Insider's Eye

Sun−Microsoft全面和解の背景と今後

―― 「信用できない敵」から「パートナー」への転換 ――

Matt Rosoff
2004/05/26
Copyright (C) 2004, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.


本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌『Directions on Microsoft日本語版』2004年6月15日号 p.47の「Sunとの全面和解で迎える「協調」と「競争」の新ステージ」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 長年にわたる敵対関係の末、Sun MicrosystemsとMicrosoftは係争中のすべての訴訟で和解に至り、技術提携に合意した。この総額19億5000万ドルの和解合意により、Microsoftは訴訟に伴うイメージダウンを回避し、特許権の状態を強化できるほか、恐らくそのほかの独占禁止法訴訟における立場も強化できるだろう。一方のSunは、ほとんど無尽蔵ともいえる莫大な資金力を持つ敵を相手に、これ以上、費用のかさむ法廷闘争を続けずに済むことになった。またMicrosoftからの現金注入は、Sunがハイエンド・ハードウェアの専門ベンダから、より多角的な企業へと移行を図るうえで役立つだろう。一番重要なのは、今回の和解合意が相互運用性の改善を求める双方の顧客からの要望に応えている点だ。ただし、Javaと.NETプラットフォームは今後も競争を続け、両社は異なるOSを支持し続けることになるはずだ。

 両社の和解合意は2004年4月5日、Sunの最高経営責任者(CEO)スコット・マクネリ(Scott McNealy)氏とMicrosoft CEOのスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏による共同記者会見で発表された(マイクロソフトのニュースリリース「マイクロソフトとサンが包括提携をし、係争の和解に合意」)。両氏は和解合意の出発点として、双方の知的財産、とりわけ特許を尊重する重要性を指摘した。

和解合意がもたらすもの

■訴訟全般を終結に
 Sunは7億ドルの和解金と引き換えに、対Microsoftの民事独禁法訴訟を終結した。これで、Microsoftを相手取った独禁法訴訟の原告として残っているのはBurst.comだけとなる。Burst.comの訴訟は、2006年までにメリーランド州の連邦地方裁判所で審理が行われる予定だ。Microsoftはすでに、AOL Time WarnerおよびBeとの独禁法訴訟のほか、「不当な値段を払わされた」として同社を訴えていた個人ユーザーらによる集団訴訟でも和解に達している。

 Sunはまた、この和解合意をもって、同社が欧州の独禁法規制当局に申し立てた苦情はすべて解決されたことになると発表した。欧州委員会(EC)はSunからの苦情申し立てを受けて1998年にMicrosoftに対する調査を開始し、最近、6年間に及ぶ調査を終え、Microsoftに6億1300万ドルの罰金支払いといくつかの是正措置を命じる裁定を下している。Microsoftはすでに上訴を決めている(詳細については、『Directions on Microsoft日本語版』 2004年5月号p.13の「速報 欧州委員会(EC)による独禁法訴訟の衝撃、なぜ和解交渉は決裂したのか?」を参照)。

 さらに、Microsoftは特許問題の和解金としてSunに9億ドルを支払い、両社とも今後、過去の特許侵害問題を理由に損害賠償金の支払いを求めないことで合意した。これにより、Sunが今後新たに特許侵害訴訟を起こす動機は減じられることになる。またMicrosoftは今後Sunに毎年定額を支払うことで(総額は最高4億5000万ドルに達すると見られている)、この取り決めを最高10年間延長することもできる。Microsoftが10年間支払いを続けた場合、両社は自動的に相互特許の無期限の使用契約を結ぶことになる。また、それ以前に両社が無期限の特許相互使用契約を結んだ場合には、現行の取り決めは解消されることになる。

 さらにSunはMicrosoftのJava仮想マシン(JVM)に関して、すでに顧客が導入している製品については、セキュリティ・パッチの提供など、サポートの継続を認めることに合意している。これは、両社の法廷闘争で最大の問題となっていたポイントだ(JVMは、Javaベースのアプリケーションを基底のOSと連係させるための媒介ミドルウェア層。SunとMicrosoftは長らく、部分的にしか互換性を備えていない異なるバージョンのJVMを提供している)。

