「MSは変わる」
は本当か?

―― 「IT Proへのマニフェスト」に見るマイクロソフトの本気度 ――

マイクロソフト株式会社
IT Proオーディエンスマーケティング&セキュリティ戦略グループ
シニアマネージャ
吉川 顕太郎 氏

聞き手:Windows Server Insider編集長 小川 誉久
2005/11/17


音声コンテンツの配信
 
前編 (2005/12/09)
  後編 (2005/12/12)

  マイクロソフトが、情報システム設計者、運用管理者を対象に、「IT Proへのマニフェスト」と呼ばれる新しいプロジェクトを発表した。このマニフェスト(公約)は12月1日に公開される予定である。

 マニフェスト(manifesto)といえば、選挙を前に政党が掲げる公約として広く知られている。「IT Proへのマニフェスト」とはいったいどのような施策なのか。そのような取り組みを実施する背景には何があるのか。今回の施策を担当するマイクロソフトの吉川顕太郎氏に話を伺った。

「IT Proへのマニフェスト」とは?

―― 「IT Proへのマニフェスト」とはいったいどんなプロジェクトでしょうか。

 

吉川:インターネットなどを利用した双方向コミュニケーションの中で広く顧客の要望を聞き、実現可能なものをマニフェストとして公約して、実現していこうという施策です。マニフェストとして事前に顧客に通知し、その進ちょくを評価してもらえるようにします。四半期に1度程度のペースで進ちょく状況をご評価いただき、その結果を次のマニフェストに反映します。こうしたプロセスを構築することで、顧客は自分の声がマイクロソフトに届いていると確信でき、マイクロソフトとしては顧客の声を正しくとらえていると確信できるようになると考えています。

―― 対象は「IT Pro」ということですが、そもそもこの「IT Pro」とはどんな人を指すのでしょうか。システムの運用管理者という意味でよいのでしょうか。

 

吉川:企業の情報システムにかかわるIT関連業務の担当者で、ソフトウェア開発者以外の方を指しています。

―― 情報システムのライフサイクルでいう「システム企画/設計→開発→展開→運用・管理」から、「開発」以外を担当するIT技術者ということでしょうか。

 

吉川:そうですね。それ以外にも、例えば企業のヘルプデスク担当者などもIT Proの範疇に入れています。

―― IT Pro、特に日本のIT Proは、マイクロソフト製品に非常にネガティブな印象を持っている人が少なくないという声があります。

 

吉川:ソフトウェア開発者は新しいものを作り上げることが仕事であり、新しいテクノロジに触れる環境に恵まれています。一方IT Proは、新しいものを作っていくというより、既存のシステムを維持・運用して、結果責任を問われる仕事です。順調に動いているときには認められないのに、何か起きると激しいクレームが寄せられる。とてもワクワクするような環境とはいえません。そういう中で、マイクロソフト製品はバージョンアップやサポート・ライフサイクルが短いとか、セキュリティ・パッチを毎月リリースするとか、顧客の神経を逆なでするような部分があり、とりわけそれが日本で厳しく受け止められている側面があります。このようなIT Proの仕事環境をいかに改善して、ワクワクできてIT Proであることにプライドが持てるような環境にするか。それらを皆さんとつくっていくことが、非常に重要だと思っています。

―― これまでマイクロソフトは、そうしたIT Proに対して十分な支援ができていなかったということですか。

 

吉川:そうですね。

日本独自のアプローチが不足していた

―― 「IT Proへのマニフェスト」というのは、IT Proに対するマイクロソフトの新たなメッセージだと思いますが、これが日本独自に展開されるということは、特に日本でネガティブな印象を持つ人が多いと感じているのですね。マイクロソフトの過去のアプローチには、いろいろと問題もあったと考えているのでしょうか。

 

吉川:アジア全体といえるかもしれませんが、欧米と比較して、日本はITに関するガバナンス(統治)があまり利いていない国だと認識しています。CIO(最高情報責任者)にあまり力がない国、ともいえるでしょう。このITガバナンス不在が、結果的にIT Proへのしわ寄せとなっているところが多々あります。IT Proの仕事環境を改善するために、IT Pro向けの技術情報を提供するだけでなく、経営層も含めてもっと幅広く業界に働き掛ける必要があることが分かりました。これまで、このような働き掛けは十分ではなかったと思います。

