Insider's Eye

Exchange暫定版が2003年夏に登場、次期メジャー・リリースはYukonベースに

―― Microsoftは2003年にExchangeを暫定的にアップデートし、2004年以降に新しいAPIとYukonをベースとするメジャー・アップグレード版のリリースを計画している ――

Peter Pawlak
2002/12/05
Copyright(C) 2002, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.


 
本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌「Directions on Microsoft日本語版」 2002年11月15日号 p.34の同名の記事を許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 Microsoftは2003年夏にExchangeの暫定的なアップグレードをリリースする。このバージョンはコードネーム「Titanium」と呼ばれ、OfficeおよびOutlookメール・クライアントの新版と同時にリリースされる予定。TitaniumではExchange 2000の欠点が一部解消されるほか、モバイル・ユーザーのサポートが改善され、デベロッパー向けに下位互換性も保たれる。

 ただし、Titaniumに続いてリリース予定の「Kodiak」と呼ばれるメジャー・アップグレード版では、新しいAPIとYukonベースの新しいデータベースに移行することになる。Yukonは、次期SQL Serverで採用される予定の新しいストレージ/索引作成/検索技術のコードネーム。Microsoftがメッセージング分野における長年の成功を維持する上でカギとなる技術でもある。

暫定アップデートで当面の問題を解消

 Titaniumをリリースする狙いは、メッセージング/コラボレーション分野におけるMicrosoftの地盤を維持することだ。ExchangeとOutlookクライアントの組み合わせは、企業向け電子メール市場でトップシェアを誇っているが、それでもMicrosoftは依然としてIBM/LotusのDominoサーバおよびNotesクライアントや、OracleのCollaboration Suite、SamsungのContact(かつてHPのOpenMail製品だったもの)といった標準ベースの電子メール・サーバ製品などによる厳しい競争にさらされている。

 また、2000年秋にリリースされたExchange 2000にアップグレードせず、いまだにExchange 5.5を利用している企業も少なくない。最大の理由は、アップグレードのためにNT 4.0ドメインからWindows 2000のActive Directoryに移行しなければならなかったからだ。

 Exchange 2000ではWeb Storeと呼ばれる最新のストレージ・エンジンが導入されたが、このストレージ・モデルはスケーラビリティが強化されたものの、アーキテクチャ上の制限があり、ほかのサーバ製品(SharePointなど)との統一性も考えて、MicrosoftはSQL Server Yukonに採用予定のストレージ・エンジンでWeb Storeを置き換えることを決定した。新しいストレージ・エンジンは、KodiakバージョンのExchangeに最初に採用されることになる。

 Yukonのリリースは2003年遅くに予定されているため、Kodiakのリリースは早くても2004年半ばになる。そうなると、Exchangeのメジャー・アップグレードに約4年の空白ができてしまう。せっかく築いた地盤を保つためにも、Microsoftはその空白をTitaniumで埋めたいと考えたわけだ。Titaniumは顧客から要望のあった新機能を提供する一方で、既存のExchangeアーキテクチャに大幅な変更を施さずに済むものとなる。

 Microsoftは目下、ボリュームライセンス・ユーザーに対してアップグレード権の購入を奨励しているが、Titaniumをリリースすることで、アップグレード権の期限が切れる前にユーザーにExchangeのアップデートを提供できることになる(Exchangeと関連製品のロードマップは、次の図「メッセージング・ロードマップ」参照)。

メッセージング・ロードマップ
ExchangeはYukonベースの新しいストレージ・エンジンに移行する前、2003年半ばに暫定版アップグレードがリリースされる。この暫定版はコードネーム「Titanium」と呼ばれ、Outlook 11と呼ばれるOutlookクライアントの新バージョンと同時期のリリースが予定されている。TitaniumはWindows 2000 ServerとWindows .NET Server(2003年初期にリリース予定)のどちらにも対応する。TitaniumではSQL Serverは不要。 新しいYukonストレージ・エンジンをベースとするSQL Serverの新バージョンは2003年末のリリースが予定されている。Titaniumの次バージョンとなる「Kodiak」は、このYukonデータベースを採用し、2005年のいずれかの時期にリリースされる見込みだ。

2003年リリース予定のTitanium

 Titaniumは現行のExchange 2000とWeb Storeをベースとするマイナー・アップグレードとして、2002年秋にベータテストが開始され、2003年半ばにリリースされる。Microsoftはこのリリースを、Exchange 5.5からExchange 2000への移行よりも容易なものにしたい考えだ。

