連載

IT管理者のためのPCエンサイクロペディア
−基礎から学ぶPCアーキテクチャ入門−

第5回 本家IBM PCの歴史(3)〜ローカルバスの興亡
2. VL-Busの限界とPCIへの移行

元麻布春男
2002/07/06


VL-Busの問題点

 VL-Busは、当面のバス・ボトルネックを解消するものとして、迅速な市場投入ができたという点で大いに意味があったが、問題がないわけではなかった。まず、プロセッサ・バスをそのまま延長したようなVL-Busでは、プロセッサのバス駆動能力*4からいってもシステムに接続可能なデバイスの数が限られる。また、プロセッサ・バスへの依存性は、すなわち当時主流だったIntel 486 のバス・アーキテクチャへ依存するということであり、次世代以降のプロセッサへの対応が懸念された。当時、MicrosoftがRISCプロセッサを利用したACEイニシアティブと、そこから誕生したWindows NTの開発を進めていたことも、特定のプロセッサに依存したVL-Busの将来に影を落としていた。それと同時に、Intel 486の動作周波数に合わせてバス・クロック(FSBクロック)周波数が変動し、それに合わせてVL-Busのクロックまで変動してしまうことも互換性の確保を厄介なものにする。VL-Busは短期的なソリューションとしては悪くないものだったが、その限界が見えるのにさして時間はかからなかった。

*4 バス駆動能力:バスに接続されているデバイスに対して、正しく電気信号を伝送するための能力。バスにつながったデバイスは、信号を出力する側(ここではプロセッサ)にとっては電気的な負荷であり、デバイス数が増えるほど出力側には高い駆動能力が要求される(さもないと、バスが正常に信号を伝えられなくなる)。
 
BT-445Sのクロック設定表示シール
プロセッサ(何も書かれていないがIntel 486のこと)の動作クロックに合わせてジャンパ・スイッチの設定を変更しなければならないことが分かる。VL-Busの問題は、まさにこうしたプロセッサ・バスへの依存性だった。
 

PCIの登場

 VL-Busだけではなく、それまで使われてきたISAシステム全体の置き換えまで視野に入れて登場したのが、現在も使われているPCI(Peripheral Component Interconnect)バスだ。Intelが最初にPCIバスの構想を明らかにしたのは1991年ごろだとされる。この時点ではPCIはIntelの規格だったが、すぐに標準化作業は業界団体であるPCI SIG(PCI Special Interest Group)に移管された。最初の規格であるPCI 1.0(PCI Local Bus Specification 1.0)は1992年6月にリリースされたが、このバージョンは拡張スロットによるPCIデバイスの実装をほとんど配慮しておらず、PCIデバイスの主力はオンボード実装とするなど、実際の製品には採用しにくいものであった。こうした点を改善したPCI 2.0がリリースされたのは1993年4月のことで、このバージョンではPCIスロットを積極的に設ける方向に大きく舵が切られている。PCI 2.0の規格化により、VL-BusからPCIへの大きな流れが生まれることになる。

■プロセッサの「ローカル」なバスから離れたPCI
 VL-Busに対するPCIの最大の違いは、バス・アーキテクチャをプロセッサ・バスから完全に分離したことにある。これにより、PCIは特定のプロセッサやアーキテクチャへの依存性を廃した。その結果PCIは、PC/AT互換機だけでなく、PC-9801シリーズ(x86だが異なるアーキテクチャ)、RISCワークステーション(非x86)を始め、各種の組込み用途まで幅広く使われることとなった。逆に、VL-Busに比べると、コントローラ・チップを介する分だけ、プロセッサからの距離は遠くなったわけで、「ローカル」という言葉の語感にはふさわしくなくなってしまった。しかし、そもそもローカルバスという用語自体の定義があいまいなこと、PCIシステムにおいてはPCIバス・ブリッジの先に接続されることになるISAバスよりはプロセッサに近い(ローカルに近い?)こと、何より当時の「ローカルバス」ブームに乗り遅れないマーケティング的な要請からもPCIはローカルバスを名乗ったのではないかと思われる。

 プロセッサ・バスから分離されたことは、ほかにもPCIにさまざまな利点をもたらすことになった。PCIのバス・クロック周波数は、プロセッサの動作クロックあるいはFSBクロック周波数にかかわらず、最大33MHzあるいは66MHzという規定値に合わせて設計可能だ。VL-Busでは、将来にわたりバスの動作クロック周波数の範囲を一定に維持しようとすると、逆に将来のプロセッサのFSBクロック周波数を制約しかねないが、PCIならそういう問題もない。

 VL-Busの問題の1つは、プロセッサ・バスを延長したことで、1台のシステムにつき拡張スロットやデバイスを2〜3個しか接続できないということがあったが、プロセッサ・バスから完全に分離されたPCIではこの問題も生じない。当初、1システムでサポート可能なPCIデバイスの数は、オンボード2個に加えてスロットで3個まで、などといわれたが、現在ではPCIスロットを5〜6本持ったマザーボードが市販されているのはご存じのとおりだ。また、PCIは最初からPCI-PCIブリッジが規格に含まれており、これを用いることでPCIスロットをさらに増やすことができる。

