[運用]
3大仮想化ソフトウェア機能比較 第3回

2.用途別の仮想化ソフトウェアの選び方

日本アイ・ビー・エム株式会社
Microsoft MVP for Virtualization - Virtual Machine(Jul 2007 - Jun 2009)
渡邉 源太
2009/09/10

エンタープライズ環境(サーバ統合など)での利用

 大規模なエンタープライズ環境でのサーバ統合などの用途に対して仮想化を適用しようとする場合には、小規模なテストや開発環境におけるものとは別のニーズが生まれてくる。例えば、仮想マシンを停止せずにハードウェアのメンテナンスを行うためのライブ・マイグレーションの機能や、ハードウェア障害時に短時間でシステムを復旧し、高可用性を実現する機能や、バックアップの集中化などの管理機能が運用上重要になってくるため、仮想化製品を比較する際にもシステムの可用性要件などに基づいてこれらの管理機能の使用について検討する必要がある。

 VMware Infrastructure 3では、VMware ESXの管理サーバとしてVirtualCenterを使用することによって複数サーバを一元管理することが可能になる。さらにVMotionによるライブ・マイグレーションをはじめ、Storage VMotionによるストレージのライブ・マイグレーション、VMware HAによる高可用性やDRS(Distributed Resource Scheduler)による複数サーバ間の負荷の平準化など、大規模なサーバ統合を実現するのに必要な機能を備えている。ただし、VMware HAの機能を使用するためにはAdvanced、さらにVMotionやDRSの機能を使用するためにはEnterpriseのライセンスが必要となるため、VMwareの持つ豊富な管理機能を最大限に活用するためにはEnterprise以上のライセンスの購入を検討した方がよい。

 さらにVMware Site Recovery Managerによる災害対策サイトへの切り替えの自動化、VMware Lab Managerによるラボ環境の構築など、VMware Infrastructure 3に追加して使用することができる製品が豊富に提供されているため、必要に応じてこれらの製品を購入することでさらに機能を追加できる。

 Citrix XenServerでは、XenCenterによる複数サーバの一元管理およびXenMotionによるライブ・マイグレーションの機能が無償版でも実現できるのが大きな特徴である。さらに、有償のCitrix Essentials for XenServer Enterpriseを追加することによって、Citrix XenServerの機能に加えてHAによる高可用性やStorageLinkによる複数ストレージの一元管理、Citrix Provisioning Serverの機能による仮想環境へのプロビジョニングが可能になる。また、Citrix Essentials for XenServer Platinum Editionではワークフロー・オーケストレーションや自動ラボ管理の機能が併せて提供される予定である。Citrix XenServerでは、無償で利用できる機能でまず運用を開始して、その後必要に応じてCitrix Essentials for XenServerのライセンスを追加することで、その後の運用の中でどこまでが必要かを見極めていくことが可能だ。

 Microsoft Hyper-Vでは、無償のHyper-V Server 2008およびWindows Server 2008の各エディションによって利用できる機能が異なっている。Windows Server 2008 Enterprise Edition以上では、フェールオーバー・クラスタの機能を使用して高可用性およびQuick Migrationの機能が実現できる。そのため、本格的な仮想環境の使用のためにはEnterprise Edition以上を使用することが望ましい。また、System Center Virtual Machine Manager(SCVMM)を使用することで管理機能が強化される。具体的には、Hyper-VだけでなくMicrosoft Virtual ServerやVMware Infrastructure 3を含む仮想環境を統合管理する機能や、仮想マシンをテンプレートとして管理するライブラリ機能、Windows PowerShellによる管理タスクの自動化などが利用できる。複数台のHyper-Vで構築した仮想環境を管理する場合だけでなく、VMware Infrastructure 3などを含む複数の仮想環境を管理する場合には、SCVMMによる統合管理の機能は特に有効となる。

 下表は、仮想環境の管理機能を比較したものである。いずれのプラットフォームであっても基本的な管理機能は十分に満たしているが、いくつかの機能にはまだ差があるためそれぞれの環境に合わせた適切な製品の選択が重要である。

  VMware Infrastructure 3 Citrix XenServer+Essentials for XenServer Hyper-V+SCVMM
複数サーバ管理
P2VおよびV2V
共有ストレージ
テンプレート機能
統合ストレージ管理
×
仮想マシンのライブ・マイグレーション
×*1
ストレージのライブ・マイグレーション
×
×
自動ワークロード分散
×
×
高可用性(HA)
ダイナミック・プロビジョニング(仮想環境/物理環境)
×
×
仮想環境の管理機能の比較
*1 Windows Server 2008 R2のHyper-V 2.0にて対応