製品のバージョンアップ・サイクルが速すぎる

―― ユーザー取材などをすると、マイクロソフトの企業としての戦略や製品開発のアプローチ、競合製品への非情な戦略などについて、マイナス・イメージを持っているIT Proに出会います。「過去に反省すべき点があった」ということですが、もう少し具体的な反省点はありますか。

 

吉川:多々あります。例えば、新しい製品が出ると、旧製品への情報サポートがおろそかになった、情報はあるけれど見つけにくくなったという意見をよく耳にします。ユーザーにすれば、興味があるのは自分がいま使っている製品であって、最近マイクロソフトが発売した製品ではないのです。そういう声を聞いていながら、直接目に見える形では対処できていませんでした。

―― いま現在マイクロソフトは、メインストリームのサポートは最短5年、サポート技術情報などのオンライン・セルフ・サポートは最短10年と発表しています。しかしWindows 95やNT 4.0の時代には、きちんとしたライフサイクルは規定されていませんでした。当時のイメージを持つ人は「新しい製品ばかりが次々に出てきてしまう」というネガティブな印象を持っているようです。

 

吉川:1ついえることは、「マイクロソフトはコミュニケーションがへたくそな会社」ということです。ここまで、全製品にわたってサポート・ライフサイクルを確約しているソフトウェア・ベンダは多くありません。それでもネガティブな印象を持たれているとすれば、私たちのコミュニケーション方法が間違っていたということでしょう。時間はかかると思いますが、「有言実行」を辛抱強く続けるしかないと考えています。

手厳しい競争戦略

―― 「非常に手厳しい競争戦略を繰り返してきた」ということもありますね。Windows 95の標準通信機能として提供されたパソコン通信のThe Microsoft Networkは、当時インターネット対抗の機能としてユーザーを囲い込もうというものでした。その後もブラウザ戦争、Java戦争、最近ではRealPlayerの問題などもありました。排他的な戦略によって選択肢が狭められるのを嫌うユーザーもいます。

 

吉川:何でもWindowsに組み込んでしまうということに対して、ネガティブな意見もありますが、その一方では、より多くのソフトウェアをWindowsに統合して、追加料金なしでさまざまなソフトウェアを使いたいという声もあります。残念ながら、メディアをはじめとして、前者の意見を持っている人の声が大きいために、前者ばかりが目立つという部分があります。

―― ブラウザ戦争やJava問題のときには、とにかく市場を独占するのだ、という印象が強かったように思いますが、インターネット対応に大きくかじを切ってからこれまで、オープンなWebサービス仕様を積極的に策定するなど、だいぶ変わってきたと思います。

 

吉川:小川さんのように、ずっとマイクロソフトを見続けてきた人には分かるのでしょうが、10年前の固定したイメージのままでいる人も少なくありません。

―― ということは、吉川さんの目から見ても、10年前と比べてマイクロソフトはだいぶ変わったということですね。

 

吉川:だいぶ変わりました。特に、インターオペラビリティ(相互運用性)の重視という点で大きく変わったと思います。

過去のWindowsはセキュリティ的に弱かった?

―― Windowsはセキュリティ的に弱く、攻撃を受けやすいという評判があります。正直なところ、Windows NT 4.0の当時は、安全なイントラネットで利用することが暗黙の前提になっており、かなりセキュリティ的には甘いところがありました。またセキュリティ修正についても、現在のように月例で発表されるのではなく、いつ提供されるのか、提供されるかどうかすら分からないという不安の中で、CodeRedやNimdaなどのワーム被害に遭って、大変な苦労をした管理者もいるでしょう。そうした過去を振り返ってみて、どう思いますか。

 

