Insider's Eye

SBS 2003はSMB市場開拓の起爆剤になるか?

―― プレインストール・サーバが10万円を切って登場。多くのITベンダが狙いを定めるSMB市場にSBS 2003は受け入れられるか ――

デジタルアドバンテージ
2004/02/25

 SMBと呼ばれるITビジネスの領域がある。これはSmall and Medium Businessの略で、中小規模事業者を対象とするマーケットである。文脈としては、多数の従業員と大規模な情報システムを擁する、いわゆるエンタープライズほどの規模はない事業者のITシステムを指して使われる。このSMBが、熱く語られるようになったのは最近のことだ。特に顕著なったのは、これまでエンタープライズ・ビジネスに特化してきたITベンダが、こぞってSMBに注力すると声を大にしだしたからだ。

 この背景には、エンタープライズ・ユーザーのIT投資が一服して飽和状態にあり、高い成長を見込めなくなったという理由がある。エンタープライズ・ユーザーと比較すると、SMBにはまだITはそれほど浸透しておらず、開拓できる余地が大きいといわれる。エンタープライズがたっぷり水を含んでいるのに引き換え、SMBはまだまだ水を吸い込む「乾いた布」というわけだ。

 ひと口に中小規模事業者といっても、数名規模のSOHO(Small Office/Home Office)から、上は数百人規模の企業までが含まれる。中小企業庁の説明による「中小企業」の定義は、「資本金3億円以下、または従業員300人以下の会社」となっている(「中小企業白書(2003年版)」より)。この白書によれば、「中小企業」に含まれる国内の会社数は約470万社、これらの中にはいわゆる「1人会社」といわれる個人事業者も多数含まれているが、それを差し引いても約160万社の中小企業がある(2001年調べ。前出「中小企業白書(2003年版)」の付属統計資料より」)。実に広大なマーケットであり、これがまだ十分なIT投資を行っていないとなれば、ベンダが残された市場として注目するのは当然といえるだろう。

 マイクロソフトはこのSMB市場に向け、Windows Server 2003とExchange Server 2003、SQL Server 2000などのサーバOSといくつかの代表的なミドルウェアを安価な1パッケージにしたWindows Small Business Server 2003(以下SBS 2003)の発売を開始した(マイクロソフトのSBS 2003に関するニュース・リリース)。このSBS 2003は、SBSの第3世代製品にあたる(初代はWindows NT Server 4.0をベースとするSBS 4.0/4.5、第2世代はWindows 2000をベースとするSBS 2000である)。正直なところ、過去のSBSは必ずしも市場に受け入れられたとはいいがたい。これに対し今回のSBS 2003では、従来はなかった安価なエントリ版(Standard版)をラインナップに加え、3度目の正直を目指す。SBS 2003の発表会で、過去のSBSの苦戦を記者から指摘されたマイクロソフトの幹部役員は、「今度は本気」と息を荒げた。

 しかしSMBがこれまで未開の地として残されてきたことには理由がある。簡単にいえば、たいした売上にならない割に、手間がかかって利益を確保するのが難しいマーケットだということだ。SMBマーケットの特異性とはどのようなことなのか、この特異なマーケットに対し、SBS 2003で切り込むマイクロソフトにどのような勝算があるのか。マイクロソフトの思惑はともかく、逆にユーザーの視点から見たとき、SBS 2003にどのような活用があり得るのか。マイクロソフトのSBS 2003担当者への取材も交えてまとめてみよう。

廉価版を新たに設定したSBS 2003

 まずはSBS 2003の製品構成をまとめておこう。前述したとおりSBS 2003では、フル・パッケージのPremium Editionとは別に、SQL Server 2000(データベース・システム)とISA Server 2000(ファイアウォール)を省略する代わりに、価格を大幅に引き下げたStandard Editionを追加した。

