ちょっとだけ脱メール宣言

小川 誉久

2002/07/24


 最近、毎日忙しくしているにもかかわらず、仕事の能率がいまひとつ上がらないと感じている人はいないだろうか。今回は、素早く確実な情報共有を可能にするツールとして近年爆発的に普及し、一説には知的労働の生産性を飛躍的に向上させたとされる電子メールとの付き合い方について考えてみたい。

 筆者が初めてインターネットを使った電子メールに出会ったのは、大学を卒業して某コンピュータ・メーカーに就職したいまから15年以上も前のことだ。当時のインターネットは、大学や研究機関、一部の企業などが非営利で運営するネットワークで、インターネットに接続するには、すでにインターネットに接続しているどこかの大学か企業に頼み込んで、接続させてもらう必要があった。運営はあくまで非営利のボランティアによって支えられていたから、接続料は無償である代わりに、お金さえ払えばだれでも接続できるという現在のような状態ではなく、もっぱらコネに頼って接続先を探す必要があったし、ソフトウェアのインストールやシステムの管理などもすべて自分で行うというスキルも要求された。

 またこの当時は、たとえ大企業であろうと、高価な常時接続回線を使うなどは贅沢で、多くのサイトは、アナログ・モデムを使った、いわゆる「バケツ・リレー」によってメールを送受信していた。バケツ・リレーとは、火事場で水をくんだバケツを次々と手渡すように、メール・サーバが一定時間ごとに自分の上位サイトにダイヤルアップ接続し、送信するメールがあれば相手に送り、受信メールが到着していれば取得する(自分の子サイトがあるときは、子サイトから自分が呼び出される)という形式の通信方法である。ダイヤルアップの間隔はサイトによってまちまちで、1時間に1回というところもあれば、1日1回というところもある。従ってあて先によっては(メールがリレーされる経路や送受信間隔によっては)、メール到着までに何日もかかることがあった。

 こんな調子だから、社内ならともかく、外部の関係者との緊急の連絡をメールでするなど到底ありえない。「まあ、数日中に届けばいいや」という程度のものならメールで、「すぐに連絡が必要」なら迷わず電話で、というのが常識だった。またそれ以前に、当時はパソコンなど誰もが持っているものではなかったし、携帯メールもなかったから、メールで連絡できるのはごくごくひと握りの相手でしかなかった。

 それから15年。インターネット・メールは、仕事に遊びに、さらには退屈な通勤電車のお供として、生活に欠かせないコミュニケーション手段となった。常時接続環境が普及したおかげで、少なくとも会社のPCを使うビジネス・ユーザーにとってみれば、電子メールは送ればすぐに相手に届くというインフラが整備されている。送信されたメールを相手がすぐに見るかどうかは相手次第だが、本フォーラムで先ごろ開始したアンケートの滑り出しを見るかぎり、着信は随時確認しているユーザーが圧倒的に多いという結果が出ている(アンケート「新着メールのチェックと対応は?」の現時点の結果はこちら)。ちなみに7月23日時点の結果を見ると次ようになっている。

リアルタイムアンケート「新着メールのチェックと対応は?」

「随時」:59名/66.3%
「作業が一段落したら」:22名/24.7%
「出社時、昼休みなどの区切り時間に」:5名/5.6%
「定期的には対応しない」:3名/3.4%

投票総数:89名
アンケート結果はこちら

 実に7割近い人が、常に新着メールのチェックを行っており、緊急性の高いメッセージにはすぐに返信しているものと考えられる。常識的に考えて、「随時」というのは5分〜30分程度の間隔と考えてよいだろう。

 この結果が表しているように、最近では、従来なら電話を使うべき、比較的緊急性の高い情報交換にメールを使うケースが増えてきた。さすがに「すぐに返事をよこせ」と書いてくるような失礼な人は少ないが、語り口はソフトであっても、実質的にすぐに返事をしないと意味がない切羽詰まったスケジュール調整や相談なども少なくない。つまりメール利用者の暗黙の了解として、メールはすぐに届くものだし、相手はメールが届き次第、少なくともそれが緊急の要件かどうか、目ぐらいは通しているという前提に立っているということだ。