 ただし、近くリリース予定のWindows .NET Server 2003でExchangeを動作させようと考えているユーザーは、Titaniumにアップグレードする必要がある。なぜなら、Exchange 2000はWindows .NET Server 2003とは互換性がないからだ。一方、Active Directoryをホストするドメイン・コントローラをWindows .NETにして、Exchange 2000やTitaniumをWindows 2000が動作するサーバでホストすることはできる(ただし、そのためにはExchange 2000にService Pack 3が必要となる)。

Exchange 2000のService Pack 3に関する情報
 
現在、Exchange 2000のService Pack 3が提供されている(SP3の説明とダウンロードはこちらを参照)。この累積的なサービスパックには、Windows .NET Server 2003ドメイン・コントローラとの相互運用性のほか、顧客からの報告による問題の修正、Trustworthy Computing構想の一環として実施されたコード・レビューで発見されたセキュリティの脆弱性の修正などが含まれる。

Titaniumの主な特徴

 Titaniumでの大きな変更点は、以下のカテゴリーに分類される。

■モバイル/リモート・アクセスの改善
 Titaniumには、これまでMobile Information Server(MIS)2002で提供されてきた無線サポート技術の多くが搭載される(Directions on Microsoft日本語版2002年4月15日号の「Mobile Information Server(MIS)がExchangeとISA Serverに吸収へ」参照)。

 マイクロブラウザを搭載する携帯電話やPDA(携帯情報端末)からメールにアクセスできるほか、MIS Server Active Synchプロトコルのサポートにより、Pocket PC 2002のPocket Outlookをネットワーク・ベースで同期できるようになる(無線ネットワークによる同期化にも対応)。この機能により、無線ユーザーは送受信メッセージを同期化する間だけネットワークに接続して、メッセージの確認や作成はオフラインで行うことが可能になる。

 Titaniumはさらに、クライアントのリモート・プロシージャ・コール(RPC)のMessaging API(MAPI)への“HTTPトンネリング”をサポートする。これにより、Outlook 11など、今後登場するメール・クライアントでは、仮想専用ネットワーク(VPN)を構築しなくても、インターネットからExchangeに接続できるようになる。そうなれば、自宅や外出先からExchangeへの接続も容易になるはずだ。

■Outlook Web Access(OWA)の改善
 OWAはExchangeのブラウザ・ユーザー・インターフェイスである。Outlookクライアントの完全な機能性には及ばないものの、アップグレードや一部のサービスパックにより、その機能と性能は大幅に改善されている。多くの組織は、OWAを使ってOutlookの機能を補完し、ユーザーが通常のワークステーションから離れていても、電子メールにアクセスしやすいようにしている。

 Titaniumもこうした流れを引き継ぎ、OWAのスペルチェック、タスク管理、メッセージングの安全性強化などの改良が施される。ただし、Titaniumに採用されるOWAは、ASPベースのアプリケーションとなるため、.NET技術には対応しない。

■セキュリティの改善
 Exchange 2000は、MicrosoftがTrustworthy Computing構想の一環として実施した精密なセキュリティ・レビュー作業の影響を受けた初めてのバージョンだ(Directions on Microsoft日本語版 特別版リサーチレポート「Trustworthy Computing:ソフトをより安全に」参照)。

 この作業で発見された問題点は、サービスパックでExchange 2000の本体に組み込まれ、Titaniumコードにも反映される。また、Titaniumではインストール時の“デフォルトのセキュリティ”が強化され、あまり強力ではない“単純な”認証メソッドなどはデフォルトでオフに設定される。Titaniumではセキュリティ設定が全般的に強化されるほか、アンチウイルスAPIも改善され、企業のセキュリティ・ポリシーを満たさない旧バージョンのOutlookを従業員が使えないようにするといったことも可能になる(例えば、特定のウイルス保護機能がオンになっていないバージョンなど)。

■Windows .NET Serverの一部機能を装備
 TitaniumはWindows .NET Serverを必要としないが、Windows .NET Serverの一部の新機能を享受できる。中でも、恐らく最も重要なのは、Windows .NET Serverの新しいボリューム・シャドウ・コピー機能(オープン中のファイルでもバックアップすることができる機能)で、Exchangeデータベースのバックアップ、復旧を実行できる点だろう(通常、ストレージ・エリア・ネットワークを併用する)。

 この機能を使えば、管理者はファイル・システムの書き込みを一時的に中断し、すべてのオープンされているExchangeを含む、ファイル・システム・ボリューム全体のミラーを分離することができる。このミラーはテープなどのオフライン・ストレージにバックアップ可能だ。このプロセスを逆にすれば、データベースを復旧できる。就業時間中にExchangeデータベースのバックアップを取りやすくなり、データベースの復旧も迅速化される。これにより、企業がExchangeサーバを少数の高性能サーバに統合したがらない理由を、1つ解消できることになるだろう。

