「えひめ丸」事件 USS Greeneville(SSN 772)の逆ディバイド症候群

山崎俊一
2001/02/27

 ハワイ、オアフ島沖での練習船事故、悲しみとか怒りだけでは済まされないものを感じます。

 いったい、なぜ、こんな事故が起きたのでしょうか。日米の一般報道を見ていても、さっぱり理解できません。

 Windows 2000と直接関係する話題ではありませんが、自分で調べてみました。

 えひめ丸を沈めてしまったグリーンビルは、艦艇や地上攻撃を目的とする攻撃型原潜(FirstAttack Submarine)ロスアンジェルス級の1隻で、簡単なWebページもあります(米太平洋潜水艦隊司令部のWebページ(英文))。

 日本語の潜水艦情報としては、EnSub(Encyclopedia Submarinica)が定評です。また潜水艦って何?は元自衛隊の方が実体験を紹介しています。いずれも、参考にさせていただきました。

X Window Systemで動く原潜

 潜水艦といえば、ショーン・コネリーみたいな艦長が潜望鏡をにらみながら「魚雷発射」を命ずる姿とか、ヘッドフォンに耳をすますソナー係が浮かびます。

 でも、調べてみると、グリーンビルの指揮管制はデジタル化されていて、X Window Systemで構成されていました。戦闘管制システムBSY-1という名前です。

ロスアンジェルス級の管制系
CCS=Combat Control System:戦闘管制システム。ロスアンジェルス級はBSY-1を搭載
Sonar=ソナー:下記参照
Tracker Data=追跡データ。本文参照
FireControlData=火器管制データ
Communications=通信(による指揮)
Message=指揮命令など
SDCS=Submarine Data Converter Storer:潜水艦データ変換ストア(不詳)
Sonar TAC Workstation=ソナーTACワークステーション。TAC=戦術管制コンピュータ=AN/UYQ-70など
Fire Control TAC Workstation=火器管制TACワークステーション
 
ソナー 内容
AN/BQQ 5Dソナー 低周波数帯、高感度、パッシブ/アクティブ動作、探索/攻撃用(IBM製)。
AN/BQS 15ソナー 高周波数帯、機雷、氷山のアクティブ探索ソナー。Ametek製品
TB-29曳航型ソナーアレイ 艦尾から曳航するパッシブソナー。艦内ノイズに影響されないので最も高感度、遠距離探索が可能
AN/BQR-22A型ソナー・レシーバ サンプラー+FFT DSP。日本では、音響要撃受信機+周波数分析装置、と呼ぶらしい
ロスアンジェルス級ソナー関連装備
資料出典:NavSea(Naval Sea Systems Command)、海軍システム本部公開資料(SFMPL:Submarine Fleet Mission Program Libraryの一部)。細部は異同があると思います。

パッシブ/アクティブ・ソナーと測定精度

 ソナーには、パルス(=衝撃波)を発信し、その反射を分析するアクティブ(能動)型と、受信のみのパッシブ(受動)型があります。また、水中の音の伝わり方は周波数によって異なります。大雑把に言えば、次のような傾向があります。

波長 距離 精度 深度
短波長=高い音 近距離のみ 高精度 浅海向き
長波長=低い音 遠距離可 低精度 深海向き
ソナーの周波数と特徴

 いずれにしても、水中の音速は1.5km/s程度で、光とは比べ物になりません。それがソナーの難しさの根本理由になっています。

ソナーの核心はFFT(高速フーリエ変換)

 ロスアンジェルス級では、探索範囲が広い低周波帯ソナーBQQ-5が主役です。

 艦首に収められた球形のセンサー・アレイは、ミラー・ボールみたいな形で、小さな水中マイクのユニットが1000本近く並んでいます。

 各ユニットが捕らえた波形は、艦内のソナー・レシーバでデジタル化され、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)を基本とする周波数スペクトラム分析を行います。FFTは、オーディオや画像信号処理に広く使われる手法ですが、1960年代、IBMでソナーのために実用化されたのが最初といわれます。

 レシーバの演算結果はワークステーションが受け取り、X Window System上にMotifで画像を表示します。

Q-70ワークステーション

 ニュース画面にときどき登場するソナーとは、AN/UYQ-70型ワークステーションのコンソールです。艦内の他のコンソールも大半は同型です。

Q-70、BSY-2の1セット(BSY-1の新モデル)
Q-70は、VMEバスにHP744という聞きなれないプロセッサを搭載するものの、TCP/IP、FDDIなどのインターフェイスを備える。
(写真提供:Lockheed Martin Corporation)

 Q-70は、VMEバスにHP744(165MHz)という聞きなれないプロセッサを搭載し、TCP/IP、FDDIなどのインターフェイスを備えています。普通のパソコンと異なるのは、最大8本のマルチプロセサ構成が可能な点です。

 HP744とは、Hewlett-Packard社のPA-RISCプロセッサで,たぶん市販製品7300相当と思われます。

 BQQ-5の画面表示は、1280×1024ドット20インチ・カラーLCDディスプレイを2面使います。フレームバッファでビデオ画像に変換し、艦内のモニタにも出力しますが、今回は、その1台が故障していたと報じられています。

 

 INDEX
  [Opinion]
  1.「えひめ丸」事件 USS Greeneville(SSN 772)の逆ディバイド症候群(1)
    2.「えひめ丸」事件 USS Greeneville(SSN 772)の逆ディバイド症候群(2)
 

「Opinion



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