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Windows XP、Office XPに導入される不正コピー防止技術、Product Activationとは?

―― 新技術は、正規ユーザーの評判を落とさずに、不正コピーを防止できるか ――

デジタルアドバンテージ 小川 誉久
2001/02/14

 多くの良識あるユーザーは、著作物であるソフトウェアの不正コピーが許されない行為であることを知っている。しかしその一方で、不正コピーのための手段は、ますます身近に、低コストになっている。実際、CD-Rドライブを備えたPCさえあれば、数十円のブランクCD-Rメディアと数分の時間で不正コピーCDを作ることが可能だ。不正コピーの作業が手軽になるほど、不正を行うという良心の呵責も小さくなる傾向があるように思う。

 マイクロソフトは、こうした「カジュアル」な不正コピーを強制力を持って規制するために、“Product Activation(製品の有効化)”と呼ばれる新しい技術を開発し、2001年内に出荷を予定しているビジネス・アプリケーション・スイートのOffice XP(現Office 2000の新バージョン)、およびWindows Me/Windows 2000の次バージョンであるWindows XP(開発コード名Whistler)、作画ツールであるVisioの新バージョンにこれを組み込むことを発表した。このProduct Activationとは、いったいどのような技術なのか? 現存するコピー・プロテクションは、不正コピーを制限すると同時に、正規ユーザーにも不便を強いるものがほとんどだ。この点Product Activationではどうなのか? ここでは、マイクロソフトの発表資料より、その概要をまとめてみよう。

ソフトウェアをインストールするPCを特定

 Product Activationという名前が示すとおり、ソフトウェアを正規に入手したユーザーは、その製品が正規に入手されたものであり、PCにインストールして利用する権利を持っていることを証明するために、製品を「有効化」しなければならない。有効化をしなくても、一定期間は使い続けることが可能だが、その期間が過ぎると、通常の使用が禁止されるものと思われる。具体的にどのように禁止されるのかは分からない。マイクロソフトの発表資料によれば、“If they have not activated the product within the specified timeframe, they will need to do so to continue using the product.”(設定された期限内に製品を有効化しないと、製品を使い続けるために、有効化が必要になるだろう)と表現は極めて曖昧である。具体的な制限内容は、まだ微調整中なのかもしれない。

 Product Activationの基本的なメカニズムは単純である。ソフトウェアを有効化するには、パッケージなどに表記されたプロダクトID(製品ID)と、それをインストールするPCのハードウェア構成情報をマイクロソフトのセンターに通知し、インストールIDを知らせてもらう。このインストールIDをローカルPCに組み込むことで、製品は有効化され、以後正常に使えるようになる。センターへの通知方法は、インターネットを経由するものと、電話を利用するものの2種類がある。このうち、分かりやすいインターネットを使用する方法を具体的に示そう。

Product Activationのしくみ(インターネットを使用する場合)
Product Activationでは、ソフトウェアをインストールするPCのハードウェア構成が検出され、プロダクトIDとともにマイクロソフトが運営するセンターに通知される。するとそれらの情報ペアはセンター側に記録され、インストール作業を続行するためのインストールIDが送り返される。
  Product Activationを実行するソフトウェアがPCのハードウェア構成を検出し、その情報がプロダクトIDとともにマイクロソフトが運営するセンターに通知される。
  センター側では、ハードウェア構成情報とプロダクトIDのペアを記録し、インストールIDを送り返す。これにより、PCでのセットアップ作業などが続行可能になり、製品が有効化される。

 インターネットを利用したProduct Activationではまず、有効化を行うセットアップ・プログラムなどによって、ソフトウェア製品がインストールされたPCの構成が検出される。そしてユーザーから入力されたプロダクトIDの情報とともに、このハードウェア構成情報をマイクロソフトが運営するセンターに通知する。するとセンター側では、それがすでに別のPCで有効化されていないことを検査し、問題がなければ通知された2つの情報を組にして記録して、セットアップIDを送り返す。こうして正しいセットアップIDが送り返されることで、セットアップ作業などが続行され、製品が有効化される。マイクロソフトの説明によれば、インターネットを経由したセンターとのやり取りは、数秒で完了するとしている。

 「ハードウェア構成の検出」とは、具体的には何を調査するのか? 詳細は不明である。ただしマイクロソフトの発表資料によれば、「ハードディスクはスキャンしないし、あらゆる個人情報やPCのメーカー、モデル、コンポーネントなどはいっさい検出しない」のだという。この説明から考えて、検出処理は大ざっぱなものだと想像できる。実際、詳細は後述するが、多少のハードウェア構成の変更程度なら、許容できる(再度の有効化は不要)としている。

 これに対しインターネットを利用できないユーザーは、電話を使って製品の有効化を行うことになる。基本的に、センターに通知する情報と、センターから教えてもらう情報はインターネット経由の場合と同等と思われるが、この場合にハードウェア構成をどのように検出するかなどは明記されていない。ただし処理は「数分で完了する」という。

 今述べたように、有効化処理の過程では、ユーザーの氏名や住所、電話番号、メール・アドレスなど、いっさいの個人情報はやり取りされない。つまりこのProduct Activationは、従来からある製品のユーザー登録とはまったく別次元のものであり、製品を有効化するという以外の処理は行わない。したがって製品を有効化しても、製品の更新情報やサービス・リリース情報などは送られてこない。これらの情報が必要なユーザーは、従来どおりのユーザー登録を明示的に行う必要がある。

