解説

国際標準へと変更になったIEEE 802.11aの影響

2. 旧製品の新規格への対応とIEEE 802.11aの優位性

元麻布春男
2005/10/29
解説タイトル

旧製品はアップデートで新規格に対応可能?

 現在、市場には旧認定(J52)に対応した製品と、新認定(W52/W53)に対応した製品が混在しており、旧認定を利用しているユーザーが製品を買い増すことも、新たにIEEE 802.11aを利用しようとするユーザーが新認定の製品を購入することも可能だ。問題は、旧認定の製品を利用しているユーザーが新認定へ移行したいと考えた場合だろう。もちろん、無線LAN機器をすべて買い換えれば可能だが、それには大きなコストが必要になる。

電子情報技術産業協会が推進しているIEEE 802.11aに対するロゴ・プログラム
図のように対応しているIEEE 802.11aの規格が一目で分かるようにロゴを付けることを推奨している。対応している規格には斜め線が付かない。例えば、(a)はJ52だけに対応していることを示す。(社団法人 電子情報技術産業協会の「『5GHz帯無線LANの周波数変更』に関するガイドライン制定について」より)

 この問題を解消するため、また新認定への以降を促すため、今回の電波法改正に際し総務省は、すでに利用されている無線LAN機器のフィールド・アップデート(ユーザーによるファームウェア・アップデート)を認めるという決断を下した。無線機の仕様を販売された後に変更することを認めることも異例なら、それをユーザーが行えるようにする、というのも異例だ。まさに総務省の英断といってよい。ただし厳密な認定により免許なしで利用することが認められている無線機器だけに、そのアップデートにはいくつものルールが設けられている。

 まずアクセス・ポイントのアップデート・パスだが、J52に対応した製品をアップデートして得られるのは、W52のみに対応したアクセス・ポイントである。J52対応製品は5.15GHz〜5.25GHzの利用を前提に機器認定が行われており、W53の5.25GHz〜5.35GHz帯に関するテストは行われていない。また、上述したようにW53を利用するにはDFSやTPCが必須だが、これらの機能はJ52対応製品では求められておらず、認定されていない。従って、従来のIEEE 802.11a対応製品では、ファームウェア・アップデートしても8チャネルの利用はできないことになる。また、注意しなければならないのは、一度W52にアップデートすると、元(J52)に戻すことはできない、ということだ。

 次にクライアントのアップデート・パスだが、アップデートが認められるのは、パッシブ・スキャンをサポート可能な製品だけだ。また、アクセス・ポイント同様、W53へ対応することも認められていないが、J52とW52の両方に対応した製品にアップデートすることが可能である。というか、両方に対応したクライアントをまず用意できないと、J52からW52への切り替えとなるアクセス・ポイントとの組合せで、クライアントとアクセス・ポイントの両方のアップデートを行うことができない。まずクライアント側をJ52とW52の両対応にアップデートし、その後にアクセス・ポイントをW52へアップデートすれば、接続できる状態を維持したままクライアント/アクセス・ポイントともにW52対応とすることができる。逆に、先にアクセス・ポイントをW52にアップデートしてしまうと、J52対応のクライアントが孤立し、接続を維持したままアップデートできなくなるので注意が必要だ(アップデート時にネットワーク接続が必要な理由は後述する)。

 このアップデートの際にもう1つ条件がつくのは、ベンダが機器の個体管理を行う、ということだ。具体的にはどのモデルのどの個体がJ52のままで、どの個体がW52にアップデートされたか、ベンダが把握していなければならない、ということである。

 本来、無線機器の認定はメーカーが受けるのが一般的だ。ここでいうメーカーとは、実際に無線機器を製造するところ、多くの場合、台湾の製造元であることが多い。原則的には製品のアップデートは、メーカーが行う必要があるのだが、台湾の製造元が必ずしも日本にサービス拠点を持っているとは限らない。今回のアップデート・ファームウェアの提供に関しては、認定を受けたメーカーではなく、ユーザーに機器を販売したベンダ(周辺機器ベンダ、あるいはノートPCベンダ)がファームウェア提供や、個体管理の代行を行うことが認められた。

 といっても、何万台となるであろうクライアントについて1台1台ファームウェア・アップデートの履歴を保持するのは容易ではない。今回のアップデートについては、製品名、MACアドレス、アップデートの有無をベンダがデータベースとして保持すればよいということになったようだ。従って、ユーザーがファームウェアのアップデートを行う際には、アップデート作業を行うPCがインターネットに接続され、これらのデータがベンダへ送信可能でなければならない。この点は、ユーザーが自由にダウンロードしてアップデートできるマザーボードのBIOSアップデートなどとは異なる。もちろん、新認定対応を可能にするファームウェアを提供するかどうかは任意であり、メーカーやベンダに義務付けられたものではない。実際、新規格のファームウェアを提供していない無線LAN機器ベンダやノートPCベンダも多い。

