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HTML5が拓く新しいWebHTML5が拓く新しいWeb(6. アドビ編)

Adobe AIR/FlashはHTML5と連携し
モバイルにも進出

新野淳一 Publickey
2010/4/12
最近HTML5やiPhoneと対立する論調が多いFlash。WebKit搭載のAIR 2やモバイル対応、Dreamweaverの今後も含めアドビに聞いた

「Flashはいらなくなるのか」アドビに聞いてみた

 HTML5は、Videoタグによるビデオ/動画再生、Audioタグによる音声再生、Canvasタグによる自由な描画などさまざまな機能を備えようとしています。こうした機能を実現するHTML5が普及することで、いままでビデオ再生やアニメーション表示などの機能を実現してきたFlashは「いらなくなるのではないか?」といった声が聞かれるようになりました。

 多くの人がこう考えようとしている中で、アドビ システムズ(以下、アドビ)がHTML5についてどのように考え、取り組んでいくのか、正式な場で表明されることは、ほとんどありませんでした。今回のインタビューでは、アドビのデベロッパーマーケティングを担当しているマイク・ポッター氏(以下、ポッター)に率直にこうした質問をぶつけてみました。

アドビ システムズ シニア Flash Platform デベロッパー マーケティングマネージャ Mike Potter(マイク・ポッター)氏
「開発者がモバイルデバイス向けにさまざまなアプリケーションを作るために、できるだけさまざまな選択肢を提供したい」

Flashは、HTML5やWebブラウザより速く進化している

――― これまでアドビはHTML5についてどう考えているのか、オフィシャルな場でほとんど発言してこなかったように思います。アドビはHTML5についてどのように見ているのでしょうか?

ポッター アドビはHTML5を、Flashとうまく連係できるテクノロジーと見ています。HTML5かFlashか、どちらかではなく、両方が連係・連動するものだと考えています。

 HTML5が進化するとしても、Flashの良い点は存在し続けます。FlashはHTML5より速く進化しているのです。例えば、HTML5のVideoタグで実現されるビデオ再生機能は、Flashでは2002年の時点で盛り込まれました。アドビはほかのWebブラウザベンダよりもイノベーションを早く進めることができますし、Flashはこれからも機能追加を続けていきます。

 また、Flashは98%以上のコンピュータで使えるほど普及しており、しかも素早くアップデートされています。例えば、Flashの新バージョンがリリースされてから1年で、利用者の90%以上はアップデートを入手しているという調査もあります。つまり、開発者は早い段階でFlashの新しい機能を利用できるのです。

 しかも、インターネットでの優れた事例として、HTMLとFlashの両方がうまく使われているケースが多くあります。例えば、Google Financeは、テキストの部分はHTML、そしてグラフィックの部分はFlashでできており、この2つがうまく連動しています。

 FlashなのかHTML5なのか、ではなく、この2つはどちらもWebを前進させていくテクノロジーなのだと思います。これがアドビという会社としてのHTML5の見解です。

Adobe AIR 2やDreamweaverでHTML5を一部サポート予定

――― しかしアドビは、これまでHTML5についてほとんど触れてきませんでした。なぜでしょう?

ポッター われわれは、HTML5をサポートする製品を用意しています。例えばAdobe AIR 2.0ではHTML5の一部の機能をサポートしていますし、Dreamweaverでも、HTML5をサポートするプランがあります。

 ただし、HTML5はまだ仕様策定段階にある標準仕様です。正式なサポートは標準仕様が固まってから、という形になるでしょう。アドビとして正式なアナウンスをするのは、標準仕様が正式に固まってからでないと難しい面があります。

――― FlashやAdobe AIR、いま言及されたDreamweaverなど、個別の製品についてのHTML5対応についてはどのように考えていらっしゃいますか?

ポッター 先ほども触れたように、Adobe AIR 2.0はHTML5の一部をサポートしています。それは、Adobe AIRが採用しているWebKitによって実現されています。具体的にいくつか紹介すると、Canvasタグはサポートします。Videoタグはビデオコーデックが固まっていないので、サポートしていません。オフラインデータベース、データベースアクセス機能はAdobe AIRのAPI経由で利用可能です。

 つまり、HTML5で実現しようとしていることの多くは、Adobe AIR 2.0ではすでに組み込まれているということです。

 また、CS5にもない、Dreamweaverの次なる実験的な機能では、HTML5のCanvasタグを使って、IllustratorのグラフィックをWebサイトに張り付けるなどがあります(参考:アドビ、FlashをHTML5のCanvasへ変換するプロトタイプ機能を明らかに。アニメーションも変換)。

 ですが、いまの時点でHTML5の機能を使いたいデベロッパがいるのであれば、現時点でFlashが、HTML5の目指していることを実現する最も良いツールだと考えています。例えば、HTML5のVideoタグであれば、Flashのビデオ再生機能が利用できますから。

(アドビ システムズマーケティング本部 フィールドマーケティングマネージャ 西村真里子氏「補足ですが、Dreamweaverの拡張機能としてHTML5のコードヒントを出すようなツールを社外の方が開発されています。アドビとしては、まだ正式に仕様が固まっていないものを製品として組み込むことはできませんが、ユーザーがそういう拡張機能を作ったときには積極的に支援していきたいと考えています」)

モバイルでHTML5を使う“目的”は何なのか

――― Open Screen Projectについても、HTML5との関係で今後計画していることはありますか?