製品分野によって異なる有効化の取り扱い

 Windows XPの有効化は、PCへのセットアップ途中で実行することができる。ただし何らかの都合でセットアップ時に有効化を行いたくなければ、これをスキップし、セットアップを続行することも可能である。この場合、セットアップしてから30日間までは、有効化を実行しなくてもWindows XPを使うことができる。ただし有効化を行うまでは、毎ログイン時、および適当な間隔で有効化が必要であることが通知される。

 前出のWindows XPに対し、Office XPやVisioなどのアプリケーションでは、Product Activationの取り扱いが少々異なる(以後、単にOfficeと表記した場合には、Visioも含むものとする)。まずOfficeでは、Windows XPとは異なり、セットアップ時には有効化処理は行わない。セットアップ(インストール)自体はこれまでどおりに終えることができる。有効化が要求されるのは、インストールされたOfficeを起動したときである。ここで正しく有効化処理を行えば、以後は通常どおりにOfficeを利用可能だ。何らかの都合で有効化を行わずにOfficeを起動したければ、有効化をスキップすることもできる。ただしこれが可能なのは50回までで、それ以上はスキップできない。

 なお、Office製品の使用許諾(EULA:End User License Agreement)では、同時に使用しないという前提で、2つのコンピュータ(たとえばデスクトップPCとノートPCなど)にOfficeをインストールすることが可能とされている。この許諾条件に従って、2台目のPCにOffice製品をインストールする場合も、1台目と同様に有効化処理が必要になる。

 ただしこの使用許諾条件が適用されるのは、市販パッケージのOfficeを購入した場合のみで、PCにプレインストールされたOfficeのOEMライセンスでは、そのコンピュータでのみ使用が許可されており、それを他のコンピュータにインストールすることはできない。またWindows製品は、1台のPCにのみインストール可能である。

企業の一括導入では有効化は不要。プレインストールはベンダによりけり

 以上、これまでの説明は、主に市販パッケージにてWindows製品やOffice製品を購入した場合のものだった。これ以外の方法でソフトウェアを入手した場合はどうなるか?

 まず、マイクロソフト・セレクトなど、企業などが一括してソフトウェアを導入するボリューム・ライセンスでは、Product Activationによって製品を有効化する必要はない。

 WindowsやOfficeなどがプレインストールされたPCでも、基本的には有効化処理が必要になる。ただしいくつかのPCベンダは、出荷時にあらかじめ有効化処理を行う場合もある。この場合、エンドユーザーは独自に有効化を行う必要はない。

イレギュラーに耐えられるのか?

 このようにProduct Activationでは、個々のソフトウェア製品に付けられたユニークな番号(プロダクトID)と、それがインストールされたPCのハードウェア構成を組にしてセンターに記録しておくことで、その製品を不正に入手した第三者が、再度製品を有効化できないようにするというものだ。仮に、誰かが購入し、使用している製品を不正にCD-Rでコピーして持ち帰っても、それがすでに持ち主によって有効化されていれば、不正入手したユーザーはそれを有効化できない。

 みごとなしくみだ。しかし私たちは、ハードディスク・クラッシュや、原因不明の問題により、WindowsやOfficeなどの再インストールを迫られることが珍しくないと知っている。このような再インストールのたびに、有効化処理を行わなければならないのか? マイクロソフトの説明によれば、一度有効化を行ったPCなら、再度有効化処理を行うことなく、必要に応じて何度でもソフトウェアをインストール可能だという。ただしこれが可能なのは、ハードディスクがフォーマットされていない場合だけで、ソフトウェアの再インストール前にハードディスクがフォーマットされているときには、再度有効化処理を行う必要がある。

 ディスクやメモリの増設、各種拡張カードの追加、外付けデバイスの追加など、PCのハードウェア構成を変更した場合はどうだろうか? はなはだ曖昧ではあるが、マイクロソフトによれば、「ある程度の構成の変更なら、再有効化は不要」としている。しかし「コンピュータをオーバーホールしたときには再有効化が必要」なのだそうだ。はたしてどこまでが「ある程度の構成の変更」で、どこから先が「オーバーホール」なのか? 少なくとも、新しいPCを購入して、従来の環境からソフトウェアを移行させるときには、再度有効化が必要である。しかしこの場合、すでにソフトウェアは以前のPCで有効化されているから、新しい環境での有効化が不正でないことを証明しなければならない。少なくとも、インターネットを使って簡単にこのような手続きを行うことは不可能だろう。残念ながら、このように込み入った状況に対する説明はなされていない。

顧客満足度に悪影響を及ぼさないことを願う

 不正コピー対策を施すことは一向にかまわないのだが、それが正規ユーザーの利便性を阻害するものであってはならない。残念ながら、過去に考案されたどのような不正コピー対策も、この目標は達成されていなかった。今回のProduct Activationはどうか? 入手できる情報がごくわずかしかない現時点で、最終的な判断を下すことはできない。しかし典型的・理想的な状況はともかく、マイクロソフトの説明を読むだけでは、何が起こるか分からない現実に、利便性を損なうことなく対応できるとは思えない。

 2000年5月にマイクロソフトの新社長に就任した阿多親市 氏は、顧客満足度の向上を重点課題として社内機構の大幅改革に着手した。今回発表されたProduct Activationが、こうした前向きな動きに逆行しないものであることを祈るばかりである。End of Article

  関連リンク
  Microsoft Product Activation Q&A(英文)(米Microsoft)
  Microsoft Product Activationに関するニュースリリース(英文)(米Microsoft)
  マイクロソフト、不正コピー防止ソリューションを次期バージョンのOffice、Windows、Visio製品に導入(米国ニュースリリースの参考訳)(マイクロソフト)
     
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