解説

国際標準へと変更になったIEEE 802.11aの影響

1. 規格が変更されたIEEE 802.11a

元麻布春男
2005/10/29

解説タイトル

 2005年5月16日に施行された総務省令(平成17年総務省令第92号)により、電波法施行規則の一部が改正された(総務省の「総務省令第92号 電波法施行規則の一部を改正する省令PDF」)。この改正により、日本で利用される無線LANのうち、5.2GHz帯を利用するIEEE 802.11aが大幅に変更されることとなった。従来の日本独自のチャネル設定から、世界共通のチャネル設定になったのである。この改正によって、これまで販売されてきたIEEE 802.11a機器が大きな影響を受けることになった。また今後、販売されるIEEE 802.11a機器との互換性の問題も生じる。すでにIEEE 802.11a機器を導入している企業にとっては、日本独自の旧規格のまま運用すべきなのか、それとも機器の変更などを行い新しい国際規格へ統一すべきなのか悩ましいところだ。ここでは、日本におけるIEEE 802.11aの変更と、その影響について解説する。

チャネル変更の概要

 現在広く使われている無線LANには、2.4GHz帯を利用するIEEE 802.11b/gと、5.2GHz帯を利用するIEEE 802.11aがある。特に利用者が多いのはIEEE 802.11gだが、今回の改正でIEEE 802.11gに対する変更点はない。変更はもっぱらIEEE 802.11aに関するものだ(電子情報技術産業協会の「『5GHz帯無線LANの周波数変更』に関するガイドライン制定について」。

 IEEE 802.11aに加えられる変更の要点は次の2つである。

  1. 従来IEEE 802.11aで使われていた5.15GHz〜5.25GHzの帯域に加え、5.25GHz〜5.35GHzを追加し、合計200MHzの帯域を利用可能にする。

  2. 従来使われていた34ch(中心周波数5.17GHz、実際の帯域はこの中心周波数をはさんで20MHz。以下同様)、38ch(5.19GHz)、42ch(5.21GHz)、46ch(5.23GHz)の4チャネルの中心周波数を10MHz(0.01GHz)ずらして、36ch(5.18GHz)、40ch(5.20GHz)、44ch(5.22GHz)、48ch(5.24GHz)とする。また、追加された5.25GHz〜5.35GHz帯については、52ch(5.26GHz)、56ch(5.28GHz)、60ch(5.30GHz)、64ch(5.32GHz)の4チャネルを設ける。

 つまり、帯域を2倍に拡張し、利用可能なチャネル数を4から8に倍増させる一方で、チャネルの中心周波数を変更したわけだ。

IEEE 802.11aの変更概要
総務省令第92号により、図のように中心周波数の変更とチャネルの追加が行われた。中心周波数が変更されたことが、これまで販売されてきたIEEE 802.11a機器に大きな影響を及ぼすことになる。(社団法人 電子情報技術産業協会の「『5GHz帯無線LANの周波数変更』に関するガイドライン制定について」より)

 まず帯域の拡張だが、これは2003年7月に開かれた世界無線通信会議(WRC-03)において、無線LANを含む無線アクセス・システム用として、5.15GHz〜5.35GHzが世界共通のものとして分配されたことに基づく。つまり、世界的に「この帯域を無線LANで使いましょう」という合意がとれた周波数帯域である。

 なお、WRC-03では5.47GHz〜5.725GHzも同様に無線LANに分配されており、5.15GHz〜5.35GHzと合わせると、5GHz帯の約450MHzもの帯域が、免許を必要としない無線LANで利用可能となる。ただしこの5.47GHz〜5.725GHzの帯域は、現在船舶用レーダーや一部の軍事レーダーなどに利用されており、これらとの干渉を避ける技術基準適合証明試験の整備など、まだ環境を整えなければならない部分が残っている。そのため、現時点ではまだ利用できない。環境が整いしだい無線LANで利用可能になる予定で、2005年内にも米国でテストが開始されるともいわれている。5.15GHz〜5.35GHzが屋内限定の利用であるのに対し、5.47GHz〜5.725GHzは屋内外で利用可能になる見込みであり、チャネル数の拡大に加え利用環境の拡大という点でも注目される。

 次にチャネル設定だが、34chから46chの旧規格に準拠した4チャネル(まとめてJ52と呼ぶ)は、日本独自の設定であり米国などとは10MHzずれていたため、相互に通信することができなかった。このため、5.2GHz帯を利用した無線LANシステムを、日本と例えば米国の両国で認定を受け、両国で利用可能にする、ということが事実上不可能だった。