■将来性を重視した仕様
 データ転送速度の点では、最初に登場した(そしていまでもデスクトップPCでは主流の)データ・バス幅32bit/バス・クロック33MHzのPCIバスで133Mbytes/sと、VL-Busと変わらなかったが、当初からデータ・バス幅の64bit化やバス・クロックの66MHz化など、最大データ転送速度の引き上げがロードマップに含まれていた(そのあと、さらに最大データ転送速度を引き上げるPCI-Xも規格化された)。これらは、コストが高いことからいまでもデスクトップPCでは使われていないが、PCIの適用範囲を広げるという点で重要なものだった。また、将来性という点では、動作電圧の5Vから3.3Vへの移行を見込んでいたこと、将来ボトルネックになりかねない固定されたDMAコントローラをホスト側に持たず、バスマスタDMAを中心にしたことも、大きなポイントだった。コスト面でも、アドレス・バスとデータ・バスの信号線を重畳してピン数を減らすなど、PCIでは最初から極めて重要なテーマとしてコスト削減を考慮していた。

5Vと3.3Vの両仕様を規定していたPCIの規格書
PCI 2.0が登場した当時、多くの半導体チップの電源電圧は5Vだった。しかし半導体製造プロセスの微細化により、将来は電源電圧が下がっていくことを見越して、5Vと3.3Vの共存およびスムーズな3.3Vへの移行を考慮した仕様が最初から規格に含まれていた。

 しかし、こうしたことと同じくらい、ひょっとするとこれら以上にPCIで画期的だったのは、プラグ・アンド・プレイのサポートだ。それまでのPC/ATアーキテクチャでは、拡張カードの設定は主にカード上のジャンパ・スイッチで行われた。I/Oポートや割り込み要求(IRQ)といったハードウェア・リソースが、複数のカード間で衝突しないようにするのはユーザーの責任だった。MCAやEISAでは、こうした設定プロセスがソフトウェア化され、半自動化されたものの、拡張スロットにカードを挿すだけで動作するというレベルには達していなかった。PCIはプラグ・アンド・プレイという概念を取り込むことで、ハードウェアの歴史を塗り替えたのである。

 次回は、プラグ・アンド・プレイの実際とそれがPCに与えた影響、およびPCプラットフォームでどのようにIntelが台頭してきたかを解説しよう。記事の終わり

危機を迎えたPCベンダ
 
1980年代後半、Dell Computer SystemsやGateway 2000といった直販ベンダや、台湾を拠点とするPCベンダが次々とPC互換機市場に参入し始めた。ところが、ローカルバスが隆盛を極めた1991〜1992年ごろ、米国のパーソナル・コンピュータ市場は大きな危機に瀕する。米国の長期間にわたる不景気の影響から投資が冷え込み、パーソナル・コンピュータの売れ行きが悪くなったのだ。さらに台湾ベンダの台頭から、PC互換機の低価格化が急激に始まることになる。

 一方で、このころ低価格を武器に一定の成功を収めたDell Computer Systemsは、同社最大の危機を迎えることになる。製品開発の遅れに加え、製品の欠陥とそれに伴う回収など、今のDell Computerでは考えられないミスを連発する。さらに、VL-Bus採用機種の投入が遅れ、大幅にシェアを落とすこととなった。ことの真偽は不明だが、このDell Computer Systemsの危機を救ったのはIntelだといわれている。確かに、この時期を境にしてDell ComputerとIntelは急激に親密になり、Dell ComputerがIntel製マザーボードを採用したり、いち早くPentiumを搭載したりしている。

 ほぼ同じころ、PC互換機ベンダの老舗であるCompaqも危機を迎えている。同社は、RISCプロセッサ(MIPS R3000)を採用した新しいパーソナル・コンピュータ規格「ACE(Advanced Computing Environment)」を推進し、これまでのPC互換機の世界からの脱却を図ろうとしていた。しかし前述のように、不景気に加えたPC互換機の低価格化の波によって、収益の柱であるPC互換機事業そのものが危なくなってしまった。ACE自体の規格化の遅れもあり、CompaqはACE対応コンピュータの開発を中止し、PC互換機に注力することになる。そして、それまでのDESKPROシリーズに加え、低価格路線のProLineaシリーズを投入してPC互換機の低価格化に対抗した。ProLineaシリーズは、大幅に製造ラインを見直し、在庫を削減することで、これまでのCompaqの品質を保ちながら大幅な低価格化を実現し、同社のヒット商品にもなった。ちなみにCompaqは、オンボードのローカルバス上にグラフィックス・チップを搭載することで、VL-Busの拡張スロットを搭載することは最後までなかった。

(デジタルアドバンテージ)

 
 

 INDEX
  第5回 本家IBM PCの歴史(3)〜ローカルバスの興亡
    1.Windows 3.0がPC互換機に与えたインパクト
  2.VL-Busの限界とPCIの登場
 
 「System Insiderの連載」


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