製品 参考価格
Windows Small Business Server 2003 Premium Editionスタートアップ キャンペーンパック(GroupBoardワークスペース、5CAL付) 28万3800円
Windows Small Business Server 2003 Standard Editionスタートアップ キャンペーンパック(GroupBoardワークスペース、5CAL付) 11万9800円
SBS 2003の製品ラインナップ

 表にあるとおり、当初発売されるのはスタートアップ・キャンペーンパックと呼ばれるキャンペーン版で、本来は別売製品であるGroupBoardワークスペース(9800円)が標準添付される。このGroupBoardワークスペースは、Windows Server 2003に標準添付されるWindows SharePoint Services(WSS)上でスケジュールや施設予約、ToDoなど各種案件管理、掲示板、共有ドキュメントの履歴管理機能などを利用可能にするSharePoint向けWebコンポーネント集である。単体のWSSだけでは、管理者が強力にカスタマイズしないと業務で使うのは難しいが、GroupBoardコンポーネントを使えば、手軽にSharePointテクノロジ・ベースの情報共有が可能になる。

SBS 2003パッケージ
当初はキャンペーンで9800円のGroupBoardワークスペースが添付される

 各SBS 2003パッケージには、クライアント・アクセス・ライセンス(CAL)が5個付いている。CALを追加購入することで、ユーザーを追加することが可能だが、SBS 2003で追加できるユーザー数は最大75までに制限されている(従来のSBS 2000では最大50ユーザーだった)。

 なお、上記は単独のパッケージとしてSBS 2003を購入する場合の価格である。これ以外にもPCベンダ8社から、SBS 2003をプレインストールしたサーバ製品が販売されている(8社の詳細は前出のニュース・リリースを参照)。驚いたことに、ベンダの中には、SBS 2003 Standard Editionをプレインストールしたサーバを8万円台で販売しているところがある。すでにこのSMB向けローエンド・サーバは激しい価格競争の真っ只中にあり、ユーザーとしてはかなり安価にSBS 2003ベースのサーバを入手できる状態にある。特に10万円未満なら、国内の税法上、固定資産にせず一括償却が可能なので、消化用の予算があるユーザーにとっては魅力的だろう。

 各エディションに含まれるソフトウェアをまとめると次のようになる。

ソフトウェア StandardEdition PremiumEdition
Windows Server 2003(ベースOS)
Exchange Server 2003(メール・情報共有サーバ)
Outlook 2003(クライアント・メール・ソフトウェア)
FrontPage 2003(Webサイト作成用)
 
SQL Server 2000(データベース・システム)
 
Internet Security and Acceleration Server 2000 Standard Edition(ファイアウォール)
 
Standard EditionとPremium Editionの違い

 このようにStandardとPremiumの違いは、主にデータベース・システムのSQL Server 2000、ファイアウォールのISA Server 2000を含むかどうかである。どちらもサーバ用途では一般的なものだが、Standard Editionでも、Windows Server 2003に標準で搭載されるMSDE(Microsoft Desktop Engine)をWSS(+GroupBoard)のデータ・ストレージとして利用可能であり、同じくWindows Server 2003に標準搭載のRRAS(Routing & Remote Access Services)を利用すればTCP/IPベースのパケット・フィルタリングが可能である。つまりStandard Editionでも、サーバ用途として最低限のことはできる。ただし、MSDEを使用する場合はWSS内のフルテキスト検索機能は利用できない。

SMBに特化されたSBS 2003の制限

 これまで読み進んで、「そんなに安いのなら、大企業の部内で使う部門サーバとして購入してもいいのではないか」とお考えの方がいるかもしれない。しかしもちろん、Windows Server 2003やExchange、SQL Serverなどの単体パッケージを購入するような大規模ユーザー向けでないことを明確にするため、SBS 2003には主に拡張性の点でいくつかの制限が加えられている。