 今回の改正で、チャネル設定を海外とそろえ、互換性を持たせることが可能なものに変更することで、将来的に両国で利用可能なものにできるようにする(もちろん日本と行き先国、両方の認定を備えた機器ということになる)。またこれにより、新しい技術の導入も迅速に可能になる見込みだ。この海外と中心周波数をそろえた新しい設定による5.2GHz帯のチャネル(36chから48ch)をW52、追加された52ch〜64chをW53と呼ぶ。

 そもそも日本において、5.2GHz帯無線LANのチャネルがずれていた理由は、チャネル設定に世界標準が存在しなかったこと、日本では5.25GHz〜5.35GHzを気象レーダーが利用しており、これとの干渉を防止するため5.24GHz〜5.25GHzにガードバンド(緩衝帯)が設定されていたことが理由だ。今回、ガードバンドの領域に48chが設定されることになったが、屋内での利用を前提にする限り、問題ないという判断がなされたようだ。

 W53の4チャネルは気象レーダーと直接競合することになるわけだが、屋内利用に加え、干渉を回避するための技術として、DFSとTPCを併用することが解決の方策として定められた。DFSとは「Dynamic Frequency (control) System」の略で、レーダーの干渉波を検出した場合、ダイナミックに周波数を(チャネル)を変更する仕組みのこと、TPCは「Transmitter Power Control」の略で、干渉を回避するために無線の出力を低減させる仕組みだ。

 DFSの装備が求められるのは、無線通信のイニシアティブを持つアクセス・ポイント(親機)のみとなる。W53をサポートするクライアント(子機)は装備する必要がないが、それゆえ子機同士の通信となるアドホック・モードでは、W53を利用することができない。また、航空機内の5GHz帯を利用した無線LANについても、W52のみが認められる。

製品での対応はどうなるのか

 上述のように事実上、同じ機器を日本とそのほかの国で利用することが不可能だったと記したように、中心周波数が10MHz異なるJ52とW52は、同じ5.2GHz帯を利用しているにもかかわらず互いに通信することができない。また、電波法が改正されて、手持ちの古いIEEE 802.11a対応機器はどうなるの? という疑問も生じよう。

 まず古いIEEE 802.11a対応機器だが、これまで使っていた製品がいきなり利用できなくなったり、販売できなくなったりしては混乱を招くので、経過措置として既存のIEEE 802.11a対応の無線LAN機器の継続利用と販売が当分の間認められる。つまり、現在利用中のIEEE 802.11a対応機器をそのまま利用することは、今後も可能だ。現在市場にある製品もそのまま販売を続けることができるし、すでに企業などでIEEE 802.11a対応機器を導入している場合、保守用あるいは拡張用に旧認定に基づくIEEE 802.11a対応機器を購入することも、しばらくは可能だ。実際ベンダも、企業向け製品については旧認定製品を残しているところが多い。

 しかし、これから新規に無線機器としての認定を受ける場合、新しいチャネル設定に基づく必要がある。ただし子機に関しては、パッシブ・スキャンをサポートすることでJ52とW52、W53の3つに対応した製品をリリースすることが認められている(新認定は基本的にパッシブ・スキャンが必須)。パッシブ・スキャンとは、自らは電波を出さず、まずアクセス・ポイント(親機)が発する電波を検知して、それに合わせた出力を行う方式を指す。パッシブ・スキャンでそのロケーションが利用しているチャネルを判別すれば、干渉となる電波を出力しないで済む。また、W53で必須となるDFSについても、子機がパッシブ・スキャンで対応してくれなくては効果が期待できない。実際、現在市場に出回っている新認定によるクライアントも、大半がJ52とW52/W53の両対応となっている(将来的にはJ52をサポートしない製品が登場する可能性はある)。

 一方、新規のアクセス・ポイントについては、J52とW52/W53の両方をサポートすることは認められず、W52とW53のみのサポートとなる。市場では、J52に対応した旧認定のアクセス・ポイントと、W52とW53をサポートした新認定のアクセス・ポイントが混在しており、旧認定による子機(ノートPC、PCカードなどの無線LANモジュール)を持つユーザーは旧認定の製品を買うよう気を付ける必要がある。

 アクセス・ポイントについて、両対応が認められなかったのは、クライアントと異なり必ず電波を出力しなければならず、新旧両認定の製品が混在すると5.2GHz帯で干渉が生じてしまうことが最大の理由だろう。また、新規格の普及を推進する狙いもあると考えられる。

 次ページでは、旧製品の新規格への対応方法などについて解説する。

  関連リンク 
総務省令第92号 電波法施行規則の一部を改正する省令PDF
「5GHz帯無線LANの周波数変更」に関するガイドライン制定について
 
 
 
 INDEX
  [解説]国際標準へと変更になったIEEE 802.11aの影響
  1. 規格が変更されたIEEE 802.11a
    2. 旧製品の新規格への対応とIEEE 802.11aの優位性
 
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