解説

FB-DIMMがサーバのメモリを変える?

2.性能面でも大きなアドバンテージを持つFB-DIMM

元麻布春男
2006/04/26
解説タイトル

FB-DIMMは性能面でも有利

 一方の性能だが、まだ製品がない以上、これを直接検証することはできない。また、イベントなどにおいても、このところIntelはFB-DIMMの性能についてほとんど触れていない。そこで若干古くなるが、Intelが初めてFB-DIMMの構想を明らかにした2004年春のIDFの資料を紹介することにしたいと思う。

 図3は8Gbytesのメモリ容量を持つエントリ・クラスのサーバを従来型のインターフェイスを用いたDDR2メモリと、FB-DIMMで構成した例である。DDR2 DIMMでは、インターフェイスのピン数が多いため、メモリ・チャネルを2つ以上にすることは難しい。そこで、チャネル当たり2本のDIMMを接続している。FB-DIMMはインターフェイスのピン数が少ないため、4つのチャネルに1本ずつDIMMを接続している。当然チャネル数の多いFB-DIMMの方がメモリ帯域という点で有利だ。4チャネルのメモリ・インターフェイスというのは上述したBlackfordチップセットで実際にサポートされる数であり、机上の空論ではない。

図3 エントリ・サーバでの比較
同じメモリ容量でも、DDR2の6.5Gbits/sに対して、FB-DIMMは8.2Gbits/sと26%のスループット向上を実現する。

 この構成での性能比較が図4だ。必要とするメモリ帯域が低い間は、従来型のDDR2メモリのレイテンシが低くて性能が高いが、求められる帯域が拡大すると、従来型メモリは必要な帯域を提供できなくなっていき、レイテンシも悪化する。FB-DIMMは、チャネル数が多いこと、ポイント・ツー・ポイント接続により読み出しと書き込みが同時に処理できることなどから、広い帯域の提供が可能で、こうした帯域では当然ながらDDR2メモリよりレイテンシの面でも上回る。

図4 エントリ・サーバにおける性能比較
必要とするメモリ帯域が低い間(約5Gbits/s)は、レイテンシが低いDDR2メモリが有利であるが、それ以上になるとFB-DIMMのスループットが高くなる。

 図5はミッドレンジ・サーバの構成で、こちらではFB-DIMMのシステムには4倍の32Gbytesが実装される。従来型のシステムは、これ以上のメモリ・チャネルを増やすことができないため、8Gbytesに据え置かれる。メモリ容量の点から見ると公平な比較ではないが、従来型のメモリ・サブシステムではスケーラビリティがないから据え置くよりほかがない、ということである。ここでは、メモリの実装量、帯域の両方で明らかにFB-DIMMが有利だが、それでもインターフェイスのピン数では、なお従来型メモリを下回っているという点に注目すべきだろう。

図5 ミッドレンジ・サーバでの比較
ミッドレンジ・サーバでは搭載可能なメモリ容量が異なってくる。さらにDDR2の6.5Gbits/sに対して、FB-DIMMは16.5Gbits/sと2.5倍のスループットを実現する。

 この容量差、帯域差は、当然性能にも影響を及ぼす。図6を見れば分かるように、ミッドレンジ・サーバにおいては、FB-DIMMが提供可能な帯域は、さらに上方(グラフでは右側)へスケールする。当然、通常のDDR2メモリはついていくことができない。

図6 ミッドレンジ・サーバにおける性能比較
エントリ・サーバの場合と同様、必要とするメモリ帯域が低い間(約5Gbits/s)は、レイテンシが低いDDR2メモリが有利であるが、それ以上になるとFB-DIMMのスループットが高くなり、DDR2メモリではカバーできなくなる。

 つまり、大容量のメモリを前提にする限り、FB-DIMMは非常によいソリューションである。しかし、図4や図6からFB-DIMMの弱点も見えてくる。それは、メモリ実装量の少ないシステム、例えばデスクトップPCやノートPCでは、FB-DIMMの長所は生きない、ということだ。IntelはFB-DIMMについて、サーバ/ワークステーション向けのソリューションであるとし、クライアントPCへの応用についてまったく言及していない。これは、AMBチップの追加によるコスト増に加え、メモリ実装量の小さいクライアントPCでは性能面でのアドバンテージもないからだと思われる。

