運用

Microsoft Data Protection Manager 2006
―― ハードディスク・ベースのバックアップ/データ保護ソリューション ――

第1回 DPM 2006の概要とインストール

1.DPM 2006の概要

デジタルアドバンテージ 打越 浩幸
2005/10/20

Index(全3回)
DPM 2006の概要とインストール
DPM 2006の保護オプションとスケジュール設定
ファイル回復と監視/レポート機能

 2005年10月6日、マイクロソフトはMicrosoft System Center Data Protection Manager 2006(以下DPM 2006)の発売を開始した。

 「System Center」とは、マイクロソフト社のシステム管理製品全体に付けられる統一ブランド名であり、DPM 2006以外には、Systems Management Server 2003(SMS)やMicrosoft Operations Manager 2005(MOM)などがこのブランドに含まれる。

 DPM 2006は、従来では各サーバごとに行われていたバックアップ手段を補完する、ハードディスク・ベースの統合的なバックアップ・ソリューションである。従来のWindows OSシステムでは、データのバックアップやリストア手段は、コンピュータごとに独自に管理されていた。例えばWindows 2000 Serverを使ったファイル・サーバなら、OS標準のバックアップ・ツールを利用して、サーバの管理者がテープ・メディアやディスク・ファイルなどに保存したり、逆にリストアなどの操作を行ったりしていた。この際、Windows Server 2003では、ボリューム・シャドウ・コピー(VSS)の機能を利用して複数のスナップショットを保存したり、ユーザー自身の手でリストア操作を行ったりできるなど、バックアップ関連機能が強化されている。

 だがこれらの機能は各サーバ・コンピュータ内で閉じており、ネットワーク上に存在する複数台のサーバ・コンピュータをまとめて管理するための機能は用意されていない。すべてのデータを1カ所へ集中的にバックアップしたり、バックアップ・スケジュールをまとめて管理したりする機能は持っていなかったのである。またこれらのシステムでは、いったんバックアップしたデータをリストアするのも容易ではなかった。テープやファイルにバックアップした場合は、管理者がまずバックアップ・メディアをシステムにマウントし、その中から必要なデータを取り出して、ユーザーに渡すという操作が必要になる。Windows Server 2003のVSSを使えば、エンド・ユーザー自身でのリストアも可能であるが、Windows 2000のファイル・サーバではVSSは利用できない。

 バックアップやリストアにおけるこれらの不満に対し、DPM 2006では、ハードディスク・ベースの集中的なバックアップ/リストア・アーキテクチャを採用することにより、より柔軟で、かつ高速、高機能なバックアップ・ソリューションを実現している。DPM 2006の主要なメリットとしては、次のようなものが挙げられる。

メリット 詳細
ネットワーク全体にまたがる総合的なバックアップ Active Directoryネットワーク上に存在する、Windows 2000 ServerおよびWindows Server 2003の両方のサーバをまとめてバックアップ可能
集中管理 DPM 2006コンソールでバックアップ・スケジュールなどを集中管理可能
ハードディスク・ベースの高速なバックアップ ファイル・サーバからのバックアップは、まずハードディスクへコピーされるので、テープと比べると、非常に高速で信頼性も高く、バックアップ可能な容量も多い。テープ・メディアの取替えといった操作も不要
VSSによるマルチ・スナップショット VSSのスケジュール機能を利用することにより、最短で1時間という時間間隔、1日あたり最高8セットまでバックアップを作成可能。最大で64バックアップ・セットまで保存可能
エンド・ユーザー・レベルでのリストア リストア操作をエンド・ユーザー自身が容易に、素早く行うことができる。管理者が介在しないので、管理コストが削減できる。ただしクライアントはWindows XPかWindows Server 2003が必要。Windows 2000やそれ以前のOSの場合はDPM 2006のサーバ側でリストア作業を行う
リモート・バックアップ バックアップで使用するネットワーク帯域などのパラメータを調整して、データセンターなどで集中的にバックアップ可能。差分データしか送信されないので、バックアップに必要なトラフィックも最小限に抑えられる
レポート/報告機能 バックアップの状態やイベントなどをレポートとして出力するほか、メールで送信させることも可能。MOM 2005とも連携する
DPM 2006によるバックアップ・ソリューションの利点

 より詳細な製品情報や価格などの情報については、DPM 2006の製品サイトを参照していただきたい。ちなみにパッケージ版の推定小売り価格は19万2000円とされている(原稿執筆時点)。

DPM 2006のアーキテクチャ

 DPM 2006を使ったバックアップ/リストア・ソリューションを図にすると次のようになる。図から分かるとおり、DPMはActive Directory環境を前提としている。

DPM 2006を使ったバックアップ・ソリューション
Active Directoryドメイン上に存在するファイル・サーバのデータをDPM 2006サーバへコピーし、その後、必要ならテープ・デバイスなどへバックアップする。DPM 2006サーバ上へコピー/バックアップされたファイルは、エンド・ユーザー自身によって、通常のファイルとしてもアクセスできるし、VSSのスナップショット機能によって、過去の時点にさかのぼってアクセス(復旧)することもできる。

