解説

Itaniumプロセッサの行方は混とんかバラ色か?

デジタルアドバンテージ 小林 章彦
2006/03/04
解説タイトル

 2006年に入りIntelは、企業ロゴを刷新し、クライアントPC向けに新しいブランド「Intel Core」を採用するなど活発な動きを見せている。その中で、Itaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)に関しては、2005年夏にリリースを予定していたデュアルコア・プロセッサ「Montecito(開発コード名:モンテシト)」が2006年夏に1年遅れるなど、動きの少ない状態が続いている。

 Intelは、Montecitoの遅れの理由を明確にしていないが、予定されていたFoxtonテクノロジ(消費電力に余裕がある場合、プロセッサの動作周波数を定格以上に高める機能)が有効化されないこと、最高動作クロック2GHzとFSBの速度向上(667MHz化)がキャンセルされたことから、消費電力の面で何らかの問題が生じたものと推測する。Montecitoを製造するIntelの90nmプロセスは、リーク電流が予想よりも大きく、Pentium 4で当初予定されていた動作クロック5GHzどころか、4GHzも達成できなかった製造技術だ。Montecitoでも、消費電力が想定よりも高く、何らかの改善が必要になっていることが考えられる(Montecitoは、既存のItanium 2とソケットなどの物理的な互換性を持つため、冷却システムを左右する消費電力の規格を大きく変更することができない)。その過程で、Foxtonテクノロジの無効化と最高動作クロック2GHzのキャンセルが決定されたのではないかと思われる。

 Montecitoの出荷が延期されたことで、IPFを採用するサーバ・ベンダにとっては逆風の1年だったと想像しがちだ。ところが、IntelとIPFサーバの主要ベンダで設立した「Itanium Solutions Alliance」によると、IPFサーバは2004年から2005年で2.2倍以上に出荷金額が伸びているという。その出荷金額のうち、28%を日本市場が占めており、IPFサーバ市場を日本がけん引している、とも述べている。これは、Bull、富士通、Fujitsu Siemens Computer、日立製作所、Hewlett-Packard(HP)、Intel、NEC、Silicon Graphics(SGI)、UnisysというItanium Solutions Allianceの構成メンバーを見れば分かるように、日本の主要メインフレーマ/ハイエンド・サーバ・ベンダが名前を連ねており、各社がIPFに力を入れているからだろう。Itanium Solutions Allianceは、2007年度に日本国内のRISC/UNIXサーバ市場の50%をIPFサーバで奪えると予想している。

拡大するハイエンド・サーバ市場

 メインフレームとともに、RISC-Itanium/UNIXサーバは、x64サーバの高性能化によって大きく縮小するという見方もある。実際、メインフレームはすでに独自プロセッサからRISCやIPFへ移行する動きが加速している(以下では、メインフレームやRISC-Itanium/UNIXサーバをまとめて「ハイエンド・サーバ」と呼ぶ)。一方で「ハイエンド・サーバ市場は、x86サーバによって侵食され、市場規模の縮小が避けられないニッチ市場だ。IPFはその市場向けと位置付けており、製品として成功することはない。IntelはIPFを市場から撤退させる可能性もある」というアナリストの意見も見かける。

 これに対しIntelなどは、出荷台数では圧倒的にx86プロセッサが多いものの、出荷金額を比較するとハイエンド・サーバと同等で、ハイエンド・サーバは無視できない市場であり、IPFの撤退はないとしている。ハイエンド・サーバ市場は、わずかな出荷台数でも大きな売上げを見込め、利益率も高い。またこの領域では、サーバ本体だけでなく、ストレージやソフトウェア、サポートまで含めたソリューションとして販売されることが多いため、全体としてはさらに売上げと利益の積み上げを期待できる。一般にこれらのサービス販売は、サーバ本体よりもさらに利益率が高いため、サーバ・ベンダに大きな利益をもたらすといううまみがある。

 ガートナー データクエストの調査結果でも、日本のサーバ市場、世界のサーバ市場ともに、デル/Dellは出荷台数では高いシェアを持ちながら、出荷金額となると上位のベンダに大きく水を明けられている(出荷金額は利益と直接的に連動するわけではないので、これはDellの利益率が低いという結論にはならない)。さらに上述のようにハイエンド・サーバ市場では、周辺機器やアプリケーション、ソフトウェア開発、サポートなど多くの付随するビジネスが存在することを考えると、魅力的な市場である。これらを自社ならびに関連企業でこなすハイエンド・サーバ・ベンダにとっては、「おいしい」商売なのは間違いないだろう。