 1つは、SBS 2003をインストールしたコンピュータは、必ずActive Directory(AD)のルート・ドメインとなり、ほかのドメインと信頼関係を結べないことだ。従って既存のAD環境があるエンタープライズ・ネットワークにSBS 2003コンピュータを持ち込んで、ネットワーク・リソース(ユーザー情報など)を統合することなどは不可能だ。ただし、(負荷分散などのために)ドメイン・コントローラを追加することは可能であり、またドメイン・コントローラではないメンバー・サーバを追加することもできる。SBS 2003で構築したADドメインは、独立したドメインとしてのみ運用することができる。

 2つ目は、前述したとおり、追加できるCALが最大で75までに制限されていることである。前バージョンのSBS 2000では最大50 CALまでだったので若干緩和された格好ではある。

 つまり無制限の拡張を禁止しているわけだ。SBS 2003の制限を超えて拡張が必要なら、単体のWindows Server 2003やExchange Server、SQL Serverパッケージを購入して、ネットワークを構築することになる。SBS 2003ユーザー向けのTransition Packと呼ばれるパッケージを購入すれば、SBS 2003に含まれる各ソフトウェアを単体製品として使用できるようになる。

 なお、前バージョンのSBS 2000のユーザーは、SBS 2003を上書きインストールすることで、現在の環境を引き継いでバージョン・アップグレードを実施することができる。

SBS 2003の機能強化点

 SBS 2003で新たに搭載された機能や機能強化点は数多い。このうち何が重要かはユーザーによっても異なるだろうが、主要なものをまとめると次のようになる。

新機能/強化された機能 内容
統合セットアップ SBS 2003に含まれるすべてのコンポーネントを必要に応じて取捨選択しながらインストール&セットアップが可能
サーバ管理ツールの強化 ウィザードなどで、より少ない工数と専門知識でSBS 2003ベースのサーバを管理可能にするツール
監視の構成ウィザード CPUやディスク使用率などが設定したしきい値を超えたときに管理者に通知する
ファイアウォールの設定ウィザード ブロードバンド+PPPoEを組み合わせた直接接続か、ほかのルータを経由した接続かなど、インターネットの接続形態に応じて適切なファイアウォール設定を支援してくれる機能
リモート・アクセス・ウィザード 管理者がモデムやVPNを利用して遠隔地からサーバにアクセスし、管理作業を実行可能にするためのウィザード
リモートWebワークプレース ユーザーが遠隔地からSBS 2003サーバの各種機能にアクセスできるようにダイナミックに作成されるWebサイト。具体的には、Outlook Webアクセス、WSS、リモート・デスクトップにアクセスできる
WSS(+GroupBoard) チーム・メンバ間のWebベースの情報共有プラットフォームであるWindows SharePoint Services。さらにキャンペーン・パッケージにはインストールするだけですぐに使えるコンポーネント集であるGroupBoardが付属する
最新のメッセージング環境 SBS 2003は、最新のメッセージング・ソフトウェアであるExchange Server 2003とOutlook 2003を含んでいる。特にWebブラウザだけでリモートからExchange Serverにアクセス可能なOWA(Outlook Web Access)の使い勝手が大幅に改善されている
SBS 2003の主要な新機能/機能強化点

 以前からSBSの大きな特徴は、特別な専門知識がない管理者が、サーバであるSBSをセットアップし、日常の運用管理を実施できるようにするための各種支援ツールが充実していることだ。SBS 2003では、これがさらに強化された。外部のインターネットに向けたメール・サーバやDNSサーバをセットアップするには、どうしてもTCP/IPやDNSなどに関する基本的な知識が必要だが、社内でファイル/プリント・サーバやWSSベースの情報共有サーバとして使う程度なら、ウィザードに従うだけで容易にセットアップができる。

SBS 2003の管理ツール
サーバで行うべき作業はすべてこのサーバの管理ツールに集約されている。右下はサーバの稼働状態をモニタしてメールなどで報告するヘルス モニタの管理画面。