ポッター HTML5を用いて何を実現しようとしているのかを考えるのが大事だと思います。

 モバイルでHTML5を使うということの目的として、多くの人たちは「モバイルでビデオを見られるようにしたい」と考えているのではないかと思います。

 Open Screen Projectでは、主要なモバイルデバイス20社のうち19社が参加しています。そして彼らは自分たちのデバイスでFlash Player 10.1が実行できるようにすることをコミットしてくれています。Flash Playe 10.1では、Webブラウザ上での強力なビデオ再生機能を実現しています。

 またコンピュータ以外の環境でも、Adobe AIRを介してスタンドアロンなアプリケーションも実行できるように各社と協力しています。「開発者がモバイルデバイス向けにさまざまなアプリケーションを作るために、できるだけさまざまな選択肢を提供したい」、これがわれわれの考えている方向です。

――― HTML5だけではなく広い意味で、Web全体の将来像についてアドビはどう考えているのでしょう?

ポッター 大きな2つの動きがあると思います。1つは、Webアプリケーションの進化です。現在はリッチクライアントが実現されていますが、Webブラウザでできることはさらに前進していきます。

 これは過去数年に渡り続いていることで、これからも続いていくトレンドです。アドビはそれを推し進めるためにFlexをリリースし、そして先日Flex 4をリリースしましたが、こうしたことを他社もマネしようとする動きがあります。マイクロソフトのSilverlightは、その一例でしょう。

 もう1つのトレンドは、人々の注目がモバイルへ移行していることです。多くの人はいまモバイルに注目していますが、その次はタブレットに、その次にはテレビに注目するかもしれません。

 デベロッパはそうした、デスクトップ、タブレット、ネットブックなどのさまざまなデバイスで実行可能なテクノロジーを望んでいます。そしてアドビが取り組んでいるOpen Screen ProjectやFlash Playe 10.1が目指すのが、まさにどんなデバイスでも一貫した体験ができるようにすることです。

 また、いまアドビのテクノロジーとソーシャルネットワークとの統合を進めているところでもあります。例えばFacebookなどSNS上に用意されたさまざまなゲームの多くがFlashベースです。また、TwitterクライアントのほとんどはAdobe AIRで作られています。そこで、アドビのテクノロジーとソーシャルサービスとの統合を視野に入れています。

YouTubeは、Flashで収益を得ている

――― HTML5の登場で、「Flashはもういらない技術、古い技術になる」という人たちがたくさんいます。アドビ社内にもそうした意見が届いているはずです。そういう人たちに、どう反論しますか?

ポッター そういう人たちは、Flashが実現できることを狭い視野で見ているのだと思います。

 「Flashはもういらない」という人は、例えば「Flashを使う代わりにHTML5のVideoタグを使えばいい」と考えているのでしょう。そして、Flashのプラグインなしでビデオを再生させているWebサイトも実際にあります。しかし、例えばYouTubeでは広告のオーバーレイをFlashを用いて実現しており、そこから収益を得ています。それはFlashでしか実現できていません。ですから、グーグルはFlashへの取り組みを続けるでしょう。

 このように、Flashで何ができて何ができないかを示し、そしてFlashを使うことで素晴らしいことが実現できる、ということを説明できると思います。

――― Webデベロッパの方々にメッセージがあるとすれば、どんなことですか?

ポッター 開発者にとってFlashやFlexがいかに使いやすいか、をぜひ知っていただきたいと思います。実際に使った方からビデオや音や画像の統合が容易にできて驚かれることが多いのです。

 ですので、まだ使ったことがないという方は、ぜひ開発ツールをダウンロードして使ってみていただきたい。Flashは、レイヤやタイムライン、デザインのツールだけではなく、開発者向けのMXMLActionScriptなどがあり、Eclipseベースの開発ツール(Flash Buidler)もあります。リッチなアプリケーションを簡単に作成できるのです。

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新野 淳一(にいの じゅんいち)Publickey

アスキーでリレーショナルデータベースInformixのテクニカルサポートを担当し、Windows Magazine編集部でnetPCを創刊、ASCII NT副編集長となる。フリーランスを経て、2000年にアットマーク・アイティの創立に参画、取締役に就任し、Webサイト@ITの立ち上げを行う。2008年再びフリーランスとなり、2009年、Webサイト「Publickey」を立ち上げる

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