BtoBの時代に備える(3)

BtoB実現の壁を壊す

平野洋一郎
インフォテリア株式会社
代表取締役社長
2001/5/19

情報システム部門だけでは構築できない

 企業がBtoBを導入しようとする場面では、BtoBをどのように構築するのか、技術的、システム的な議論をする前に、乗り越えるべきビジネス的な課題が幾つもあります。主なものを下記に示しました。

  1. 取引先が導入してくれないと意味がない。
  2. 人員削減につながるため担当部門での抵抗がある。
  3. 先に導入したEDIなど既存システムの否定につながる。

 これらの課題は情報システム部門だけで解決できる範囲を越えています。つまり、これらの課題の解決には、ビジネスの責任者である会社経営者や事業責任者が意図をもって判断し、組織改革なども視野に入れて検討する必要があるのです。逆に、情報システム部門は経営層を巻き込んで、これらの課題を技術的な問題と同時に解決していかないと、本来の職務以外の問題に、多くの時間と労力を費やしてしまうことになります。

 そして、経営層も情報システム部門も直視しなければならないのは、「BtoB、つまり企業間でコンピュータをつないで取引をする、という流れは止められない」という事実です。すでに企業内活動にコンピュータが欠かせなくなった現在、次の段階として、そのコンピュータ同士をつないで企業間活動を行うことはまったく自然な流れなのです。つまり、BtoBが普及する、という点に議論の余地はありません。議論として有効なのは、その「導入手法」と「導入時期」だけなのです。これは、BtoBがグループウェアやERPなどの社内システムと本質的に違うことを意味します。

 グループウェアやERPは、「うちでは導入しない」と取捨選択できました。しかし、BtoBはすべての企業が、好むと好まざるとにかかわらず、その商行為を行うためのインフラとしていずれは持たなくてはならないものなのです。

 そこで、最初に問題になるのは「うちの会社はいつBtoBに参加すればよいのか」ということになります。その判断には、主に2つの視点が必要になります。

投資効果はどれくらいあるか?

 第1の視点は、「投資効果」です。つまり、BtoBに参加するためのコストとそれによって達成される効果の対比です。

 例えば、年商20億円の商材があり、これをBtoB化することによって、2名の業務要員が削減でき、計画性向上により5%の不良在庫率が3%になったとしたらどうでしょう。1名のコ ストをオーバーヘッドも含めて年間800万円、2名分で1600万円、不良在庫の削減分 が4000万円、締めて合計5600万円の削減となります。極めて単純化した計算ではあ りますが、この例では、BtoB参加のトータルコストが5600万円以下であれば1年間でコストを回収できるということを示しています。

 BtoBへの参加コストは、さまざまな標準化活動の進展とインフラの普及によって時間とともに下がっていきます。それでは、どんどん安くなるのだからいつまでも待てばいいかというとそれは間違いです。

他社に対して競争優位に立つには?

 第2の視点は「競争優位」です。ほとんどの企業が、ライバル各社としのぎを削りながらビジネスを展開しています。この中で常に変化をリードし、ライバル各社に対して競争優位に立つことは大変重要なことです。

早期にBtoBに参加すれば、得られるメリットは大きいが、時間もコストもかかる。参加が遅すぎると、得られるメリットは少ない

 上の図は、BtoBの参加時期と、その結果として享受できるメリットを図示したもので、それぞれのグラフの面積が享受できるメリットの量を表します。この図によれば、参加が早ければ早いほど標準化のリーダーシップがとれ、享受するメリットも大きいということが分かります。BtoBの普及率が低い段階で他社に先駆けて導入する場合、時間もコストもかかり、立ち上がりに時間がかかります。しかし、結果的に享受できる総利益は多くなります。一方でこれに追随するフォロワーとなった企業は、すでに立ち上がりつつある、もしくは立ち上がってしまったBtoBに参加するだけなので、短時間でBtoBを導入できコストも低くて済みますが、出遅れてしまった分、享受できる利益の総量は必然的に少なくなるのです。

 現実には、この視点を念頭におき、さらに自社の事業のポジションを確認したうえで経営戦略上の判断に基づいてBtoB導入の戦術を立てていかなければなりません。

 さて、先にも触れたように「導入時期」と同様に問題になるのが「導入手法」です。基本的には、BtoBはオープンな技術と標準化された作法がベースなので、「ビジネスプロト コルさえ合っていれば手法は問わない」ということになります。つまり、極論すればWebアプリケーションサーバなどを使って、ゼロから組み上げても構わないわけです。しかし、その構築をできるだけ早く低コストで行うために、いわゆる「BtoB サーバ」というものが世に出てきています。

 次回は、BtoB実現の具体的手法としてBtoBサーバを研究しましょう。

筆者紹介
平野洋一郎

熊本県生まれ。株式会社キャリーラボ設立にあたり熊本大学工学部中退。1983年から1986年の間、株式会社キャリーラボにて、日本語ワードプロセッサを開発し、1985年に年間ベストセラーになる。1987年から1998年まで、 ロータス株式会社にて、表計算ソフト「ロータス1-2-3」から、グループウェア「ロータスノーツ/ドミノ」まで、幅広い製品企画とマーケティングを統括。元ロータス株式会社戦略企画本部副本部長。1998年インフォテリア株式会社を創立し、現職に就任。


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