 筆者は、メールやスケジュール管理、ToDo管理用として専用のノートPCを使っており、オフィスのデスクトップPCで原稿を書いているときも、常にこのノートPCを脇に置いて使っている。そしてメールを取り巻く世の中の流れに従って、ノートPCでは新着メールを常に表示するようなスタイルが数年前から定着していた。

 メールサーバに対しては、5分に1回SMTPPOPを実行する設定になっているので、新着メールがあるときには、最低でも5分以内に到着を知ることができる。そしてメールが到着したら、これにチラと目をやり、リスト表示される差出人とメールの件名(Subject)から緊急度/重要度を考えて、すぐに返信すべき内容なら、すぐに返事をするようにしていた。

 しかしこれが問題だ。

 チラと目をやる程度なら、いま取り掛かっている目の前の仕事にも大した影響はないだろうとこのスタイルをとってきたのだが、最近はとにかく受信メールの量が尋常ではない。メール受信が多い時間帯では、POPするたびに何らかの新着メールがあったりするので、5分に1回の割合で集中力が途切れることになる。また原稿執筆が思うように進まないと、ついメールに逃避してしまうことがままあった。

 メールの悪いところは、目の前の仕事から逃避してうつつを抜かしても、何となく仕事をしたような気になってしまう点だ。確かにグループ・コミュニケーションも仕事の一環ではあるのだが、あくまで管理された時間の中で処理されるべきものである。メールによって常に割り込みを受け、気まぐれにこれに対処したりしていると、時間管理がいい加減になってくる。「これは2時間くらいで終わるな」と思った仕事に4時間かかってしまったとして、それがその仕事に対する時間の見積もりが甘かったせいなのか、メールに対処していたせいなのか分からなくなってくる。こうして時間管理がどんどんルーズになっていくと、「1日じゅう忙しく働いたはずなのに、仕事があまり進まなかった」という状態に陥る。

 そこで最近では、新着メールの到着画面を常時表示するのはやめて、取りあえずは目の前の仕事に集中するようにしてみた。まぁ人間、1時間もすると集中力が途切れてくるので、そんなときには休憩を入れて、そのときに新着メールをチェックする。これでみるみる仕事が進む、などという都合のよいことはないにせよ、目の前の仕事のために使った時間と、メール処理にかかった時間が明確に分離されるので、これまでのようなどんぶり勘定ではなく、自分の仕事の遅さや、見通しの甘さがより明確に認識できるようになった。少なくとも、以前よりも時間的な見通しは利きやすくなった。

 「そんなことは時間にルーズなお前だけの問題だ。自分は新着メールも目の前の仕事も両方そつなくこなしている」という優れた人もいるだろう。至極ごもっとも。これは個人の自己管理能力の問題なので、万人に当てはまることではない。しかし自己管理能力に必ずしも自信のない方は、処理量が増える一方のメールとの付き合い方について、このあたりで一度考えてみる価値はあるだろう。蛇足ながら、最近流行のインスタントメッセージングや、携帯電話も同様の落とし穴があるのでご注意あれ。End of Article


小川 誉久(おがわ よしひさ)
株式会社デジタルアドバンテージ 代表取締役社長。東京農工大学 工学部 材料システム工学科卒。'86年 カシオ計算機株式会社 入社、オフコン向けのBASICインタープリタの開発、Cコンパイラのメンテナンスなどを行う。'89年 株式会社アスキー 出版局 第一書籍編集部入社、書籍編集者を経て、月刊スーパーアスキーの創刊に参画。'94年月刊スーパーアスキー デスク、'95年 同副編集長、'97年 同編集長に就任。'98年 月刊スーパーアスキーの休刊を機に株式会社アスキーを退職、デジタルアドバンテージを設立した。現Windows Insider編集長。

「Opinion」



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