Insider's Eye

ベールを脱いだマイクロソフトの次世代システム・マネジメント戦略(1)

―― マイクロソフト版自律コンピューティング技術として注目されるDSIとは何か? ――
 

デジタルアドバンテージ
2003/04/23

 2003年3月18日、米Microsoftは、DSI(Dynamic Systems Initiative)と呼ばれる情報システム管理の新戦略を発表した。名前から想像できる通りDSIは、情報システムのダイナミズムをさらに高め、より迅速な変化に対応可能にするための戦略である。

 次世代のシステム管理に対する戦略を、IBMは「オートノミック・コンピューティング(autonomic computing)」として、HPは「アダプティブ・コンピューティグ(adaptive computing)」として、Sunは「N1」としてすでに発表している。後発となるマイクロソフトだが、DSI戦略は、同社の特徴を生かして新世代のシステム管理を実現しようとしている。本稿では、ベールを脱いだDSI戦略について見ていこう。

次世代システム管理の必要性

 マイクロソフトが強調する次世代情報システムのキーワードの1つに「Agility」がある。これは「機敏」「敏しょう」という意味で、加速度的に変化するビジネスを支える情報システムは、それ自身が加速度的に進化できなければビジネスの足かせになりかねない、というメッセージだ。

 情報システムの進化がビジネスに変化をもたらし、ビジネスの変化が情報システムの進化を促すというスパイラルによって、両者の変化は加速してきたのは事実である。しかし情報システムには、新しい機能や可能性を追求するという「攻め」の側面だけでなく、出来上がったシステムの信頼性や安全性を高めながら、それを安心して使えるようにする「守り」の側面がある。ITシステムの急速な普及期にあったこれまでは、どちらかといえばシステムの設計や開発といった「攻め」の側面に重点があったといってよいだろう。

 この華やかな「攻め」の影で、「守り」であるシステムの展開や運用管理は後手を強いられてきた。次々と登場する新しいデバイスやテクノロジ、OSやアプリケーションが情報システムに投入され、それらがネットワーク接続されるという複雑なシステムにおいて、運用管理はいつでもTCOや信頼性、可用性などの、情報システム全体の出来不出来を計る厳しい目にさらされる。さらに昨今では、情報セキュリティという重大なリスクのプレッシャーも運用管理に重くのしかかっている。

 そして次は、Webサービス・テクノロジを利用したアプリケーション連携時代がやってくる。これが本格化するには、情報システムはこれまで以上に統合化されなければならない。さまざまなハードウェア・プラットフォームやOS、ミドルウェアが、サービスというレベルで連携し、同時にその信頼性を維持するには、より高度な運用管理が求められることは間違いがない。

 もはやシステムの運用管理は、管理者の努力で対応できるレベルを超えている。運用管理が障害となることなく、情報システムの進化のスパイラルを前進させるには、情報システムの運用管理を含めて、ITライフ・サイクル全体のシステム化や自動化を進めるしかない。

運用管理のニーズを設計・開発段階にフィードバック可能にするDSI

 複雑化するシステム管理の自動化を実現しようとするものが、IBMのオートノミック・コンピューティング(autonomic computing)であり、HPのアダプティブ・コンピューティング(adaptive computing)である。「autonomic」は「自律的な」という意味で、「自律コンピューティング」と呼ばれることもある。一方の「adaptive」は「適応性のある」という意味だ。これらの基本的な発想は、情報システムの内部にシステムの現在の状態をモニタする機能を加え、それらに基づいて情報システムの最適な運用管理をコンピュータ自身に担わせようというものである。

 複雑なコンピュータ・システムの運用管理にかかる労力軽減を目指すという点はDSIも共通しているが、IBMやHP、Sunの戦略が、「システム運用を最適化する管理システム」の開発に重点を置いているのに対し、DSIは設計→開発→展開→運用というITのライフ・サイクル全体を見直すことで目的を達成しようとしている。ゴールは同じだが、底辺にある思想や、ゴールへ至るアプローチはかなり異なるように見える。

