特集
基礎から学ぶIAサーバ 2002年度版

7. 互換性重視で高速化された拡張バス/スロット(2)

デジタルアドバンテージ
2002/05/01


PCIの直系:PCI-Xの台頭

 2002年、プロセッサやメモリと同様に拡張バスにも変化が訪れている。それは従来のPCIをベースに最大転送速度を2倍に高めた「PCI-X」の普及だ。PCI-X Revision 1.0が策定されたのは1999年だったが、2002年になってチップセットが対応したため、IAサーバへのPCI-Xの実装が本格的に始まっている。PCIとの互換性が高いため、今後はほとんどのIAサーバで実装されるようになる可能性が高い。

 PCI-Xでは、従来のPCIに比べてバス・クロック周波数を最大133MHzに高めることで、64bit/66MHz PCIの2倍である1066Mbytes/sという最大転送速度を実現している。また単にクロックを高めるだけではなく、スロット数も下表のように確保されている。

バス・クロック周波数 最大スロット数 最大転送速度
66MHz 4本 533Mbytes/s
100MHz 2本 800Mbytes/s
133MHz 1本 1066Mbytes/s
PCI-Xの各バス・クロック周波数と最大スロット数の関係
これは1系統のPCI-Xバスにおける最大スロット数とバス・クロック周波数の関係を記したもの。PCI-Xでは、このように3種類のバス・クロックでの動作が想定されている。66MHz PCIが最大2スロットなのに対し、同じクロックでも66MHz PCI-Xでは2倍の4スロットを確保できる点に注目。

 そのほか、下表のようなデータ転送プロトコルの改良などによりバスの利用効率を高め、実効の転送速度が大きく向上しているという。つまり、同じ64bit/66MHzでも、PCIよりPCI-Xの方の実効転送速度が高くなるというメリットがある。

名称 概要
スプリット・トランザクション(Split Transaction) データを転送する一連のサイクル(トランザクション)のうち、データ転送を要求するフェイズと実際にデータを転送するフェイズが分離(split)された。これにより、データを要求されたデバイス側(ターゲット)の反応が遅れても、それを待つことなくデータを要求する側(イニシエータ)は別のトランザクションを次々と開始できる。従来のPCIのディレイド・トランザクション(Delayed Transaction)より効率がよくなっている
ノン・キャッシュ・コヒーレント・トランザクション(Non-Cache-Coherent Transaction) PCI-Xデバイスがメイン・メモリとデータ転送を行う際、プロセッサ側のキャッシュ・メモリとメイン・メモリの間で整合性維持(スヌープ)をせずに済むトランザクションが新設された。スヌーピングにかかる時間を節約できるため、転送効率が向上する(ただし、デバイス・ドライバなどソフトウェア側のサポートが必要)
トランザクション時の転送バイト数の通知 トランザクションで実際に転送されるバイト数があらかじめ通知されるようになったため、ブリッジ回路などに内蔵されるバッファの制御が効率的になった
トランザクションの処理順序の最適化 トランザクションごとに、データを処理する順序を単なる先着順から変更できるようになった。転送されるデータの内容や性質に合わせて処理を優先したり、逆に後回しにしたりすることができる(ただし、デバイス・ドライバなどソフトウェア側のサポートが必要)
バスの利用効率の向上に関係するPCI-Xの主な改良点

 そして重要なポイントは、従来のPCIスロット/PCIカードとの互換性を維持していることだ。つまり、PCI-X対応の新しいIAサーバでも従来のPCIカードが使用できるし、逆に新しいPCI-X対応カードを従来のPCIのみに対応したIAサーバでも使用できる、ということだ。

従来のPCIカード PCI-Xカード
33MHz 66MHz 66MHz 133MHz
従来のPCIスロット 33MHz 33MHz PCI 33MHz PCI 33MHz PCI 33MHz PCI
66MHz 33MHz PCI 66MHz PCI 33MHz PCIまたは66MHz PCI 33MHz PCIまたは66MHz PCI
PCI-Xスロット 66MHz 33MHz PCI 33MHz PCIまたは66MHz PCI 66MHz PCI-X 66MHz PCI-X
100MHz 33MHz PCI 33MHz PCIまたは66MHz PCI 66MHz PCI-X 100MHz PCI-X
133MHz 33MHz PCI 33MHz PCIまたは66MHz PCI 66MHz PCI-X 133MHz PCI-X
PCI/PCI-Xのスロットとカードを組み合わせたときの動作モード
異なる種類のカードを同一バスに装着した場合は、最も低速なカードに合わせて動作モードが決まる。このようにPCIとPCI-Xの互換性は高いが、注意しないと、各カード本来の性能を発揮できないことがある。

 これはPCI-Xの大きなメリットだが、管理者にとっては注意すべきポイントにもなる。例えばPCI-Xカードのほかに1枚でも33MHz PCIカードを混ぜて使用すると、その系統のバスに接続された全カードが最も低速な33MHz PCIモードで動作することになってしまうからだ。PCI-Xという新しい動作モードが増えた分、上表のように組み合わせが複雑になっているので、カードの追加時には、スロットの選び方に十分注意する必要があるだろう。