 リモート管理機能の強化は、SBS 2003を利用した中小事業者向けシステムを導入し、以後の管理/メンテナンス業務も請け負うインテグレータにとって特に重要だろう。中小事業者の多くには、高度なIT知識を持った専門の管理者はいない。このためその場にいれば簡単に解決するようなつまらないトラブルでも、現場に出向いてサポートしなければならないことが少なくない。このような手間がどれだけかかるかは、インテグレータの利益率を直撃することになる。SBS 2003のリモート管理機能の強化は、こうしたインテグレータが多くの顧客先のシステムを効率よく管理し、ヘルプデスク業務をより少ないコストで実施できるようにするだろう。もちろん、エンド・ユーザー管理者が自宅や外出先からサーバを管理するためにも活用できる。

 複数のデスクワーカー(マイクロソフトのいうインフォメーション・ワーカー)の間で、従来からの単純なファイル共有/プリント共有からさらに一歩進んだ情報共有を行い、知的労働の生産性やクリエイティビティを高めるためにSBS 2003を使おうと考えているエンド・ユーザーにとっては、WSS(Windows SharePoint Services)が大きなインパクトを持つだろう。これは、.NETベースのWebアプリケーション技術であるASP.NETで構築されたチーム・コラボレーション・プラットフォームで、ユーザーがカスタマイズにより、独自のポータル・サイトを簡単に構築できるようにする。WSSは、WebブラウザであるIEでアクセスできることはもちろん、Office 2003との連携機能を持っており、リッチ・クライアントとなるローカル・アプリケーションを利用したリッチなユーザー・インターフェイスと組み合わせたり、情報を同期してWSSの情報をオフライン時も参照したりできるようにする。

 すでに述べたとおり、当初SBS 2003にはキャンペーンとしてGroupBoardワークスペースが添付される。このGroupBoardは、日本独自に企画され開発されたソフトウェアで、前バージョンは.NET Framework上のWebアプリケーションのサンプルとして、ソース・コードも公開され、無償提供されていた。しかし今回より、SharePointプラットフォームに対応したWebコンポーネント集(Webパーツと呼ばれる)として生まれ変わり、同時に有償パッケージ販売されることになったものだ。編集部で前バージョンのGroupBoardを評価した結果は、サンプル・プログラムとしては力作と呼べるものの、実用性は極めて限定的だった。しかし今回の新しいGroupBoardは、有償製品になるだけのことはあり、十分実用でも使えるレベルにある。これらWSS+GroupBoardの詳細については、別の記事を提供する予定なのでご期待いただきたい。取りあえずテストから始まり、編集部の情報共有ポータルとして機能しつつあるのが下の画面である。

GroupBoardで構築した社内ポータルの例
テスト・レベルから実運用レベルに移行しつつある編集部のGroupBoardベースのポータル・ページ。DA Workshopと命名した。構築の実際については、別に詳細レポートをお届けする予定である。

 SBS 2003にはメッセージング・サーバであるExchange Server 2003も同梱されており、このExchangeとOutlook 2003を組み合わせれば、スケジュールの共有や共有フォルダの利用が可能である。これらの一部の機能はWSS+GBのそれと重複するが、これについてマイクロソフトの担当者は、「Exchange ServerはWSSに比較すると重い。また今回ターゲットとするような小規模環境では、Exchange Serverによるメール機能は必ずしも必要ないかもしれない。従ってWebベースで軽量に使えるものがよいというならWSS+GB、メール・サーバやさらに本格的なOfficeとの連携を考慮するならExchange Serverを選択していただきたい。不要であれば、Exchange ServerをインストールせずにSBS 2003をセットアップすることが可能である」と述べた。

マイクロソフトが考える国内SBS 2003マーケット

 冒頭で述べたとおり、複数の従業員を抱える国内の中小事業者はざっと160万社に登る。しかし前出の統計資料では、中小企業の定義を従業員300人以下としているが、数名規模の会社と数百名規模の会社では、ITに求める機能や予算、ユーザーのITリテラシーなど、実際のIT事情はかなり異なるはずだ。そこでマイクロソフトでは、国内のSMBマーケットをさらに以下の4つに分類している。

