[事例研究] 三菱重工株式会社 神戸造船所

3.コンポーネント化とオーケストレーションにより、柔軟なシステムを構築


デジタルアドバンテージ
2001/12/06


 現在、“DOCTOR DIESEL”を搭載した船が航海中だ。運用に当たっては、まず最初に、その船に関する初期情報を設定し、それを基に診断を行う。「エンジンが健康なのか、そうでないのかを診断するには、健康な状態がどのようなものかを知っておく必要があります。新規に造る船であれば、海上での試験運転時のデータを『健康な状態』とします。しかしすでに就航している船にこのシステムを搭載するときには、その『原点』を見極めなければいけません。さすがにこれについては自動化できないので、経験豊富な人間がデータを見ながら、原点を決定します。こうして、エンジンごとの『個人カルテ』が出来上がります」(三菱重工 神戸造船所 須藤俊氏)

三菱重工業(株)
神戸造船所
企画経理部 システム課
嘉野 哲也
「現在テスト的に運用している船では、数時間置きにエンジンのログ・データを記録し、1日分をまとめてメールで送信し、分析処理を行っています。1日分のデータ・サイズは十数Kbytes程度、分析にかかる時間は10分程度です」

 この「個人カルテ」さえできてしまえば、日々の分析、レポート作成処理は完全な無人自動化が可能になる。「現在テスト的に運用している船では、数時間置きにエンジンのログ・データを記録し、1日分をまとめてメールで送信し、分析処理を行っています。1日分のデータ・サイズは十数Kbytes程度、分析にかかる時間は10分程度です。そのうちExcelのコンポーネントを呼び出しているグラフ作成の部分で時間がかかっています」(三菱重工 神戸造船所 嘉野哲也氏)

 「エンジンごとに、その健康状態を24時間モニタし、結果を分かりやすくレポートし、必要なら警告を出してくれる。エンジンのモデルはさまざまですが、機能単位に構成されたコンポーネントを組み合わせていますから、どのようなエンジンにも対応可能です。レポートが不十分だというなら、さらに詳細な分析を行うコンポーネントを追加することも可能です。コンポーネント単位で、処理の追加や組み替えができるわけです。従来型のバッチ・システムでは不十分だった柔軟性を手に入れることができました」(三菱重工 神戸造船所 佐々木康成氏)

 気になる顧客の評価はどうだろうか? 「就航船での評価は高く、他の船会社へのPRでも評判は上々で使ってみたいとの多くの引き合いを頂いています」(三菱重工 神戸造船所 須藤俊氏)

 「船に搭載されるディーゼル・エンジンは、小さいもので3億円程度、大きいものでは10億円を超えるものがあります。そして故障時の修理にも、数百万円という規模はざらで、場合によっては数千万円規模の費用がかかることもあります。これに対し、“DOCTOR DIESEL”を搭載するために必要な船側のコンピュータ・システムは、多くても100万円程度のPCシステムでしかありません。運航停止のリスクや、出費のかさむ致命的な故障を避けられるというのなら、この程度の出費は安いかもしれないと判断されるお客さまが圧倒的ですね。皆さんが気にされるのは、初期コストよりもランニング・コストの方なので、年間契約という形で、サポート料を頂く予定ですが、これをできるだけ納得いただけるレベルにするように現在検討中です。搭載船をできるだけ増やして1船当たりの経費を圧縮し、なるべく安価にしたいと考えています。現在、新規のものから、既存の就航船まで、おかげさまで多くのお客さまから搭載の打診を頂いています」(三菱重工 神戸造船所 須藤俊氏)

三菱重工業 神戸造船所オフィス風景
DOCTOR DIESELプロジェクトが成功した要因の1つは、発注元であるディーゼル部と、システム開発を担当した企画経理部システム課が同じフロアにあり、情報交換を密にできたからだという。

横展開と縦展開をうかがう

 今回の“DOCTOR DIESEL”にだけ限ってみれば、何もBizTalk Serverのようなソフトウェアを持ち出さなくても、同じようなシステムを構築することは可能だったかもしれない。しかし三菱重工は、今回の開発実績と、そこで得られたノウハウを土台として、さまざまな展開を検討している。「診断で何か問題が見かったり、そろそろ部品の交換時期になりそうだということが分かったりすれば、当然、次は部品の手配ということになります。今回の“DOCTOR DIESEL”と部品パートナー企業を含めた部品管理のBtoBシステムも構築できるはずです。次はこの部品ビジネスの部分をすぐにでも自動化してほしいとシステム課には厳しい要望を出しています(笑)」(三菱重工 神戸造船所 須藤俊氏)

 さらに、船舶向けのディーゼル・エンジンだけでなく、三菱重工のさまざまなビジネスに今回のノウハウを応用しようという構想もあるという。「“DOCTOR DIESEL”で構築したビジネス・モデルについては、いま話題のビジネス・モデル特許を申請しました。“DOCTOR DIESEL”はあくまで船舶向けのディーゼル・エンジンだけが対象ですが、製品に対するアフター・サービスを充実させるという意味では、同様のモデルを各種製造機械やプラントなど、当社の他の製品に応用することも可能なはずです。今回のケースがうまくいけば、それを広げていこうという話は当然出てくるでしょう」(三菱重工 神戸造船所 須藤俊氏)

 「私が所属するディーゼル部は、昔から新しもの好きが多い部署なのです(笑)。システム課にはだいぶ無理をいいましたが、システム担当部門も新しいものに積極的に挑戦してくれて、短期間で試験運用までこぎ着けることができました。いつも思うことですが、まったく新しいプロジェクトを成功に導く最大のポイントは、新しもの好きのメンバーを集められるかどうかだと実感しますね(笑)」(三菱重工 神戸造船所 須藤俊氏)


会社データ
  三菱重工業株式会社
本社所在地:
東京都千代田区丸の内2-5-1
神戸造船所:
兵庫県神戸市兵庫区和田崎町1-1-1
設立年月日:
昭和25年1月11日
資本金:
2654億円(平成13年3月31日現在)
社員数:
3万7754人(平成13年4月1日現在)
売上高:
2兆6377億円(平成12年4月1日−平成13年3月31日)
ホームページ:
http://www.mhi.co.jp/



 INDEX
  [事例研究]三菱重工株式会社 神戸造船所
    1.安全で効率的な船の運航を可能にする「24時間常時稼動の無人支援システム」の必要性
    2.VBでコンポーネントを開発、BizTalk Serverでそれらを連携させる
  3.コンポーネント化とオーケストレーションにより、柔軟なシステムを構築
      技術コラム:「システム統合」と「ワークフロー」の二面を持つBizTalk Server 2000
 
事例研究


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