 さらにTitaniumは、Windows .NET Advanced Serverの新しい8ノード・クラスタリング機能を利用できる。これにより、可用性の高いExchangeサーバのクラスタリングを経済的に実現することが可能だ。処理能力の予備を少なくできるだけでなく、高額なSANのコストをより多くのサーバで償却できるからだ。

 さらに、複数のActive Directoryフォレストを運用している企業は、Microsoft Metadirectory Service Standard Edition(Windows .NET Advanced Serverにバンドル)を使って、Titaniumのグローバルなアドレス帳エントリをフォレスト間で複製できる(Directions on Microsoft日本語版2002年8月15日号「Active Directoryが次期Windowsで飛躍的進化――導入リスクも大幅に軽減」参照)。

削除されるインスタント・メッセージング機能

 TitaniumはExchange 2000に搭載されているインスタント・メッセージング(IM)機能をサポートせず、Windows XPとともに出荷されたMicrosoftの最新版のIMクライアントであるWindows Messengerの最新IM技術もサポートしない。

 Microsoftは独立した新しいIMサーバ製品、Real-Time Communication(RTC)Server(コードネーム「Greenwich」)によって、ExchangeのIM機能を補完する考えだ。RTC Serverのリリースも2003年半ばに予定されている。

 現在、Exchange 2000のIMサービスを利用している企業にとって、Titaniumへの移行は厄介な問題になるかもしれない。特に、RTC ServerのリリースがTitaniumよりも遅れたり、追加ライセンス料が生じるような場合にはなおさらだ。

アプリケーションとの互換性

 Titaniumは現行版のExchangeのAPIをすべてサポートするため、Exchangeを利用するアプリケーションの開発者やユーザーにとって、少なくともあと2年は互換性が保証されることになる。MAPI-RPC、SMTPPOP3IMAP4NNTPなどのプロトコルを使用する既存の電子メール・クライアントおよびニュース・リーダーは、Titaniumにも対応する。また、FAXサーバやワークフロー製品など、Exchangeを必要とする既存アプリケーションも修正なしで利用できるはずだ。

 Titaniumは引き続き、Active Data Object(ADO)、Collaborative Data Object(CDO)、Web Distributed Authoring and Versioning(WebDAV)などのプログラミングインタフェースもサポートする。

 Titaniumでは、新しいモバイル・コンポーネント(マネージド・コードで記述されたもの)をサポートしたり、新しいマネージドAPIをエクスポーズして.NETデベロッパーがExchangeサービスを利用できるようにするためには、.NET Frameworkが必要となる(Microsoftはまだ、この新しいAPIをKodiakに引き継ぐかどうかは明言していない)。

ライセンスの問題

 Titaniumにアップグレードするかどうかを決定する際に重要な要因となるのは、ライセンスのコストの問題だろう。Microsoftはもはやボリューム・ライセンス顧客向けのVersion Upgrade(VUP)を提供していないため、アップグレード権を持たない顧客はTitaniumの新しいライセンスを(大量購入割引以外は)定価で購入しなければならない。

 新しいClient Access License(CAL)を利用した場合は、特にコストが高くつくことになりそうだ。ちなみに、Exchange 2000のCALは大量購入割引なしで60ドル程度。Titaniumのライセンスも、マイナーなアップグレードにしてはひどく高いコストになりかねない。

 さらに問題を複雑にしているのは、Exchangeの既存バージョンがWindows .NET Serverに対応しないため、ExchangeサーバをWindows .NET Server 2003にアップグレードしたい企業は、Titaniumにもアップグレードせざるを得ない点だ。Titaniumにアップグレードするには定価でCALを購入するしかないとなると、そのコストはExchangeサーバをWindows .NET Serverにアップグレードするのをためらう大きな要因となるだろう。

 最後に、Titaniumの無線ユーザーのライセンス方針がどのようになるか不明だ。現在、Exchange 2000に無線アクセスする場合、無線デバイスごとに個別のMIS/OMA CALが必要だ。Microsoftはまだ、Titaniumに接続する無線デバイスについて、Exchange CALを個別に求めるか、「20%ルール」を適用するかを明らかにしていない(20%ルールとは、2次的なクライアントを使用する時間が全体の20%以下である場合、そのクライアントには追加のCALは不要とする方針)。

Outlook 11

 MicrosoftはOutlook 11にいくつかの新機能を用意している。Outlook 11はTitaniumと同時期に、Officeの次期リリースの一部として出荷される予定だ。