吉川:いまから5年前、Windows 2000が発売された2000年当時、英語版以外の修正プログラムは、1カ月遅れとか、場合によっては出るかどうかすら分からない状態でした。これではいけないと思い、私を含めた担当者3人で「1泊3日シアトルの旅」を敢行し、本社のパッチ開発チームに「日本語版の修正も即刻提供せよ」と直談判したことがあります。こうした私たちの声が届いたのかどうか分かりませんが、その後セキュリティ担当副社長であるブライアン・バレンタインが、「各国語版の修正も3日以内に出す」と開発チームに宣言してくれました。とにかくテストに大変な工数がかかっていましたから、当時の感覚では「3日以内」というのは信じられませんでした。それから5年。当時から比べると、いまでは同時公開ですから、5年間でセキュリティ修正のプロセスがここまで改善されるものかと感じるときがあります。

―― つまり、2000年当時は未整理であったということですね。

 

吉川:そうですね。セキュリティ対策はマイクロソフトだけが実行すればよいわけではなく、他社も含めたすべてが対応しなければユーザーは安全な環境を手に入れられません。今後は、マイクロソフトが5年間かけて作ってきたセキュリティ対策のベスト・プラクティスのノウハウなどを他社と共有して、インターネット全体をセキュアにしていきたいと考えています。

―― そのベスト・プラクティスとは、例えばどのようなものですか。

 

吉川:セキュリティ修正の厄介な点として、適用による互換性問題の発生があります。これに対応するためWindows XP 2/Windows Server 2003以降では、ソースコード・ツリーを2種類管理するようになりました。1つは、QFE(Quick Fix Engineering)と呼ばれるセキュリティ以外の修正とセキュリティ修正の双方が反映されたもの、もう1つはQFEを除くセキュリティ修正のみが反映されたものです。QFEとは、簡単にいえばバグ修正です。従来はソース・ツリーが1つしかなく、QFEもセキュリティ修正も同じツリーに対して実施していました。そのため、QFEによる修正が施されたモジュールに対してさらにセキュリティ修正を行うと、パッチには、セキュリティ修正だけなく、QFEによる修正もすべて含まれてしまっていました。互換性問題の原因を調べていくと、セキュリティ修正を原因とする互換性問題よりも、それ以外のQFEによる修正が原因となっていたというケースが少なからずありました。このため現在は、QFE適用済み環境向けのパッチと、QFE未適用環境向けのパッチの2つを別々に作成し、セキュリティ修正のパッケージに双方を入れて、インストール時に環境によってどちらをインストールするかを切り替えるようにしています。この対策によって、互換性問題の発生は劇的に減少しているはずです。

IT Proが直面する問題点

―― IT Proが現在直面している問題とは何でしょうか。

 

吉川:IT Proの立場がきちんと確立していないことですね。先にITガバナンスの話をしましたが、私の考えとしては、IT Proはもっとビジネスマンにならなければいけない、私たちはそういう雰囲気をつくっていかなければならないと思っています。現在のIT Proは、企業を「支えている」という程度の位置付けですが、これからは企業を「積極的にドライブしていく」立場になる必要があります。

―― 今回のマニフェストには、IT Proを支援するさまざまな公約が盛り込まれるわけですね。

 

吉川:はい。私たちの一番の関心は、顧客の声を反映しようとした取り組みが、本当に顧客の心に訴えたのか、ニーズに合致したのかを確かめたいということです。今回のマニフェストを策定するにあたり、インターネットで要望を聞くためのアンケートを実施しています。ぜひともたくさんの要望をお寄せいただき、より多くの顧客がうなずいてくれる実行リストにしていきたいです。

―― 顧客の声には、かなり風当たりの強いものもあるでしょうね。

 

吉川:もちろん、ビジネス上不可能なものはお約束できません。しかしそれも含めて、そういう声があるということは公表しても構わないと思っています。

―― 顧客の要望を公約化して、それを実行するという今回のプロジェクトは、正直なところかなりのリスクがあると思います。過去には及ばないこともあったし、IT Proに迷惑を掛けたかもしれない。それはそれとして率直に認めて、未来に向けた新しいIT Proとの関係を築くために、あえてそうしたリスクを取っていくという意気込みはよく分かりました。ぜひとも多くのIT Proが、「マイクロソフトは変わった」と思えるプロジェクトになってほしいですし、私たちもメディアとしてマイクロソフトがどう変わるのかを注目していきたいと思います。

 

吉川:「有言実行」をキーワードにして実践します。ぜひ、期待してください。End of Article

 
 「IT PRO POWER INTERVIEW」


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