FB-DIMMのロードマップ

 冒頭でも述べたように、FB-DIMMは2006年第2四半期に登場する見込みのBensleyプラットフォームから導入が始まる(図7)。当初は2005年という話もあったが、従来のモジュールと互換性を持たない、大きな変化を伴うだけに、若干のスケジュールの遅れは避けられなかったようだ。

図7 Bensleyプラットフォームの概要
Bensleyプラットフォームでは、図のように4チャネルのFB-DIMMをサポートすることが明らかになっている。

 スケジュール遅延の原因は、技術的な理由ばかりではなく、流通の問題なども合わさってのものだと思われる。だが、AMBチップの準備に時間がかかったことも、間違いない事実だろう。AMBチップのサンプルは、2004年の秋には存在していたが、発熱の問題、バリデーション(検証)の問題がスケジュールを遅らせたようだ。

 非常に高速なシリアル・インターフェイスを内蔵するAMBチップの消費電力は、最終的には3〜4W程度に収まっている。しかし当初は、もう少し消費電力が大きかったようだ。プロセッサやグラフィックス・チップに比べれば消費電力は小さいが、1つのシステムにFB-DIMMが16〜32本(AMBチップが最大で16〜32個)実装されること、FB-DIMMの実装間隔が非常に密であること、FB-DIMMにはAMBチップだけでなくDRAMが実装されることなどを考えれば、それほど楽観できる数字ではない。原則としてAMBチップに冷却用のヒート・スプレッダが実装されることが、熱への取り組みが1つの課題であったことを物語っている。

FB-DIMMのサンプル
写真のようにAMBチップの表面には冷却用にヒート・スプレッダが貼られている。

 とはいえ、現在ではAMBチップを含めたFB-DIMMの準備はほぼ整っている。AMBチップのサプライヤもIntelに加え、Integrated Circuit Systems(ICS)、Integrated Device Technology(IDT)、Infineon Technologies、NECエレクトロニクス、TI(TI)と6社を数える。2006年第2四半期のデビューは、ほぼ間違いないものと思われる。

 Intelのメモリ・ロードマップによると、このBensleyプラットフォームの後には、2007年半ばにマルチプロセッサ対応サーバでFB-DIMMがサポートされることになっている(図8)。これはクワッドコアのTigerton(タイガートン)プロセッサをサポートするCaneland(カネランド)プラットフォーム/Clarksboro(クラークスボロ)チップセットのタイミングだろう。

図8 Intelのサーバ向けメモリのロードマップ
デュアルプロセッサ対応サーバ以上では、すべてがFB-DIMMを採用することになる。一方、ユニプロセッサ対応サーバでは、デスクトップPCとの共通化によるコスト・ダウンを優先して、現行と同様、DDR2/DDR3メモリが採用されることになる。

 デュアルプロセッサ対応サーバとマルチプロセッサ対応サーバで、FB-DIMM導入のタイミングに約1年のズレがあるが、変化の大きさを考えればやむを得ないところだ。逆に、DDR3メモリによるFB-DIMM2の導入時期が、どちらもほぼ同じなのは、メモリのローレベル・インターフェイスをプラットフォーム(チップセット)から分離するという、FB-DIMMのメリットによるものと考えられる。Itaniumサーバについても、2008年に登場するTukwila(ツクウィラ)プロセッサをサポートするRichford(リッチフォード)プラットフォーム/Rosehill(ローズヒル)チップセットではFB-DIMMへの移行が行われるだろう。当分の間、FB-DIMMがサーバ用メモリの主流になると考えて間違いない。記事の終わり

 

 INDEX
  [解説]FB-DIMMがサーバのメモリを変える?
    1.シリアル・インターフェイスを採用するFB-DIMM
  2.性能面でも大きなアドバンテージを持つFB-DIMM
 
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