解説

クワッドコア普及の障害にソフトウェアのライセンス条件あり

デジタルアドバンテージ 小林 章彦
2006/10/28
解説タイトル

 インテルは、2006年10月16日に都内で開催した記者説明会において、クワッドコア・プロセッサを2006年11月中に出荷開始することを明らかにした。当日はクワッドコアを採用するデュアル・プロセッサ対応サーバ向けプロセッサ「Intel Xeon 5300番台」でデモも行い、量産を始めていることも発表している。Intel初のデュアルコア・プロセッサ「Pentium エクストリーム・エディション 840」を発表したのが2005年4月なので、約1年半でデュアルコアからクワッドコアに進化(?)することになる。

 一方、対するAMDも開発コード名「Barcelona(バルセロナ)」で呼ばれるクワッドコア採用の次期AMD Opteronの開発が完了し、2007年中ごろの出荷に向けて作業を進めていることを明らかにしている(AMDのニュースリリース「AMD、過去最高のOEMによるデザインウィン件数とネイティブ・クアッドコアへのアップグレードパスを実現した最新のAMD Opteronプロセッサを発表」)。

 このようにサーバ向けのプロセッサは、早くもデュアルコアからクワッドコアへと移行することになる。ここでは、明らかになっている両社のクワッドコアの特徴と、クワッドコアのメリット、問題点について解説する。

2つのデュアルコアを同梱してクワッドコアを実現するインテル

 Intelが2006年11月にリリースするクワッドコア・プロセッサは、デスクトップPC向けの「Intel Core 2 Extreme QX6700」とサーバ向けの「Intel Xeon 5300番台」である。デスクトップPC向けは、名称に「Extreme」が付くことで分かるように、ハイエンドのゲーム・ユーザーやコンテンツ制作者を対象とするプレミアム・プロセッサである。サーバ向けのIntel Xeon 5300番台はデュアル・プロセッサ対応で、デュアルコアのIntel Xeon 5100番台の後継となる(当面は併売となる)。どちらも既存のIntel Core 2 Extreme X6800/Intel Xeon 5100番台とソケット互換で、同じプラットフォームでの利用が可能だ。なお11月から少し遅れて、メインストリーム・セグメントのデスクトップPC向けに「Intel Core 2 Quad」が追加される予定となっている。

 これらのプロセッサは、Intel Core 2 Duo/Intel Xeon 5100番台のダイ(デュアルコア)をプロセッサ・パッケージに2個同梱する形態でクワッドコアを実現している。ダイの仕様は、Intel Core 2 Duo/Intel Xeon 5100番台に準じており、4Mbytesの2次キャッシュを2つのコアで共有するのも同じだ。そのため、プロセッサに同梱されている、2つのダイ間で生じるキャッシュ・データの転送がFSBを経由して行われるため、FSBの帯域が圧迫され、若干性能が落ちることになる。実際、Intel Xeon 5300番台の性能は、Intel Xeon 5100番台に対して50%の向上にとどまるとしている。コア数が2倍に増えた割に、性能向上率は高くない。

 Intelは、このように性能を犠牲にしてまで、2つのダイを同梱する形態でクワッドコアを実現し、リリースする理由として以下の5つを挙げている。

  • 迅速な市場投入
  • 少ないエンジニアリング資源
  • 高い歩留まり率が可能
  • デュアルコアとのウエハの共有
  • 柔軟性を備えた製品ラインアップの実現

 クワッドコアをシングル・ダイで実現するモノリシック・タイプで製造する場合、新たなプロセッサとしての設計や検証の時間が必要になり、それだけエンジニアリング資源が使われることになる。一方、Intel Core 2 Duoのダイを2つ同梱する場合(マルチチップ・タイプ)は、ダイ自体の設計は不要になり、同梱にかかわる設計や検証で済む。

 また、クワッドコアをシングル・ダイで製造する場合、どうしてもダイ・サイズが大きくなってしまい、歩留まり率が下がってしまう。IntelがIDF Fall 2006で発表した試算では、モノリシック・タイプよりもマルチチップ・タイプの方が20%以上、歩留まり率が高いということだ。この効果は、製造コストを約12%引き下げると述べている。当然ながら、ダイ自体はIntel Core 2 Duo/Intel Xeon 5100番台と共用なので、ウエハを共有化して柔軟な製造数のコントロールも可能になる。ただし、性能面では不利なので、45nmプロセス製造の段階では、クワッドコアについてもモノリシック・タイプに移行することになる。

 なおIntel Xeon 5300番台の価格は、Intel Xeon 5100番台に対して若干の上乗せがある程度であるという。コストパフォーマンスという点では、Intel Xeon 5100番台に比べて、かなり有利になりそうだ。

クワッドコアとして新設計のプロセッサを投入するAMD

 一方のAMDは、モノリシック・タイプのクワッドコア・プロセッサとしてBarcelona(バルセロナ)を2007年中ごろに投入する。Barcelonaでは、コアごとに64Kbytesの1次キャッシュ、512Kbytesの2次キャッシュを搭載し、2Mbytes以上の共有3次キャッシュが搭載される。3次キャッシュが4つのコアで共有されることから、各コアの1次/2次キャッシュ間のデータ転送は、3次キャッシュを経由して行われるため、FSB(AMDの場合はHyperTransport)の帯域が無駄に圧迫され、性能の低下を招くことを防いでいる。