仮想化によるクライアント統合

 仮想化によるサーバ統合と併せて注目を集めている分野に、仮想化技術によってシンクライアントの仕組みを実現する、Virtual Desktop Infrastructure(VDI)によるクライアント統合の領域がある。VDIによるクライアント統合は、従来のVMware WorkstationやMicrosoft Virtual PCなどを利用したいわゆるクライアントの仮想化とは異なり、サーバ仮想化の技術を応用して、サーバ上に仮想化されたデスクトップを再現することによって、クライアント資源の集約を図り、セキュリティと管理効率の向上を実現するものである。

 VMwareは、VDI用の製品としてVMware View 3を発表している。VMware Viewは、仮想化の基盤としてVMware ESXおよびVMware VirtualCenterを使用して、さらにVMware View Managerの機能を追加している。VMware View Managerでは、VMware Infrastructure 3上に構築されたWindows XP、Windows Vistaなどの仮想デスクトップやブレードPC、ターミナルサーバなどによって提供されるデスクトップを管理し、ユーザーと関連付けることによりユーザーのログオン時に、利用可能なデスクトップに自動的にアクセスできるようになる。また、View Composerの機能によりマスター・イメージから仮想デスクトップ・イメージをマスターとの差分として作成することでディスク容量の削減を図り、またマスター・イメージを更新することですべての仮想デスクトップに対するシステムの更新やパッチの適用などの管理作業が集中的に行えるようになる。そのほかにも、マルチメディア・アクセラレーションによる動画再生支援機能やThinPrintによる仮想プリンタの管理、VMware ThinAppによるアプリケーションの仮想化、オフライン・デスクトップの試験的サポートなどの機能に対応し、デスクトップの仮想化に必要とされるさまざまな機能を追加している。

 Citrixは、同様にVDIに対応した製品としてCitrix XenDesktopを提供している。Citrix XenDesktopでは、仮想化プラットフォームとしてCitrix XenServerだけでなくVMware ESX+VirtualCenterやMicrosoft Hyper-V+SCVMMにも対応していることが特徴である。また、デスクトップの画面転送方式にWindows OS標準のRemote Desktop Protocol(RDP)ではなく独自のIndependent Computing Architecture(ICA)を採用することで、ネットワーク帯域の限られた環境などでもより効率のよい通信が行える。Citrix Provisioning Serverを使用した仮想デスクトップのプロビジョニングを行え、それによってマスター・イメージの集中管理およびディスク容量の削減を実現できる。さらに、Citrix XenAppによるアプリケーションの仮想化と組み合わせて使用する際、複数のCitrix XenAppをCitrix XenServer上で仮想化して稼働させることで、物理サーバ上で直接XenAppを稼働させるよりも多くのユーザーがサポートできる。このように、CitrixではCitrix XenServerによる仮想化をベースに、Citrix XenAppおよびCitrix XenDesktopによって、クライアント統合に関する幅広いニーズに対応することが可能になっている。

 下表はデスクトップ仮想化製品を比較したものである。VMwareとCitrixだけでなく、マイクロソフトはWindows Server 2008 R2にてターミナルサービスをリモートデスクトップサービスに名称変更し、VDIによる仮想デスクトップに対応する予定である。今後は、サーバ仮想化だけではなくデスクトップ仮想化が使用される例も増えてくると予想されるため、サーバ仮想化の製品を比較する際にもデスクトップ仮想化機能についてあらかじめ検討しておくことが望ましい。

  VMware View 3 Citrix XenDesktop
仮想化プラットフォーム VMware ESX Citrix XenServer/VMware ESX/Microsoft Hyper-V
対応プラットフォーム 仮想デスクトップ/ブレードPC/ターミナルサービス 仮想デスクトップ/ブレードPC/Citrix XenApp
コネクション・ブローカー VMware View Manager Desktop Delivery Controller
画面転送方式 RDPプロトコル ICAプロトコル
マルチメディア・リダイレクト Wyse TCX ICA multimedia acceleration
Virtual Printing ThinPrint Universal Printer Driver
シンプロビジョニング VMware Composer Citrix Provisioning Server
アプリケーション仮想化 VMware ThinApp Citrix XenApp
オフライン・デスクトップ 試験的サポート 未サポート
デスクトップ仮想化製品の比較

 ここまで見てきたように、仮想化製品にはそれぞれ特徴があるため、基本的な要件はどの製品でも満たすことができるが、大規模な環境に適用する場合には用途に合わせた製品の選択が重要になる。それぞれの環境で実現したい機能とコストとの最適なバランスを検討し、それによって適切な製品を選択することをお勧めしたい。End of Article

 

 INDEX
  [運用] 3大仮想化ソフトウェア機能比較
  第3回 仮想化ソフトウェア選択の用途別ポイント
    1.各仮想化ソフトウェアの特徴
  2.用途別の仮想化ソフトウェアの選び方

 運用


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