■進む技術ライセンス
 MicrosoftはSunの技術を自社製品に組み込むために、前金として3億5000万ドルを支払う(これは、特許関連の和解金とは別物だ)。一方、SunもMicrosoft Communications Protocol Program (MCPP)の一環で提供されている通信プロトコルを含め、Microsoft技術のライセンスを受けることになる。MCPPはMicrosoftが米司法省(DoJ)との和解条件に従い、立ち上げたプログラムだ。SunはMicrosoft技術を自社製品に組み込んだ時点で、ライセンス料を支払うことになる。

 さらに、IntelのXeonプロセッサを搭載したSunのサーバはすでにWindows認定を受けており、AMDのOpteronプロセッサを搭載したサーバに関してもWindows認定のプロセスが進行中という。これにより、顧客はこうしたサーバに自分のWindowsをインストールしても、Microsoftからサポートを受けられることになる。ただし、SunはWindowsのOEMにはならないようだ。

Sun製品とWindowsクライアントが連携

 両社は、製品の相互運用性の強化に向けて協力する。まず、Sun製品とWindowsクライアント/サーバとの間で情報をやりとりできるようにする。特に認証、権限付与、ID管理などの分野に重点が置かれる。また両社は今後の技術協力の分野として、メール、データベース、Javaと.NETベースのアプリケーションのそれぞれにおける相互運用性の改善などを挙げている。

 技術協力をめぐる合意内容の詳細は明らかにされていないが、両社によれば、Microsoftのチーフ・ソフトウェア・アーキテクトのビル・ゲイツ(Bill Gates)氏とSunの最高技術責任者(CTO)のグレッグ・パパドペロス(Greg Papadopoulos)氏は、すでに2003年の秋ごろから相互運用性の実現に向けた枠組みについて話し合いを進めており、このプロセスに両社のエンジニアが新たに加わることになりそうだ。ことによれば、今回の和解合意により、SunはMicrosoftにとって“信用できない敵”から“パートナー”へと変わることになるかもしれない。

敵対関係を終わらせたい理由

 両社の長くて興味深い敵対関係の歴史を考えると(実際、マクネリ氏は講演の際に常に何かしらMicrosoft批判の毒舌発言をすることで知られており、またバルマー氏もかつてマクネリ氏のことを「現実離れした2つの標準偏差みたいだ」とやゆしたことがある)、両社が妥協点を見つけられたというのは驚くべき事実だ。それでもやはり、両社には敵対関係を終わらせたいそれなりの理由があった。

■共通の顧客と利害関係
 Microsoftの大手企業顧客のほとんどは、Sunの顧客でもある。こうした顧客は両社に対し、相互運用性の問題の解消にもっと力を入れるよう、繰り返し要望してきた。両社製品に相互運用性がないために、顧客の側に余計なコストがかかってしまうからだ。企業のIT予算縮小の影響を実感しているSunとMicrosoftにとって、こうした大手顧客の要望に応えることは、「Microsoftはセキュリティの目的でJVMを更新できるか」といった、ほとんどの顧客にとって重要ではない基本原則をめぐって争うよりも、はるかに重要な課題となってきた。

 さらに両社は、現行のインストールに十分に満足してアップグレードを不要と考える顧客の増加にも悩まされている。MicrosoftとSunは、特にWebサービスなど、完全に確立していない未完成の技術で協力することで(Webサービスは基底で必要となるプロトコルの多くがまだ確立していないため、企業間の取引には広く普及していない)、こうした主要技術を推進し、ひいては双方の顧客にアップグレードを促せることになるだろう。

 

 INDEX
  Insider's Eye
  Sun−Microsoft全面和解の背景と今後(1)
    Sun−Microsoft全面和解の背景と今後(2)
 
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