ベンダ 2005年順位 2004年順位 出荷台数 成長率(前年比) シェア
NEC
1
1
113,898
18.0%
19.6%
デル
2
3
110,410
27.3%
19.0%
日本HP
3
2
103,792
18.5%
17.9%
富士通
4
4
84,048
11.6%
14.5%
日本IBM
5
5
80,556
8.2%
13.9%
そのほか
87,978
0.5%
15.2%
合計
580,682
14.3%
100.0%
表区切り
2005年日本サーバ市場ベンダ・シェア(出荷台数)
出典:ガートナー データクエスト(2006年2月)
:丸め誤差により、各ベンダの合計値と合計欄の値が一致しない個所がある。
 
ベンダ 2005年順位 2004年順位 出荷金額(百万円) 成長率(前年比) シェア
IBM
1
1
121,741
-13.3%
19.8%
富士通
2
2
119,341
-7.4%
19.4%
日本HP
3
3
118,385
19.4%
19.3%
NEC
4
4
88,860
16.0%
14.5%
日立製作所
5
5
37,130
-7.1%
6.0%
そのほか
128,523
0.6%
20.9%
合計
613,980
0.2%
100.0%
表区切り
2005年日本サーバ市場ベンダ・シェア (出荷金額)
出典:ガートナー データクエスト(2006年2月)
 
ベンダ 2005年出荷台数 2004年出荷台数 2005年シェア 2004年シェア 前年比成長率
HP
2,093,412
1,912,093
27.7%
28.5%
9.5%
Dell
1,701,932
1,409,349
22.5%
21.0%
20.8%
IBM
1,200,143
1,063,318
15.9%
15.8%
12.9%
Sun Microsystems
342,457
337,600
4.5%
5.0%
1.4%
富士通/Fujitsu Siemens
262,873
229,374
3.5%
3.4%
14.6%
そのほか
1,969,114
1,763,250
26.0%
26.3%
11.7%
合計
7,569,931
6,714,984
100.0%
100.0%
12.7%
表区切り
2005年世界サーバ市場ベンダ・シェア(出荷台数)
出典:ガートナー データクエスト(2006年2月)
 
ベンダ 2005年出荷金額(百万ドル) 2004年出荷金額(百万ドル) 2005年シェア 2004年シェア 前年比成長率
IBM
16,614
16,037
32.1%
32.4%
3.6%
HP
14,569
13,395
28.2%
27.1%
8.8%
Dell
5,426
4,789
10.5%
9.7%
13.3%
Sun Microsystems
4,948
5,237
9.6%
10.6%
-5.5%
富士通/Fujitsu Siemens
2,694
2,674
5.2%
5.4%
0.8%
そのほか
7,432
7,343
14.4%
14.8%
1.2%
合計
51,683
49,475
100.0%
100.0%
4.5%
表区切り
2005年世界サーバ市場ベンダ・シェア(出荷金額)
出典:ガートナー データクエスト(2006年2月)

 しかしハイエンド・サーバ市場においても価格の下げ圧力は強く、これまでのように独自プロセッサ、独自UNIX、独自アプリケーションなどの高コスト体質では、コスト競争に勝てなくなってきている。そこにIPFという共通プラットフォームが登場したことで、各種アプリケーション・フレームワークやミドルウェアなど、独自開発よりも安価に利用できる汎用パッケージをベースとして使い、その上でビジネス・システムの鍵となるビジネス・ロジック開発や、高度なノウハウが必要なSOA(Service Oriented Architecture)の実現など、独自の付加価値により他社と差別化するという戦略が可能になった。独自プロセッサに対する開発コスト/製造コストも削減できる。一方でチップセットなどはメインフレームで培ってきたノウハウを生かして独自開発し、ミッションクリティカル・サーバとしての信頼性を実現することで他社と差別化している。IPFを活用することで、コストを引き下げながら、これまでと同様、高い収益性を保つことが可能になるわけだ。主にメインフレーマが、IPFに乗った理由はこのあたりにある。