 さらにBarcelonaでは分岐予測の強化やHyperTransportリンクの帯域の拡大などを図っている。またSSE/浮動小数点演算ユニットを強化し、128bit演算を1サイクルで実行可能(現行のAMD Opteronは、128bitのSSE/浮動小数点演算を64bit×2回で実行していた)とした上で、実行ユニットをSSE/浮動小数点加算とSSE/浮動小数点乗算の2つに増やしている。IntelのCoreマイクロアーキテクチャでもSSE/浮動小数点演算ユニットを強化し、AMD Opteronに性能で拮抗しているので、Barcelonaによって再び浮動小数点演算性能は、AMDが一歩抜き出るかもしれない。

 Barcelonaでは、省電力機能も強化している。アプリケーションが必要とする性能に応じて各コアのワークロードを調整し、ワークロードが低いコアの動作クロックを動的に引き下げることで、性能を維持した状態でプロセッサ全体の消費電力を引き下げるといった機能が実装されている。通常、すべてのコアに対して100%のワークロードが割り当てられることは少ないので、高い省電力効果が期待できそうだ。

 Barcelonaは、マイクロアーキテクチャ的には現行のAMD Opteronと同様、AMD64がベースとなっている。しかしクワッドコア化に加え、さまざまな改良によって単純なクワッドコア化以上の性能向上が実現されそうだ。

ソフトウェアのライセンス条件がクワッドコア普及の壁に?

 クワッドコアに対するIntelとAMDの姿勢に違いはあるが、時代はデュアルコアからクワッドコアへと着実に向かっていることは間違いない。これまで、プロセッサは動作クロックが引き上げられることで性能を向上させてきた。これからは、コアの数が増えることで、性能が引き上げられることになるわけだ。しかし、このようにコアの数を増やす方向での性能向上は、動作クロック向上のよる性能向上では生じなかった問題が生まれる。

 オラクルの場合、コア数×0.5のプロセッサ・ライセンスが必要となるため、デュアルコアでは物理プロセッサ数と等しかったが、クワッドコアでは物理プロセッサ1個で2プロセッサ分のライセンス料が必要になる。またクワッドコアになると、シングル・プロセッサ構成のサーバであっても、低価格なOracle Database Standard Edition/Standard Edition Oneが利用できなくなるなど、ライセンス上の制約も生まれる。

 このようにクワッドコア化によって、高い性能を得ることが可能になる一方、ソフトウェア・ライセンスの面ではさまざまな制約やライセンス料の上昇などが生じる(あるいは、今後生じる可能性がある)ことに注意が必要だ。シングル・プロセッサ構成のサーバを導入する場合、用途によっては、ローエンドのクワッドコア・プロセッサよりも、ハイエンドのデュアルコア・プロセッサの方が高い性能で、大幅な導入コストの低減を実現できる可能性もある。

コラム
物理プロセッサ(ソケット)単位のライセンスを採用するマイクロソフト

 Windows Server 2003 SP1/R2では、Standard Editionが4ウェイまで、Enterprise Editionが8ウェイまでとなっている。マイクロソフトでは、基本的に物理プロセッサでのライセンスを採用しており、コア数に関係なくStandard Editionが4ウェイまで、Enterprise Editionが8ウェイまで利用できるとしている。そのため、既存の環境を維持した状態で、デュアルコア(Intel Xeon 5100番台)からクワッドコア(Intel Xeon 5300番台)へのアップグレードが可能である。

 同様にデスクトップPCについても、Windows XP Home SP2で1個、Windows XP Professional SP2で2個の物理プロセッサまで対応しており、クワッドコアを採用するIntel Core 2 Extreme QX6700/Intel Core 2 Quadを搭載しても、Homeならば4プロセッサ、Professionalならば最大8プロセッサとして利用可能だ。

 マイクロソフトは、プロセッサ・ライセンスを採用するサーバ製品(SQL Serverなど)についても、物理プロセッサ数に応じて課金するとしており、クワッドコアのプロセッサ・ライセンスについても変更がないとしている。 マイクロソフト製品を中心に利用している場合、デュアルコアからクワッドコアへの変更は高いコストパフォーマンスが実現できることになる。

 ソフトウェアのライセンス条件は変更される場合もあるので、事前に確認した上で、ソフトウェアのライセンス料を含めたシステム全体のコストを計算して、導入するサーバのハードウェア条件を検討する必要がある。今後、サーバ向けのプロセッサは、1つの物理プロセッサに実装されるコア数が増える傾向なので、さらに性能とトータル・コストのバランスの計算が難しくなっていく。また用途(アプリケーション)によっては、コア数が増えても、実効性能が向上しない可能性もある。ますますシステム導入担当者にとっては、機材の選択が難しい時代になってきたわけだ。カタログ・スペックに惑わされない勉強が必要となりそうだ。記事の終わり

  更新履歴
【2006/10/30】初出において、Windows Server 2003のライセンスが「コア」によって規定されている記述しておりました。Windows XPと同様、「物理プロセッサ(ソケット)」でのライセンスとなっております。お詫びして訂正させていただきます。この誤認の修正にともないまして、「ソフトウェアのライセンス条件がクワッドコア普及の壁に?」の段落を大幅に書き換えました。
 
  関連リンク 
AMD、過去最高のOEMによるデザインウィン件数とネイティブ・クアッドコアへのアップグレードパスを実現した最新のAMD Opteronプロセッサを発表
 
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