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Windows Vistaの新しい印刷プラットフォーム“Metro”

―― Metro対応プリンタで出力パフォーマンスを最大に ――

Greg DeMichillie
2005/08/03
Copyright (C) 2005, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.

 Longhorn(開発コード名)の正式名が“Windows Vista”となることが発表されました(ニュースリリース[英文])。このためタイトルでは“Windows Vista”という名称を使用しましたが、本文中では、オリジナル版の表記である“Longhorn”をそのまま使用しています。ご了承ください。

本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌『Directions on Microsoft日本語版』2005年8月号p.29の「Longhornでプリント・パスを改良、Metroが超高解像度出力を可能に」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 次期Windows(コード名:Longhorn)に、現在のWindowsの印刷アーキテクチャが持つ制限を解消する新しい印刷API、印刷フォーマット、印刷ドライバが実装される見込みだ。この変更により、パフォーマンスが向上するだけでなく、より高品質の出力結果が得られるようになる。新しいプリント・パスは既存のアプリケーションおよびデバイスとの下位互換性を維持するが、最高の出力結果を得るには、新しいAPIを使用するアプリケーションと新しいフォーマットをサポートできるプリンタが必要になるだろう。

新プリント・パス、Metroの効用

 Windowsアプリケーションから画像やテキストを印刷出力するには、いくつかのコンポーネントが必要だ。すなわち、アプリケーションが出力を生成するために使用するAPIセット、プリンタ側の準備が整うまでこの出力を保持しておくスプーリング・システム(これにより、バックグラウンドでの印刷が可能になる)、スプーラが使用する汎用フォーマットからプリンタが使用する特定のグラフィック・コマンド(一般にページ記述言語またはPDLと呼ばれる)に印刷データを変換する印刷ドライバである。これら一連の印刷用コンポーネントを併せて、「プリント・パス」と定義している。

 MicrosoftはLonghornに新しいプリント・パスを導入することで、現在のプリント・パスであるWin32 API、Enhanced Metafile(EMF)スプール・ファイル、Graphical Device Interface(GDI)ドライバの持ついくつかの制限の解消を図っている。Longhornの新しいプリント・パスは、コード名「Metro」と呼ばれるもので、以下の3つのコンポーネントで構成される。

  • アプリケーションがより柔軟に出力を調整できる新しいAPI
  • 現行フォーマットの持つ制限を解消する新しいスプール・フォーマット
  • Metro対応の新しいプリンタおよびドライバ

■新しい印刷APIはWinFXの一部に
 新しい印刷APIは、Longhornでの提供が予定されているAPIセットのWinFXに含まれる見込みだ。この新しいAPIを利用すれば、アプリケーションが出力の状態をより詳細に記述できるようになる。例えば、現在のGDI APIではグラデーションがサポートされていない。Win32アプリケーションでは、青から黄色へのグラデーションで塗りつぶされた四角形を印刷する場合、目的の出力結果を表現したビットマップを生成する必要がある。一方、WinFXアプリケーションの場合は、グラデーションの両極の色(この例では青と黄色)を指定するだけでよい。このため、スプール・ファイルに格納するデータ量が少なくなるほか、目的の出力結果を生成するための最適な方法をデバイス側で判断できるようになる。

 ただし、WinFXを利用するには、.NET Frameworkを使用するようにアプリケーションを設計する必要がある。Microsoftは現在のWin32 APIに(.NET Frameworkベースではなく)ネイティブ・アプリケーションを「Metro対応」にする改良を施し、新しいMetro機能の一部を利用できるようにすることを計画している。

■最新デジカメの解像度に対応
 Metroスプール・フォーマットは、現在のスプール・フォーマットに比べていくつかの点で優れている。まず、Metroでは「16bit/チャネル」と呼ばれる高解像度カラー・フォーマットがサポートされる。コンピュータでは、赤、緑、青の3色の量を調整して組み合わせることで色を表現している。こうして表現された各色は「チャネル」と呼ばれるが、Win32のEMFスプール・ファイルは8bitを使用して各チャネルを表現する。従って、合計で1600万色の表現が可能である。1600万色というとかなりの色数に聞こえるが、最新のデジタル・カメラやプリンタは16bit/チャネルの色情報を扱うことができる。しかし現在のプリント・パスは、16bit/チャネルをサポートしていないため、このレベルの色情報は下位変換する必要がある。その結果、例えば特に雲と空の画像のような繊細なグラデーションが使われている画像では、モザイク状の出力が生成されてしまうことが多い。

