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WebとUIをつなぐトリックスター(4)

イラストSNS、ピクシブの「以心伝心」少人数メソッド

仲里淳
2009/4/8

少人数だからこその「ツーカー」コミュニケーション

 少人数体制であるほど意思決定スピードが早くなるというのはよく聞く話であり、多くのベンチャー企業の強みの1つでもある。ピクシブの場合は、これに加えてデザインそのものに対する意識の高さもプラスに働いている。

 宮本氏がデザイナとして充実していると感じるのは、その意見を聞いて判断する片桐氏のデザインに対する理解があるからだろう。最初のpixivをデザインしたのは片桐氏であり、実際にデザイナやプログラマとしての経験を持つ。そのため宮本氏からの話もすんなりと理解できるし、的確な指摘も返せる。

「社内の人間にデザインというものに興味を持ってもらうというのは重要です。ピクシブでは毎週全体会議をやっていますが、その際に各自がpixivやdrawrで発見したお気に入りの絵を発表することになっています。そうすることで、サービスをよく使うようにもなりますし、UIデザインに対する改善点にも気付くかもしれませんよね。共通言語を持つことも必要で、『ああいう感じで』で通じる関係を築くのが理想です。そのために、自分の気に入った絵をメッセンジャーで送りまくったりとか、一緒にチョビ(社員犬)の散歩をしながら語ったりとか、いろいろしています」(片桐氏)

ピクシブ社内の様子。ちょっと大声を出せば社員全員に聞こえる距離感

「連打したい!」の思いが形になった投げ銭機能

 「まずはデザインして形にする」「個人の意見を優先させる」といった方針が現れた典型的な例が、4月1日からスタートした「pixivプレミアム」の投げ銭機能だといえるだろう。

 ボタンを連打したり長押ししたりすることでポイントを入力するというUIは、宮本氏の個人的な思い入れを具体化したものだ。

「こだわったのは、投げ銭をする際の敷居をとにかく低く、簡単にするということです。一般的なのは、フォームを用意していくらにするか数値を入力して、決定ボタンをクリックするという方法ですよね。これをクリックだけで操作できることを目指しました」(宮本氏)

FlashとJavaScriptで実装されたpixivポイントの投げ銭機能。ボタンを連打すると「ポポポポーン」とコインが飛ぶ楽しいビジュアルが表示される(上図)。また、長押しするとパワーを充てんするかのようにポイントがチャージされる(下図)

 「『連打をしたい!』という欲求が私にあって、最初からこのUIでいくと決めていました。ファミコン世代なので、マリオがブロックを叩いてコインを出すときのように、連打することでアクションが返ってくることの気持ち良さを表現したかったんです。押しっぱなしにするとポイント値が大きくなるのも、ちょうどパワーを溜めるような感覚です」(宮本氏)

pixivプレミアム公開のためのメンテナンス中に現れたなぞのゲーム。ボタンを連打して骨を落とすというのは、実は投げ銭機能の伏線だったわけだ

必ずしも便利であることが正解ではない

 pixivやdrawrは「絵を描き、それを観る」という、ある意味トラディショナルな行為がサービスの核である。Webサービスとして今後はどのように発展させていこうと考えているのだろうか。

「エンジニア的な機能というか、いわゆるギークが喜びそうな機能追加は、なるべく避けたいとは考えています。pixivはあまり便利になり過ぎてもいけなくて、そこの判断を誤らないようにと心掛けています。かゆいところに手が届きそうでわずかに届いていないのだけど、それがかえっていいというか。そのさじ加減がとても難しいんですけどね」(宮本氏)

 Webサービスであれば、さまざまな技術を駆使することでできることは広がる。しかし、それをやってしまっては本来の目的である「絵を描いてもらうこと、絵を観てもらうこと」からズレてしまうかもしれない。APIの公開や他のサービスとの連係など、注目を集めて一部の「好きモノ」なユーザーから支持を得られるかもしれないが、果たしてそれがpixivの目指すものなのか。できることが増えることで、pixivの強みであった専門性が薄まり、コミュニティが分散してしまうおそれもある。

「pixivには検索機能がありますが、あれも決して検索すればいい絵が出てくるというわけではありませんよね。検索した中から、さらに自分の手で好みの絵を探し出せたときの喜びがあるわけです。それがブックマークやコメントを促すことになるし、結果的に絵師の人もハッピーになれます」(宮本氏)

 現在70万人いるユーザーが、この先100万、500万、1000万と増え、さらに海外展開していくとなると、サービスをどの方向へ進めるべきか、大きなかじ取りを迫られるときがくるだろう。そのときがピクシブにとっての正念場となる。

目指すのは絵を描くことでハッピーになれる環境

 最後に、サービスの一ユーザーから提供する側になった宮本氏。最後にpixivに対する想いについて聞いた。

「私自身も大学受験の浪人時代に絵を描いていた経験があるので、絵描きの苦労や気持ちを多少は理解しているつもりです。だから、pixivに絵を描いてアップし続けている人をとても尊敬しています。公共の場で自分の絵を見せるという行為を継続的にするのは崇高なものですし、だからこそユーザーには失礼のないように、そしてどういう状況が一番楽しいのかということをピクシブに入ってからずっと考えています。絵を描くことでハッピーになれる環境を作っていければと思っています」(宮本氏)

片桐氏と宮本氏。アップルのスティーブ・ジョブズとジョナサン・アイブのような関係というの少々ほめ過ぎか?
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 INDEX
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イラストSNS、ピクシブの「以心伝心」少人数メソッド
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成長著しいイラストSNS「pixiv」のデザイナは新入社員
主役は絵――サイトのデザインからは個性を排除
  Page2
ライブドアとの違いはデザインに対する社長の興味
目的が絞られたサービスはデザインの方向性も明確
現場と意思決定者の近さが生み出すスピード感
Page3
少人数だからこその「ツーカー」コミュニケーション
「連打したい!」の思いが形になった投げ銭機能
必ずしも便利であることが正解ではない
目指すのは絵を描くことでハッピーになれる環境

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