  1. PCすらない。
  2. スタンドアロンのPCがある(PCはあるがLANはない)。
  3. 複数のPCがあり、それらがPeer to Peerで接続されたLANを構成している。
  4. 複数のPCとネットワークがあり、サーバもある。

 マイクロソフトは、SBS 2003の主要なターゲットは3.とにらんでいる。担当者の説明によれば、ここに含まれる企業数は中小事業者全体の20〜25%程度、160万社を母数として単純計算すると32万〜40万社ということになる。そしてほとんどの場合、エンド・ユーザー企業には専任のネットワーク管理者はおらず、インターネットは利用していたとしても、LAN全体を接続するのではなく、個々のユーザーがダイヤルアップなどでISPを利用していると想定している。つまりこの市場では、エンド・ユーザーに直接販売するのではなく、マイクロソフトのパートナー企業が導入と運用をサポートするという前提である。これらパートナー企業に対しては、セットアップの容易さや充実した管理ツール、強化されたリモート管理機能などをアピールしていくことになるだろう。サポートやヘルプデスク業務にかかる人的コストに見合う売上をあげられるかどうか、パートナー企業が自社のアプリケーション(中小事業者向け会計パッケージなど)を拡販するためのプラットフォームとしてSBS 2003が機能するかどうかがポイントとなる。

 しかしマイクロソフトは、主流ではないが、SBS 2003のパッケージやプレインストール・サーバを直接購入するエンド・ユーザーもいると見る。これはWindowsサーバやネットワーク、Exchange ServerやSQL Serverをある程度自分で使いこなせるスキルを持つエンド・ユーザー管理者で、これまでもWindows NTやWindows 2000ベースのサーバを独自に構築し、カスタマイズして利用しているようなユーザーである。こうした管理者は、ある程度の規模以上の企業や、規模は小さくてもITリテラシーの高い人たちが集まった若い企業などにいるものと考えられる。この市場に対しては、既存システムの置き換え需要に応えられるかどうか、SBS 2003によってもたらされる新機能により、TCOの削減や生産性向上が可能になるかどうかが問われるだろう。特にデスクワーカーについては、次世代の情報共有プラットフォームとしてWSSがアピールできるかどうかがポイントになるものと思われる。

気になるSBS 2003とセキュリティの関係

 管理者として気になる点として、SBSのホットフィックス・サポートがある。SBSにはWindowsサーバ(SBS 2000ならWindows 2000 Server、SBS 2003ならWindows Server 2003)やExchange Server、SQL Serverなどが含まれており、これらのソフトウェア向けに脆弱性を解消するためのホットフィックスが複数提供されている。基本的に、SBSに含まれるソフトウェアは単体パッケージ版と同等なので、ホットフィックスについても単体パッケージ版向けのものをそのまま適用できると考えられるが、少なくとも現時点では、ホットフィックスの適用対象ソフトウェアとしてSBSは明記されていない。つまり現状では、SBSへのホットフィックス適用に関するリスクは、すべてユーザーまかせになっている。この点に不安を感じている既存のSBSユーザーもいるだろう。

 この点をマイクロソフトの担当者に確認したところ、「SBSに含まれるソフトウェアに対するホットフィックスは、単体製品版をそのまま適用可能であり、サポートの対象にもなる」とのコメントを得た。実際、手元の環境では、Windows Updateを使って各ホットフィックスを適用することが可能であった。

 SBS 2003の大きなメリットは、1台のサーバで社内向けのActive Directoryドメイン・コントローラ、ファイル/プリント共有サーバ、SharePointベースの情報共有サーバとして機能することに加え、これをインターネットに接続すれば、インターネット向けのDNSサーバ、メール・サーバ(Exchange Server)、Webサーバ(IIS 6.0)としても機能できることだ。つまり、中小事業者のITニーズを、1台の安価なサーバで手軽に満たしてくれるというわけだ。