IAサーバに実装されたPCI-Xスロット
これは日本IBMのeserver xSeries 360というIAサーバのPCI-Xスロット。上から4本は1系統の66MHz PCI-Xバスに接続されたスロットで、その下側の2本は最大133MHzのPCI-Xバスに接続されたスロットだ(スロット形状に違いはない)。つまり合計6本のこのスロット群は、2系統のバスに接続されているわけだ。高速なカードは下側2本を、それほど高速ではないカードは上側4本のスロットにそれぞれ装着する、という使い分けが必要になる。

 さて、上述のことも含めて、拡張バス/スロットに関するIAサーバの選択ポイントを以下に列挙してみた。拡張性という点では、上述した理由のほかに、当然ながらケース・サイズも大きく影響するので注意したい。

項目 概要
拡張バスの種類 性能面でPCI-Xの方が従来のPCIより望ましい。ただしPCI-Xは新しい規格なので、従来のPCIカードを使い回したい場合は、動作確認をしておきたい
スロット数の数 コストやケース・サイズとの兼ね合いになるが、多い方が望ましい。PCI-X対応の方が、より多くのスロットを装備できるだろう
バス系統の数 複数系統のバスが装備されていると、総合的なバス帯域幅は広くなり、スロット数も多くなる。ただし、コストも高くなる
装着可能なカードの長さ 小型/薄型ケースでは、大きな拡張カードだとほかの部品と衝突してしまい、装着できないことがある。IAサーバ向けの拡張カードには長大なものが多いので、なるべく規格上のフルサイズ・カード(全長312mm)が装着できることが望ましい
Low Profileか否か 小型/薄型ケースでは、背の低いLow Profileカードしか装着できない場合がある。その反面、ライザー・カードを用いる方式に比べ、スロット数を多く確保しやすい、というメリットもある。つまりカードのサイズとスロット数のトレード・オフになる(ただし、全般的にLow Profile PCIカードの種類は少ない)
ホットスワップ対応 ミッドレンジ以上のIAサーバでは、システムが稼働している通電状態でPCIカードを交換できる「PCI Hot-Plug」あるいは「Active PCI」という機能に対応していることがある。PCIカードが故障した場合でも、システムを停止せずに新品と交換できるため、可用性を高められるというメリットがある。ただし、コストが高くなることと、OSやドライバなどソフトウェア・サポートが必須である点には要注意
拡張バス/スロットに関するIAサーバの選択ポイント

拡張バス/スロットの革新は2004年以降!?

 PCIからPCI-Xという2002年における拡張バス/スロットの変化は、どちらかといえば「進歩型」あるいは「改良型」と表現されるべきだろう。確かに最大転送速度は2倍に向上するなど大きな変化はあるが、64bitのパラレル共有バスという形態や、接続対象が拡張カード/オンボード・デバイスだけ、という点では、PCI-XもPCIと変わらない(互換性維持を重視しているのだから当然といえるが)。

 しかし、PCIやPCI-Xを代替する「革新型」の新しい汎用I/Oインターフェイス技術が現在開発中であり、2004年から実装が始まるといわれている。それが「PCI Express(3GIO)」と「InfiniBand」と呼ばれるものだ。PCI Expressは、PCIという名が付くものの、パラレル方式ではなくシリアル方式のデータ伝送を採用するまったく新しいI/Oインターフェイスで、チップ同士を1対1で接続するための規格だ(詳細は「技術解説:PCの内部はすべて「シリアル」でつながる」を参照)。もう1つのInfiniBandは、ブレード・サーバ同士、あるいはデータセンター内のサーバ間を相互接続するためのもので、PCI/PCI-Xのようにケース内部だけではなく外部でも利用されるのが特長だ。

PCI ExpressやInfiniBandの位置付け
PCI Expressがチップ間接続(カードも接続可能)に限定されるのに対し、InfiniBandはIAサーバのケース内外で幅広く利用される予定だ。過渡期においては、PCI-XがInfiniBandのホストアダプタをマザーボードと接続するのに利用されるだろう。

 PCI Expressでは、PCIに比べて大幅に信号線の本数を削減できるため、実装コストの低下が期待できる。一方InfiniBandは、従来よりサーバ同士を密に結合したり、あるいはサーバ内部の機能ブロックを従来よりスケーラブルに増設したりするための技術として期待されている。特にInfiniBandは、クラスタ・サーバの構築が容易になるなど、IAサーバの形態を大きく変える可能性を秘めており、実際の製品の本格的な登場が約2年後と予想されているとはいえ、動向に注目しておく必要があるだろう。

 次のページからは、ネットワーク・インターフェイスについて解説していく。

  関連記事 
PCの内部はすべて「シリアル」でつながる
 
 

 INDEX
  [特集]基礎から学ぶIAサーバ 2002年度版
    1.IAサーバとは何か?
    2.多様なIAサーバ向けプロセッサを把握する(1)
    3.多様なIAサーバ向けプロセッサを把握する(2)
    4.大容量化するメイン・メモリを支える技術(1)
    5.大容量化するメイン・メモリを支える技術(2)
    6.互換性重視で高速化された拡張バス/スロット(1)
  7.互換性重視で高速化された拡張バス/スロット(2)
    8.ギガビット化が始まったIAサーバのネットワーク・インターフェイス
    9.ディスク・インターフェイスの基礎「SCSI」「IDE」を知る
    10.意外に多彩なIAサーバの電源ユニットの機能とケースの形状
 
 「System Insiderの特集」


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