 また、新しいフォーマットでは、スプール・ファイルにカラー・プロファイル(カラー・プロファイルは、個々のデバイスの色特性データを業界標準データにマップすることで、デバイス間の色変換を容易にするためのもの)を埋め込むことができる。プロの印刷関係者やグラフィック関係者は、このカラー・プロファイルを使用して、使用する各種ディスプレイ、プリンタ、紙、インク間の色表現の違いを吸収している。プロファイルをスプール・ファイルに埋め込むことで、プリンタ・ドライバおよびプリンタが、目的の色をより正確に再現できるようになる。

 そのほか、現在のEMFファイル・フォーマットが持つ2Gbytesのサイズ制限が、新しいスプール・フォーマットでは取り除かれる。一般のユーザーにとってはこの制限が問題になることはないと思われるが、超高解像度のプリンタを使用し、サイズの大きい用紙に印刷を行うプロの印刷の現場では、大きな印刷ジョブを小さなタスクに分割しなければならない場合がある。

■Metro対応プリンタの開発を呼び掛け
 Microsoftはプリンタ・メーカーにMetro PDLをネイティブで解釈できるプリンタの開発を働き掛けている。Metroではスプール・ファイルから最終的な出力を行うプリンタまで同じフォーマットを使用するため、印刷データを変換する必要がない。従って、プリンタ・ドライバの開発が容易になる。また、スプール・ファイルの内容を保存し、Microsoftが提供するMetro用ビューアを使用して後からこれを参照することもできる。

 ただしMetroプリント・パスは、Windows XP、Windows Server 2003、Longhornでしか提供されない見込みである。このため、Windows 2000やLinux、Mac OSなどのプラットフォームのサポートを検討しているプリンタ・メーカーは、目的のプラットフォーム用に独自のMetroドライバを開発するか、Adobe Postscriptなど代わりのPDLも併せてサポートするプリンタを開発する必要があるだろう。

現行Win32プリント・パスもサポート

 新しいプリント・パスの真価が発揮されるのは、Metro対応の新しいアプリケーションとプリンタを使用する場合のみになるだろう。ただし、MicrosoftはMetroとGDIとのAPI間の変換を行うコンバータの提供を計画している。このコンバータを利用すれば、既存のWin32アプリケーションは新しいMetroベースのプリンタに、新しいMetro対応アプリケーションは既存のプリンタに出力できる。

 Microsoftによると、印刷品質とパフォーマンスについては、WinFXアプリケーションからMetroベースのプリンタに出力した場合、最も優れた品質とパフォーマンスが得られるとしている。これは、データ変換が必要ないうえに、APIとスプール・ファイルの機能改良による恩恵をフルに享受できるためである。Win32アプリケーションから既存のプリンタへの出力については、基本的に既存のプリント・パスが変更されないため、特に変化は見られないだろう。

 ただし、GDIからMetro、MetroからGDIへの変換を伴う印刷については、印刷品質とパフォーマンスに違いが見られる。どちらの場合も、純粋な現在のWin32パスより品質もパフォーマンスも向上すると予想される。これら2方向の変換同士を比べた場合は、印刷速度に関してはGDIからMetroへの変換の方が、品質に関してはMetroからGDIへの変換を行う方がより優れた結果が得られると考えられている。両変換間の印刷速度と品質の差異の詳細については、現時点では不明である。End of Article

[コラム]
Longhornのプリント・サブシステム

 図は、Longhornでの提供が予定されているプリント・パスである。最上部は、現世代のAPI(Win32)用に作成されたアプリケーションと、Longhornに搭載予定の新しい.NET API(WinFX)対応の2種類のアプリケーションを表す。最下部は、既存のGraphical Device Interface(GDI)ベースと新しいMetroベースの2種類のプリンタおよびドライバである。

 最初のパスは、現在のパスである。Win32アプリケーションからの出力が、Enhanced Metafile(EMF)スプール・ファイルにキャプチャされ、ここからGDIプリンタ・ドライバに送られる。これに加えLonghornは、2種類の自動変換もサポートする予定だ。1つは既存のWin32アプリケーションの出力を新しいMetroベースの形式に自動で変換し、もう1つは、WinFXアプリケーションの出力をEMF形式に変換するもの。最後のは、新フォーマット対応のアプリケーションから新しいデバイスへ印刷データを送る完全なMetroプリント・パスである。この場合、アプリケーションからデバイスに転送されるまで印刷データは一貫してMetroフォーマットで処理される。

Metro導入後の印刷データ・フロー
 
Directions on Microsoft日本語版
本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。『Directions on Microsoft 日本語版』は、同社のWebサイトより定期購読の申し込みができます。

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