解説

IDF Fall 2005レポート
モバイルからサーバまで対応する新マイクロアーキテクチャの概要を発表

2. 影が薄くなった2005年末登場の次世代プロセッサたち

元麻布春男
2005/10/01

解説タイトル

2005年末から2006年に登場するサーバ向けプロセッサの動向

 この新マイクロアーキテクチャのおかげで影が薄くなってしまったのが、2005年末から2006年初頭にかけて登場する次世代プロセッサたちだ。モバイル向けとしては最初のデュアルコア・プロセッサとなるYonah、デュアルプロセッサ・サーバ向けとして初のデュアルコア・プロセッサとなるPaxville DP(バックスビル・ディピー)とマルチプロセッサ・サーバ版のPaxville MP(パックスビル・エムピー)である。どうやらNetBurstマイクロアーキテクチャとしては最後のコアになりそうなシングルコア・プロセッサのCedar Mill(セダー・ミル)、1つのパッケージにCedar Millを2つ封入したデスクトップPC向けプロセッサであるPresler及びデュアルプロセッサ・サーバ向けのDempsey、高密度サーバ向けのSossaman(ソッサマン)、マルチプロセッサ・サーバ向けのTulsa(タルサ)などだ。

 これらのプロセッサの多くについては、すでにIDF Spring 2005で紹介されており、今回のIDFでは必ずしも細かな説明がなされたわけではない。だが、そのプラットフォームも含めて、今回明らかになった情報もある。ここではそれを簡単にまとめておく。

 現在、Intelのデュアルコア・プロセッサとして市販されているPentium D、PentiumプロセッサExtreme Editionに継ぐものとして登場するのは、どうやらPaxvilleのようだ。当初はマルチプロセッサ版のみの予定であったが、IDF前に急遽デュアルプロセッサ版が追加され、それぞれPaxville MP、Paxville DPと呼ばれることになった。Paxvilleの特徴は、Pentium D同様、2つのコアを1つのダイに単純に張り合わせたような構成であるものの、バス・インターフェイスだけは1つに統合されていることにある。これによりコアの数が2つでもFSBのバスロードとしては1つになる。2次キャッシュはコアごとに独立しており、各2Mbytesとなる。1Mbytesの2次キャッシュに加え、4Mbytesあるいは8Mbytesの3次キャッシュを持つ現行のIntel Xeon MPに比べると、オンダイ・キャッシュの容量は大きく減ることになる。

 Paxvilleの特徴は、熱設計さえ適切ならば既存のプラットフォームにそのまま使えることで、Intel Xeon DPはIntel E7520/E7320チップセットと、Intel Xeon MPはIntel E8500チップセットと組み合わせることが可能だ。FSBもPaxville DPが800MHz、Paxville MPが667MHzと、現行製品と同じになっている。

 Paxville DPの後継となるDempseyは、上述したようにデスクトップPC向けのシングルコア・プロセッサであるCedar Mill相当のシングルコア・ダイを、1つのパッケージに2個封入した構成となる。製造プロセスはPaxvilleの90nmから65nmへと微細化されるが、コアあたりの2次キャッシュ容量も2Mbytesで変わらない。

 Dempseyで大きく変わるのは、プロセッサそのものより、プラットフォームだ。Bensleyというコード名で知られるこのプラットフォームでは、まずプロセッサのパッケージがLGA771と呼ばれるものに変わる。名前でも分かるように、現在デスクトップPC向けのPentium 4やPentium Dに使われているのと同じ、プロセッサ・パッケージにパッドが、ソケット側にピンがある形態となる。

 BensleyプラットフォームのチップセットであるBlackfordの最大の特徴は、FB-DIMMに対応していることだ。チップセット(メモリ・コントローラ)とメモリ・モジュール間を、PCI Expressベースのポイント・ツー・ポイントのインターフェイスで接続することで、メモリの高速化と大容量化を両立させる。メモリ・モジュール上にはAMB(Advanced Memory Buffer)と呼ばれるチップが搭載され、ポイント・ツー・ポイントのインターフェイスとDDR2/DDR3メモリ・インターフェイスとのブリッジを行う。プロセッサごとに独立したFSBが用意されると同時に、FSBクロックが1066MHzへ引き上げられるのもBlackfordの特徴だ。

 デスクトップPC向けのPreslerもDempseyと主要な機能は同じだと思われる(パッケージはLGA775だろうが)が、そのプラットフォームであるAverillやBridge Creekに関する情報は、明らかにされなかった。

 同じデュアルプロセッサ・サーバでも、ブレード・サーバのような高密度サーバ向けに提供されるのがSossamanだ。Sossamanは基本的にはデュアルプロセッサ対応のYonahであり、TDPが若干緩和されている(31W)以外はすべてYonahに準じる。すなわち2つのコアで共有される2Mbytesの2次キャッシュを持つ半面、64bit拡張に対応しない。サーバ用のプロセッサだけに、Yonah以上に64bit拡張を実装することが望ましかったハズだが、Banias/Dothan/Yonahのマイクロアーキテクチャに64bit拡張をインプリメントするのは困難だったようだ。これが新マイクロアーキテクチャを用意する最大の理由なのだろうが、各種の*Ts(Intelが投入した/予定している新技術の総称)を(結果的に)後付けできたNetBurstマイクロアーキテクチャは底がしれない印象も受ける。

 Paxville MPの後継となるマルチプロセッサ・サーバ向けプロセッサのTulsaは、コアごとに1Mbytesの2次キャッシュ、2つのコアで共有される16Mbytesの3次キャッシュを備える。大容量のオンダイ3次キャッシュを考えると、現行のIntel Xeon MPの正当な後継者はこのTulsaで、Paxville MPは急場しのぎという印象が強まってくる。プラットフォームは引き続きIntel E8500チップセットを使用するが、このタイミングでFSBが800MHzへと引き上げられるようだ。

Tulsaの300mmウエハ
キーノート・スピーチでは、次々世代のIntel Xeon MPとなる「Tulsa」のウエハが公開された。デュアルコアに加え、16Mbytesの3次キャッシュを実装するため、ダイ・サイズが非常に大きいことが分かる。

大幅な路線変更が一段落?

 2004年、Intelはさまざまな改革/路線変更を行った。製品別から顧客別による事業部編成、大規模シングルコア・プロセッサからマルチコア・プロセッサ路線への転換などだ。IDF Spring 2005では、こうした転換のまさに最中というあわただしさを感じたが、IDF Fall 2005はひと段落した印象が強い。今回、明らかにされたコード名は前回に比べれば少ないし、前回は間に合わなかったChannel Platforms Group(新興諸国向けのプラットフォームを手がける)やDigital Health Group(医療分野に対するIT技術の応用を目指す)といった、特定顧客向け事業部も、その姿を現した。デュアルコア/マルチコア・プロセッサにしても、特定顧客向けのプラットフォームにしても、まだ具体的な製品が登場しているわけではないが、当面進むべき道はどうやら定まったようだ。唯一、不確定要素がありそうなのはItaniumだが、これについては近いうち何らかの動きがあるかもしれない。記事の終わり

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IDF Spring 2005から読み解くIntelのプロセッサ戦略

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  [解説]IDF Fall 2005レポート
  モバイルからサーバまで対応する新マイクロアーキテクチャの概要を発表
    1.消費電力当たりの性能にフォーカスした新マイクロアーキテクチャ
  2.影が薄くなった2005年末登場の次世代プロセッサたち
 
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