 技術的には、このような使い方は可能である。しかしたとえパケット・フィルタリングなどの機能を利用してファイアウォールを構築できるとしても、Active Directoryのドメイン・コントローラであるサーバをインターネットに直接接続し、外部からのアクセスにも応答するというのは危険が大きい。万一ファイアウォールを突破された場合、社内のすべての共有資源が窃取や破壊の危険にさらされる。前バージョンのSBS 2000においても、マーケティング資料には「1台ですべて」といった意味あいのうたい文句がありながら、管理者向けのホワイト・ペーパーでは、「ADドメイン・コントローラとインターネット向けのDNSサーバを1台で構築するのはリスクが高く推奨できない」といった表現があるなど、突き詰めていくと腰が引けている部分もあった。マイクロソフトのSBS 2003担当エンジニアは「用途によってはそうした構成も十分に可能」とコメントしたが、前挙の問題はSBS 2003においても根本的には変わっていない。SBSに限らず、手軽さとセキュリティ・リスクは多くの局面でトレードオフになる。導入担当者は、この点を十分検討してシステム構成を決定する必要があるだろう。

SBS普及のカギは?

 一部拡張性に制限はあるとはいえ、WindowsサーバOSとメッセージング・サーバ、データベース、ファイアウォールなどを1パッケージにし、低価格を実現したSBS 2003は、マイクロソフトが想定する「Peer to Peerネットワークはあるがサーバはない」というSMB環境に対し、魅力的なソリューションを提供するだろう。しかし専任管理者がいないこれらの環境に積極的に導入が進むかどうかは、インテグレータなどのパートナー企業がどれだけSBS 2003に魅力を感じられるかにかかっている。「売ったはいいが、その後手間ばかりかかって利益が出せない」ということになれば、積極的に扱うパートナーは現れないだろう。逆に十分な利益が出せると踏めば、「乾いた布」であるSMB市場に向けて、一気に導入が進む可能性もある。これには、多くの業種や規模に通用するサービスとサポートのパッケージ化がどこまで進められるかが鍵を握るだろう。

 マイクロソフトは強調しないが、SMBに限らず、SharePointテクノロジを利用した新しい情報共有プラットフォームの試用環境として、安価かつ手軽に関連ソフトウェアがそろうSBS 2003を利用してみようと考える管理者がいるかもしれない。SharePointベースの企業ポータルをトップダウンで導入するケースもあるが、現場レベルでの生きた情報共有は、やはり現場でなければ分からないポイントがある。そして困ったことに、現場のユーザーも、作業の生産性を向上させたり、クリエイティビティを向上させたりするポイントについて、あらかじめ理路整然と説明できるわけではなく、実際に使ってみて気付くということが少なくない。つまり試してみないと分からないというわけだ。Windows NT 4.0で試験的に初めてのLANを導入し、そのまま定着してしまったネットワークも少なくないようだ。こうしたボトムアップ的なアプローチが、LANからSharePointにターゲットを変えて、再び繰り返される可能性があるかもしれない。ただしこの場合でも、SBS 2003は既存のADとは連携しないので、SBS 2003は独立したドメイン・コントローラとして、別途ユーザー管理などを行う必要がある。とはいえ十数人規模の実験的なプロジェクト程度なら、運用の負担もたいしたことはないだろう。そしてより大規模な環境で本格的に使うなら、SBS 2003から単体のWindows Server 2003(およびExchange Server 2003、SQL Server 2000)へのスケールアップを検討すればよい。

 SBS 2003が成功するかどうかは未知数だが、2004年はSMBを取り巻くIT環境が大きく変わる1年になることは間違いなさそうだ。End of Article

  関連リンク
  中小企業庁
  中小企業白書(2003年版)(中小企業庁)
  中小企業白書(2003年版)の付属統計資料(中小企業庁)
  SBS 2003に関するニュース・リリース(マイクロソフト)
     
 「Insider's Eye」


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