新工場が建設される可能性が高い。

 現在、AMDがプロセッサを量産しているFab 30は、200mmウエハの工場だが、唯一の工場であるため、これを止めるわけにはいかない。それを考えると、どこかほかの企業に製造を委託する(最も有力なのはIBMだろうが)か、別の工場を建てるか、必ずどちらかが必要になる。その意味からは今回の決定は納得のいくものだが、UMC(台湾の大手ファウンダリ)との合弁とその解消などのいきさつからすると、紆余曲折をへた感は否めない。

2004年のAMDはシェアよりも利益重視か?

 さて、ここでもう1度ロードマップについて考えてみよう。今回公開されたロードマップでもう1つ触れておきたいのは、32bitプロセッサについてデスクトップ、モバイルともに、2005年後半まで新規開発が継続されることが明らかになったことだ。以前のロードマップでは、そう遠くない将来、上から下までAMD64アーキテクチャ(AMD Athlon 64/AMD Opteron)に切り替わりそうな雰囲気だったのだが、それはもう少し先のことになる。この理由については何も説明されていないが、ひょっとするとAMD64プロセッサは思ったより製造コストが高いのかもしれない。現在のAthlon 64の価格は決して安いとはいえないが、これを大きく引き下げるのは難しいのだろう。Newcastleで2次キャッシュ容量を減らしてダイ・サイズの縮小を実施するのも、32bitプロセッサの新規開発が2005年末まで続くのも、AMD64プロセッサの製造コストが高いと考えればそれほど不自然なことではない。2006年当たりまで、低価格プロセッサとして32bitプロセッサが必要なのだと考えられる。

 画面7は今回のアナリスト・デイで用いられたAMDの製品フォーカスを表したスライドだが、これまでのデスクトップ中心から、サーバ中心に切り替えたいという強い意向が示されている。AMD自身が今回のアナリスト・デイでも示したように、最も数量の出るプロセッサはデスクトップPC向けである(画面8)。にもかかわらず、規模の小さいサーバ市場にフォーカスしたいというのは、いかにAMDがAMD64プロセッサを高く売りたいと考えているかの表れでだろう。画面6の逆三角形は、ちょうどASP(Average Sales Price:平均単価)の高い順、マージンの大きい順なのである。年内にも着工するといわれている新しい工場は、間違いなくコスト競争力に優れた300mmウエハを採用するはずだが、少なくともこの工場が稼働するまで、AMDはシェアより利益を重視する戦略に出るものと思われる。記事の終わり

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画面7 AMDの製品フォーカス
現在のデスクトップPC中心から、サーバを中心としたものに切り替えたいという意向が示された。これはサーバ向けプロセッサの製品単価と利益率が高いためと思われる。
 
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画面8 世界のPC市場におけるプロセッサの出荷数量
このグラフを見ると、デスクトップPC向けは横ばい、ノートPC向け伸び、サーバ向けが堅調に推移することが分かる。このグラフからも、伸びが期待できないデスクトップPC向けから、利益率の高いサーバ向けへとシフトしたいというAMDの思惑が読み取れる。

 次ページからの後編では、AMDのアナリスト・デイの2週間後に開催されたIntelのアナリスト・ミーティングの模様を解説しよう。 

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 INDEX
アナリスト・ミーティングに見るAMDとIntelの2004年戦略
  1.リストラから反攻へと向かうAMD
  2.90nmプロセスの急速な立ち上げを目指すIntel
 
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