IEEE 802.11aの優位性

 以上のように、今回実施された5GHz帯の無線LANの変更については、新しい周波数帯への移行を促すべく、総務省も配慮している。が、なぜ5GHz帯の無線LANにそこまで力を入れるのだろうか。現在主流となっている2.4GHz帯の無線LANでは何が悪いのだろうか。その答えは、すでに述べたように5GHz帯が国際的に無線LANで使用する周波数帯として、正式に分配されたものであるからだ。逆にいうとIEEE 802.11b/gが利用する2.4GHz帯は、無線LANのための帯域ではない。

 IEEE 802.11b/gが利用している2.4GHz帯(2.4GHz〜2.5GHz)は、もともと産業機器(Industry)、科学分野(Science)、医療目的(Medical)などの用途向けに免許不要で利用可能な周波数帯として割り当てられたものである。そのため、この周波数帯は、それぞれの用途の頭文字をとってISMバンドとも呼ばれる。2.4GHz帯の無線LANは、草の根的に登場し、発展する過程において、だれでも利用可能なこのISMバンドを取りあえず利用した。もちろん無線LANがISMバンドを利用しても構わないのだが、I、S、Mといった用途を無線LANが圧迫する状況は望ましくない。

 また、このISMバンドはそもそも帯域が2.4GHz〜2.5GHzの100MHzしかない上、無線LANで利用可能な周波数帯域は2.40GHz〜2.4835GHzの83.5MHzに限られる。IEEE 802.11b/gではこの83.5MHzの帯域に、5MHzおきに13のチャネルを定義しているが、チャネル間のセパレーションが十分でないため、隣り合ったチャネルを同時に利用すると干渉が生じる。現実的には5チャネルほど間隔を開けるのが望ましいとされており、利用可能なチャネル数は実質的には3チャネル程度しかない。

 これに対し5GHz帯は、上述したようにW52とW53、それぞれ100MHzの帯域があり、同時利用可能なよう間隔をとって4チャネルずつが定義されている。スペックとしてチャネルの数だけを比べれば、IEEE 802.11b/gが13チャネル、IEEE 802.11aが8チャネルということになるが、その中身はずいぶん違う。IEEE 802.11aのチャネル数が掛け値なしなのに対し、IEEE 802.11b/gのチャネル数は実質的に3チャネルでしかない。

 しかも近い将来、5GHz帯の無線LANには255MHz分の帯域(5.47GHz〜5.725GHz)が追加され、全体で20チャネルほど利用可能になる。チャネルが多いということは、それだけ多くのユーザーを収納可能であるということであり、複数チャネルを利用した広帯域化においても実効が高いということでもある。現在検討されているIEEE 802.11nでは、MIMO(Multiple Input Multiple Output:複数のチャネルを利用してデータの送信/受信を行う無線LAN技術)を利用した広帯域化が有力視されているが、2.4GHz帯では十分な恩恵が得られないことも考えられる。少なくとも5GHz帯の方が広帯域化に有利なことは間違いない。将来的に無線LANも広帯域化が必要だとするなら、進むべき道は5GHz帯しかない。

 また、広帯域化の技術を諸外国に遅れず取り入れるには、チャネル設定の整合性を整えておいた方が有利だ。幸か不幸か5GHz帯の無線LANは、まだそれほど普及が進んでいない。いまなら、まだ規定を変更しても混乱は最小限に抑えられる。それがこのタイミングで電波法を改正し、無線LANの規定を変更した理由だと思われる。

 一方で、すでにIEEE 802.11aを導入してしまった企業にとっては、ファームウェアのアップデートか、機器の入れ替えなどの再投資が必要になってしまう改正となっている。ただ将来を考えれば、日本と米国、ヨーロッパで同じ機器が利用できるなど、新規格のメリットは大きい。すでに導入してしまったIEEE 802.11a機器については、まずクライアントから可能であればJ52とW52の両対応にファームウェアをアップデートし、その後、順次アクセス・ポイントをW52対応にする、といった対応を行った方がよいだろう。またこれからIEEE 802.11aの導入を検討している場合は、将来性のある新規格を選択すべきだ。市場には旧規格と新規格の製品が混在しているので、多少混乱しているが、パッケージに記されている前述のIEEE 802.11aのロゴなどをよく確認して購入しよう。記事の終わり

  関連リンク 
総務省令第92号 電波法施行規則の一部を改正する省令PDF
「5GHz帯無線LANの周波数変更」に関するガイドライン制定について
 
 
 
 INDEX
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    1. 規格が変更されたIEEE 802.11a
  2. 旧製品の新規格への対応とIEEE 802.11aの優位性
 
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