 Microsoftによると、Office 11は前述のとおり、新たに“MAPI-RPC over HTTP”プロトコルをサポートするほか、オンライン/オフラインのモード切り替えがスムーズに行えるように改善される。ラップトップ・ユーザー、在宅勤務者など、ネットワークに常時接続していないユーザーにとって、それは重要なポイントだ。

 Outlookの既存バージョンはExchangeサーバとのネットワーク接続の中断をうまく処理できず、フリーズしたり、再起動が必要になる場合が少なくない。Outlookのオンライン/オフライン動作の改善は恐らく、クライアントサイドのキャッシングのような形で実現されるはずだ。Outlook 2002でも、これと似たLocal Storeという機能の搭載が予定されていたが、その後、計画は取り消されている。

 この新しいキャッシュ・モードのサポートにより、従来の方法でネットワークに接続しているOutlookユーザーの使い勝手も改善されるはずだ。なぜなら、いったんメッセージをワークステーションに保存してしまえば、そのメッセージに再度アクセスしてもネットワークに影響されないため、レスポンス時間の短縮になるからだ。ユーザーが地理的に分散していたり、WANを介して接続している場合など、Exchangeサーバの整理統合と一元管理が大幅に簡略化されるだろう。

 さらにOutlook 11では、ユーザー・インタフェースも一部改善される(新しいOutlook Inboxのスクリーンショットは次の画面「Outlook 11のルック・アンド・フィール」参照)。

Outlook 11のルック・アンド・フィール
Outlook 11のユーザー・インタフェースは、いくつかの点でOutlook 2002と異なる。最も顕著なのは、Inboxのプレビュー画面だ。これまではメッセージ・リストの下に水平に表示されていたが、Outlook 11では右側に垂直に表示される。Outlookのショートカット・アイコンはなくなり、その代わりに左側にFavorite FoldersリストとActive Foldersリストが置かれ、メッセージをドラッグ・アンド・ドロップで分類しやすいようになっている。中央部分では、メッセージをカラー・コード化でき、パーソナライズした基準に従い、メッセージを選別しやすいようになっている。

Kodiakのリリースは2004年以降

 Kodiakのリリースは早くても2004年だ。しかも、MicrosoftはまだTitaniumにリソースを集中させている。そのため、いまの時点ではKodiakに関する情報はほとんどが概略にすぎないが、一部については以下のような詳細も明らかになっている。

SQL Server Yukonがベース

 KodiakはSQL Serverの次期バージョンと同様、新しいYukonストレージ・エンジンを採用し、構造化データ(表形式)と非構造化データ(テキストとデジタル・メディア)の両方を格納できる。Exchangeにとって、現行のWeb Storeと比べてYukonがプラスになるのは、以下のような点においてだ。

  • トランザクション・レベルのロールバック/復旧で、より堅牢なストレージを実現できる。
  • 64bit版のYukonを使用するオプションなど、データベースのスケーラビリティが改善される。
  • Yukonを使用するほかのアプリケーション(SharePointの将来版など)との統合が強化される。
  • そのほかのサーバ(あるいはクライアント)へのデータベース・レベルのメッセージ複製が可能になる。

.NET開発のサポート

 Kodiakのすべてが.NET Frameworkアプリケーションとして動作するかどうかは非常に疑わしいが、Microsoftはその一部を.NET Frameworkに移行する計画だ。CDOは.NET Frameworkのクラス・ライブラリによってリプレースまたは補強される。さらに、OWAは恐らくASP.NETアプリケーションとなる。.NET Frameworkのサポートにより、Exchangeサービスを使用する新規アプリケーションの信頼性は高まり、デベロッパーもプログラムを介してExchangeサービスにアクセスしやすくなるはずだ。

 現在、CDOを使ってExchangeサービスにアクセスするアプリケーションは、同一のサーバで動作している必要がある。いまでもExchange Web Serviceツールキットを使えば、カスタム版の回避策を構築できるが、KodiakにはビルトインのWebサービスが搭載され、別のコンピュータで動作するアプリケーションでもExchangeサービスにアクセスできるようになり、インターネットを介したアクセスも可能となる。

 Kodiakでは開発インターフェイスとストレージ・エンジンが刷新され、Exchange開発プラットフォームは大きく進展することになる。ただし、開発者はKodiakでExchange 2000やTitaniumのすべてのAPIとプロトコルがサポートされるとは期待しない方がいいだろう。End of Article

Directions on Microsoft日本語版
本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。Directions on Microsoftは、同社のWebサイトより定期購読の申込みができます。
 
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