リッチクライアントベンダ・インタビュー(13)

RIAやクラウドが“テスト”に与える衝撃とは


吉村 哲樹
2010/8/3

 ここ数年、開発ツール業界の動きが慌しい。ベンダの買収や経営統合が盛んに行われ、業界再編が急ピッチで進んでいる。こうした動きのキーワードになっているのが、「ALM」(アプリケーションライフサイクル管理)だ。これは「設計や開発、テストから保守、運用に至るまで、アプリケーションのライフサイクルすべてを一気通貫で管理することによって、アプリケーションの品質や開発生産性を高めよう」という考え方だ。

 このALMに力を入れているベンダの1社が、英マイクロフォーカスだ。もともと同社はCOBOL製品を主に扱うベンダだったが(参考:マイクロフォーカス、COBOL向けEclipseプラグインなど3製品発表)、2009年5月に米ボーランド・ソフトウェアと米コンピュウェア Testing&ASQ部門を買収し、ALMベンダとして急速にそのポートフォリオを整備しつつある。特に、ソフトウェアテストのソリューションに関しては力を入れているという。2010年7月29日にも、旧ボーランド由来の負荷テストツールの最新版「SilkPerformer 2010」をリリースしたばかりだ。

 2010年6月17日、同社の日本法人であるマイクロフォーカス株式会社の主催で、ソフトウェアテストのソリューションに特化したイベント「Micro Focusソフトウェアテスト・セミナー〜<海外・国内>負荷テスト/パフォーマンステスト最新手法&事例徹底検証〜」が東京・六本木で開催された。同イベントで講演するために来日した英マイクロフォーカス テストオートメーション製品ディレクターのヨアヒム・ヘルシュマン氏に、欧米におけるソフトウェアテストの最新事情や、同社が提供するソフトウェアテスト製品・ソリューションについて話を聞いた。

長時間のインタビューにもかかわらず、にこやかに撮影に応じてくれた米ネクサウェブ・テクノロジーズ チーフ アーキテクト ボブ・バフォーン氏
英マイクロフォーカス テストオートメーション製品ディレクターのヨアヒム・ヘルシュマン氏「テストを「開発プロセスの一部である」ととらえて、「開発フェイズのより早い段階でテストを実行しよう」という考え方が出てきています」

──欧米におけるソフトウェアテストの最新の動向や事例について教えてください。

ヘルシュマン氏 主に大企業において、ソフトウェアテストの重要性が増しています。その1番の理由は、ソフトウェアの品質に起因する問題が多発しており、その対応のために企業が多額のコストを費やしたり、企業イメージを悪化させてしまうケースが増えていることです。そしてもう1つの理由としては、コンプライアンス上の規制が厳しくなってきていることが挙げられます。

──ソフトウェア品質にまつわる問題が増えてきた背景には何があるのでしょうか? Webアプリケーションの普及など、技術的なトレンドも関係しているのでしょうか?

ヘルシュマン氏 Webアプリケーションの台頭は大きな要因の1つです。特にAjaxFlashSilverlightなどのRIAリッチクライアント技術を使ってリッチなユーザー体験を動的に提供するWebアプリケーションでは、いままでにない新たな課題が出てきています。旧来のテストツールや方法論は、こうした実装技術を前提に作られていないので、なかなか課題に対処できません。

 こうした新技術に対応するためには、複数のテストツール同士の連携や同期なども必要になってきます。われわれテストツールベンダは、こうした新技術の登場を自社製品を発展させる良い契機だととらえて、適切な製品を提供していかなくてはいけません。

──最近取りざたされることが多いクラウドコンピューティングは、ソフトウェアテストにどのようなインパクトをもたらすのでしょうか?

ヘルシュマン氏 クラウドコンピューティングについて具体的に語るのは、まだ時期尚早かと思いますが、さまざまな理由からインパクトはあると思います。クラウドコンピューティングをうまく活用すれば、より柔軟にテスト環境を構築できるようになると思います。さまざまな種類のテスト環境をオンデマンドで素早く構築できるため、より多くのテストシナリオをこなせるようになります。

 また、テスト環境を構築するためのハードウェアやインフラへの投資も節約できます。さらに、Webアプリケーションのテストに関していえば、クラウド環境であればインターネットを介したユーザーアクセスをより本番環境に近い形でテストできます。

──他社のテストツール製品と比べた場合のマイクロフォーカス製品の強みは何でしょうか?

ヘルシュマン氏 まず1つには、最先端の技術を常に取り込んで製品に反映させている点が挙げられます。これは、例えば旧ボーランドのような高い技術力を持つ企業に常にフォーカスを当ててきた結果です。

 一方で、いくら技術的に優れた製品であっても、ユーザーにとって使いやすいものでないと意味がありません。この点については、ビジネスユーザー向けの製品に注力してきたコンピュウェア Testing&ASQ部門の買収が役に立っています(参考:マイクロフォーカス、Visual Studio開発の支援ツール新版)。

 従来のテストツールは、ビジネスユーザーと技術者のどちらかには使いやすいものであっても、もう片方にとっては扱いにくいものでした。マイクロフォーカスのテストツールはさまざまな立場のユーザーを網羅することにより、ビジネスユーザーとデベロッパ、テスターがコラボレーションしながらソフトウェアの品質向上に取り組める包括的なソリューションを提供しています。

──最近では、OSS(オープンソース・ソフトウェア)のテストツールも広く使われるようになってきていますが、これについてどのようにお考えですか?

ヘルシュマン氏 最近では商用ソフトウェアとOSSは、互いに競合するものというよりは、お互い補完し合う関係になってきています。今日では、多くの商用ソフトウェアでOSSが活用されています。OSSのコンセプトには素晴らしいものが多くありますが、製品自体はプロトタイプ的なものがほとんどです。OSSのコンセプトを商用製品が取り込むことによって、より高い次元で製品化できます。

 マイクロフォーカスの製品も、統合開発環境「Eclipse」や、受け入れテスト用フレームワーク「FitNesse」などのOSSと連携できるようになっています。

──最後に、日本の技術者にソフトウェアテストに関するアドバイスがあればお聞かせください。

ヘルシュマン氏 ここ数年、欧米ではアジャイル開発の普及に伴ってソフトウェアテストに対する考え方が変わってきています。テストを「開発プロセスの一部である」ととらえて、「開発フェイズのより早い段階でテストを実行しよう」という考え方が出てきています。また、デベロッパやテスターだけでなく、社内のより広範な立場の人々がコラボレーションしながらソフトウェアの品質を高めていこうという動きも出てきています。

 こうした傾向は、欧米だけでなくアジアでも見られるようになってきていますし、今後もより一層顕著になっていくと思います。なぜなら、これらのトレンドは単にソフトウェアテストに影響を及ぼすだけでなく、ソフトウェアの品質そのものに革新をもたらすからです。

 人によっては、こうした動きによって自分の仕事が影響を受けることを快く思わないかもしれません。しかしこれは、新しいことを学ぶチャンス、より広範なコラボレーションを実現できる機会だととらえるべきです。ソフトウェアの品質は、多くの人々が一丸となって責任を負っていくべきものなのです。

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プロフィール
吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中

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