解説

いまIntelは何を研究しているのか

元麻布春男
2005/11/12

解説タイトル

 2005年11月8日、インテルは同社の研究・開発に関する記者向け説明会を開催した。登壇したジャスティン・ラトナー(Justin Rattner)氏は、Intelシニア・フェロー兼コーポレート・テクノロジ統括本部長の肩書きを持つ。CTOの肩書きで研究・開発部門を統括していたパット・ゲルシンガー(Patrick Gelsinger)副社長が、デジタル・エンタープライズ事業部の事業部長として異動になった後、Intelの研究・開発部門のトップを務めている。

説明を行ったジャスティン・ラトナー氏
Intelの研究・開発部門のトップを務めている。Intelシニア・フェローの肩書きを持つ

 この日の説明会は、特定の研究分野に絞った内容ではなく、Intelの研究・開発全体の中からいくつかのトピックを選び、その概要を紹介するものであった。プラットフォーム・カンパニーを標榜する同社は、従来からの半導体に直接関連したもの加え、さまざまなインターフェイス技術、通信技術、各種の応用技術などの研究開発を行っている。また、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)に代表される新興国向けPCなど、特定地域向け製品の研究や、IT技術の医療・健康分野への応用を目指すDigital Healthなど、その分野はさらに拡大しているところだ。

 ラトナー氏は、こうした研究・開発全般を紹介した後、最も近い将来に実用化される技術となるであろう、65nmプロセス技術について紹介した。2006年早々にもデビューするといわれる次世代のモバイル向けプロセッサ(開発コード名:Yonah)に使われるこのプロセスは、すでに実用化が秒読み段階となっている。65nmプロセスの開発を行ってきた米国オレゴン州のFab D1Dに続き、本格的な量産工場として米国アリゾナ州チャンドラーにあるFab 12が、11月に2004年からの改修工事を終え、操業を再開したばかりだ。

間もなく実用化される65nmプロセス
次世代製造プロセスとなる65nmプロセスは、2006年早々にも出荷となるモバイル向けプロセッサから採用となる。

 こうしたプロセスの微細化によって、プロセッサの高速化や高機能化が実現することになる。それにともない避けることができないのが伝送路の高速化である。現在Intelは、プリント基板を用いた従来型伝送路の高速化と、光による高速伝送実現の両面を追求しているという。光については、連続発振可能なシリコン・レーザーの開発に力を入れているのはよく知られるところだ。通常のプリント基板を用いた高速伝送路の研究としても、新しい技術を用いて100Gbits/sの伝送を目標に研究を進めていることを明らかにした。

電磁バンド・ギャップ構造を用いた伝送路
通常のプリント基板を用いた高速伝送路としては、「電磁バンド・ギャップ構造」と呼ばれる新しい技術を採用することで、100Gbits/sの伝送が可能になるとしている。

 無線通信分野においてIntelは、Radio Free Intelをキャッチフレーズに、無線機能を通常のロジックチップに統合することを目指している。今回の説明会でも90nm CMOSプロセスを用いて、無線LANトランシーバまで1つのパッケージに統合したチップの紹介が行われた。

Intelが開発を進めるプラットフォーム技術

 プラットフォーム技術の研究として紹介されたのは、プラットフォームの1チップ化に関するものだ。現在のPCではプラットフォームのコアは、プロセッサ、チップセット、電圧レギュレータなど多くの部品で構成されている。これらすべてを1つのパッケージに統合しようというものである。すでにプロセッサとチップセットを1つに統合したものは製品化されているが、電圧レギュレータまで統合したものはまだない。これを実現するためには、レギュレータをほかのコンポーネントと同じCMOSプロセスで製造する必要があるが、すでにプロトタイプが完成している。現在は、外付けになっているインダクタをCMOSによるVR(ボルテージ・レギュレータ)回路に統合することを目指しているという。レギュレータをCMOS化することにより、1チップ統合が実現するだけでなく、電源の高効率化にも有利になると見られている。

チップセットと電圧レギュレータの1パッケージ化
マルチチップ・パッケージを採用することで、プロセッサやチップセット、電圧レギュレータを統合した低消費電力プラットフォーム。高集積化や省電力化に効果がある。

 応用技術として紹介されたのは、ユーザーを認識するプラットフォームの研究だ。加速度、温度、方向、気圧、音声、湿度、光などを検知するセンサーを組み合わせることで、現在90%以上の精度で人間が行う15種類の行動を識別可能となっている。これと電波ビーコンを組み合わせることで、その人がどこで何をしているのかを高い確率で推論できるようになるという。このデータをコンピューティングのコンテクストとしてフィードバックすることで、コンピュータをより役に立つものにするのが狙いだ。

人間の行動を推論するセンサー
人間の行動をセンサーによって把握することで、コンピュータの活用を図ろうという研究も行われている。

プロセッサのメニーコア化における課題

 Intelのいわば本業であるプロセッサの分野では、プロセッサコアのデュアル化、マルチ化が進められようとしている。一般にマルチは4〜8個程度のコアを指し、10個を超えるコアをメニーコアと呼んでいる。が、コアの数を単純に増やすだけでは、性能向上の効率が低下してしまう。マルチスレッド化されたアプリケーションにおいても、スレッド間の同期によるオーバーヘッドなどが無視できなくなるからだ。これを解消する方法として、スレッド間の同期をロックで行うのではなく、トランザクション・ベースで行うことが検討されている。トランザクション・ベースの同期で問題になることの1つは、トランザクションに用いるメモリ空間の大きさをプログラマが意識しなければならないことだ。これを解決するために、トランザクショナル・メモリの仮想化に関する研究が行われているという。

メニーコア化における課題
メニーコア化を行うとキャッシュ・メモリの同期などのオーバーヘッドが問題になる。それを解決する技術として、バーチャル・トランザクショナル・メモリの研究が行われている。

 こうした研究に、全世界12カ国20箇所以上の研究拠点において、900名以上の研究者が取り組んでおり、1600件以上の特許(2004年米国)が出願されている。人間の行動を推論するセンサーなど、直接プロセッサに関わらない領域まで研究を広げていることが分かる。それがIntelの強みともなっている。こうしたIntelの研究からコンピュータの新しい利用法が提案されるようになるかもしれない。記事の終わり

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