 一方、Dellを始めクライアントPCからサーバ市場に参入してきたベンダは、IPFに対して否定的な態度を取っている。当初、IntelはIPFを将来のサーバ向けプロセッサの主流と位置付けていた。そのため、DellなどもIPFに対して興味を持っていたようだが、Intelがその後に方針を転換し、RISC対抗のハイエンド・サーバ向けとしたため、現在これらのベンダは、科学技術計算向けなどにIPFサーバを提供しているにすぎない。前述のように現時点のIPFの魅力は、独自アプリケーションを含むソリューションを提供できるサーバ・ベンダほど大きい。場合によっては、顧客企業向けにOSの改変まで行ってサポートする、というのがこの市場だ。Dellのように、自社/関連会社にシステム・インテグレーション機能を持たないベンダにとっては、市場構造が異なり参入が難しいことが分かる。

 ただDellなどの汎用PCベンダも、コストパフォーマンスの高いx86サーバをクラスタリングするなどして大幅な性能向上を図ることで、ハイエンド・サーバ市場を奪うことが可能だと考えている。PCは、そのコストパフォーマンスの高さから、RISC/UNIXが一般的であったワークステーション市場を完全に奪ったという実績がある。現在のサーバ市場でも、ミドルレンジ・クラスまでは圧倒的にx86サーバの独壇場である。やがてハイエンド・サーバ市場においても、x86サーバがそのコストパフォーマンスの高さと、豊富なアプリケーションを背景に席巻する可能性があるというのがこれらのベンダの考えだ。

 すでに、その兆候は見えている。ガートナー データクエストの「2005年世界サーバ市場の出荷実績PDF」によれば、「2005年、RISC-Itanium/UNIXサーバの出荷台数は5.3%減となっているが、出荷金額は0.5%の微増となった。これは、RISC-Itanium/UNIXサーバ市場で、低価格サーバが減少し、中位クラスのサーバが増加したためである」と分析しており、ハイエンド・サーバでも下位クラスからx86サーバの浸食が始まっていることが伺える。

 しかしここで気を付けなければいけないのは、ハイエンド・サーバの出荷金額は伸びており、上位クラスはむしろ出荷台数が伸びているということだ。これは、RFIDのデータ管理などの大規模データベース向け、電子商取引などのミッションクリティカル向け、コンピュータ・シミュレーションを活用した製品設計支援などの科学計算向けなど、ハイエンド・サーバ市場が拡大しているためである。特にミッションクリティカル向けといった高い信頼性が求められる用途では、メインフレームの技術を継ぐハイエンド・サーバが強く、電子商取引やネット証券、ネットバンクなどの伸びから需要が増えている。

 つまり、IPFサーバのターゲット市場であるハイエンド・サーバ市場は、下位はx86サーバに侵食されるものの、上位は市場の拡大により出荷台数/金額ともに伸びているということだ。x86サーバにかなわない高い信頼性と性能を維持し続けられれば、この市場はいぜんとしてハイエンド・サーバによって維持されると思われる。ハイエンド・サーバ全体の出荷台数は減少していっても、上位の出荷比率が高まることで出荷金額という面ではむしろ拡大する可能性さえある。このような見方をするならば、IPFはハイエンド・サーバ市場で確固たる地位を築くことで、十分に生き残れるはずだ。しかし、そのためにはライバルとなるSPARC/POWERだけでなく、x86プロセッサに対しても高い性能と信頼性を維持することが条件となる。

 Itanium Solutions Allianceが予想するようにIPFサーバのシェアが伸びれば、Intelの投資も継続され、x86プロセッサに対するプロセッサ・レベルの優位性も維持されるだろう。現在のところ順調にIPFサーバの出荷は伸びており、対応ソリューションもSPARC/POWERに対抗できるまでに育ってきている。しかしIPFの性能向上が順調に進まずシェア拡大に失敗するようなことになれば、SPARC/POWERから奪ったシェアを奪い返されるだけでなく、x86サーバがハイエンド・サーバ市場の上位へまで浸食することを許すだろう。そうなった場合、IntelがIPFから撤退する事態も考えられる。その分かれ目は、ここ2、3年ということになるだろう。Montecitoの出荷の遅れが影響し、製品計画の遅延が拡大するようなことがないことを祈りたい。記事の終わり

  関連リンク 
2005年世界サーバ市場の出荷実績を発表PDF
2005年日本サーバ市場出荷実績を発表PDF
 
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