 DSIのアイデアは1990年代の中盤に、マイクロソフトの研究開発機関であるMicrosoft Research(MSR)で生まれた。90年中盤といえば、Windows 95やWindows NT 3.5が発表され、PC/ATアーキテクチャの高性能PCが各社から続々と発表されて、情報システムの水平分散が急速に拡大した時期である。比較的低価格なPCを利用して、個々のエンド・ユーザーにリッチな情報環境を提供すると同時に、それまではメインフレームやミニ・コンピュータなど中央に集中していた情報処理能力をクライアント側にも分散して、より柔軟な情報システムを構築可能にした。しかしその一方で、PCの運用管理コストも増え続けた。初期導入コストだけでなく、運用管理も含めたトータルのコストを意識すべきだとして、TCO(Total Cost of Ownership)が注目されるようになったのはご承知のとおりだ。

 前述したとおり、現在のITライフ・サイクルでは、最後の運用管理フェイズに情報システム開発のしわ寄せが集中する場合が多い。これにはいくつかの理由がある。1つは、情報システムの進化が早すぎて、ITライフ・サイクルがこれについていけなくなっていることである。設計・開発段階では最適と考えられた仕様も、やっと情報システムが完成して、運用を開始するころには陳腐化が始まっている。設計・開発段階で検討しなければならないパラメータはあまりに多く、しかも流動的なものが少なくない。また新しいシステムでは、システムを稼働して初めて明らかになるような問題点ある。通常、この段階でもう一度設計・開発フェーズに戻ることは困難である。時間的、金銭的負担が大きいことが最大の理由だが、設計・開発は外部のSI(システム・インテグレータ)が担当することが多いという理由もある。SIからすれば、設計当初の要件を満たすことがシステム開発のゴールだからだ。結果として、運用によって一部の問題を回避しようということになる。

ITライフサイクル
現在のITライフ・サイクルでは、展開・運用時の要求が必ずしも設計・開発段階で盛り込まれない。急速な変化や検討すべきパラメータの多さ、ITライフ・サイクルの長期化などから、展開・運用時のニーズや特性を、設計・開発段階にフィードバックすることが簡単ではないためだ。

 DSIの基本的な発想は、ITライフ・サイクルの後工程である運用管理段階から、個々の情報システムの本当の要求や特性を見出すためのしくみを用意し、それを設計・開発工程にフィードバックできるようにすると同時に、ITライフ・サイクル全体の時間を短縮することで、変化への迅速な対応を可能にするというものだ。

情報システム開発のフィードバックを自動化、円滑化するSDM

 このためマイクロソフトは、開発環境からOS、アプリケーション、ミドルウェア、システム管理ソフトウェアまで、ITライフ・サイクルの各段階をつかさどるソフトウェアに対してSDM(Systems Definition Model)と呼ばれる情報インフラ対応機能を追加する。SDMでは、情報システムに求められる要件を、ITライフ・サイクル全体を通して一元化かつ共有化を可能にするXMLベースのデータをやりとりする。

 例えば、SDM対応の開発環境では、SDMで記述された展開・運用・管理段階で求められる情報システムの要件を読み込み、それらの情報を踏まえて最適なシステム開発が可能になるという。またSDM対応のOSは、システム運用に必要な資源を、利用率やビジネス・ニーズの変化に応じて自動的に割り当てたり、ダイナミックに変化したりできるようになるという。

 SDMの詳細は現時点では不明である。マイクロソフトの開発者のコメントによれば、SDM対応は開発環境(Visual Studio.NET)を皮切りに、OS、そしてシステム管理ソフトウェア(Systems Management Server:SMSやMicrosoft Operation Manager:MOM)に加えられるという。

 SMSはソフトウェア配布や資産管理を可能にする中〜大規模向けシステム管理ソフトウェア、MOMはさらに大規模なエンタープライズ向けのシステム管理ソフトウェアである。現状は異なる製品であるSMSとMOMだが、ユーザー・インターフェイスの統一化やデータの統合化などの段階を経て、将来的には1つに統合されるとしている(統合化バージョンはSystem Centerと呼ばれているようだ)。SDM対応はこのSystem Centerにて行われるが、これに向けた第一歩として、次バージョンのSMS 2003やMOM 2004において、何らかのDSI対応が加えられる予定である。

 DSIは、ITのライフ・サイクル全体に大きな変革をもたらす。本稿の冒頭でご紹介したニュース・リリースにも「今後3年から5年をかけて、このテクノロジをマイクロソフトの全製品ファミリーに順次追加していく予定」とあるとおり、DSIはいますぐに完成されるものではない。

 

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