 DPM 2006は、直接ユーザーに対して提供されるサービスではなく、ネットワーク上のファイル・サーバと連携して動作するサーバ・アプリケーションである。そのため、DPM 2006を導入しても、ユーザーの視点からはいままでと変わりなくサーバ群を利用できる。

 Active Directoryドメイン内のファイル・サーバ上のデータは、DPM 2006サーバへとコピーされ、さらに必要ならば外部のテープ・デバイスなどへバックアップされる。ファイル・サーバからDPM 2006へのコピーは単なるファイル・コピーとほぼ同じであり、テープ・ドライブを使ったバックアップのように、デバイスの速度がネックとなってバックアップに時間がかかるといったことはないし、途中でメディアを入れ換える必要もない。送信されるデータも差分だけなので、そのネットワーク・トラフィックも最小限に抑えられることになる。

 DPM 2006によるバックアップの仕組みをもう少し詳しく見てみよう。

同期とシャドウ・コピー
ファイル・サーバ上のファイルは、定期的に「エージェント」によって、DPM 2006サーバ上の「レプリカ(複製)」と同期が取られる。レプリカはWindows Server 2003のVSS機能によってシャドウ・コピーが作成され、管理される。最大で64バックアップ・セットまでさかのぼってファイルを復旧させることができる。同期のサイクルやシャドウ・コピーを作成するタイミングは1時間単位でスケジュール可能。SQL Serverのデータベースは、同期のログやレポートなどを保存するために利用される。

 DPM 2006を使ったバックアップは次のように行われる。最初に、対象となるファイル・サーバ(これを「保護するサーバ」という)上のデータ(データ・ソース)の内容がDPM 2006サーバ上にすべてコピーされる。これを「レプリカ」という。ファイル・サーバ上には「DPMファイル・エージェント」という同期モジュールがインストールされ、スケジュールに基づいて、定期的にDPM 2006サーバ上のレプリカを更新し(デフォルトでは1時間ごと)、内容が一致するように維持・管理される。これにより、例えばファイル・サーバが障害を起こしても、1時間前の状態ならば、レプリカから復旧させることができる。

可用性を向上させるVSS
TIPS:シャドウ・コピーでファイルを自動バックアップする(サーバ編)
TIPS:シャドウ・コピーで削除したファイルを復活させる(クライアント編)
TIPS:シャドウ・コピーで過去のバージョンのファイルを取り出す(クライアント編)

 さらにレプリカの内容は、Windows Server 2003の持つVSS機能によって、定期的にシャドウ・コピーが作成される。シャドウ・コピーを作成するスケジュールは、デフォルトでは1日3回(08:00、12:00、18:00)となっているが、1日8回までなら自由に設定することができる(1時間単位で設定可能)。DPM 2006サーバには最大で64セットまでのシャドウ・コピーを保持できるので(これはWindows Server 2003のVSSの制約による。シャドウ・コピー用のディスク領域が少なければ、もっと少ないセット数しか保持できない)、保持したいバックアップのセット数や希望保存期間などに応じて管理者が決定する。デフォルトでは1日3セット作成するので、64セット÷3=約21日分のバックアップがDPM 2006サーバ上に保持できることになる。

 なお、レプリカを作成するスケジュールとVSSを作成するスケジュールが同じである必要はなく、例えばシャドウ・コピーの直前にだけ同期を行うように設定を変更すれば、ネットワークのトラフィックを抑えることができる。離れた場所に設置されているリモートのサーバをバックアップする場合はこのような構成で利用するとよいだろう。

DPM 2006はバックアップを不要にするわけではないことに注意

 DPM 2006サーバに保存されているデータは、ハードディスク上に記録されているため、高速に取り扱うことができるが、これによって従来のテープ・バックアップなどのソリューションがまったく不要になるわけではないことに注意していただきたい。最終的にはテープなどへバックアップしない限り、DPM 2006サーバのディスクに障害が発生すると、すべてのバックアップ・データが失われてしまう可能性がある。

 実際のところ、DPM 2006はテープ・バックアップを完全に置き換えるものではないし、バックアップを不要にするものでもない。どちらかというと、(ファイルが失われた場合の)リストア作業をエンド・ユーザー自身で行う(管理者の手を煩わせない)ためのソリューションといえるだろう。不注意にしろハードウェア障害にしろ、何らかの原因でファイルやデータが失われることが少なくないが、そういう場合に、いちいち管理者に依頼してテープのバックアップ・セットからファイルを復旧させるには多大な時間やコスト(人件費など)がかかる。DPM 2006はそのようなコストを削減するために利用することができる製品である。製品名がData Backup ManagerではなくData Protection Managerとなっているのは、そういう用途を意識しているものと思われる。

 

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  1.DPM 2006の概要
    2.DPM 2006のインストール
    3.ディスクの追加とエージェントのインストール
 
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